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III プレ女王国連合の成立

セレネと旅 3 ギルティ・ハンド、 あっちこっちに立ち寄り

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 雪乃フルエレは重臣会議が終わり、アルベルトらと別れてニナルティナ冒険者ギルドビルディングに帰宅すると、速攻で最上階七階の猫呼のオフィスに顔をだした。

「あらいらっしゃい、フルエレがここに来るなんて珍しいじゃない」

 猫呼がなにやら一生懸命デスクワークをする中、ギルドマスター室にふいに入って来たフルエレに気付いた。もちろんここまでに来るには、前室の美人秘書ピルラの審査が必要だが、当然猫呼の親友であり、新同盟女王のフルエレは簡単に入室する事が出来た。

「ここほんと見晴らしが良いわね……それよりも猫呼にお願いがあるの……」
「へーーー何ゝ? フルエレから私にお願いなんて珍しいわー」

 猫呼が手を止めてフルエレに歩み寄る。そして接客ソファーに腰かける様に導いた。

「凄く言い難い事なの……軽蔑されるかもしれないし……嫌われちゃうかも。でもお願いしたいの」
「ほうほう?? いいの? ピルラが居ても?」

 二人にコーヒーを持って来たピルラを指さして言った。

「いいの、ピルラさんにも協力して欲しいから……」

 フルエレは全て正直に話した。重臣会議でアルベルトが挑発された事、アルベルトが易々と挑発に乗りもし戦争になれば最前線に立つと宣言してしまった事、そしてそれらを無かった事にして、何があってもアルベルトを後方に引き留めたい政治工作をしたいと全て言った。

「どう? 軽蔑したでしょう……」

 フルエレは猫呼の目を直視出来ず、テーブルを見て俯いて言った。

「いいえ? 別に私も正義の味方でも何でもないし、私がフルエレの立場でも同じ事しちゃうかも。それにアルベルトさんなんて国のナンバーツーなのだから、普通は最前線には立たない物よ。誰にも非難される事じゃないわよ」
「ありがとう……今回程猫呼が友達で良かったって思った事はないわ」

 フルエレは立ち上がり猫呼に抱き着いた。

「それで……フルエレ様、具体的にどうされるのですか?」
「うん……言い難いのだけど、重臣連中の不正蓄財や女性関係なんかの弱みや秘密を把握して、軽く脅しながら国政をコントロールして行きたいの」
「ほうほう良いわね」
「特に……アルベルトさんを前線送りにしようとした重臣については、出来れば発言権を無くして左遷させたい」
「……過激ね。ま、よござんしょ、あたしゃに任せておいて」
「その言い方、砂緒みたい……」
「ふふ……あと、クレウのヤツが消えたままだから、新しいボディーガードが必要よね? 実は前々からピックアップしてた者が居るのよ、呼んで来て!」

 猫呼がピルラに指示すると、一礼して部屋を出た。

「猫呼さま、俺に一体何用ですか? また遊んでくれるのですか??」

 しばらくすると、成人で長身なクレウとは対照的な、フルエレよりも年下ではと感じさせる、少し猫目の小柄な少年が現れた。

(うっ、か可愛い……こんな立て込んでる時に、なんでこんな可愛いコ連れて来るのよ……)

 必死な相談をしている時に、少年の容姿をじっくり観察してしまう自分に嫌気が差すフルエレ。

「ほらシャル、新しいご主人様のフルエレよ、ご挨拶なさい。同盟の女王様よ」
「あ、新しいご主人様って……猫呼さまは俺の事飽きちまったのかよ!? 酷いよ!!」
「あんた普段どんな生活してるのよ……」

 フルエレは依頼しておいて、猫呼の私生活を心配した。

「つべこべ言わないの! 貴方は私の僕である事には変わり無いのだから心配しないで! 早くご挨拶を」
「ちぇ……俺シャル、よろしくな……」

 シャルという少年は不愛想に挨拶をした。

「この子はギルティ・ハンドという魔法の必殺技があるのよ! 見せてあげて……」
「はいはい……」

 少年がむすっとしたままドアの前まで歩き出すと、片手を上げてまだ扉を開ける前の、ドアの隙間にいきなり手を突っ込んだ。

「ええ!? なにそれ??」

 少年の手は、我々の世界での群馬名物ひもかわうどんの様に、みにょーんと薄っぺらくなって、ドアの隙間に突入してしばらくすると、手に何かを握って戻って来た。

「ほら、お茶菓子!」

 少年の手にはクッキーが握られていた。

「凄いでしょ~~この魔法能力でコソ泥してた所をスカウトされたらしいの。掌に握れればなんでも取り出せるのだって!」
「そう……もはや何でもありね。シャル君よろしくね!」

 フルエレは少し屈んで、にこっと必殺の笑顔で微笑みかけた。シャルという少年はフルエレの笑顔を見ると、うっとなって少し赤面すると顔をぷいっと背けた。クレウに続きこのシャルという少年も、フルエレの魅力に即座にノックアウトされてしまった……

