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III プレ女王国連合の成立

セレネと旅III 8 砂緒泣く、セレネの危機に届かない腕

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「そうか、魔ローダーで……でもセレネが!?」
「砂緒君辛いだろうが聞いてくれ、このエロ竜のマタマタは捕まえた乙女を裸にしてじっくり半日程掛けていたぶり、その後に特殊な器官で慰み物にする目的を果たす。だからまだ半日はタイムラグがあって間に合う。酷いと思うだろうが、急いで戻って魔ローダーを取りに行こう」
「そそんな!?」
「いやああああああ、キモイ、本当にキモイ、助けてっ砂緒っ!!」
猫弐矢ねこにゃ殿は上を見るなっ」
「え、ええそうするよ」
「セレネっ!! 絶対に魔ローダーに乗って戻って来る!! 半日はみさおは無事らしいです!! 必ず戻りますから待ってて!!」

 砂緒が見上げると、セレネはおぞましい無数の副腕の攻撃に耐えていた。

「うっ……くっ……や、やめっ……はうっ……ああ? みさおっ!? 分かった。あたしは砂緒を信じる!! 待っているぞっ!! ……はわっ」
「くっそーーー、行きましょう猫弐矢殿!!」
「ええ。伽耶ちゃんは此処でセレネちゃんを見守ってて!!」
「えええ!?」

 急いで走って行った砂緒と猫弐矢を見送ると、伽耶クリソベリルは拳銃タイプの魔銃を二丁取り出すと、震えながら周囲を見渡して、最後にチラッと捕まったまま副腕が身体中を這い廻り、おぞましい状態にされたセレネを見上げた。

「は、早く戻って来て下さい猫弐矢さま、砂緒さまっ!!」
「はわっくっやめ……きゃっ……あっ」

 声がして恐る恐る伽耶が再び上を見上げると、無数の副腕がセレネの服の中に入り込み、おぞましい行為に及んでいる事がなんとなく分かった。

「あ、そうだ!! セレネさんって砂緒さんとお風呂で洗いっこする仲、もはや生娘じゃ無いですよね!? 直ぐに開放されるんじゃないですか??」
「あうっあれは全部嘘だ……キスを数回しただけ……はう、まだ乙女なんだよー馬鹿ーーー!!」
「ごめんなさい……」

 伽耶は振り返って再び拳銃タイプの魔銃を握り直した。


「早く走って!! 魔輪に辿り着いたらそれ運転してもらいますよ!」

 必死に走りながら魔輪が置いてある神殿建設予定地に戻る砂緒と猫弐矢の二人。

「そんなの運転した事無いよ、それに魔ローダーだって」
「ル・ツーがあったでしょうが!?」 
「あれは猫名ねこな兄さんが所有してて触らせてもらえない」
「何でも良いです! 貴方は操縦桿だけ握ってりゃ良いんですよ! 私が動かしますから!!」

 しばらく走って魔輪に辿り着き、そのまま魔ローダー蛇輪を置いた防風林に向かう。最初に出会った漁師さんにすれ違う。

「おやどうしたのかね? 可愛い女の子達はどうしたね?」
「急いでるんです!! 魔ローダーどの辺りに置きましたっけ!?」
「あそこの防風林の辺りだよ……」

 漁師さんは指をさした。

「ありがとう!! 言われた方に早く急いで!!」
「………………」

 猫弐矢は無言で覚えたばかりの魔輪を動かした。二人は防風林の中に隠した蛇輪に飛び乗ると砂緒が軽くレクチャーした。

「いいですか? 貴方は無意識で操縦桿だけ握って魔力を注入し続けて下さい! 血反吐はくかも知れませんが、気にせず魔力を注入し続けて下さい!!」
「はあ!? 酷いね……」
「行きますっ!!」

 しゃがんでいた蛇輪が立ち上がると人間以外の色々な物を踏み潰しながら大急ぎで走って行った。

「おお何か知らんが気を付けなされ!」

 漁師さんは手を振った。


 バンバン!!
伽耶クリソベリルが待機していると、案の定スライムやマタンゴ、マンドラゴラの様なこの地に生息する色々な地味な雑魚モンスターが湧いて出て来る。それらを次々に拳銃タイプの魔銃で撃ち続ける伽耶。
 カチンカチン! チャリン……
弾切れを起こすとすかさず空薬きょうを捨て、新しい弾を装填する。
 バンバンバン!!

