上 下
158 / 588
III プレ女王国連合の成立

そうだっ聖都へ行こう!3 聖都ナノニルヴァ、不純異性交遊罪による現行犯逮捕と貴城乃シューネ……

しおりを挟む

 セレネが運転する魔輪のサイドカーに砂緒が乗っかり、旧聖都から西の山を抜ける時点に戻す。

「なんか急にほったらかしにされましたな」
「まーなー言っても猫弐矢ねこにゃさんも伽耶も神聖連邦帝国側の人間だからなあ、なんなら売られていても不思議は無いわな」
「兄者はそんな事する人間では無かろうし、そんな事すれば自分達も疑われるでしょう」
「確かにそーだわな。普通にいい加減なだけかもな」
「しかしいつ新聖都に移転したのか知りませんが、急激に寂れて行く物なんですねえ」
「ああ、辺りにジグラットや石造りの神殿の跡らしき物が放置されまくっているな」
「私あまり知らないとは言え、普通ファンタジー異世界と言えば西洋風の他にも砂漠の民風の人が出て来たりバラエティーに富んでいる物ですが、この異世界の住人はどこまで行っても中世西洋風の衣服ばかりで飽きてしまいますね。日本と関係無いから仕方ないですが、和風の人とかサムライ風の人とか出てこないのでしょうか?」
「え? ワッフーとかサムラて何だよ女か??」

 などと他愛も無い会話を続けている内に西の山々の間の道を抜け、遂に大きな平地に出た。

「住人に聞いた話では、此処はまだ東ナノニルヴァという所らしく、宮殿はまだまだ先に進まないといけないそうです」
「こっからさらに西に進みつつ北上すれば新聖都ナノニルヴァの巨大繁華街があるらしいけど……まだ一時間以上走るとかぞっとするな」
「巨大なカニやふぐのオブジェがあるからすぐに分かるそうですが、何かの神像でしょうか? でも綺麗な道が整備されているだけマシですよ」

 などと又ゝ会話を続けている内に遂に巨大な新聖都ナノニルヴァの繁栄している市に辿り着いた。

『たこの入った丸い食べ物いらんかね?』
『ナノニルヴァの津直送の新鮮な魚やタコだよ!』
『たこの揚げた物もあるよ!』
『イカが入った平べったい物もあるよっ!』
『あ、まさに今やらんとしてるやつ』
『とんっとんっ拍子やろ?』
『ビッグサイズのたこの入った丸い食べ物もあるよ!』

 セレネが魔輪で人々が多く行き交う市場をゆっくり走ると、売り子たちの元気の良い声が聞こえて来る。神聖連邦帝国という恐ろし気な名前とは裏腹にとても繁栄していて、人々が自由に元気に暮らしている感じでセレネは拍子抜けする。

「あーーーなんかうんざりするわ。あたしゃ人々が鎖で繋がれててむちで打たれてるイメージしてたのに、普通に繁栄しててガックリだわ」
「あたかも人々が鞭で打たれている事を期待してる様に聞こえますが」
「多少期待してたよ」
「期待してたんですか……それよりも何故やたら蛸の入った丸い食べ物を推して来るのでしょうか? もう止めて欲しいです。あと串に刺した揚げ物も要りません」
「なんか宗教的な意味があるんじゃないかなあ?」

 等と言いながら巨大な市場を端から端まで走る。既に暗くなりかけもうキリが無いので、砂緒は中央部の大きな橋の近くにあった薬局のおばさんに宮殿が何処にあるか聞いてみる。

「すいません、ナノニルヴァの宮殿は近いのでしょうか?」
「はぁ? ナノニルヴァの宮かい? もう少し北に行くと大きな川沿いに金銀細工された緑色の屋根をした壮麗な多層塔が見えるからそこがナノニルヴァの宮だよ」

