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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟

路面念車に乗って 2 ウェカ王子さま誘拐事件・後

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「足の踏み場も無いとはこの事や! あ、ごめんやっしゃ!」

 魔ローダーホーネットは格納庫からお城の外に出ると、地図に書かれた通り北に向かう裏通り沿いに進む事にした。しかし道幅が狭く、色々な物が置かれており、なかなかスムーズに進む事が出来ない……

「急がば回れっちゅう事やったな……」

 仕方なく元来た道を戻り、大きな幹線道路からラ・マッロカンプウララ川に出て、川の中をバシャバシャ進み、橋を越え船を避けようやく港に出ると、そこから海岸をひたすら北に向かって、地図に書かれた漁村を目指した。


「このバカヤローッ!! 早く縄を解け無礼者、バカーッ!! この御方を誰と心得る? ラ・マッロカンプのウェカ王子様なるぞ! 頭が高いわーっボケー!!」

 巨大な麻袋から放り出されたウェカ王子は、終始こんな感じで怒鳴り散らしていた。

「お、おい話が違うぞ……若いメイド女の痴情のもつれで、通りかかった人間をさらって軽く痛めつければ大金を払うって話が、なんか王子とか自称してるぞ……」
「ウェカ王子って確か、依世いよちゃん依世ちゃん言ってるバカで有名な……アレか?」

 王子をす巻きにして捕まえた小悪人共が、その王子の処遇について困り果てていた。

「もうこうなりゃ俺たちゃ打ち首は確実だ。だったら一か八か本当に王子の身代金を要求して、大金をせしめて高飛びするしか生きる道はねえ」
「マジかよ……やるしかねえのかよ……」

 彼らは自分達のアジトの位置が、依頼者のメイドさんから既にお城の皆に伝わっている事をまだ知らない。話を聞いていた王子はだんだん怖くなって来た。

「おい……今解放すれば罪は赦してやる、だから今すぐ解放しろバカバカー!!」

 恐怖にかられた王子だったが、やはりバカバカ連呼した。

「あいつ……うるせえな……指の二・三本でも切り落として城に送り付けてやるか?」
「そうだな、王子も大人しくなるし、身代金も得やすくなる、一石二鳥だぜ……」

 悪人どもはナイフを片手に後ろを振り返った……

(ふ、ふうううううわああああああああ、マジでヤバイ連中じゃないですかーーー!! 助けてーーー誰でも良いから助けてーーーーー!!)

 王子は強気な言葉とは裏腹に、内心はちびりそうな程に恐怖していた。


 ガシャンガシャン!! ズンズン!!
魔ローダーホーネットは海岸沿いをひたすら走った。巨大なプレートアーマー状の外装が揺れてガシャガシャ音を鳴らした。

「あーーーまどろっこしいわぁ、これなら山の中を一直線に駆け抜けてもよかったんやろうか」

 セブンリーフ大陸北西に突き出た、半島状のラ・マッロカンプ王国は海岸沿いに町や村が点在していた。王子が連れ去られた漁村は、半島の一番北に位置する所にあった。

「おわ、軍隊の皆さんやんかいさー、ほいなら先行くでーーー」

 王子を救出する騎兵隊だとかの軍隊の皆さんも、山の中の細い道を避け、海岸沿いの道路を北に進んでいた。魔ローダーホーネットが彼らを跨いで追い越すと、何人もの騎士が驚いて見上げた。

「魔ローダー!! 誰が乗っているのか!?」
「おお、魔ローダーも王子の救出に!! 我らも続けーーーっ!!」

 あちこちで歓声が上がった。魔ローダーは彼らを無視してさらにスピードアップして、ズンズン走り抜けて行った。


「や、やっぱりマジで指を落とすとなるとキモイよな……お前やれよ」

 悪人達は巨大なナイフを片手に、王子の指を落とす事に躊躇していた。

「はぁ? 俺はやだよ」
「じゃあさ、目隠ししてするか? スイカ割りみたいによ!」

 小悪人は可愛くウインクした。

(ウインクの使い処間違ってますけどーーー!? ふうううううわああああああ、こいつら目隠しで指落とすとか、ヤバイ上にバカだーーー!! ひぃいいいいい誰か助けてえ!? もう限界なんだけどーーー)

 ガシャーーン、ガシャーーン、ガシャン!!

