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III プレ女王国連合の成立

そうだっ聖都へ行こう!3 聖都ナノニルヴァ、不純異性交遊罪による現行犯逮捕と貴城乃シューネ……

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 セレネが運転する魔輪のサイドカーに砂緒が乗っかり、旧聖都から西の山を抜ける時点に戻す。

「なんか急にほったらかしにされましたな」
「まーなー言っても猫弐矢ねこにゃさんも伽耶も神聖連邦帝国側の人間だからなあ、なんなら売られていても不思議は無いわな」
「兄者はそんな事する人間では無かろうし、そんな事すれば自分達も疑われるでしょう」
「確かにそーだわな。普通にいい加減なだけかもな」
「しかしいつ新聖都に移転したのか知りませんが、急激に寂れて行く物なんですねえ」
「ああ、辺りにジグラットや石造りの神殿の跡らしき物が放置されまくっているな」
「私あまり知らないとは言え、普通ファンタジー異世界と言えば西洋風の他にも砂漠の民風の人が出て来たりバラエティーに富んでいる物ですが、この異世界の住人はどこまで行っても中世西洋風の衣服ばかりで飽きてしまいますね。日本と関係無いから仕方ないですが、和風の人とかサムライ風の人とか出てこないのでしょうか?」
「え? ワッフーとかサムラて何だよ女か??」

 などと他愛も無い会話を続けている内に西の山々の間の道を抜け、遂に大きな平地に出た。

「住人に聞いた話では、此処はまだ東ナノニルヴァという所らしく、宮殿はまだまだ先に進まないといけないそうです」
「こっからさらに西に進みつつ北上すれば新聖都ナノニルヴァの巨大繁華街があるらしいけど……まだ一時間以上走るとかぞっとするな」
「巨大なカニやふぐのオブジェがあるからすぐに分かるそうですが、何かの神像でしょうか? でも綺麗な道が整備されているだけマシですよ」

 などと又ゝ会話を続けている内に遂に巨大な新聖都ナノニルヴァの繁栄している市に辿り着いた。

『たこの入った丸い食べ物いらんかね?』
『ナノニルヴァの津直送の新鮮な魚やタコだよ!』
『たこの揚げた物もあるよ!』
『イカが入った平べったい物もあるよっ!』
『あ、まさに今やらんとしてるやつ』
『とんっとんっ拍子やろ?』
『ビッグサイズのたこの入った丸い食べ物もあるよ!』

 セレネが魔輪で人々が多く行き交う市場をゆっくり走ると、売り子たちの元気の良い声が聞こえて来る。神聖連邦帝国という恐ろし気な名前とは裏腹にとても繁栄していて、人々が自由に元気に暮らしている感じでセレネは拍子抜けする。

「あーーーなんかうんざりするわ。あたしゃ人々が鎖で繋がれててむちで打たれてるイメージしてたのに、普通に繁栄しててガックリだわ」
「あたかも人々が鞭で打たれている事を期待してる様に聞こえますが」
「多少期待してたよ」
「期待してたんですか……それよりも何故やたら蛸の入った丸い食べ物を推して来るのでしょうか? もう止めて欲しいです。あと串に刺した揚げ物も要りません」
「なんか宗教的な意味があるんじゃないかなあ?」

 等と言いながら巨大な市場を端から端まで走る。既に暗くなりかけもうキリが無いので、砂緒は中央部の大きな橋の近くにあった薬局のおばさんに宮殿が何処にあるか聞いてみる。

「すいません、ナノニルヴァの宮殿は近いのでしょうか?」
「はぁ? ナノニルヴァの宮かい? もう少し北に行くと大きな川沿いに金銀細工された緑色の屋根をした壮麗な多層塔が見えるからそこがナノニルヴァの宮だよ」