 二人はお礼をして離れた。

「ふうドキドキしました。ナノニルヴァの人間は全員瑠璃ィるりいキャナリーみたいなヤバい勢いの怖い人ばかりかと恐れていたのですが、普通の人も居て一安心しました」
「こらこら先入観で決めつけちゃだめだぞ~」

 等と二人が水入らずでいちゃついている時にそれは突然起こった。

「はいはい、お姉さんお兄さんちょっと止まってね」
「凄いかっこ良い魔輪だね? これは何という名前なのかな? 高いでしょう」
「人々が多い雑踏では押して歩いてね! じゃあ免許証見せてもらおうか?」

 突然二人の乗る魔輪が数人の警備兵に囲まれて通せんぼされる。

「はい、怪しい二人組が乗った高級魔輪を見つけました。今から職質します!」
「早く免許証見せてね」

 警備兵の中でもリーダー格らしい笑顔のお姉さんが免許証の提出を求める。

「なんかウザい事になりましたな」
「免許証? そ、そんな物、ななないわ」

 緊張しぃのセレネが精いっぱい強がって返事をする。

「免許不携帯です!」
「はい、動かないでね!」

 魔輪を取り囲む警備兵達がざわつき、魔輪のあちこちを掴み動けなくする。市場を通り過ぎ行く人々がチラ見しては見て見ぬふりして無視して行く。

「なんですかめんどくさいですね、電気でやっちまいますか?」
「まーそれは最終手段で」

「免許不携帯って、そんな高価な魔輪をどうしたのかな? ちょっと警備所で事情聞こうか?」
「それよりも二人はどういう関係なの? 十五歳くらいよね? ちゃんと学校行っているの?」

 リーダー格のお姉さんが二人の関係を必死に聞き出そうとする。

「あーーーよくぞ聞いて下さいました。二人は所謂周囲も公認するステディな関係で、寝食を共にする間柄ですぞ」

 砂緒がまた要らぬ事を言って警備兵達がざわつく。

「す、ステディな関係ってつまり?」
「はい、もうお互いの身体の隅々まで確認し合い、一緒にお風呂に入り体を洗いっこする関係でしょうか」
「ややこしい時に要らん嘘を付くなこの意気地なし野郎が」

 セレネが小声で砂緒を叱るがもはや手遅れだった。リーダー格の女性がわなわなと震え始める。

「な、なんですって!? なんたる破廉恥な事なの……私なんて遠いあの日、先輩を見つめるだけで何も言えなかった、好き……ただその一言を絞り出す勇気が出なかったのに……なのに……なのに貴方達って何なの? そんな若い身空で二人で魔輪を乗り回して、挙句にお風呂で洗いっこしてるですって? 不純異性交遊罪で現行犯逮捕します。いえ、生ぬるいわ、今この場で魔銃を三発づつ身体に撃ち込んであげるわっ!!」

 何故かリーダー格の女性は涙ぐんだ目で震えながら魔銃を構えるが、周囲の部下に止められてようやく思い留まる。

「とりあえず貴方達は拘留します。おとなしく司直の手で淫らな行為に耽った罰を受けるのね!」

 二人の乗った魔輪は多くの警備兵の手でずりずり押されて行く。

「おいおいお前の軽口のせいでえらい事になったぞ……」
「とか言いながら余裕じゃないですか。でも我々二人はいつでも逃げれますが、魔輪を放置して逃げたらフルエレが悲しみますよ」
「あっそれ忘れてたわ……てか全部お前のせいだろがい、何故に私の責任ぽく言う?」


 結局二人は警備所で簡単な聴取を受け、らちが明かないので仲良く同じ牢にぶち込まれた。

「ふーーーすっかり暗くなりましたねえ、こうして牢屋の小さい窓から空を見上げていると、いつぞやフルエレと牢にぶち込まれた時を思いだします……」
「なんだよ二人きりの時までフルエレさんの話かよ? もう忘れるんじゃないのか」
「……そうでしたね、折角二人きりなのですからセレネの事だけ考える事にしますよ……」
「改まってそんな言い方されたら照れるわ……」
「あの時は結局兎幸うさこが出て来るまで助ける事が出来なくてすいませんでした……」
「もうその話は良いって。あたしが一人で突っ込んで行ったのが原因だし。それよりもお前が意外に必死に守ってくれようとして嬉しかったぞ……」
「セレネ……」

