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III プレ女王国連合の成立

到着、戦場に現れた蛇輪

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「このまま真っすぐ行けばクラッカ城ですね、あっていうかもう目の前に見えましたね」
「どうすればいいの? クラッカ城に行けば様子が分かるの?」

 セレネは飛行する蛇輪の操縦席で、雪乃フルエレの声がいつもの様にテンパリ始めた事を感じた。

「いやーわかりません……私に聞かれても」
「砂緒どうすればいいの??」
「じゃあとりあえず王城に取り付いて窓をぶち壊して聞いてみればどうでしょうか?」
「わかったわっ!!」
「ちょっわかったって冗談真に受けないで下さいっ!」

 しかしセレネの言う事も無視してフルエレは変形を解くと、人型になってユッマランド王城、クラッカ城の一番目立つそそり立つ石造りの城のとりあえず高い部分に、巨大な魔ローダーでキングコングの様にしがみ付いた。
 ガガガガガガガッ
突如王城内に地震の様な揺れが続き、色々な物が倒れ落ち大変な騒ぎになる。

「大変です! 城に魔ローダーがよじ登っています!!」
「何っ? 敵襲か??」
「違います、あれは確か蛇輪という新ニナルティナの旗機魔ローダーのはずです!」

 ガバッゴシャッアアッ!!
城内が大混乱の最中に、いきなり壁が破壊されて魔ローダーの巨大な手が玉座の間に突っ込んで来る。さらに直後に巨大な顔が覗き込むと、次に腹部のコクピットハッチが近付きバシャッと開いた。今度はいきなり中から天使の様な金髪の美少女が切羽詰まった顔をして出て来る。皆予想外の事が起こり過ぎてあっけに取られる。

「すいません! 怪しい者じゃないです、同盟女王の雪乃フルエレと言います! この国で合同軍事訓練が行われているらしいのですが、どこで実行されているのですか?」
「は、はぁ?」
「同盟女王さま??」
「早く答えないとフルエレは城中壊してでも聞いて回りますよ!」

 次に目付きの悪い銀髪三白眼の砂緒が不愛想に半ば脅迫気味に言った事で、皆恐怖にかられた。恐る恐る王の重臣が答えた。

美魅ィみみい王女以下合同軍事訓練部隊は全て西の国境地帯に向かいました! 昨日の事で御座います」
「なんでそんな敵を刺激する様な所でするの!?」
「もういいでしょう、行きましょうフルエレ」
「う、うん……ごめんなさい、修理費用は新ニナルティナの有未うみレナード公さんにお願いしますね!」
「は、はあ……?」

 重臣の返事も一切待たず、壊れたままの城を放置して城を踏み台にジャンプすると、空中で鳥型に変形して再び飛び出す。

「なんだか胸騒ぎがするわっ! とにかく西に飛びますっ!!」

 もはやここまで来ると目と鼻の先だった。飛行形態の蛇輪だと全てが一瞬である。

「フルエレ! 直下の荒野に城の方向に向かう衣図ライグがいます! 様子が変なので降りて下さい!」
「へっ?」
「いいから降りますよ」
「こらこら、狭いだろがっ」

 久しぶりに砂緒はセレネをぐいっと横に押しのけると操縦桿を握って地表に降りた。衣図ライグ率いる西リュフミュラン軍は整然とまとまって一足先にクラッカ城に帰還する途中であった。

「何だありゃあ!? 蛇輪か?? 砂緒と嬢ちゃんがここに来たのか??」
「ひゃあああ」

 突然現れて眼前に急降下して来た蛇輪に衣図ライグとラフとその他の者達が驚いて行軍を止める。

「ライグさん! 合同訓練はどうなったんですか??」

 再びフルエレが金髪をなびかせて顔を出す。

「おお、やっぱり嬢ちゃんか、合同訓練はいきなり敵が出て来て大混乱だ!」
「なんですって!?」

 衣図の一言でフルエレは顔面蒼白になり、口を両手で覆う。

「どういう状況なんですか? 詳しく教えて下さい」
「アルベルトさんは? アルベルトさんは??」
「フルエレさん、アルベルトさんの事だけ聞くのは他の将兵に失礼ですよ!」