 二人はお礼をして離れた。

「ふうドキドキしました。ナノニルヴァの人間は全員瑠璃ィるりいキャナリーみたいなヤバい勢いの怖い人ばかりかと恐れていたのですが、普通の人も居て一安心しました」
「こらこら先入観で決めつけちゃだめだぞ~」

 等と二人が水入らずでいちゃついている時にそれは突然起こった。

「はいはい、お姉さんお兄さんちょっと止まってね」
「凄いかっこ良い魔輪だね? これは何という名前なのかな? 高いでしょう」
「人々が多い雑踏では押して歩いてね! じゃあ免許証見せてもらおうか?」

 突然二人の乗る魔輪が数人の警備兵に囲まれて通せんぼされる。

「はい、怪しい二人組が乗った高級魔輪を見つけました。今から職質します!」
「早く免許証見せてね」

 警備兵の中でもリーダー格らしい笑顔のお姉さんが免許証の提出を求める。

「なんかウザい事になりましたな」
「免許証? そ、そんな物、ななないわ」

 緊張しぃのセレネが精いっぱい強がって返事をする。

「免許不携帯です!」
「はい、動かないでね!」

 魔輪を取り囲む警備兵達がざわつき、魔輪のあちこちを掴み動けなくする。市場を通り過ぎ行く人々がチラ見しては見て見ぬふりして無視して行く。

「なんですかめんどくさいですね、電気でやっちまいますか?」
「まーそれは最終手段で」

「免許不携帯って、そんな高価な魔輪をどうしたのかな? ちょっと警備所で事情聞こうか?」
「それよりも二人はどういう関係なの? 十五歳くらいよね? ちゃんと学校行っているの?」

 リーダー格のお姉さんが二人の関係を必死に聞き出そうとする。

「あーーーよくぞ聞いて下さいました。二人は所謂周囲も公認するステディな関係で、寝食を共にする間柄ですぞ」

 砂緒がまた要らぬ事を言って警備兵達がざわつく。

「す、ステディな関係ってつまり?」
「はい、もうお互いの身体の隅々まで確認し合い、一緒にお風呂に入り体を洗いっこする関係でしょうか」
「ややこしい時に要らん嘘を付くなこの意気地なし野郎が」

 セレネが小声で砂緒を叱るがもはや手遅れだった。リーダー格の女性がわなわなと震え始める。

「な、なんですって!? なんたる破廉恥な事なの……私なんて遠いあの日、先輩を見つめるだけで何も言えなかった、好き……ただその一言を絞り出す勇気が出なかったのに……なのに……なのに貴方達って何なの? そんな若い身空で二人で魔輪を乗り回して、挙句にお風呂で洗いっこしてるですって? 不純異性交遊罪で現行犯逮捕します。いえ、生ぬるいわ、今この場で魔銃を三発づつ身体に撃ち込んであげるわっ!!」

 何故かリーダー格の女性は涙ぐんだ目で震えながら魔銃を構えるが、周囲の部下に止められてようやく思い留まる。

「とりあえず貴方達は拘留します。おとなしく司直の手で淫らな行為に耽った罰を受けるのね!」

 二人の乗った魔輪は多くの警備兵の手でずりずり押されて行く。

「おいおいお前の軽口のせいでえらい事になったぞ……」
「とか言いながら余裕じゃないですか。でも我々二人はいつでも逃げれますが、魔輪を放置して逃げたらフルエレが悲しみますよ」
「あっそれ忘れてたわ……てか全部お前のせいだろがい、何故に私の責任ぽく言う?」


 結局二人は警備所で簡単な聴取を受け、らちが明かないので仲良く同じ牢にぶち込まれた。

「ふーーーすっかり暗くなりましたねえ、こうして牢屋の小さい窓から空を見上げていると、いつぞやフルエレと牢にぶち込まれた時を思いだします……」
「なんだよ二人きりの時までフルエレさんの話かよ? もう忘れるんじゃないのか」
「……そうでしたね、折角二人きりなのですからセレネの事だけ考える事にしますよ……」
「改まってそんな言い方されたら照れるわ……」
「あの時は結局兎幸うさこが出て来るまで助ける事が出来なくてすいませんでした……」
「もうその話は良いって。あたしが一人で突っ込んで行ったのが原因だし。それよりもお前が意外に必死に守ってくれようとして嬉しかったぞ……」
「セレネ……」

