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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟

北部海峡列国同盟締結 11 戦闘中に後ろから抱き着くとかありえんわ ……で、でも、今だけな…

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「ハーーーーーーッ!!」
「遅いですわっ! そんな攻撃瞬間移動を使うまでもありませんわねっ!!」

 一般魔導士操縦者が乗るユティトレッドの量産型魔ローダー、青いSRVが剣でココナツヒメの半透明魔ローダール・ワンに切り掛かるが、ひょいっと簡単に避けられる。

「こっちにもいるんだよっ! 忘れないでっ!!」

 今度は魔導士少女メランが乗る黒い稲妻Ⅱが、後ろに避けたばかりのル・ワンの背中に切り掛かる。しかしル・ワンは恐るべき反応速度でしゃがみ、メランの剣はブンッと空を切る。

「二人がかりでその程度ですの? なんだか簡単に勝てそうですわね、早く片をつけてメッキ野郎に止めを刺したいですわ!」

 そんな感じで三機の魔ローダーは死闘を演じていた。

「あの……何をじっとしているのでしょうか? 早く変形して下さい」
「いや、変形言われても判るかいな」

 当のメッキ野郎……銀色の蛇輪の複座の操縦席では、砂緒すなお瑠璃ィるりいキャナリーが言い合っていた。

「だから鳥の形に魔ローダーが変化するんですってば」
「変化? 化け狸みたいにか? 葉っぱを乗せて??」
「何を言っているのですか? ふざけているのですか? フルエレもセレネも簡単に変形できましたよ。心に変わる気持ちを持つのです!」
「なんや急にスピリチュアル的な事言い出したで。ヤバイ子なん?」

 瑠璃ィは目をつぶり再び念じる。

「ん~~~~~~~~~~~~~~どやっ?」
「どやっ? じゃないですよ、一向に変化無しです……やはり年齢ですか……見た目は若作り出来ても脳が……」
「脳が……やないわっ! ウチは二十九やでっ!」

「それは確かル・ツーのはず、そんな素晴らしい機体に乗りながら、全く使いこなせていないですわ。宝の持ち腐れ、猫に小判とはこの事ですわっ!!」

 ココナツヒメのル・ワンが、奇しくも同型機であるル・ツーの改名機である黒い稲妻Ⅱに切り掛かる。確かにこれが魔ローダーの初陣となるメランにとっては、初めての敵がココナツヒメでは荷が重かった。ガシィッ!! とギリギリで受け太刀するメラン。ギリギリと押し込まれる。

「キャーーーー!! 助けて青い人!!」
「よしっ黒い人!! こっちにも敵がいるぞ!! 半透明!!」

 少しずるいが、黒い稲妻と鍔迫り合いをしているココナツヒメのル・ワンの背中に後ろから切り掛かるSRV。
 ガシッ!!

「バカなっ!!」

 寸でで振り返ったル・ワンはSRVの剣を握る手を掴み、二機同時に立ち向かう。

「動けない!? なんというパワー、只の半透明で派手なだけじゃない!!」

 その三すくみの瞬間だった、黒い影がタタタッとSRVの装甲の出っ張りを伝い、遂にSRVの頭部に達すると、後ろ向きにダイブする様に、回転しながらジャンプした。長い髪を振り乱したセレネだった。

「はぁああああああああああ、アイスベルグ!!」

 セレネが叫ぶと巨大な氷山の様な氷の塊がル・ワンの顔に激突する。あうっと後ろによろけるル・ワン。

「うおおりゃあああああああああああ、大雪山斬りぃいいいいいいい!!!」
「ひゃああ、セレネ!? 凄い……」

 そのまま髪を綺麗に流しがら、セレネがくるくる回転して、ル・ワンの頭部に思い切り剣で切り掛かる。

 カキイィイイイイイイン!!
セレネの細い長剣はいとも簡単に折れ、剣先が回転して飛んで行く。

「やっぱダメかーーーーー!! ドラゴンと違って魔呂は硬いわっ!! 撤退!!」

 セレネは魔法を噴出したり、ル・ワンの装甲を利用したりして器用に地面に手を着いて着地すると、すたたと走り出した。

「ちょっと、我々ずっとこうして、じっとしてるだけですか?? いい加減にして下さい!」
「出来ないもんわ出来んのや、そもそも彼氏さんは魔力も無いくせに偉そうに命令せんといて!」
「何を言っているのでしょう? そもそも論で言えばこの蛇輪は私の物です。とすれば貴方は私に家賃を払う立場なのですよ?」
「…………? 今ウチが皆の為に戦ってるねやんなあ? 彼氏さんと話してると訳が……」

 ゴンゴン!! ガンガン!!

