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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟
エピローグII セブンリーフのモザイク模様 1
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―メドース・リガリァ本国本城。
シュッバッ!! ズシャッ!!
リュフミュラン北の小島の神殿の戦闘から魔ローダーのスキル、瞬間移動(長)で命からがら逃げて来た、ぼろぼろの魔ローダー、ル・ワンとデスペラード改だった。
「おおお、何という事だ!? 一体作戦はどうなったのだ??」
「何故二機はボロボロなんだ? サッワ様のエリミネーターはどうなったのですか??」
城の一番目立つ中庭に現れた二機のボロボロの魔ローダーを見て、城の多くの人々が不安になった。
ギギギ、バシャッ!!
バシャッ!!
片腕を無くし、傷だらけのデスペラード改を動かし、ハッチを開け出て来るスピネル。庇う為に上に乗っかっていたデスペラード改がどいてくれたので、ココナツヒメのル・ワンもハッチを開ける。
「ふぅ~~~~~~早くお風呂に入りたいですわ。ねえ透明化の人?」
「………………」
クレウは敵国の只中で生きたここちがしない。
「まおう軍本国に帰らないのですかな?」
珍しくスピネルからココナツヒメに話し掛けた。
「そうですのよ、二十四時間経たないと瞬間移動(長)がスタンバイになりませんのよ、どうですの? 今晩は一緒にお風呂に入りまして、同じベッドでお休みいたしましょうか? うふふふ」
ココナツヒメはスピネルにしな垂れかかったが、スッと片手で払いのけるスピネル。
「無理をするで無い。内心サッワの事が心配なのであろう。瞬間移動(長)を使えば何時でも逃げれるにも関わらず、粘りに粘ったのはサッワの帰還を待っていた為だろう。その事に関しては上官として礼を言う。しかしそなたはサッワの上官では無い、メドース・リガリァまおう軍共同作戦が終了した以上は共に行動する義理は無い。では待っている食べ物が居ますので」
弁当屋の娘は、もはや家族ごとスピネルに付きまとっていた。
「なにさ……という事ですわ、透明化さん二十四時間後にはここより離れますの。貴方としてもここよりはまだ魔王軍の方が安心出来ると思いますわ。そこで静かにお休みになってなさいな」
「………………」
クレウが操縦席から外を見ると、中庭のあちこちには兵がひしめき合っていて、どの様な結界が隠されているかも分からない。距離的にはメドース・リガリァから新ニナルティナまでは近いが、無事に辿り着けるかどうか思案している最中だった……何かの魔法を掛けられて眠りに落ちてしまった。
「私は一日二組限定の高級ホテルにでも泊まりますわ」
そう言うとココナツヒメはふらふらと城から出ようとして、衛兵達が無言で避けた。
「またれいスピネル殿! 何を勝手に帰ろうとしておる! 報告をせんか!」
二機の帰還の報告を受け、城内から血相を変えた貴嶋が走って来た。後ろからは少し遅れてゆっくりと、侍女を従えアンジェ玻璃音女王も出て来た。
「は、これは申し訳ありませぬ」
「どうじゃったのだ? 共同作戦の成否は??」
「完全に失敗しました」
貴嶋の血の気が引く。
「どういう事じゃ? サッワは??」
「サッワは恐らく戦死しました。北部海峡列国の要人や王族を一気に叩いて連中の出鼻を挫き、北部各国にえん戦気分を高めるという当初の作戦目標とは裏腹に、何か猛烈に強烈な人物と魔ローダーが現れて返り討ちに遭い、むしろ連中の虎の尾を踏み逆鱗に触れる事となり、各国の結束を強める結果となったでしょうな。作戦は裏目に出て完全に失敗です。申し訳ありませぬ」
「なんと…………こ、こら女王の前なるぞ、もう少し言葉を選べ!」
話を聞いて言葉を失っていた貴嶋は、後ろに女王が居た事に気付いてさらに面目を失う。
「……大成功でした」
「遅いわ! もう良い帰って休息し、後に詳しい報告を上げい!」
通常戦闘では中部小国群に破竹の勢いで侵略するメドース・リガリァだが、魔ローダー同士の戦いでは連敗した貴嶋が冷や汗を噴き出す。
「焦らないで下さい……」
アンジェ女王がそっと貴嶋の手を握る。
「ひ、ひと目があります……」
「もう良いではないですか、わたくしと貴方とはもはや一連托生なのですよ。もし仮に、国が戦に破れ亡び、多くの人に憎まれ断頭台に登る様な事があっても、私はずっと貴方と一緒なのですよ」
「その様な事に……絶対になりません! ご安心を!!」
(その様な事があっても……貴方だけは無事にお逃げ下さい、私が必ずそうします故……)
二人はしばし人目もはばからず、壊れた魔ローダーの前で手を握り合った。
―セブンリーフ大陸南部、まおう軍まおう城。
シュバッ!!
