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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟

エピローグII セブンリーフのモザイク模様 2

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 ―新ニナルティナ港湾都市、路面念車が往来するメインストリート近辺。

「信じられない……寝ている間に女王にされるなんて聞いた事無い! 今からでも降りるわ私……」

 これから新ニナルティナ同盟女王就任祝賀パレードが開かれる直前、そのパレードの主役である雪乃フルエレが、開始直前になっても控室でぶつくさ言っている。ちなみに雪乃フルエレは同盟女王就任が決まった直後から、人々から知らない内にニナルティナ人にされていた。ニナルティナ人が新たな同盟の女王に就任する……その事が国民を熱狂させ、記念祝賀パレードが実行される事になったが、最後までフルエレは目立つのが嫌だった。しかし破壊されたニナルティナ港湾都市の再建に向けて人々を勇気づけるというセレネの説得に折れ、結局はパレードに出る事になった。

「まだそんな事を言っているのか~? どうせ頭に被り物するんだから誰だか分からないし、少しの辛抱だと思って我慢しろ!」

 後ろから白いヴェールの付いた被り物を渡すイェラ。フルエレのたっての希望で、顔が隠れる様にして作った特注品だ。

「はぁ~~~贅沢よ、なんなら私が代わってやりたいわ! ていうかいつもギルドで代表ぽい事してるのは私の方じゃない? フルエレ、貴方私の影武者って事にしない?」
「ちょっと何言ってるのか意味が分からないわよ」

 猫呼がパレードの主役であるフルエレを羨ましそうに見ながら言った。

「フルエレさん!! 本国から届きましたギリギリになって間に合いましたよ! これが据え置き型の結界くんで、こっちのキーホルダータイプが携帯型の結界くんNEOです! これさえ装備していれば、例の瞬間移動攻撃を防止する事が出来ます! ユティトレッドの魔法技術は天下一でしょう??」

 控室にセレネが飛び込んで来るなり、嬉しそうにフルエレにキーホルダーを渡した。

「結界くんNEO?? ふ~~んなにそれ?」

 フルエレは寝ている内に女王にされた事を根に持っており、特に推進役のセレネにはまだ少し腹を立てていた。

「それにこの結界くんNEOは裏の小さなボタンを押すと、ポポポポポーと軽快なBGMも流れるお洒落な機構も内蔵しているんですよ!」
「え、それは一体何に使うの?」

 猫呼が怪訝な顔で尋ねる。

「店先に置くと客を呼び込むそうです!」
「え? なにそれ、凄く怪しいわ。本当に瞬間移動を防止するのよね?」

 フルエレが物凄く怪しみながら、白い手袋の指先でキーホルダーをぶら下げて見る。

「効きますとも!! 信用して下さいよ!」
「へー信用ねえ」
「何です? 何か言いたい事でもあるんでしょうか?」

 二人が少し険悪になって来る。

「大体人が寝ている間に女王にしちゃうとか聞いた事も無いわよ、そんな重大な事なんで本人に相談しないのかしらね?」
「相談って、同盟の盟主になるのは承知してましたよね?」
「盟主と女王じゃ全然違うわよね? なんだか貴方と話していると、また物凄く腹が立って来たわ! やっぱり私帰る!!」
「此処まで来て、ふざけないで下さい!!」
「喧嘩はそこまで!! 二人共私を巡って争うのはそこまでにして頂きたい。私も当事者として心が痛みます。私は二人の共有物で十分ですからご安心を」

 突然控室に砂緒が入って来て、二人の間に割り込んで喧嘩を止める。

「はあ? 何言ってんだお前?」
「あの、ここ女子控室よ砂緒?」
「まーまー家族みたいな物じゃないですか、ささ、がばっと着替えて下さい」

 砂緒が半笑いで手をひらひらさせる。

「出て行けーーー!!」

 セレネに殴られ部屋を追い出される砂緒。そうこうしている内にパレードの刻限になってしまった……


 ―新ニナルティナ、北部海峡列国同盟女王就任祝賀パレード。
多数の整然と並んだ白い騎馬隊が先導し、その次にアルベルトらが乗る魔戦車隊、そしてモールの付いた白い警察風の制服を着たセレネが乗る魔輪が続き、最後にフルエレが乗ったオープンカー仕様の高級リムジンタイプ魔車がパレードを行う。その魔車には猫呼とイェラと砂緒も警護として乗っていた。