「キリが無い……早く来て砂緒さん……」
「うっくっ……いやっはあはあ……だめっ」

 相変わらず上ではセレネが悩ましい声を上げているが正視が出来ない。そのセレネは次々に服の中に副腕の侵入を許し、服の中ではおぞましい手が細身の身体を這い廻っていた。


 ズシンズシンズシン
変形出来ない為に大急ぎで走って来た蛇輪の足音が響く。

「来たっ!! 多分来ました!! セレネさん来ましたよ!! もう少しです!!」
「う、うん……頑張るよ……」

 何を頑張るのか良く分からないが、伽耶はほっと胸を撫で下ろした。

『伽耶殿しゃがんで下さい! 当たったら申し訳無い!!』
「はっ? 何々??」

 外部スピーカーで突然言われて慌ててしゃがむ伽耶。すると蛇輪の片手の指先から凄まじい雷が放出されて、伽耶の周囲に居た地味な雑魚敵が一瞬で一掃される。

「ひぃいいい、館で観たアレだ!?」

 伽耶はしゃがんで頭を抱えた。

「よし、次はセレネです!! 変形せずに翼を出します!! 負荷があるかもしれないが耐えて!」
「ふぅ……も、もう結構きついのだけど……」
「知るかっ!! 自分に魔力回復魔法かけりゃ良いでしょう!!」
「そんな無茶な……トカゲが自分の尻尾を食べ続けて生きれると思うかい? 限界があるんだよ」
「知らんっ!! 飛びます!!」

 砂緒が叫ぶと、背中の羽が展開して人間形態のままジャンプして飛び上がる。そのまま右手の尖った爪を揃え、エロ竜マタマタの喉元に突き刺そうとする。

「はぁああああああああああ!!! 死ねええええええ!!!」
「わああああああ砂緒、早くしてっ!!」

 セレネが叫ぶ中、砂緒が血走った目で操縦し手刀を突き刺しに掛かる蛇輪。エロ竜マタマタは後ろに逃げようとするが、蛇輪のスピードには敵わない。しかし蛇輪の手刀が竜の喉元に突き刺さろうとする寸前だった。

「ガハッ!! げほげほ」
「どうした? 猫弐矢!!」
「も、もう、ら・め」

 上の座席に乗る猫弐矢兄さんが洒落にならない大量の吐血をして前に崩れ落ちる。遂に猫弐矢の魔力が尽き、その直後にガクンと失速した蛇輪はひゅーっと墜落する。

「くっそーーーーーバカ兄役立たずがぁ!!」
「酷いよ砂緒くん、こんなの無理だよ……」

 体質なのか相性なのか魔力の量なのか、砂緒は改めてフルエレとセレネの凄さを悟った。

「動け動けっ! くっそーーーーフルエレが居れば……兄者なんとかなりませんか?」
「無理だ……済まない」
「役立たずが!!! もういい」
「酷い……」

 二回も役立たずと叫んで、砂緒は猫弐矢を放置して外に飛び出る。

「セレネ、必ず助けます!! 絶対に助けます!!」

砂緒はあざ笑う様にパタパタ飛び続ける竜に向かってジャンプするが、当然全く届かない。

「砂緒……くっ……いやっ」

 既にセレネは涙を流しながらエロ竜マタマタの副腕攻撃に耐えている。

「絶対に絶対に助ける!!」
「もう良いよ……砂緒、もういいから帰って!!」
「は?」
「猫弐矢さんも伽耶ちゃんも帰って……私の自己責任だから……くっ」

 猫弐矢は息絶え絶えで斜めに寝転んだ蛇輪の操縦席から転げ落ちると、慌てて伽耶が走り寄る。

「大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だよ……そ、それより肩を貸してくれ。僕たちが此処に居ても何も出来ない。それより僕たちはこの場から離れて、二人の判断に任せよう……もうどうしようも無いんだ」
「そ、そんな……」