あれから二十四時間が経っていた。まおう軍まおう城の中、魔ローダーが林立する格納庫にボロボロの魔ローダー、ル・ワンが瞬間移動(長)で帰還した。
カコーーーーン!!
ル・ワンの操縦席から出て来るなり、ココナツヒメがハイヒールを脱ぎ捨て、思い切り床に叩き付ける。
「えええええい、忌々しい!! あのシールドを張っていた金髪の女!! 何なのあのブスは? アイツさえ居なければ作戦は成功したのに、アイツさえ居なければ恥をかかずに済んだのに!! 許せないわ、あの金髪女……者共、ル・ワンの魔法カメラ映像を解析して、魔法シールドを張って邪魔をした女の事を調べなさい!!」
いつもの余裕たっぷりの表情と違い、アジトに帰還したココナツヒメは自分が提案した共同作戦が大失敗した事について、邪魔をした雪乃フルエレに対してあからさまに激怒していた。
「あ……お待ちなさい、それとサッワというメドース・リガリァの魔ローダー操縦者の少年が、ニナルティナで捕虜になってないかも調べなさい!」
「ハハッ!!」
返事をして、ココナツヒメの配下の影の者共がシュシュッと消える。そうしてココナツヒメはふらふらとまおう城の中のクリアーな雑貨に囲まれた自室に戻り、クレウの事を完全に失念した!
「もう……誰もいないな?」
粘り強く魔ローダー格納庫の中で、息を殺し待機し続けたクレウが活動を再開した。
「ここは……どこだ? 早く猫呼様とフルエレ様に会いたい……」
透明魔法をかけたまま、まおう城内あちこちを歩き、脱出口を探すクレウ。
「何をやっておるのじゃ?」
「!!」
透明化の最中なのに後ろから突然声を掛けられ、背中がビクッとするクレウ。とにかく息を殺し何事も無い様に壁に張り付いたまま静かにした。
「だから何をやっておるのじゃ~~?? 気持ち悪いやつじゃ……」
(偶然かもしれん、無視して進もう……)
クレウは独り言が好きな人間がブツブツ言っている可能性を考え、無視して進みだす。
「こらこら、何を無視して進んでおるのじゃっ! 余が声を掛けておるのじゃ、怒るぞしかし」
クレウがビクッとして気付くと、後ろから声を掛けていたはずの声の主が、一瞬で目の前に現れていた。その声の主の姿を見てさらに驚く。先程から透明化魔法を見破り、付いて来ていたのは可愛いミニスカートの黒いコスチュームを着た、十歳前後くらいのかなり可愛い女の子だった。しかも頭には熊の耳飾りを付けていた。付け耳だと判るのは、髪の毛にちゃんとした人間の耳が見え隠れしていたからだ。クレウにとっては微かに御主人、猫呼のイメージを呼び起こさせた。
「……君は誰かな?」
クレウは相手が無邪気な小さい子だと判り、恐る恐る声を掛けた。良くすれば脱出口を聞き出せそうと思ったからだ。
「なにをいうー」
「?」
要領を得ないのでやはり無視する事にした。
「こらこら待て待て!! 待つのじゃ!!」
女の子がカッと片手を掲げると、クレウは固定された様に動けなくなった。瞬時に合理的に考え逆らう事を諦めた。透明化魔法を解いた。
「お許し下さい、貴方様は一体?」
「おおおおおお、凄いのじゃ!! やはり透明化しておったのか!! よし、お前は今日からカメレオン丸じゃ、付いてこい!!」
「あ、あの……貴方様は?」
「余はこの城のヌシじゃ!! お前を飼う事にしたぞ、ベアーの友達じゃキャハハハハハ」
小さな女の子はまおう城の主、まおう抱悶だった。
(猫呼さま、フルエレさま申し訳ありません……必ず生きて戻ります、それまでは……)
「よーし、あっちこっちの女湯を覗いて廻るのじゃ! 行くぞよカメレオン丸キャハハハハハハ」
抱悶が笑いながら走り出すと、クレウは抵抗する事も出来ず、身体に鎖でも付けられている様に、ズリズリと引き摺られて連れていかれた……
シュッバッ!! ズシャッ!!