「オラーーーーー!! 入れろやああ!!」
「ぎゃーーーーーーーー」
「うわ!? セレネ」

 突然言い合いする蛇輪内二人の操縦席のモニターに、セレネの顔のどアップが映し出される。セレネは今度は蛇輪の顔にまでジャンプして上がって来たのだった。砂緒は久しぶりに自ら蛇輪を動かすと、セレネを自らが座る操縦席に招き入れた。

「おわっ!? 私は上の席に入れろよ」
「すいません、上の席には熟女が乗っておりまして……彼女と相席します?」

 セレネは無言でシャッターを開けて上の座席を見て来る。一瞬目が合ってギョッとしてシャッターを無言で閉める。

「……会話した事ない人じゃん、仕方ないここでいいわ。席代われ」
「はい、言われなくとも。早速ですが変形して下さい」
「あいよ」

 セレネが念じるといとも簡単に変形して、蛇輪は鳥型に変わった。バサッバサッと飛行を始め、からかう様にル・ワンの上空を旋回し始める。

「何ですの!? メッキ野郎が鳥型に変形ですって??」

 ココナツヒメは驚愕して固まった。

「あのさあ、砂緒……何で迎えに来てくれんかったん? 王女をリアルお姫様抱っこする絶交の機会だろうに……」
「え? だってル・ツーに回復魔法か何か受けて元気になったんですよね? わざわざ私が迎えに行く必要とかってありましたか? 回復した貴方は象さんに踏まれても死なないくらい大丈夫な人でしょう」
「そういう所だっ!」

 セレネは戦闘中にも関わらず頬をぷくっと膨らませた。

「私は……そういう点数稼ぎみたいな事は嫌いなのです! きっとセレネはこの締結の舞台を荒らした謎の賊を倒した方が喜んでくれる、そう思って蛇輪に飛び乗ったのですが……もちろん気持ちとしてはすぐさまセレネの元に飛んで行きたい気持ちでしたよ」
「砂緒……」

 大ウソだった。単純に回復したセレネを放置していただけだった。

「んでアイツをどう料理すんだ?」
「はい、半透明は恐らくもう瞬間移動のエネルギーか何かが切れかけてて、出し渋りを始めています。私達は急上昇して猛加速を付け、猛スピードでアイツをかっさらい、目にも止まらぬ速さで再び急上昇して成層圏に飛び上がります」
「ほうほう、ほんで?」
「空でどれだけ瞬間移動しても、とっかかりが無く落ちるだけ。落ちて気絶した所を両手と頭を切り落とした上でハッチをこじ開け、セレネの分も含めて拷問します」
「怖いヤツだなお前」

 等と言いながらバトルする三機を放置して、急上昇を始める鳥型に変形した蛇輪。

「………………」
「どうしたんですかセレネ?」

 無言だったセレネが振り返り、座席に掴まる砂緒に恥ずかしそうに掌を見せた。

「ほら、このホネホネ持ってるぞ。……あ、ありがとうな。宝石イヤリングも含めて、ほ、本当は凄く嬉しかったんだ。砂緒に素直に嬉しいって言うのがなんだか恥ずかしくて、態度悪かったかもしらん、それが……なんかごめん」

 セレネの指先から危うく骨がプランプランしたシルバーのイヤリングが落ちかけ、砂緒が慌てて受け取る。セレネの手を握る形になった。

「そんな事、今の今まで全く気にしてませんでした。貰ってくれたこちらの方こそ嬉しかったですよ……」
「も、いいだろ手を離してくれよ、恥ずかしいわっ」
「離しません」
「何だよそれ、恥ずかしいわ……」
(お、おおおお、面白過ぎるやん!! 地上に降りたら皆に言いふらしたんねん!!)

 瑠璃ィは途中から全力で気配を消し、二人の様子を盗み聞きし続けた。

「じゃ、じゃあそろそろ急降下始めるよ、手離して……」
「は、はい……」

 金色のキラキラ粒子を放出しながら急降下を始める鳥型蛇輪。

「あの……」
「なんだ?」
「あのとても言い難いのですが、後ろから抱き着いてもいいですか?」
「はぁ?」
「私どうも戦闘中の女性を抱きしめたくなるフェチの様なのです……」
「どんなフェチだよ聞いた事ないわ、キモイわ」

 砂緒は以前フルエレとニナルティナで戦った時の事を思い出し、シュンとなった。

「…………ですよね、忘れて下さい」
「……………今だけな」
(なんやてーーーーーー! 面白過ぎるこの二人!! 赤面するわっ)

「はい……お言葉に甘えて」

 砂緒はそう言うと少し屈み、座席越しにセレネのか細い胴に腕をまわし抱き締めた。

「う……恥ずかしいよ……」
 
 セレネは自分の身体にまわされた砂緒の腕に片手を乗せた。砂緒はそのまま座席の頭部越しにセレネの耳の辺りに自分の顔を近付けた。セレネは砂緒の呼吸を感じてぞくっとした。

「それ聞いてない……」
「セットです」
「もういいだろ恥ずかしいよ」
「さっきセレネの魔ローダーが襲われた時、本当に心配で心配で堪りませんでした」
「うん、ありがと」
「私、フルエレに対しては自分でも説明出来ない様な何か離れられない気持ちを抱いているのですが、今はセレネに対して全く違う、何か別の気持ちが湧いて来てるんです。それがセレネの魔ローダーが破壊された時に初めて強く認識しました。もう絶対にあんな思いはしたくないです。出来る限りセレネの事を守りたいです……」
「……あ、ありが……とう。私も……その、砂緒といつもいたい気がする」

 セレネは勇気を出して初めて本音を言ってみた。セレネは激赤面していた。

(なんやねんこれ……ウチもこんなんなりたかったわ……)

 瑠璃ィは皆に言いふらす事はやめようと思った。急降下する鳥型に変形中の蛇輪は猛スピードで地上に接近し、ココナツヒメのル・ワンの姿を捉えた。
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