「何だ!? 何の音?」
「ていうかすげえ振動だな!?」
(ひぃいいい今度は何ですかぁーーー怪奇現象ですかあ?? 今立て込んでる時に怪奇現象とか、混乱しちゃうんですけどーーー??)

 王子は左右をキョロキョロ見た。
 グシャッ!!

「何だ!?」

 天井から音がして皆上を向くと、屋根付近の壁から、八つの訳の分からない突起が突き出ていた。

「何だぁーーーーー? キノコ? 突然巨大なキノコが生えて来た!?」

 バキバキバキ……
大きな音と共に夕日が差し込み、屋根が引き剥がされる。漁師小屋は缶詰の様に、壁を残して屋根が完全にひっぺがされた。

「な、何だこりゃあ!?」
「巨大な鎧の兜??」
「あ、魔ローダー」

 そのまま魔ローダーホーネットのハッチが開くと、梯子も何も使わないで、十数メートルの高さから瑠璃ィが飛び降りてズシャッと着地した。

「ボンボン無事かーー!!」
「瑠璃ィ!! てかなんでお前が来るんだよーっ! もっと屈強な奴をよこせよ馬鹿がっ!!」
「何だぁ? お城のヤツか? 王子を離すな!!」

 悪人は王子を抱えると、巨大なナイフを首に突きつける。

「何だババア!! それ以上動くと王子の命は無いと思え!!」
「あ……言ってしまった」
「とうとう言うてしもたな……その言葉を……」

 瑠璃ィは躊躇無く王子と、王子を抱える悪人に向けて歩き出した。

「聞いてんのか!? マジでやるぜ!! 動く……」
「遅いわっ!」

 ナイフを持つ小悪党が言葉を全て言い終わる前に、瑠璃ィは物凄い速さで男に肉薄し、一瞬で腹に当て身を食らわせた。気絶して倒れる男を見て、ウェカ王子はぐるぐる巻きのままピョンピョン飛んで逃げる。

「あわわわわわ」
「逃げろ!!」

 残る二人の男が外に出ると、漁師小屋の周囲はぐるりと兵達に囲まれていた。二人は武器を捨てて両手を上げた。


「瑠璃ィ! お前魔ローダー動かせる上に強かったんだな! 僕は鼻が高いぞ! よくやった!!」
「ぼんぼん! なんで今日に限って裏道行こう思たんや? 悪い偶然にも程があるわ!!」

 二人同時に言葉を発した。

「あ~~裏道通ってどっか近くの漁村に行こうと思ったのは、瑠璃ィが蛸が好きだとか言ってたからな。市場には蛸が無くて、漁村に直接買い付けに行こうと思ったんだ!」

 ウェカ王子は少し恥ずかしそうにして言った。

「え……そうやったん? めちゃめちゃ優しい子やんかいさ~~」

 瑠璃ィはそんな細かい事を覚えていた王子に軽く感激した。

「それで、この騒ぎは何なんだよ? 何で僕がここに捕まってるとか分かったんだあ?」

 瑠璃ィはセクシーなメイドさんが瑠璃ィをハメようとして、それが偶然に王子が代わりに捕まってしまった事を解説した。

「ヤバイよ……全然ヤバイじゃん……急がなきゃ!!」
「へ? 何がヤバイのんや? 悪人は捕まって一件落着ちゃうのん?」
「今度は僕も乗せてお城に急いで!!」
「う、うん……ほいなら乗り~~」

 瑠璃ィは王子を抱えてピョンピョン飛ぶと、操縦席に乗り込んだ。

(瑠璃ィは何者なんだ!?)