リュフミュラン北の小島の神殿の戦闘から魔ローダーのスキル、瞬間移動(長)で命からがら逃げて来た、ぼろぼろの魔ローダー、ル・ワンとデスペラード改だった。
「おおお、何という事だ!? 一体作戦はどうなったのだ??」
「何故二機はボロボロなんだ? サッワ様のエリミネーターはどうなったのですか??」
城の一番目立つ中庭に現れた二機のボロボロの魔ローダーを見て、城の多くの人々が不安になった。
ギギギ、バシャッ!!
バシャッ!!
片腕を無くし、傷だらけのデスペラード改を動かし、ハッチを開け出て来るスピネル。庇う為に上に乗っかっていたデスペラード改がどいてくれたので、ココナツヒメのル・ワンもハッチを開ける。
「ふぅ~~~~~~早くお風呂に入りたいですわ。ねえ透明化の人?」
「………………」
クレウは敵国の只中で生きたここちがしない。
「まおう軍本国に帰らないのですかな?」
珍しくスピネルからココナツヒメに話し掛けた。
「そうですのよ、二十四時間経たないと瞬間移動(長)がスタンバイになりませんのよ、どうですの? 今晩は一緒にお風呂に入りまして、同じベッドでお休みいたしましょうか? うふふふ」
ココナツヒメはスピネルにしな垂れかかったが、スッと片手で払いのけるスピネル。
「無理をするで無い。内心サッワの事が心配なのであろう。瞬間移動(長)を使えば何時でも逃げれるにも関わらず、粘りに粘ったのはサッワの帰還を待っていた為だろう。その事に関しては上官として礼を言う。しかしそなたはサッワの上官では無い、メドース・リガリァまおう軍共同作戦が終了した以上は共に行動する義理は無い。では待っている食べ物が居ますので」
弁当屋の娘は、もはや家族ごとスピネルに付きまとっていた。
「なにさ……という事ですわ、透明化さん二十四時間後にはここより離れますの。貴方としてもここよりはまだ魔王軍の方が安心出来ると思いますわ。そこで静かにお休みになってなさいな」
「………………」
クレウが操縦席から外を見ると、中庭のあちこちには兵がひしめき合っていて、どの様な結界が隠されているかも分からない。距離的にはメドース・リガリァから新ニナルティナまでは近いが、無事に辿り着けるかどうか思案している最中だった……何かの魔法を掛けられて眠りに落ちてしまった。
「私は一日二組限定の高級ホテルにでも泊まりますわ」
そう言うとココナツヒメはふらふらと城から出ようとして、衛兵達が無言で避けた。
「またれいスピネル殿! 何を勝手に帰ろうとしておる! 報告をせんか!」
二機の帰還の報告を受け、城内から血相を変えた貴嶋が走って来た。後ろからは少し遅れてゆっくりと、侍女を従えアンジェ玻璃音女王も出て来た。
「は、これは申し訳ありませぬ」
「どうじゃったのだ? 共同作戦の成否は??」
「完全に失敗しました」
貴嶋の血の気が引く。
「どういう事じゃ? サッワは??」
「サッワは恐らく戦死しました。北部海峡列国の要人や王族を一気に叩いて連中の出鼻を挫き、北部各国にえん戦気分を高めるという当初の作戦目標とは裏腹に、何か猛烈に強烈な人物と魔ローダーが現れて返り討ちに遭い、むしろ連中の虎の尾を踏み逆鱗に触れる事となり、各国の結束を強める結果となったでしょうな。作戦は裏目に出て完全に失敗です。申し訳ありませぬ」
「なんと…………こ、こら女王の前なるぞ、もう少し言葉を選べ!」
話を聞いて言葉を失っていた貴嶋は、後ろに女王が居た事に気付いてさらに面目を失う。
「……大成功でした」
「遅いわ! もう良い帰って休息し、後に詳しい報告を上げい!」
通常戦闘では中部小国群に破竹の勢いで侵略するメドース・リガリァだが、魔ローダー同士の戦いでは連敗した貴嶋が冷や汗を噴き出す。
「焦らないで下さい……」
アンジェ女王がそっと貴嶋の手を握る。
「ひ、ひと目があります……」
「もう良いではないですか、わたくしと貴方とはもはや一連托生なのですよ。もし仮に、国が戦に破れ亡び、多くの人に憎まれ断頭台に登る様な事があっても、私はずっと貴方と一緒なのですよ」
「その様な事に……絶対になりません! ご安心を!!」
(その様な事があっても……貴方だけは無事にお逃げ下さい、私が必ずそうします故……)
二人はしばし人目もはばからず、壊れた魔ローダーの前で手を握り合った。
―セブンリーフ大陸南部、まおう軍まおう城。
シュバッ!!