 セレネが砂緒の手に自分の手を重ねようとした。

「こらーーーーーーーー!! 何二人きりって前提で話しているの? 目の前に私が居るのが見えて無いの? 危ない危ない、何するか分からないってちゃんと見張ってて正解だったわ」

 警備兵のリーダー格の女性が大声で怒鳴り散らす。

「うるさいですねー何なんですかこの女は?」
「ほっといてやれ、この女が寝たら脱獄しよう」
「だーーーかーーーらーーー、そんな堂々と脱獄の計画練っちゃだめでしょ? 一体何者なの? 少しは怖がりなさいよ!」

 怒鳴り散らす女性警備兵に部下がそっと耳打ちする。

「この一切悪びれぬ態度、もしかしたら貴族や有力者のバカ息子かもしれません。場合によっては我々が窮地に立たされる事も……」
「ふ、ふん……わ、私はそんな権力に屈する女じゃないわっ! なんとしてもこのふしだらな二人を重い刑罰に処してあげる……で、でも念の為に顔が効く所長に面通ししてみようかしら?」

 部下の言葉にあきらかにびびった女性リーダーが、所長に二人の身元を照会してもらう事にした。


「何だね、夕食の最中だったのだよ、真面目な君の願いだからわざわざ来てやったが……」
「申し訳ありません、余りにも態度が不遜な子供なので、もし貴族や有力者なら所長の身にも迷惑がかかってはいけないと……」
「う、うむ」

 ぶつくさ言いながら所長と言われる中年の男性が牢の前にやって来る。

「うむ、どれどれ……なんだ目付きの悪いガキだなあ……もう一人の少女は……なんという美少女、確かに庶民の子とは思えないな……ん? 目付きの悪い……銀髪??」

 所長は魔法ランプを近付けて砂緒の顔をよく見る。砂緒も面白がって立ち上がると、鉄格子越しに所長に顔を近付ける。

「こらこら、変な挑発するな砂緒……」
「しゅな……? ん、あーーーーーーーーー!! ここここれは、大変失礼致しました。何卒お許し下さいませっ!!」

 所長と言われる中年男性は突然鉄格子越しに砂緒に対して土下座をした。砂緒もセレネもキョトンとする。

「どうしたんですか所長!?」
「こ、こらお前も土下座なさい、あ、それよりも早く牢を開けなさい馬鹿者!!」

 所長が慌てて指示したので、女性警備兵は渋々鉄格子を開ける。二人は訳が分からないという感じで牢を出る。

「大変失礼致しました。どうぞお出になって下さい」
「所長、だから誰なのですか?」
「馬鹿者、この方をどなたと心得るか! 姫乃殿下の幼い頃からのご学友であり今は聖帝陛下や姫乃殿下に直にお会いできる数少ない重臣、貴城乃たかぎのシューネ様なるぞ!!」
「ゲッこ、この目付き悪いガキ、いやお子様がシューネ様ですって!?」
「う、うむ、前にちらとお見掛けした時は二十代にお見えしたが、何か若返られた気もしないでは無いが、この目付きの悪い三白眼に銀髪は見紛うこと無きシューネ様に違いない!」

 所長と女性リーダーが小声で言い合う。

「そうですッ、あたくしがその重臣の、たかなんちゃらーねとか言う者じゃ、苦しゅうないでおじゃる」
「お前調子良すぎ」

 話を聞いていた砂緒は所長に向かって、これ以上無いというくらい胸を張った。セレネは恥ずかしくて赤面した顔に掌を当てた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...