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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟

北部海峡列国同盟締結 16 フルエレ、魔力を使い果たし眠ったままの即位、女王への道

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 しばらく時間が経った。人々は待ったがまだフルエレが起きる様子は無かった。

「………………さっきはどうかしてた、忘れてくれ」
「何を?」

 被害状況を調べると驚く程死者は少なかったという。当初から同盟締結に集まった北方各国要人殺害が目的だったようだ。人々は落ち着き冷静さを取り戻していた。そうした中でセレネが唐突に砂緒に話し掛けた。

「恥ずかしがり屋さんなんですね、自分から抱き着いて来た癖に忘れてくれですか……」
「………………それ以上言うと殴る」
「はいはい忘れます忘れます」

 砂緒は半笑いで猫呼がよくやる、肩をすぼめて両手を広げるポーズをした。

「………………」

 セレネは砂緒に弱みが出来てイラッとした。どうしてあんな事をしてしまったのだろう……各国要人に会うのが辛いと思った。

「ああ、セレネ王女、探しておりました! 折角の機会ですから、同盟締結を最後までやり遂げましょう!!」

 美魅ィがセレネに声を掛けた。小学生では無いのだから、誰もや~いや~いキスしてたー等と言う訳も無く、セレネは美魅ィの声掛けに救われ、我を取り戻した。

「は、はい美魅ィ王女、私も同じ事を考えておりました! 先程の様な襲撃があったからこそ、絶対に締結を実行するべきです。貴方の様な方が居てくれてありがたい」
「うふふ、私もセレネ王女の様な方が居てくれて本当に助かるの! 二人であちこちに居る要人達に日が暮れる前に締結を実行しましょうと声を掛けましょう!」
「ええ、ええそうですね! それと……フルエレさんの扱いですが……何かフルエレさんを単なる同盟の仲介人、見届け人とするだけでは無く、旧ニナルティナ王に代わる盟主と仰ぐべきという意見があったとか……」

 セレネは休憩中に侍女達や家臣達から聞いた話を伝えた。

「そうなのです! それで……私は先程の奇跡を見ていて思ったのです、ただ単に旧ニナルティナに代わる盟主等というぼんやりした物では無くて、各国の王達の上に立つ女王という事ではどうでしょうか? 北部海峡列国同盟を一つの国とみなす訳ですが……」
「同盟加盟国を一つの国に……それは……画期的ね……思いもよらなかったわ」

 セレネは美魅ィの提案に意表を突かれた。

「西の海の果てには域外の帝国という大国があり、北の無人地帯を伝っていつか攻めて来る可能性もあります。そして東の海の向こうには謎の神聖連邦帝国という大国も存在するとか。その帝国もクラウディア王国やスィートス王国を傘下に従え、いつか私達の所にまで達するかもしれません。セブンリーフがいつまでもこのまま対立して分裂してて良いとは思えません」
「おお、貴方の様な見識の広い方が間近に居たとは……是非もっと語り合いたいです!」
「え、ええ……私も是非に……」

 神秘的な美人であるセレネに見つめられて、軽く頬を赤らめる美魅ィだった。同盟を先導するユティトレッド魔導王国のセレネ王女と、位置的にはセブンリーフ中部にありながら、人口が多い大国の一つとみなされているユッマランドの美魅ィ王女が意気投合した。二人は勢いのまま、新ニナルティナ公代理のアルベルトに相談を持ち掛けた。砂緒は完全に話題の外に置いていかれた。

「先程まで同盟の盟主にって話で纏まっていたのに、今度はいきなり同盟の女王にかい? しかもフルエレ君は眠ったままだよね、本人に相談しなくて進めて良い物かどうか」

 アルベルトは顎に手をあてて深く考えた。

「……でもアルベルトさんもフルエレさんが人を蘇らせるという奇跡を目撃したはずです! あれが女王の即位の契機以外に何があるでしょうか? 単に血筋では無くて、奇跡の力を持つ女王なのですよ、一体何に反対する事があるのですか? 皆に訴求するには今をおいてありません!!」

 美魅ィが熱っぽく語った。その蘇りの当の本人であるセレネは複雑だった。

「……でもやはりフルエレ君にも聞かないと……」
「フルエレさんは反対するのは目に見えています。でもアルベルトさんはフルエレさんがこのまま一般人のままで大きな力を社会に役立てる事も無く、普通の人として過ごす事がもったい無い事だとは思いませんか? 絶大な魔力や奇跡の力を持ちながら、喫茶店のウエイトレスで良いのでしょうか? 能力を社会の為に役立てる事がギフテッドを持つ者の責務ではないでしょうか……」

 セレネが畳み掛ける。アルベルトは裕福な領主の家庭に生まれ、常に同様の事を吹き込まれて育っていた。セレネと美魅ィの説得は実は強く響いていた。しかしそれがフルエレの幸せに繋がるかどうかがただただ心配であった。

「砂緒君はどう思うのかな……?」

 アルベルトが砂緒に意見を求めた。話がややこしくなりそうで、二人は止めて欲しいと思った。

「蘇りの奇跡を起こしたという事ですが、私の認識ではセレネはまだかすかとは言え、呼吸をして生きていました。セレネ自身に生きる力があったからこそ生き返った様に見えたのであって、別にフルエレがネクロマンサーやシャーマンの様に死者を蘇らせた訳では無いと思いますが」
「ですがもう侍女や家臣や将軍達など目撃者の多くが蘇ったと口々に言い合っています」
「セレネ自身はどうなのですか?」