 セレネが砂緒の手に自分の手を重ねようとした。

「こらーーーーーーーー!! 何二人きりって前提で話しているの? 目の前に私が居るのが見えて無いの? 危ない危ない、何するか分からないってちゃんと見張ってて正解だったわ」

 警備兵のリーダー格の女性が大声で怒鳴り散らす。

「うるさいですねー何なんですかこの女は?」
「ほっといてやれ、この女が寝たら脱獄しよう」
「だーーーかーーーらーーー、そんな堂々と脱獄の計画練っちゃだめでしょ? 一体何者なの? 少しは怖がりなさいよ!」

 怒鳴り散らす女性警備兵に部下がそっと耳打ちする。

「この一切悪びれぬ態度、もしかしたら貴族や有力者のバカ息子かもしれません。場合によっては我々が窮地に立たされる事も……」
「ふ、ふん……わ、私はそんな権力に屈する女じゃないわっ! なんとしてもこのふしだらな二人を重い刑罰に処してあげる……で、でも念の為に顔が効く所長に面通ししてみようかしら?」

 部下の言葉にあきらかにびびった女性リーダーが、所長に二人の身元を照会してもらう事にした。


「何だね、夕食の最中だったのだよ、真面目な君の願いだからわざわざ来てやったが……」
「申し訳ありません、余りにも態度が不遜な子供なので、もし貴族や有力者なら所長の身にも迷惑がかかってはいけないと……」
「う、うむ」

 ぶつくさ言いながら所長と言われる中年の男性が牢の前にやって来る。

「うむ、どれどれ……なんだ目付きの悪いガキだなあ……もう一人の少女は……なんという美少女、確かに庶民の子とは思えないな……ん? 目付きの悪い……銀髪??」

 所長は魔法ランプを近付けて砂緒の顔をよく見る。砂緒も面白がって立ち上がると、鉄格子越しに所長に顔を近付ける。

「こらこら、変な挑発するな砂緒……」
「しゅな……? ん、あーーーーーーーーー!! ここここれは、大変失礼致しました。何卒お許し下さいませっ!!」

 所長と言われる中年男性は突然鉄格子越しに砂緒に対して土下座をした。砂緒もセレネもキョトンとする。

「どうしたんですか所長!?」
「こ、こらお前も土下座なさい、あ、それよりも早く牢を開けなさい馬鹿者!!」

 所長が慌てて指示したので、女性警備兵は渋々鉄格子を開ける。二人は訳が分からないという感じで牢を出る。

「大変失礼致しました。どうぞお出になって下さい」
「所長、だから誰なのですか?」
「馬鹿者、この方をどなたと心得るか! 姫乃殿下の幼い頃からのご学友であり今は聖帝陛下や姫乃殿下に直にお会いできる数少ない重臣、貴城乃たかぎのシューネ様なるぞ!!」
「ゲッこ、この目付き悪いガキ、いやお子様がシューネ様ですって!?」
「う、うむ、前にちらとお見掛けした時は二十代にお見えしたが、何か若返られた気もしないでは無いが、この目付きの悪い三白眼に銀髪は見紛うこと無きシューネ様に違いない!」

 所長と女性リーダーが小声で言い合う。

「そうですッ、あたくしがその重臣の、たかなんちゃらーねとか言う者じゃ、苦しゅうないでおじゃる」
「お前調子良すぎ」

 話を聞いていた砂緒は所長に向かって、これ以上無いというくらい胸を張った。セレネは恥ずかしくて赤面した顔に掌を当てた。
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