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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟

路面念車に乗って 1 ウェカ王子さま誘拐事件・前

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 ―ラ・マッロカンプ国境付近。

「う、駄目……これ以上足が進まない! 何か……禍々しいオーラを感じるの……それにおぞましい記憶が!? 封印されし嫌な記憶が蘇りそう……うぅ、鳥肌が」

 美柑みかノーレンジは、あたかも寒い場所で震える様に両腕で自分自身の体を抱いた。

「美柑がここまで嫌悪感を示すなんて、よっぽど何か精神衛生的に良くない物がありそうだね」

 紅蓮アルフォードは美柑の余りの狼狽ぶりに心配した。

「僕の知り合いらしき人がラ・マッロカンプに向かった……なんていう情報から入国しようと思っていたけど、別に好きな人物でも無いし、美柑がそこまで嫌なら行くのは止めようよ」
「ごめん紅蓮。貴方やっぱり優しいのね……こんな禍々しいオーラを発する場所に、お姉さまが居る訳無い……」
「うん、君にもお姉さん譲りの予知の力があるのかもしれないね、君の勘を信じるよ」

 そんな会話をしている時も、紅蓮は商人や旅人の行き交う姿を眺めていた。今また偶然通りかかった、美人のお姉さんを無言で目で追う紅蓮。

「昔は……何も思って無かったけど、今はああいう美人のお姉さんを見て、またエロい妄想してるんだろうなあって分かっちゃった……」
「……突然何を言ってるんだい? 何か記憶を操作されたのだろうか?」
「おーい、本気で無かった事にしようとしてないかい!?」
「いや、僕には何の事だか本当に良く分からないんだ……」

 紅蓮は一連のアンジェ玻璃音はりね女王との出来事を、爽やかなイメージを回復する為に、全力で無かった事にする作戦を継続していた。

「でも……紅蓮が姉探しに付き合ってくれるのって、凄く優しいからって思っていたけど、実は魔王を倒すのが、めんどくさいだけなんじゃって気がして来た……寄り道ばっかり!」
「……そうじゃ無くて……上手く言えないけど父上に命令されるまま、魔王を倒せばそれで良いのかなって疑問があって、色々見て回りたいっていうのもあるんだ」
「どこまでその爽やか芸風が続くか楽しみですよっ」

 美柑は紅蓮の視線を遮る様に、顔を覗き込んでにこっと笑った。

「………………」


 ラ・マッロカンプ王城……のウェカ王子の寝室。

「王子さま~お目覚めの時間ですよ~~ンフフフ」

 セクシーなメイド服を着た侍女がウェカ王子を起こしに来た。

「何なんだお前は、毎日毎日何が狙いなんだ~~?」
「なんやなんや、朝っぱらからうるさいなあ……ウチは疲れてるんや……」

 ウェカ王子のベッドのシーツから、美しく大きな円錐型の胸を露出した、上半身裸の瑠璃ィキャナリーが出て来た。

「ギャーーーーーーー!! 王子、なんですのその裸のオバ、いえ女性の方は!?」

 玉の輿を狙い、毎日色仕掛けで迫るセクシーなメイドだったが、ウェカ王子は常に依世いよちゃんしか頭に無く、そのメイドにも上半身裸の瑠璃ィにもまるで関心が無かった。

「このお姉さんは昨日市場で拾った瑠璃ィだ。今日からこの城でしばらく住む事になったからな!」
「ふぁ~~~、メイドさんおはようさん、飴ちゃんいるか~~?」

 瑠璃ィは上半身裸のまま腕を大きく伸ばし、あくびをした。当然上半身は反り返り、美しい胸が強調された。

「なんだなんだぁ、何故瑠璃ィは服着てないんだよ! 誰もお前のオッパイなんか興味無いんだから、早く服着ろよ他人様に迷惑だぞっ!」
「何やその言い方! これでもまだピチピチの二十九なんやで」
「ほんとーですか? 本当の本当に、二十九なんですかっ!?」

 メイドさんが上着を渡しつつ、顔を近付けて念を押す。

「ほ、ほほほ、ほんまやで、あははははは」

 瑠璃ィの頬を冷や汗が伝った。

「は~~~うち、久しぶりに蛸の入った丸い食べ物が食べたいわぁ」

 瑠璃ィは違う話題で誤魔化した。

「瑠璃ィは蛸が好きなのか? 珍しいな」
「そうやな~蛸もふぐも好きやなあ……」
「ふ~~ん?? でも今日は瑠璃ィに魔ローダーを見せてやろう! 見た事無いだろう! 凄いかっこいいぞ~~ははは」
「王子様、魔ローダーは最高機密、こんな素性の知れない者に見せる訳には」

 メイドさんが王子の耳元で忠告する。

「ああ安心しい、ウチは魔ローダーなんて見いひんから! 散歩でもしとくさかい」
(魔ローダーは神聖連合帝国でなんぼでも見てるさかい……)
「駄目だっ! 命令だからな! 今日瑠璃ィは僕と魔ローダーを見く行く!!」
(あ、ああああああ、何てこと!? 実在しない依世ちゃんしか興味が無い王子が、やけにこの女性に興味を示している!? わ、私の玉の輿計画が破綻の危機っ!?)