「ああ、クレウさんは結局どこに行ってしまったのかしら?? 砂緒貴方本当に何か知らないの?」

 フルエレがにこやかに群衆に手を振りながら砂緒に聞いた。

「私があんなヤツの行方など知る訳がありませんでしょう」

 砂緒がSPの真似をして、あちこちキョロキョロしながら答えた。

「お、おい砂緒、一体何故先程から耳を押さえて異様にキョロキョロしているのだ? 物凄い不審人物みたいだぞ」

 イェラが怪訝な顔をして聞いた。

「失礼な! これはSPと言って、フルエレを不意の攻撃から守る為に周囲を警戒しているのですよ」
「イェラ、相手しちゃだめよ……」

 何故か猫呼も笑顔で手を振りながら言った。

『まーーー素晴らしいわ!! 我々と同じニナルティナ人が新たな同盟の女王に就任だなんて!!」』
『旧ニナルティナが亡びた時はどうしようかと思ったが、こうしてすぐに同盟の女王に就任するなんて、俺は鼻が高いよ』
『雪乃フルエレが恐ろしい魔女だなんて言っていた人は誰?? みてごらんなさい、とても美しい少女よ!!』
『顔が見えませんが……』
『きっと雰囲気からして絶世の美女に決まっているわ、女王さま万歳!!』
『新女王バンザーーーーイ!!』

 人々は口々に言い合い、歓声を上げた。

「はぁーーー疲れて来た。早く帰りたい」

 手を振り続けるフルエレが呟く。

「あともう少しです。スピーチが終われば帰れますよ」
「……それが一番嫌なのよ……はぁ~~~帰りたい」
「……どうしますか? そこまで帰りたいなら、こっから蛇輪のとこまで走って行ってトンズラしますか?」

 砂緒が真顔で聞いた。フルエレはアルベルトからの信頼や、人々の歓声、喫茶猫呼の経営など考えてみればぽいっと簡単に捨て去る事が出来ない物を多数抱えている事を分っていた。

「行く訳ないでしょ……言ってみただけよ」

 フルエレはヴェールで隠れて見えないが、作り笑いをしながらひたすら手を振った。


 ―新女王就任、記念スピーチ会場。

「フルエレくん、落ち着いて、君なら出来るから」
「は、はい有難うございます!」

 アルベルトが軽くフルエレの手を握りながら励ました。

「何をしているブラジル? 貴様はセレネ殺しの下手人ではないか、軽々しく口をきくで無いわ!」

 砂緒がアルベルトの手を払いのける。砂緒が言っているのは、サッワからの魔戦車の砲撃を防ぐ為にセレネが瀕死の重傷を負ったのは、そもそも魔戦車の管理を怠ったアルベルトの責任である、という理屈らしい。

「こらこら勝手に殺すな! 私はこうしてピンピンしておるぞ、アルベルトさんすいません、あの人頭がおかしいんです、相手にしないで下さい」
「いや……砂緒君の言う事は一理ある。僕が魔戦車を空けたばかりに君を酷い目に……本当に済まない」

 アルベルトは誠実に頭を下げた。

「いいんです!!」
「いいの!!」

 セレネとフルエレが同時に言った。

「……しかしどうしてセレネはあれ以来、抱き着いてきてキスをしてくれないのでしょうか? 私はいつでもスタンバイOKなのですが」
「……気が動転してた時の事を何時までも……今度言ったらマジで眼球を突くからな!」

 セレネが剣を抜き、砂緒の眼球一Nミリ前でプルプルして制止する。

「OKOK! 眼球を突かないで下さい、もう言いませんから」

 そうこうしている内にスピーチの時間となった。


「あーーー俺、偉大なる新ニナルティナ公レナード様が女王とお呼びするたった一人の偉大な方、雪乃フルエレ様からお言葉がある。皆も心して聞く様に」

 有未レナードが仰々しく雪乃フルエレを招いた。いつぞやフルエレやセレネ達が迷い込んだ、大きな池がある離宮公園の特設会場の、魔法マイクが多数立つ壇上に雪乃フルエレが現れた。