「よ、よろしく……シャルで良いよ、女王さま。一通りの攻撃魔法や体術も会得してるから、俺が女王さまを守るよ!」
「私もフルエレで良いのよ! よろしくね!」

 俺が女王さまを守るから……と言われて、フルエレは砂緒を思い出していた。


 一方その頃砂緒とセレネの乗った鳥型に変形中の魔ローダー蛇輪は、順調に南に向かって……いなかった。なんと言っても、ニナルティナから一直線で南に向かうと、対立するメドース・リガリァに侵犯してしまい、フルエレからは絶対に止めてくれと言われていたからだ。

「オラオラ、焼きそばぱん買ってこいやあ、オラオラ」

 操縦席に座った砂緒に対して、凄く不自然な姿勢で後ろから片手で操縦桿を握りつつ、覆い被さる様に肘で砂緒の背中や肩をグリグリするセレネ。

「スマン、何が面白いのかいまいち良くわからん。あと焼きそばぱんって何だよ……」
「美女に操縦桿握りしめられながら、焼きそばぱん買って来いと言われるのは男子の永遠の憧れですからね……しかしそんな不自然な姿勢してるのに、一向に胸がかすりもしないですね、どういう構造してるのでしょうか?」
「悪かったな、操縦桿離してみたろか」

 セレネがぱっと操縦桿を離すと、突然蛇輪は失速して急降下を始める。

「私は別に墜落しても大丈夫ですが、セレネはやばいのでは無いでしょうか……」
「んじゃそろそろどけ。なんでお前が私の席に座ってるんだよ」

 暇なので寸劇をしたいという砂緒の願いを聞き届けていたセレネだったが、そろそろ本気でルートを策定したいと思った。

「結局南直行を止めて、南東に反れて進んでいるから、ついでにユッマランド寄ってみるか?」
「おおお、それ良いです。ユッマランドと言えばセレネと気が合ってた王女がいましたな」


 ―ユッマランド城内、王女の寝室。

「やぁん……美魅ィさま……まだまだ明るいです……恥ずかしい……」
「んふふ可愛い子ね……もっと良く身体をお見せなさい、さぁ何も隠さないで……」

 特にあれ以来戦闘も無く、一応の平和が続くユッマランドでは、王女美魅ィと侍女で同じく魔ローダー操縦者の璃凪が、時間があれば飽きる事無く、いつもの様にまだ明るい日がある内から愛し合っていた。

「ほんと……貴方のお胸は芸術品ね……美しいわ……」

 美魅ィ王女が脱ぎ捨てられた衣服のフリルの部分を丸めた物で、璃凪の乳房の膨らみの下からなぞる様にして動かし、最後は若々しく薄い色素の先端の部分をくるくるとくすぐった。みるみるうちに鳥肌が立ちぼうっと紅潮する素肌。

「や、やめ……く、くださ……ぃ」

 璃凪は王女の攻撃をきゅっとシーツを握って耐えた。

「あ、あのぅ……お取込み中……大変申し訳ないのですが……」

 突然部屋の外から他の侍女の恐々とした声が聞こえる。

「何事!? ここに二人で居る時は、敵襲でもない限り、声を掛けるなと言ってるだろう!!」

 美魅ィ王女が二人の大切な時間を破られ、激怒して声を荒らげた。

「それが、実際にメッキの様に銀色のテカテカの魔ローダーが空から急に飛来しまして、城下は侵略だと大変な騒ぎになっております……しかし中から出て来た人物は、パン屋さんはどこですか? 等ととぼけた事を聞いておるらしく、敵国の侵略とも思えず……急ぎ報告に上がりました」
「そんな重要な事なら早くお言いなさい!!」

 王女はがばっとシーツを持って立ち上がると、璃凪もそそくさと服を着始めた。

「美魅ィさま、メッキの様にテカテカかつ空から飛来となると」
「ええ、そうね十中八九フルエレ様かセレネ王女ね、何事かしら?」
「一応……一応の事を考えて私達も魔ローダーに乗って行きましょう」
「ええ、それが良いわ」
 

 ガシャーンガシャーンガシャーーン
修理が成った魔ローダー、ザンザスとバリオスとで慎重に巨大な街中を進む二人。侍女の報告から指定された付近に行くと、鳥型から人型に戻った魔ローダー蛇輪が片膝を着いて座っており、その足元には砂緒が居た。

「おお、もしや貴方がたは?」

 砂緒は営業終了したパン屋の前で大きく手を振った。

(うわこいつ……あの目付きの悪い銀髪三白眼だ……)
(あ、宝石の銀髪三白眼さん……)

 美魅ィ王女はなんとなく砂緒が嫌いだった。

「何用だ、帰れ!!」
「済まない! 何の連絡も無く魔ローダーで入国した事をお詫びする!!」

 建物の陰からひょこっとセレネが出て来てお辞儀をすると、途端に美魅ィ王女の目が輝いた。

「ああぁ、セレネ王女!? ようこそお越し下さいましたっ!!」
「王女……」

 璃凪は王女の豹変ぶりに驚いた。
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