 二人を乗せた魔ローダーホーネットは一路城に急いだ。


「早馬が来て、王子は瑠璃ィ殿が無事保護、悪人共も全員捕まったようですぞ!」

 城に知らせが来て一同から歓声が上がる。

「良かったです……王子が無事で本当に良かった……罪は償います……」

 セクシーなメイドさんは既に縄で縛られ、逃げられない様にされていた。

「ちょい待ちーーーーーー!! 皆の衆、ウェカ王子から重大発表があるでーーー!!」

 突然メイドさんを取り囲む人々の前に、小脇にウェカ王子を抱えた瑠璃ィが走って来て現れた。

「おおお、ウェカ王子をまるで米俵の様に小脇に抱えて、瑠璃ィ殿はなんと偉丈夫な!!」
「よくぞご無事で!!」
「王子!!」

 家臣や将軍、執事やメイドさん達から歓声と安堵の声が口々に上がった。それを見終わると、瑠璃ィからパージされたウェカ王子が、適当なお立ち台を見つけ、その上に登る。

「あーあー、皆の者良く聞け、よく集まってくれたな」

 人々は王子の重大発表を固唾を飲んで見守った。

「この愚か者どもめーーーー!!! ヒャハハハハハハ、まんまと騙されたな!! この僕が手塩にかけて組んだ巧妙なシナリオにな! 虚構の僕が誘拐されたというシナリオに、実際の小悪人を巻き込み、徹底的なリアリティを追求した迫真の演技、虚構と真実が入り交じった斬新な展開、どうだお前たち本気で僕が誘拐されたと思っただろう!! はははははは。よしメイド一号、ご苦労だったな、帰って良いぞ」
「???」

 重要なのは主犯はメイドさんでは無く、王子自身の自作自演だという事を力説した。

「……え? 王子何を……??」 

 セクシーなメイドさんは戸惑った。王子は不器用にバチバチウインクした。

「ホンマは、あかんねんで……」

 瑠璃ィは風向きが変わる前に、すかさずメイドさんの縄を解き、耳元で囁いた。

「な、何を勝手な事を! 詮議も済んでおりませんぞ!!」
「王子! 今回の件は明らかに一線を越えております!!」
「冗談だった! では済みませんぞ!!」
「ユティトレッドにお礼に向かっている王がご帰還次第、必ず報告させて頂きます!!」

 一通り口々に非難すると広間を去って行った。


 深夜。

「王子、瑠璃ィさま、本当にすみませんでした! 私はおいとまし、お城を出ます。地元の村で待っております。いつでもどの様な罰でもお与え下さい……」

 セクシーなメイド服から一転、地味な村娘服に着替えた元メイドさんは鞄を持ち、二人に別れの挨拶をした。

「こらこらこら! お前が出て行ったら、普段の聡明な王子としての名声を、自ら貶めてまでお前を庇った意味が無いじゃん!!」
「え……、居ても……いいのですか? 何故??」
「何故って、みんな僕の事を馬鹿王子馬鹿王子言って笑ってるのに、お前だけが真剣に僕の相手をしてくれてたじゃん! お前が消えたら毎日がつまらなくなるだろ!!」
「王子……私の事、そんな風に……」

 メイドさんの頬を涙が伝っていた。

(あらまあぼんぼん可愛いとこあるやん!)

 しかし周囲から馬鹿王子言われていた事は、しっかり認識していたようだ。

「ま、まあ、今回の事はちょっとやり過ぎだろうがな! 改めて何か罰は考えておく」

 王子も少し照れて話題を換えた。

「そ、それは……もしかしてエ、エッチな罰とかですか!?」

 少し復活したメイドさんが頬を赤らめる。

「ふざけんな!! 僕は依世ちゃん以外は女として見ていないの!!」
「ふぇ~~~そうなんですかぁ!? やっぱりショックです……」

 そうこうしてメイドさんは、深々と一礼して自室に戻って行った。


「瑠璃ィ僕は決めたぞ!!」
「何を決めたん? 結婚相手か?」
「違うわっ! 瑠璃ィが魔ローダーに乗れて、しかも凄い強い事が判った。それで僕は海峡列国同盟に参加する事を決めた! てかパパ上に同盟に参加する様に猛烈プッシュする!!」

 ウェカ王子はあらぬ方向に指を差して決心した。

「な、なんでや! 何でそうなるんや!!」
「瑠璃ィ、蛸の入った丸い食べ物とやらを作って、お前にくれてやる、それで僕の家来になれっ!」
「えーなんでやねん」
「一宿一飯の恩義!!」
(一生言うつもりやろか? でも……魔ローダー乗る言うてもどうせ相手はメンド何国やろし、こんな所まで神聖連邦帝国が攻めて来て、敵対する事もありゃせんやろし、ちょっとくらいなら良いやんなあ? ほんま若君堪忍ですわー)
「あいあい!! 家来にでも何でもなるさかいに!!」
「よ~~し、列国同盟締結式で依世ちゃんを探すぞ~~~!!」
「やっぱりそれが目的かいな……」

 瑠璃ィはこの王子は、やはりだいぶ重症だなと思った。でも良い所もあるな……とも思っていた。
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