「わ……こほん、私が、この度、同盟の……女王を……拝命した……ゆ、雪乃フルエ……です」

 緊張でフルエレの声はめっちゃ震えていた。

『どうしたんだ、声が小さいぞ……』
『美しい声だが何を言っているかわからない……』

 スピーチが続くが人々がざわざわする。

『フルエレさん頑張って!!』

 小さな幼女の声が響いた。声質から梅狐の声だとフルエレは思った。会場はシーンとなった。

「……今セブンリーフ大陸中部ではメドース・リガリァが各地に侵略を行っています。これに対してすぐさま出兵、干渉するべきという声が重臣からも上がっています」
「ああ、フルエレさんが予定に無い事を言いだしたぞ」

 セレネが警戒した。

「私も当然侵略を行うメドース・リガリァを許す訳には行かないと思っています。しかし今は我が国は壊れた港湾都市の再建、何よりもまずは再建を進めるべきだと思っています! 住む家を無くした人に新たな家を与え、親を失った孤児たちに新たな居場所を与える、この事を同盟各国に伝え、わが同盟からの率先した戦争への干渉については一定期間禁止すると宣言します!!」

 スピーチの予定では、この場で同盟各国全軍を上げてメドース・リガリァの非道を討つという事を高らかに宣言するはずだったが、フルエレは勝手に真逆の事を言った。

「やられた……勝手な事を……侵略を放置して良いのか!!」

 セレネは苦虫を噛み潰した様な顔をしてフルエレを睨んだ。しかし群衆はそのフルエレの言葉を大歓声で迎えた。

『おおお!! フルエレ様万歳!!』
『中部の事なんか知ったこっちゃないわ!!』
『どうせ田舎の事でしょ?? 新ニナルティナは盤石よ!!』

「おお、凄い大歓声ですなあ、しかし家出中で行商人見習いと口走っていたフルエレが、なんだか良く分からない間に同盟の女王に……行商人の見習いはどうするんでしょう?」

 砂緒が演壇の後ろから人々の歓声を覗き見て言った。


 全ての予定が終わった。

「ふぅ~~~~やっと帰れるわね! やれやれだわ」
「ちょっとフルエレさん! あのスピーチは何ですか? 全く予定と逆の事を言いましたよね?」
「えーだって私女王様なのよね? 何で貴方に忖度しなきゃいけないのかしら??」
「何ですって?? 侵略を放置してむしろ戦禍が拡大すると私は言っているのです!!」
「まーまーー、私を取りあうのはおよしなさいって言いましたよね」

 また砂緒が二人に割って入った。

「誰もそんな事言ってねーわ!?」

 今度はセレネは砂緒に食ってかかる。

「それにしても帰りの魔輪、どの様な席順で乗りますか? フルエレが運転するとして、私がフルエレの腰を掴んでタンデムするのか、それともサイドカーに私が乗っかり、膝の上にセレネを乗せてガッチリとホールドするか、どちらが興奮、いや、安定するでしょうか……」

 砂緒が顎に手を当てて真剣に考えている。猫呼とイェラはレナードにプレゼントされたリムジンタイプ魔車で既に帰ってしまっていた。

「何を言っているのよ? 乗るとすれば私とセレネがタンデムして、砂緒がサイドカーに一人で乗るに決まっているでしょ! セレネもそれで良いわよね?」
「は、はい……それで良いですけど」
「そうですか……ではセレネ、膝の上に乗って下さい」
「話聞いてるか? 眼球突かれたいか??」

 そうして三人は魔輪に乗り込んだ。フルエレはなんとパレードの衣装のまま、魔輪でビルに帰って行く。

『ちょっとアレ見て! さっきのパレードの女王様が魔輪に乗っているわ!?』
『そんな訳ないだろうが! ……あれ本当だな、パレードの来た道を逆走してるぞ?』
『目の錯覚よ! それでなければ影武者だわ!!』

 パレードの後、女王が魔輪に乗って爆走していた……そんな都市伝説が生まれた。


 数日後、喫茶猫呼。

「お、お嬢ちゃんかわいいね、ていうか名前が雪乃フルエレって言うのかい??」
「それじゃあ新女王様と同じ名前じゃないかい??」
「ええ、凄く良く言われるんです」

 フルエレは目を細めて遠い目をして言った。
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