 砂緒、フルエレ、セレネのほぼ三人同時に言葉を発して衣図ライグは混乱する。

「落ち着け!! アルベルトって確か長身の赤毛のお坊ちゃん的なイケメン魔戦車司令官だよな?」
「そうです! その人です! どこですか!?」

 フルエレは必死にキョロキョロしながら聞いた。

「そいつなら確か敵魔ローダーが七機も出て来やがったにも関わらず、この場に踏み止まるとか無謀な事言ってやがったなあ。まあニナルティナ魔戦車隊と魔ローダー二機が居るから兵隊の多くがこうやって撤退出来た訳なんだが。情けねえぜ俺たちはメランちゃんを置き去りにして逃げて来た……」
「ありゃどうにも出来ねえですぜ、大将は俺たちだけでも守る為に、泣く泣く撤退してくれたんだっ」

 メランを残した事で大きく引け目を感じる衣図ライグを家来のラフが庇う。

「訓練だけって言ってたじゃないっ!? 嫌っなんてことっ酷いっ!! アルベルトさんがっ!! ダメよ早く、早く今すぐ行かなきゃ!!」
「ですね」
「行きますか」

 慌てふためくフルエレを見て、誰も反論しなかった。アルベルトが無事かどうかともかく、その七機の敵とやらを早くなんとかしないと、逃げ惑う兵達に襲いかかって来るだろう事は明白だった。間髪入れずに衣図ライグ達の見ている前で蛇輪は飛び立って行く。

「ふぅ……やっぱり俺たちも引き返すか……メランちゃんが心配だな」
「いくら砂緒の蛇輪でも相手は七機もいて勝てるんですかぁ?」
「勝てる! じゃなきゃ俺達がやばいんだよ、勝ってもらわにゃユッマランド処か、同盟すら瓦解しかねん。それにだ、ラフお前蛇輪が七機の敵魔ローダーを倒すとこみたくないか?」
「そりゃ見たいですよ~」
「よし、西リュフミュラン隊はこれより戦場の直前まで引き返す!! 続けっ!!」
「オオーーーッ!!」

 普段から厳しい訓練を繰り返す西リュフミュラン隊は軍が瓦解しても当然の状況で持ち直して、なんと戦場に引き返した。多くのユッマランドに向かう逃亡兵達に逆行する事で当然の様に異様に目立つ事となった。

「あ、あんた達どこに向かうんだ?」
「今から同盟女王さまが魔ローダーで降臨して、敵をばったばったと倒していきやがるから、見に行くんだよ! お前らもついて来い!!」
「はぁ? 馬鹿か」
「お、俺は付いて行ってみる」
「好きにしろ!」