あれから二十四時間が経っていた。まおう軍まおう城の中、魔ローダーが林立する格納庫にボロボロの魔ローダー、ル・ワンが瞬間移動(長)で帰還した。
カコーーーーン!!
ル・ワンの操縦席から出て来るなり、ココナツヒメがハイヒールを脱ぎ捨て、思い切り床に叩き付ける。
「えええええい、忌々しい!! あのシールドを張っていた金髪の女!! 何なのあのブスは? アイツさえ居なければ作戦は成功したのに、アイツさえ居なければ恥をかかずに済んだのに!! 許せないわ、あの金髪女……者共、ル・ワンの魔法カメラ映像を解析して、魔法シールドを張って邪魔をした女の事を調べなさい!!」
いつもの余裕たっぷりの表情と違い、アジトに帰還したココナツヒメは自分が提案した共同作戦が大失敗した事について、邪魔をした雪乃フルエレに対してあからさまに激怒していた。
「あ……お待ちなさい、それとサッワというメドース・リガリァの魔ローダー操縦者の少年が、ニナルティナで捕虜になってないかも調べなさい!」
「ハハッ!!」
返事をして、ココナツヒメの配下の影の者共がシュシュッと消える。そうしてココナツヒメはふらふらとまおう城の中のクリアーな雑貨に囲まれた自室に戻り、クレウの事を完全に失念した!
「もう……誰もいないな?」
粘り強く魔ローダー格納庫の中で、息を殺し待機し続けたクレウが活動を再開した。
「ここは……どこだ? 早く猫呼様とフルエレ様に会いたい……」
透明魔法をかけたまま、まおう城内あちこちを歩き、脱出口を探すクレウ。
「何をやっておるのじゃ?」
「!!」
透明化の最中なのに後ろから突然声を掛けられ、背中がビクッとするクレウ。とにかく息を殺し何事も無い様に壁に張り付いたまま静かにした。
「だから何をやっておるのじゃ~~?? 気持ち悪いやつじゃ……」
(偶然かもしれん、無視して進もう……)
クレウは独り言が好きな人間がブツブツ言っている可能性を考え、無視して進みだす。
「こらこら、何を無視して進んでおるのじゃっ! 余が声を掛けておるのじゃ、怒るぞしかし」
クレウがビクッとして気付くと、後ろから声を掛けていたはずの声の主が、一瞬で目の前に現れていた。その声の主の姿を見てさらに驚く。先程から透明化魔法を見破り、付いて来ていたのは可愛いミニスカートの黒いコスチュームを着た、十歳前後くらいのかなり可愛い女の子だった。しかも頭には熊の耳飾りを付けていた。付け耳だと判るのは、髪の毛にちゃんとした人間の耳が見え隠れしていたからだ。クレウにとっては微かに御主人、猫呼のイメージを呼び起こさせた。
「……君は誰かな?」
クレウは相手が無邪気な小さい子だと判り、恐る恐る声を掛けた。良くすれば脱出口を聞き出せそうと思ったからだ。
「なにをいうー」
「?」
要領を得ないのでやはり無視する事にした。
「こらこら待て待て!! 待つのじゃ!!」
女の子がカッと片手を掲げると、クレウは固定された様に動けなくなった。瞬時に合理的に考え逆らう事を諦めた。透明化魔法を解いた。
「お許し下さい、貴方様は一体?」
「おおおおおお、凄いのじゃ!! やはり透明化しておったのか!! よし、お前は今日からカメレオン丸じゃ、付いてこい!!」
「あ、あの……貴方様は?」
「余はこの城のヌシじゃ!! お前を飼う事にしたぞ、ベアーの友達じゃキャハハハハハ」
小さな女の子はまおう城の主、まおう抱悶だった。
(猫呼さま、フルエレさま申し訳ありません……必ず生きて戻ります、それまでは……)
「よーし、あっちこっちの女湯を覗いて廻るのじゃ! 行くぞよカメレオン丸キャハハハハハハ」
抱悶が笑いながら走り出すと、クレウは抵抗する事も出来ず、身体に鎖でも付けられている様に、ズリズリと引き摺られて連れていかれた……
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