「これが魔ローダー、ジェイドとホーネット! どうだ凄いだろう!!」

 結局城の格納庫に連れて来られた瑠璃ィは、二十五メートルの巨大な魔ローダーを、色々な場所や高さの足場から見せびらかされていた。

(これが……ユティトレッド製の魔ローダーなんやろか……? うちの指揮官用魔ローダー桃伝説ピーチレジェンドに比べると、ちょっとパワーは下の一般機なんやろうなあ……)
「どうだ! びっくりして声も出ないだろうフフフ」
「そ、そやな~、ウチ初めてやわ!!」
「好きなだけ見てていーぞー、僕はそろそろ日課の依世ちゃん探しに行かなきゃ!」
「あ、ぼんぼん!!」

 気まぐれなウェカ王子は、瑠璃ィを格納庫に置いてけぼりにして、たたっと走って行った。その姿を物陰からセクシーなメイドが見ていた……


 次の日、いつもの様に王子は一人で城を抜け出していた。そんな時セクシーなメイドさんが血相を変えて、城の庭で寝転ぶ瑠璃ィに向かって走って来た。

「た、大変です!! 王子様が! 王子様が……」

 メイドさんが瑠璃ィに一枚の紙を渡した。

「何やて……ウェカ王子は預かった、返して欲しくば力の弱い女が一人で北の漁村に来い。身代金の金額はその女に伝える……やて!? 大変やないかっ!! 直ぐに城の者に伝えや」
「だ、駄目なんです。王子は城を抜け出す度に、時々嘘の脅迫文を私に書かせて城の者を驚かす遊びをしているので、私が皆に伝えても信用されないんです……ううぅ、王子がとても心配です」
「何や狼少年みたいな話やなあ……そやな、うちが行ったろうか?」
「本当ですか!? 北の漁村までのルート地図をお渡ししますわ!」
「えらい用意がええなあ……」
「そ、その話は本当ですかな!? それは大変な事になりましたな! 一体どうすれば」

 二人の話を紳士な執事が聞いていた……

「え、あー、え? あーーあの、これは、その」

 突然メイドさんが慌てだした。

「とにかく君たち二人は、お城に居て続報を待ちなさい。対策会議を開きますから!」

 紳士な執事は走って行った。

「あわわわわわわわ……」

 メイドさんは腰を抜かした。

「?」


 城下町から漁村に向かう道。メイドさんが地図で瑠璃ィに通る様に指定した道だった。

「もうすぐ此処を間抜けな人間が通るから、す巻きにして漁村に連れ去れば大金が貰えるそうだな」
「お、誰か来やがった……」

 趣向を変えて、いつもと違う場所を探索しようと、偶然やって来たウェカ王子だった。

「ぐへへへへ、今日は漁村を探してみようかなあ~~~」
「よし、あいつだろ、行け!!」

 突然王子の前に数人の怪しい男達が現れた。

「な、何だお前ら! 僕をウェぐはあ!!」

 男達はウェカ王子に殴りかかると、簡単にす巻きにして袋に詰めると連れ去ってしまった。その出来事を二階の窓から見ていた、洗濯物を干す主婦が居た……

「まあ……大変だよ!!」


 夕方になってもウェカ王子は城に帰って来なかった……。

「大変です!! 今しがた城にウェカ王子らしき少年が、怪しい集団に連れ去られるところを見たという主婦が!!」
「なんやて!!」
「なんて事でしょう……」

 瑠璃ィも執事も王子が心配でならなかった。

「うわあああああ、私が私が! 大変な事になってしまった……どうしようどうしよう」

 突然セクシーなメイドさんが、両手で顔を覆ってしゃがみ込んで、大声で泣き始めた。遂にセクシーなメイドさんが、新参者の瑠璃ィを痛めつけてやろうと嘘の脅迫文を渡し、漁村に連れ去ろうと計画した事を白状した。ウェカ王子は、わざわざ行かなくても良いのに、偶然悪人が待ち構える裏道を通って、本当に連れ去られてしまった様だった……

「メイドさん、冗談で済まへん事もあるんやで……ホンマは、あかんねんで!」
「ごめんなさい……私はどんな罰でも受けます……誰か王子様を助けて……ううう」

 メイドさんの周囲を衛兵が取り囲み始めた。

「待ち、このメイドさんを罰するのは、ぼんぼんを助けてからやっ! 私を魔ローダー格納庫に連れてってや!!」
「何を……言っているのでしょうか??」


 兵達が慌ただしく漁村に向かう中、執事は瑠璃ィを再び魔ローダー格納庫に案内した。

「ここやここや! んじゃあ魔ローダー借りるで!!」
「何を言って? 魔ローダーは誰でも動かせる物ではありませんぞ!」

 瑠璃ィは梯子も使わずに、シュシュッと壁を伝って飛んで魔ローダーの操縦席に辿り着くと、即座にハッチを閉めた。

「よし行くで! 魔ローダーホーネット!!」

 瑠璃ィが念じると魔ローダーホーネットの目が光り、いとも簡単に動き出した。

「馬鹿な……魔ローダーがこんな簡単に動くとは……瑠璃ィさんは何者!?」
「執事はん、扉を開けて!!」
「は、はい!」

 執事が魔導士達に命令すると、巨大なドアがガガガっと開き始める。瑠璃ィはメイドさんに貰った地図を見て、北の漁村を目指した。

「待っててやぼんぼん!!」

 魔ローダーホーネットは、色んな物を踏まない様に走り出した。
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