 大概の者はそのまま無視して逃亡したが、蛇輪の実力を知る者、仲間を戦場に置いてきてしまった者、色々な考えの者達が衣図ライグの逆行に付き従う事となった。


「そーーら、ほいっ!」

 全高約二十五Nメートルの魔ローダーレヴェルが魔戦車をサッカーボールの様に蹴り上げる。蹴られた魔戦車は高く飛びあがり地面に落下して爆発炎上した。

「アシュリー強く蹴り過ぎ! それじゃあ一発で死んじゃうから面白く無いでしょう! 見ててなさいっ」

 今度はジャスミンが魔戦車を蹴り上げようと迫って来る。迫られたのは為嘉なかアルベルトが一人乗る魔戦車だった。

「くっ後退速度が出ない……」
「そらっ!!」
「ぐわーーーーーーーーっ」

 ジャスミンのレヴェルがちょこんと蹴ると、アルベルトの魔戦車はアクション映画のカースタントの様に、軽くジャンプしてゴロゴロと転がってひっくり返った。

「ほらほら、上手いでしょ!!」
「がはっちっ骨が折れた……くそっ」

 ひっくり返った魔戦車の中でアルベルトが体を押さえる。

「ジャスミン、それじゃ弱すぎ! もうちょっと高く蹴らないと面白く無いよっそらっ!!」

 ひっくり返ったアルベルトの魔戦車をアシュリーがジャスミンより少し強く蹴り上げる。

「くそーーーーーー!! ぐわああああああ」

 魔戦車は蹴られて先程より少し高くジャンプするとそのまま地面に叩き付けられ、その拍子に砲塔が外れ中から人間が文字通りおもちゃの人形の様に転がり出て来る。多くの箇所を骨折しているアルベルトだった。

「ちっっ……動けない……くそっ」

 アルベルトは迫りくる魔ローダーを睨んだ。

「あら、イケメンちゃんじゃない? 少しお坊ちゃん的な……貴族か何かかしら?」
「どうするの? 踏んじゃうの? 剣先で突くの??」

 アシュリーとジャスミンが笑いながら倒れて動けないアルベルトを品定めする。

「あいつら面白そうな事して……完全に遊んでやがんなっ!」

 メランの青い魔ローダーSRVを抑え付けたままのサッワ達が、しばしアシュリー達を眺めていた。抑え付けられたSRVの中ではメランが脱出する事も出来ず恐怖にさいなまれていた。

「そうだっ! フゥー今度は首を切り落としてみよう。魔ローダーの破損は中の操縦者に痛みが伝わるが、首を切り落とされた場合にどんな衝撃やショックがあるのか知りたい」
「そうね、それは良い考えだわサッワちゃん!!」

 ココナツヒメが囃し立てる。

「じゃフゥーやれっ! 首を落としちゃえっ!」
「は、はい……」

 おずおずとフゥーの魔ローダーが剣を振り上げる。

「待って、最近何でもフゥーちゃんばかり、アウララ嫉妬しちゃう! アウララにやらせて下さいっ!」

 アウララが点数を稼いでサッワに褒められようと自らかって出た。

「わ、私はお姉さま方にお譲りしますから」

 フゥーは半ばほっとした様にアウララに譲る事を承諾する。

「ちっ、フゥーには後で嫌な事をさせるからな! よしアウララ斬って良いぞ!」
「はいっサッワ様!!」

 言われてフゥーとアウララが押さえる役を交代した。アウララのレヴェルが剣を振り上げる。

「いやあああああああああ助けて!?」

 操縦席の中ではメランが泣き叫んでいる。

「見ててなさい! スパッと斬っちゃうわよ~~~うふふふふピーーーーーー」

 ザシュッッ!!
謎の音と共に突然アウララの魔法秘匿通信が感度不明瞭になって音声が途切れた。

「どうしたアウララ??」
「アウララさんがアウララさんがっ!!」

 フゥーの目の前には、腹部の丁度操縦席の辺りに巨大な鉾が突き刺さった状態のアウララの魔ローダーレヴェルがピクリとも動かなくなってしまって立ち尽くしていた。背中からは機械油なのかアウララの血液なのか、何か赤い液体がしたたり落ちている。

「いやあああああああああ」
「誰だっ!?」
「何者なの??」

 ココナツヒメとサッワが鉾の投擲射線を推測して見上げると、見覚えのある翼のある機体、蛇輪が空中浮遊していた。
 
「ひとつ、人の世の生き血を啜り、ふたつ、不埒な悪行三昧……」
「早くしてっ!! メランちゃんがっメランちゃんがっ!!」 

 フルエレが悲痛な叫び声を上げて顔面蒼白になる。

「あれは美魅ィ王女の機体じゃないか? バラバラにされてるが……」
「以下略!! よしセレネさんや、やっておしまいなさいっ!!」
「まる投げかよっ」

 セレネは蛇輪を着地させると翼を畳み、仕入れたばかりの魔法剣を振り上げた。

「砂緒、雷出せっ!!」
「はいっ!」

 狭い座席にぎゅうぎゅうになって並んで座りながら、砂緒とセレネが戦闘を始めた。
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