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III プレ女王国連合の成立

セレネと旅II 3 ハイア・クロス・アッシュ、域外の帝国の情勢

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 砂緒とセレネと抱悶は魔輪に乗って、アイイという巨女の酋長に案内されるまま、アイイの集落に到着した。

「ここがわらわの村、アイ村じゃ。どうぞくつろいで下されお客人よ……」

 アイイという二Nメートル越えの巨女は、最初こそ蹴りを入れるという乱暴な登場であったが、こちらに敵意が無いと判って以降は、非常に友好的で優しかった。いやそれ以上に砂緒に対して一目惚れしてしまった事も大きかったかもしれない……

「ほほう、ここがアイ村ですかな? なかなか立派な村ですな」

 石造りの各家々にはガーゴイル的な守り神か何かが飾られている。砂緒とセレネは一番大きなアイイの石造りの館に招かれた。眠ったままの抱悶は重いのでサイドカーに放置した。

「ようこそおいで下さった。わらわはアイイ、この島の酋長で巫女ドルイダスじゃ……占いや精霊と交信したりして政を司っておるぞ……」
「え、女子格闘家では無くて? 巫女さんなのですか?」
「わ、わらわが女子格闘家に見えるのかえ? うっうっうっ……」

 アイイは両手で顔を隠して泣き出した。

「い、いえアイイ殿は完全に巫女です。一目見た時からあ、凄い可愛い巫女さんだなって思いました!」
「お前調子良いな、そんなチャラかったか?」
「そうじゃろうそうじゃろう……」
「拙者、新ニナルティナ公国の騎士で重臣の砂緒と申す者。この度セブンリーフ大陸南の島々の情勢を視察せよという命を受け、各地を廻ってござる」
「おま、よくもそこまでスラスラと嘘が言えるな」
「そしてこの女性はユティトレッド魔導王国の王女にして、北部海峡列国同盟軍司令のセレネ殿と申す者です」
「嘘なんだか合ってるんだか微妙な所を突くな」
「お、おおお、ユティトレッドの王女? 北部海峡列国同盟?? 知らない間にセブンリーフも変化しておるのじゃな……」

 二人が自己紹介している間に侍女が飲み物を持ってくる。侍女はヤシの実で出来たココナッツブラを装着して、布を巻いた長いスカートを着ていた。とても美しい娘達だ。

「……あれを装着なさいセレネ」
「侍女をじろじろ見るなオラ! 着る訳無いだろバカ」
「何を話しておられる?」
「いえ、何故巫女の貴方がいきなり私を蹴り倒そうとしたのか、その経緯を知りたくて」
「おお、それは申し訳無い事をしたのじゃ、謝罪致そうぞ」
「いえ、一切怒ってなどおりません。土足で貴方の島に上陸した私達が無作法だったまで。それにアイイ殿の様な美女に蹴られるなら大歓迎ですぞ!」
「調子良いなお前……」
「実はこの最西の島もキィーナール群島の争乱とは無縁では無く、度々各島々から侵攻を受けておるのじゃ。その度にわらわも肉体を駆使して撃退しておるのじゃ……」
「やっぱ格闘家じゃん」
「何か?」
「いえ……」
「でもそれだけでは無いのです。今西隣のフォルモサ島国が度々さらに西のクロスからの侵略を受け、その余波がこちらにも及ばぬかと警戒しておったのじゃ!」

 アイイは非常に深刻な顔になった。

「アイイ殿フォルモサ島国は分るのですが、クロスとは何ですかな?」
「ほえ……クロスをご存じ無い? 砂緒殿はあの先進の強国ニナルティナの騎士なのじゃな? 知らぬと申すか……」
「じ、実は私とセレネは長年未知の東の地を冒険しており、当地の情勢には疎いのです」
「滅茶苦茶言い出したな」
「なんと!! そうであったか……それでは不肖わらわが解説して進ぜよう……」
「おお、お願い申す!」
「クロスとは域外の帝国が崩壊して主要な三つの王国に分裂した内の一つで、旧域外の帝国領内で南東に位置する王朝じゃ……」

 セレネが一瞬ポカーンとした。

「ちょっと待って下さい! 域外の帝国って崩壊したんですか??」
「そうじゃ、割とあっさり崩壊したぞ。域外の帝国ハンナ最後の帝は、元は家臣じゃったハイアの王に幽閉されておるとも、殺害されてしまったとも言われておるぞよ」
「域外の帝国がそんな簡単に? というかハイアって何ですか??」

 砂緒は完全に放置されている。

「おお、済まぬ。域外の帝国ハンナが崩壊して群雄割拠した後に、次第に主要な三つの王国が頭角を現し、三つの王朝が並び立つ状態になったのじゃ。その名を北のハイア、南東のクロス、南西のアッシュと呼ぶ」
「ハイア、クロス、アッシュ……そんな事に」
「おお、ようやく私にも話が見えて来ましたぞ。それで南東のクロス王朝がフォルモサ島国に遠征に来たのですな?」
「そうです……砂緒殿らは東の未知の地に行っておったとの事ですが、クロスの地域は域外の帝国がハンナ王朝となる前から、伝統的に東の神聖連邦帝国と交流があったそうですぞ」
「えっ!!!」