 しかし猫弐矢の言葉通り、二人にはもはや何もすることが出来ない。猫弐矢の言葉はせめてセレネと砂緒二人の名誉を守る為に腰抜けと思われようとも此処を去る事にしたのだ。伽耶も結局猫弐矢の言う通りだと思った。

「砂緒さんセレネさんごめんなさい、猫弐矢さんを少しでも早く治療したいから……連れ帰ります!」
「済まない……」
「………………」

 力なく猫弐矢は伽耶に肩を貸されて去って行く。砂緒は二人を見ず言葉も掛けずに無視して諦めず竜に向かって行く。

「くっそーーーー待ってて下さい必ず助けます!!」

 崖によじ登ったり、木に登ったり、到底手が届く訳が無いのに何度も何度も必死に竜を攻撃しようとする砂緒。

「くっそーーーーーーーーー!!」
「もういいって、砂緒、もういいから、キャラ崩壊してまで必死にしてくれて」
「そんなん駄目だっ!! 絶対に助ける!!」

 諦めずにさらに何度も何度も攻撃を試みようとするがやっぱり届きそうにない。

「はうっ砂緒がそこまで……やってくれたってだけで嬉しいよ。もう本当に良いから帰れ。これ以上は見られたく無い……くっ」
「そんなのダメですよ、絶対に諦めて欲しく無い」
「もうあたしが良いって言ってるんだから……少し我慢して無かった事にするから」
「我慢して済む話じゃないでしょう!? セレネが傷付くじゃないですかっ! そんなの我慢ならない」
「……新品じゃ無くなってしまうから?」
「そんな訳無いでしょ! 新品とかそんな事じゃ無いでしょ!!」
「じゃあ、何なんだよ」
「セレネ自身が嫌で傷付くでしょ、それが耐えられない……助けられないなんて情けない……」
「うっはうっ……あはは、あたしゃがこんな程度で傷付く訳ないじゃん……」
「嘘付かないで下さい、人一倍繊細なセレネが傷付かない訳無い……助けられないなんて情けない……どうすれば……ううっ」
「お前泣いてるのかよ、立場逆だろ……もう良い……帰れ! 戻ったら後で優しく抱いてくれよ……はうっ」
「くっそーーーーーー!!!」
 
 砂緒はしゃがみ込んで拳で地面をガシガシ叩いた。いよいよセレネの全身を這い廻る副腕の動きが激しくなり、服を引っ張り破りにかかって来た。
 ビリッビリッ
悲しむ二人の感情を弄ぶ様にゆっくりセレネの服を破きにかかる竜。

「ほ、本当にもう……帰ってくれ……これ以上は見られたく無い……早く帰れ……」
「そんな……そんな嫌だ……セレネ」

 キィイイイイイイイイイイイインンン
突如甲高い音が響き渡る。

「?」
「??」

 砂緒とセレネは一瞬状況を忘れて周囲をキョロキョロ見た。

 ギュウイイイイイイイイイイイイイイイイイイインン

「何だ!?」
「うっ……何よ……はぁはぁ」

「うさこ……キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイック!!!」
 
 ズバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
凄まじい轟音と共に、エロ竜マタマタの喉元から突然飛び蹴りのポーズの兎幸うさこが突き破り飛び出て来る。
 シュタッ
そのまま兎幸は綺麗なフォームで着地した。同時に地面に巨体を落下し始めるエロ竜マタマタ。巨大な掌から解放されたセレネは、力なくビリビリの服のまま落下して行く。

「セレネッ!!」

 砂緒は立ち上がって落ちて来るセレネを全力で受け止める。思わず泣き顔で砂緒の首にすがり付き背中を抱き締めるセレネ。

「ごめんセレネ……」
「馬鹿ぁ、怖かったぞ!!」

 いつも通り泣いて砂緒に抱き着くセレネだった。

「月よりの使者、兎・幸・降・臨!!!」

 兎幸は二人の様子を伺いつつ言った。

「あ、貴方は、もしや喫茶猫呼に短期間だけ在籍していたという……伝説の兎幸先輩!?」
「兎幸……生きていたのか」

 砂緒はビリビリの服のセレネに上着を被せると、しばし久しぶりに会う兎幸の顔をじっと見つめた。

「私……まだ……現役、店員さん……だよ」
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