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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟

北部海峡列国同盟締結 14 電撃と勝利と……どうして…………?

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 ばっさばっさとゆっくり滑空して降りて来た魔ローダー鳥型蛇輪は、着陸直前にカシャカシャと文章で形容する事が困難な程の複雑な変形機構により、二十五Nメートル程の人型に戻ると、突然何だかよく分からない啓発ポスターの様に、ピッと天に向かって指を差した。

「……? うああ、砂緒の馬鹿ッ!! 皆さん伏せてっ!!」
「へ?」
「雷がビリビリ落ちるから、皆伏せろ!!」
「?」

 雪乃フルエレとイェラが、砂緒が指先から例の電撃を出すと察知して、皆に警告を発して真っ先にしゃがみ込む。

「皆従うんだ!!」

 アルベルトも目撃者なので大声で警告した。見る見る内に天が暗くなり、蛇輪の指先から巨大な雷が発し、天の黒雲に向かって登って行く……
 ドドドドドドドドドーーーーーーーーーーンンン!!!
突然凄まじい大音響と共に、島中の方々に居たゴーレム達に無数の巨大な雷が落ちる。近所に一発落ちてもびっくりする様な落雷の音が、四方八方から聞こえる様な状態だった。

「きゃーーーーーーーーーー」

 侍女達が耳を押さえて叫び声を上げた。

「いつもながら滅茶苦茶するなあ……」
「凄いわ、いっぱい居たゴーレム達が消えてるじゃない!?」

 フルエレと猫呼が感嘆の声を上げた。直後に蛇輪は片膝を着くと、掌を使って砂緒が、自らの脚力を使ってピョンピョンとセレネと瑠璃ィが降りて出て来た。

「なんやねんアレ、滅茶苦茶な攻撃力やないかー、この魔ローダーウチにくれへんかー?」

 戦闘中邪魔だったから外していた妖しげなマスクを、装着し直した瑠璃ィが雷攻撃を蛇輪の能力だと誤解して出て来た。

「各国要人の皆さますいません、この失態は全て私の責任です。怪我や体調のお悪い方はいらっしゃいませんか? それと今の瞬間移動攻撃は必ず魔力の波長を分析して、同じ事をさせない結界機器を開発して各国に御配りします」

 セレネが降りてくるなり深々と頭を下げた。

「あー上手く行った様ですねー、ゴーレムですか? 私なんだかアレに誤解された事があるんで、同族の様な気がして直接攻撃するのが気が引けて。それでひさびさに雷攻撃を使ってみましたよ」
「………………そ、そそそ、そうね、でも貴方が無事で良かった……」

 言うなりフルエレは久しぶりに砂緒に駆け寄ると、ひしっと抱き締めた。

「え? あ、ああ、凄く嬉しいです! そんなに心配してくれてたのですね……」

 最近あまりにもないがしろにされていた砂緒は、嬉しくて泣きだしそうな程だった。

「ほらほらアルベルトさ~~ん、なんだか二人が復活しそうだけど大丈夫なの?」

 猫呼がいじわるな表情でアルベルトに絡んだ。

「い、いいえ、フルエレ君自体が砂緒君は幼馴染みたいな存在と言っていましたので、全く気にかかりませんが」

 しかし言葉とは裏腹にあからさまに不機嫌な顔になっていた。

「………………なんだよソレ」

 セレネも先程の機内での盛り上がりは何だったのか、という気がして沈み込んだ。

「なんだか皆さま悲喜こもごもですけど、同盟の話に戻りませんか? 私達はなんだか良く分からない謎の敵に狙われた運命共同体な訳です。セレネ王女にも戦闘中にまとまったお話を是非に聞いて頂きたいの」

 美魅ィがあたかも以前のセレネの役割を奪う様に、強引に同盟の話を切り出した。セレネも皆に迷惑をかけた分、自分から切り出しにくい話題を先に言ってくれて助かった。

「…………覚えていたの、貴方」

 フルエレが嫌そうな顔をした。

「忘れる訳ないでしょう!!」
「美魅ィ王女の言われる通りです! 早速臨時の会場を設営して同盟の成立を果たしましょう!!」
「えええ? まずは被害状況の見分からでしょう、お二人さんは性急過ぎるわ……」

 フルエレはセレネに加えて、新たに美魅ィという厄介な者が増えたと辟易した。

「ん……んんん、ん、……よちゃん……」
「?」

 その時イェラに背負われ、フルエレの極近くに接近した事を無意識の根性で察知したウェカ王子が、目を覚まそうとした。

(ヤバイ!? ウェカ王子が目ー覚ましたら……謎の敵に襲われたとかワイワイ言っている最中に、ウチが神聖連邦帝国の将軍やとバレたらめっちゃ話がややこしなる!? 敵やないでー言っても信用してくれへん子が出て来るやろなーーー、特にこのセレネとか言う子とかーーーー!!)