 この度で一番大きな声をセレネが上げた。

「この度のクロスのフォルモサ島国への侵略も、上手く行けばついでに最近音信不通の神聖連邦帝国も占領したいとか……」
「滅茶苦茶だな……」

 セレネが絶句する。

「安心してたもれ、クロスは北のハイアとの抗争でヘロヘロで、フォルモサ島国への侵略すら失敗続きじゃ。まして神聖連邦帝国への無謀な遠征なぞ実現するとは思えぬわ」
「す、素晴らしいです! わ、わわわたたた、わたし、そういう話が大好物でして、貴方と友達になりたいです!」

 セレネが興奮のあまり、瓶底眼鏡を掛けていた当時の性格に戻った。

「ほほほほほ、そうじゃもっと面白い話があるぞえ、南東のクロスが神聖連邦帝国との連携を模索しておる一方、北のハイア王朝はセブンリーフ大陸のニナルティナやユティトレッドに何とか交渉を持ちたい様じゃ。ハイアはセブンリーフと連携してクロスを挟み撃ちにしたい、逆にクロスは神聖連邦帝国と連携してハイアを挟み撃ちにしたい、そういう思惑なのじゃ……」
「……セブンリーフが百年もの間、無駄に国々が争っている間に、域外の帝国がそんな面白、いや激動な状態になっているとは……ニナルティナの王やメドース・リガリァの王が、域外の帝国と個別に交渉していた時代とは明らかに状況が変わっている……」

 セレネはしばし顎に手を当て考え事を始めた。

「セレネ……」
「うん?」
「それでココナツブラは装着するのですか?」
「ガチでグーで殴るぞ」
「セレネ……」
「何だオラー?」
「ちょっくらフォルモサ島国まで飛んで、もしクロスの先遣船団がいたら沈めておきませんか?」
「な……いいのかよそんな事して」
「む……あの空飛ぶ魔ローダーでその様な事が出来るのかえ? それはわらわとしても有難いぞ。もしフォルモサ島国が侵略されれば、次は我が最西の島に来るのは必定じゃ……砂緒殿がそうしてくれると皆も枕を高くして眠れようぞ……」
「クロスの連中からすれば、我々が何者かなんて絶対に分りっこありません。丁度北部海峡列国同盟締結式の時に、メドース・リガリァのテロリストが来たのと同じ事です」
「な……そうだな……クロスが将来神聖連邦帝国と連携されても面白く無い……やるか?」
「ええ、やりましょうぞ! こちらには抱悶ちゃんという秘密兵器もある事ですし、くくくくくく」
「悪いヤツだなお前……」
「そろそろ夜、抱悶ちゃんが活動を開始すると同時に出発しましょう」
「おお、そなたらやってくれるか? わらわも祈祷で応援するのじゃ!!」

 一気に話は盛り上がった。砂緒とセレネは食事と少し休憩をとると、魔輪で魔ローダー蛇輪の元に戻った。

「何じゃ何じゃ……今は何時じゃ? まだ儂は眠いのじゃ……」
「おお、この子が抱悶ちゃんかえ? とても可愛い童なのじゃ」
「誰じゃこのデカい女は? 儂が成敗してやるのじゃ」
「わ、わらわは味方じゃぞえ」
「二人ともじゃーじゃ言うのは止めて下さいなのじゃ。じゃーの大渋滞が発生中なのじゃ」
「お前までじゃじゃ言ったら余計こんがらがるわ」
「そこはセレネもじゃで結びましょうよ。そういう所がノリが悪いのですじゃ」
「しつこいな……」
「と、言う訳で早速フォルモサ島国西岸まで飛びます。アイイ殿、我らが無事を祈って下さい……そして……も、もし無事に帰って来れたなら……」
「ドキッ帰ってこれたなら……何じゃ何なのじゃ?」
「眠る場所貸してくれませんかー?」
「あ、はぁ……そうじゃな、部屋ならいくらでも貸すぞえ……」
「お前あんまアイイ殿を侮辱する様な事したら、同じ女性としてブチ切れるぞ」
「すいません……どうしても一回無事に帰ってこれたならごっこがしたかったのです」

 そして鳥型に変形したままの魔ローダー蛇輪は飛び立って行った。コンテナは島に置きっぱなしとして、量産型魔ローダーSRVの一般兵用の剣二本を携えて行った。

「帽振れ~~~」

「おおお、アイイ殿達が激しく手を振っておられるぞ! 嬉しい物です」
「何じゃ何じゃ、儂たちは何をしに行くのじゃ?」
「ちょっと緊張して来た……」

 セレネは操縦桿を握って高度を上げ、まっすぐにフォルモサ島国西岸を目指した。
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