 砂緒が真面目な顔でセレネに聞いた。

「私が覚えているのは、砂緒が呼び戻してくれて、気が付いたという事だけだ。死んだとか生き返ったとかそんなのは分らない」

 セレネは少しだけ砂緒を見て俯いて赤面した。

「それこそフルエレさんが起こした奇跡でしょう!!」

 美魅ィは話に水を差した砂緒をガン無視した。

「でもアルベルトさん、何にしろ今日襲って来た敵はフルエレさんを大きな障害とみなしたはずです。もはや後戻り出来ない。同盟の盟主なんていう宙ぶらりんな存在よりも女王として仰いだ方が、彼女の安全も確保しやすいでしょう」
「私もそれは思います。新ニナルティナでの待遇も改善されるはずです」

 セレネと美魅ィの発言が後押しとなって、アルベルトは二人に同意した。有力者三人が同意した事で、フルエレを北部海峡列国同盟の女王とみなす構想は一気に進んだ。

「レナード公は僕の話は何でも聞いちゃうけど、お二人さんは国に帰って意見を纏められるのかい?
 仮にも人々の上に立つ存在だった王に、女王を仰ぐ存在になれという訳だし……」
「必ず何とかしてみせます!! 父王はメドース・リガリァに攻められて相当動揺しています。割と簡単に説得出来るかと」

 美魅ィ王女が自身たっぷりに言った。

「それでしたら我が国も同じです。実は我が祖父のユティトレッド王は、その様な構想を以前から吹聴していましたから、むしろ大喜びで乗ってくるでしょう。心苦しいのですが、我々三国が決めた事は、他の国も当然飲まざるを得ないでしょう」
「おお、まさに薩長同盟の有力国の志士の様でわくわくする話ですな」

 砂緒がいい加減な事を言っているが、砂緒自身は同盟にも女王にも何の興味も無く、何かあれば前々から言っていた様にフルエレを抱えてどこにでもトンズラするつもりだった。ただ今はセレネの事が気になって、若干悩む部分でもあった。

「それでは……この機を逃さない様に、アルベルトさんからも残りの要人に参集の声掛けをお願いします!」
「そ、そうだね……そうしようか」

 セレネに声を掛けられて、結局はお人好しのアルベルトが押し切られた形になった……


 夕焼けの中リュフミュラン国の七華を代表とする、残りの各国要人や居合わせた侍女達家臣達が、フルエレが眠りこける魔ローダー、蛇輪の前に集まった。

「では各国皆さん、先程の奇跡を目の当たりにして、ここに眠る雪乃フルエレ様を同盟の女王として迎え入れる事に賛成して頂けるのですね?」

 実際問題、新ニナルティナとユティトレッドとユッマランドが決めた時点で、逆らえる国は無かった。七華は体面や面目を重んじるタイプだった為に、皆が同意した事に一人だけ逆らう事が出来なかった。意地悪な王女もそれは自分に逆らえない自国の一般民や家臣に対しての事だった。

「ええ、どうぞご自由に。奇跡でも何でも起こした者勝ちなのですわねうふふ」

 軽く不要な事を言うのが精いっぱいだった。

「ほんまにええんか? そないに性急で強引な事してたらいつか破綻せえへんやろか? あの嬢ちゃんにも相談が無いまま勝手に話を進める……なんか釈然とせえへんわ。何でも小さな事からコツコツとするもんやで」

 瑠璃ィがウェカ王子を背負ったまま口を挟んだ。

「いいえご心配には及びませんよ! この我々の同盟はきっとどんどん発展して、セブンリーフ中部各国のみならず、将来クラウディア王国やスィートス王国も加入するかも知れませんよ!」

 セレネが瑠璃ィに冷たい態度で言い放った。セレネと瑠璃ィはどうやら反りが合わない様だった。

「………………」
(クラウディア王国はともかく、スィートスは長年神聖連邦帝国の武門を司る家系やで、寝返るなんて絶対ありえへんやろ、どちらかと言えば桃伝説ピーチレジェンドを引っさげて侵攻してくる役割やで、この嬢ちゃんほんまに分って言ってるねやろか?? うちは惑わされへんで)

 瑠璃ィは今聞きかじった事を言い放つセレネに一抹の不安を感じたが、立場上何も言えなかった。そもそも気絶中のウェカ王子こそが同盟に一番前向きな人物だった。

「ではここに、新ニナルティナ公国アルベルト殿、リュフミュラン国七華王女殿下、ユッマランド美魅ィ王女殿下、ラ・マッロカンプウェカ王子殿下はどうなのですか?」
「ん、んんん、僕は同盟に賛成だよっ! 依世ちゃん……遠くて良く見えない」
「王子!? 目ェ覚めたんか?? フルエレさんは今は爆睡中やで邪魔したらあかんな~~」
「……ラ・マッロカンプ王子殿下、そしてシィーマ島国の御使者、ブラザーズバンド島国の御使者、我が飛び地の伽耶クリソベリル殿、そしてわたしくしユティトレッド魔導王国王女、これら北部海峡列国同盟は、一つの大きな国として、雪乃フルエレ殿を女王として迎え入れる事を宣言する。どうぞ島の神殿の精霊よ、お見届け下さい。そしてこの同盟が永久に続き、人々に長き平安が続きますように……」

 セレネが言い終わると、皆が一斉に魔ローダーの操縦席で眠り続ける雪乃フルエレを見上げた。ここに北部海峡列国同盟はゆるやかな一つの国としてのまとまりを始めた。そしてそれは中部各国を破竹の勢いで併呑するメドース・リガリァとの決戦を近付ける事でもあった。

「これで良かったのかしら? あ~あ、今日は散々な一日だったわね」
「そうでもないと思うぞ。ささもう終わったら帰るぞ!」

 猫呼とイェラが眠り続けるフルエレを見上げながら言った。

「どんな立場でもフルエレは私が必ず守りますよ」

 砂緒もフルエレを見上げた。
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