 瑠璃ィは滝汗を噴き出した。

「当て身っ!!」
「グハッ!!」

 瑠璃ィの出した答えは再び王子を気絶させる事だった……

「ちょっと待て! 今お前王子を攻撃しただろ??」
「へー? ウチ知らへんでーーピィ~~~」

 イェラが背中の衝撃を感じて瑠璃ィを睨み付けるが、瑠璃ィは口笛を吹くという、最も怪しい方法で誤魔化した。メアが無言で親指を立てた。


「ひひゃ、ひひゃひゃ……イテッ……ひひひ、ど、どうせ殺されるなら、一人でも多く道ずれに……」

 戦闘から解放され、気を抜いてわいわいがやがやと笑い合う人々の円に向けて、静かに狙いを定める者が居た。一番最初にセレネのSRVⅡルネッサに破壊された、エリミネーターに乗っていたサッワだった。彼は撃破されて爆発した煙に紛れ命からがら逃げだし、ゴーレム騒動に紛れずっと息を殺して隠れていた。そして今……彼はアルベルト達が監視を怠っている、空の魔戦車の砲塔に居た……

「?」

 セレネが異変に気付いた。

「今だ!! 死ねえええええ!!!」

 バシュッ!!
 人々の円の中心に向けて、炸裂する魔法力が込められた物理砲弾を発射した。

「?」

 人々が砲身からの発射音に気付いた時、既にセレネは凄まじい反射神経で全力で走り出し、砲撃の弾道を計算して、その直線上に魔法防御陣と物理防御陣を全力で展開して、皆を守る様に至近に立ちはだかっていた。

 ズドンッ!! ベキベキバキッッ!! ズシャッ!! ゴロゴロゴロ……
普通の人々の目には、突然発射音の後にセレネが至近距離で爆発を受け止めて、鈍い音と共にゴロゴロ転がる瞬間からしか目に入らなかった。

「何どうしたの??」
「キャーーーーーーーーーー!?」
「セレネーーーーーーーーー!!」

 人々の叫び声の中、イェラと瑠璃ィが瞬発的に魔戦車に飛び乗って中に入り込む。

「なんやガキが乗ってる! 気絶してるで!!」
「殺すな! 前後関係を調べる!!」
「そんな事どうでもいいわ、早くセレネに回復魔法を!!」

 猫呼を始め、回復魔法持ちが次々に全力で回復魔法を掛けるが、全く瀕死から回復する様子が無く、意識も無く息も小さく、大量の出血でほぼ死の寸前……という風に誰もが感じた。

「な、治るんですよね? セレネ、また元に戻るんですよね?? 強い子ですから、ね? ね?」
「………………」

 いつものふざけた様子が無く、顔面蒼白になった砂緒が、力なく周囲の者に聞いて回る。誰しも口が重く何も答えない。

「どけええええええええええ!!!!」

 突然そこに、ゴーレムが消えた事で、召喚魔法陣潰しをSRVに任せた黒い稲妻Ⅱのメランが、魔戦車の咆哮を聞き、魔法カメラの望遠で状況を知り、血相を変えて走って来る。

「どいてっ!! 早く早く!! 行くわよっ!! 回復(強)!!!」

 メランの魔ローダー、黒い稲妻Ⅱは元々はル・ツーという伝説の機体の一つであり、回復スキルを持っていた。今メランはスキル回復(強)を掛けた。次は三時間後であった……
 バシュウウウウウウウ……キラキラキラ……!!!
回復(弱)よりも派手に白く発光したが、セレネはピクリとも動かない。

「もう一度!! 回復(弱)!!!」

 パシュウウウ! キラキラキラ……
ダメ元でメランは回復(強)より弱い、回復(弱)を掛けた。

「お願い……お願い……効いて!!」

 フルエレも皆も無言で祈った。

「うっ……くっ……」
「ああっ!?」
「セレネッ!!」

 皆が息を吹き返したセレネを、両手を握り涙を流して見た。

「ガハッ!!! はぁはぁ……ううっ」

 しかし突然大量の血を吐いて苦しみだすセレネ。状況としては意識が戻っただけの様だった……この世界でも瀕死の者を完全回復する様な高度な魔法を使える者は、数百年に一度のレベルだった。そしてそうした者はこの場に居なかった……

「フルエレ様、彼女は上半身にダメージが酷く、特に内臓の損傷が激しい。今意識が戻ったのは魔ローダーのスキルによる奇跡の様な物です。どうぞ、親しい者が話し掛けてあげて、安らかに……」

 回復魔導士が小声でフルエレの耳元に伝えた。

「そんな……」
 
 フルエレは気が遠くなりそうになり、足がすくんだ。

「ふ、フルエレさん……同盟を頼みます……私が強引に……進め過ぎてこんな事に……ば、罰でしょうか……」

 セレネが先制して力なく言った。

「そんな訳無いじゃない!! 何を……言っているの?? 貴方の同盟じゃない、貴方がいなくてどうするの?? お願いだから元気になって……」

 フルエレはセレネの指先を優しく握っていたが、涙が流れて止まらなかった。

「セ……レネ、どうしたんですか? 早く、また、悪口を……言って」

 今まで立ち尽くすだけだった砂緒が、ようやくセレネに語り掛けた。

「砂緒……さっき、蛇輪で……本心話せて……良かった……よ、こうなる前に、へへ」

 セレネは全力で、砂緒に向けて震える手を伸ばした。砂緒はすぐさま手を握った。

「そんなの、また……治って……下さい……それだけです」

 砂緒は普段の無表情が考えられないくらい、涙が溢れて言葉も上手く出なかった。

「そ、そうだ、う、海に行きましょうよ、いつか言っていた、南の海に……」
「ふ……また……みずぎ……とか……砂、す……」

 セレネは何か楽しい事でも浮かんだように少し笑顔になると、それきり話さなくなった。
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