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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟

どきどきの初登城 6 心配! 雪乃フルエレさんを見守り隊出動

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 数日後。

「どうかな? イェラ可愛いかしら? アルベルトさんの友達さんにも好印象与えるかしら!?」

 以前自ら切ってしまった金色の髪が再び伸び始め長くなった物を、おさげ状に可愛いリボンで結び、ロリという程でも無いが少しだけひらひらとした白い可愛いワンピースを着た雪乃フルエレが、イェラに見せびらかす様にくるくる回った。普段は年齢よりも少しだけ大人びてみられるフルエレだが、今は十五歳の年相応の可愛い女の子という感じだった。

「何でしょうか……何であれ程気合が入っているのでしょうか……というよりも普段私の目の前に居る時は手を抜いているという事なのでしょうか……本気で行く気なんですね、別荘」
「行くんだろーなー」

 セレネは半ば他人事の様に答えた。

砂緒すなおーっ、ぜっ対に付いて来ないでね。もし付いてきたら以後一切口きかないし、このビルから出てもらうし、街ですれ違っても無視するから」

 笑顔ではあるが、フルエレから先制的に釘を刺して来た。

「このビルはフルエレの所有物だったのですか? 二人の共同作業で手に入れた物ではないのですか?」
「……不気味な言い方しないでよ……聞いてる人に誤解されちゃうでしょう……」
「なあフルエレ、私だけでも付いて行こうか? 私も美味しいパーティー料理食べたいぞ!」

 イェラがフルエレの機嫌を損ねない様に、最大限配慮して笑顔で言った。

「ごめんねーイェラー、来てほしいのはやまやまなのだけど、イェラが来ると高確率で砂緒まで来ちゃう呼び水になっちゃうの、だから今日はお留守番お願い!」

 フルエレは笑顔でぴしゃりと断った。

「あの、わたくしは……? 私は完全に気配を消す術を持っておりますが……」
「クレウさんもごめんね、本当に一人でも大丈夫なの。相手はVIPだから別荘に警備兵も居るし全然安全よっ!! 砂緒っ、私の人生の問題なの、絶対に邪魔しないでよ……」

 途中まで笑顔だったが、最後に砂緒に再び釘を刺す時、恐ろしい表情になっていた。

(人生の問題て……フルエレさんも大袈裟だな……)

 いつも通り作業しながら無言で聞いていたセレネは、フルエレの気合の入り方に多少驚いていた。

「ご安心下さい。今日はちゃんと店内でフルエレがブラジルの毒牙にかからない様祈りながら、静かに留守番しております……」
「変な事言わないで怒るわよっ! でもお留守番はお願いね! じゃあ行って来ま~~~す!!」

 そう言うと、階段を軽やかに駆け上がり、駐輪場の魔輪まりんに飛び乗ると後ろも振り向かずカッ飛んで行った。

「………………では我々も参りましょう!」

 砂緒が言うとイェラが頷いた。

「全て砂緒の言う通りになるとは思わないが、多少心配ではあるぞ……」


 ぱたぱたと可愛い衣服をはためかせ、るんるん気分で魔輪を運転する雪乃フルエレ……の後ろを追跡する怪しい黒い軽タイプ魔車。砂緒がこの日の為に事前にレンタルした物だった。

「何故にあたしゃがこんな事に魔力を消費せにゃならんのですか……はぁ」

 セレネは文句を言う割には巧みな運転で、フルエレに感付かれる事無く後ろを追跡し続けた。

「感謝してますセレネ。先程ちょいと小粋な事を小耳に挟んだのですが、クレウは気配を完全に消す術を持っているのですか? 詳しく言いなさい!」
「私は猫呼ねここ様の配下であって、砂緒様の部下でも何でも無いのですが……ある事はあります。暗殺用の偽装隠ぺい魔法で、周囲の者の視線から完全に消え、透明になる事が出来ます!」
「凄いではないですか! それでは女風呂も着替えも完全に覗き放題ではないですか! 男の夢を叶えた男として尊敬します」
「ししし、失敬な! 私はそんな事に魔法を使った事はありません」
「砂緒はどんどん普通のスケベな男に成り下がっているのだ……もう風呂上りとか薄着でうろうろ出来ないなあ……」
(しまったぁ!!! 余計な事を言ってしまった……)
「前はどんなんだったんだよ……」

 等と車内で言っている内に、風光明媚な白い砂浜が広がる海岸地帯にやって来ていた。どうやらアルベルトの別荘は、この海岸地帯の一角にある高級別荘地にある様だった。フルエレの魔輪がどんどん遠ざかる。

「魔車じゃ目立ち過ぎる、ここで降りて隠蔽迷彩魔法をかけてもらって、全速力で追跡します!」
「うえーーー、なんじゃそりゃ」

 セレネが可愛い舌を出してウンザリした顔をした。皆言われた通り魔法をかけると戦闘中と同じくらいの速さで走り出した。一位は超高速でセレネ、次がクレウ、その後をイェラと砂緒がはぁはぁ言いながら続いた。セレネが居ないと追跡は成立しなかっただろう。


 砂緒らはなんとかフルエレが別荘に入り込む前に間に合った。別荘の周囲には私費で雇った警備兵が何人か居たが、クレウの完璧な隠蔽魔法によって感付かれる事は無かった。

「ああ、いらっしゃい!! よく来てくれたね……どうぞどうぞ入って!!」
「はい、お、お、お邪魔します……」
「凄く可愛い服だね……」
「有難う御座います……」

 段々二人の会話が聞こえなくなる。

「向こうに砂浜が見える、大きなテラス付きの見晴らしの良い部屋がある。そこから中を覗くと料理や飲み物がずらっと並んでるから、そこがパーティー会場らしいな」

 セレネが早速建物の概要を把握して小声で砂緒らに報告する。

「セレネ様凄いです……速さ正確さ、とても熟練した戦士の様ですね」

 クレウが目を見張った。

「でもなあ……料理は並んでるが……他に人が一人も居ないぞ……複数の男女の友達てなどこだよ」
「…………許せないです……フルエレがあそこまでうきうきして、自分を友達に紹介してくれる事を期待しているのに、フルエレの純粋な気持ちを弄んで……殺します」

 砂緒はいつものふざけた表情では無く、本気で殺気立った顔をしていた。

「ま、まあもうちょっと待て、サプラーイズでどこかに隠れてて、クラッカー撃ちながら出て来るかもしれないぞ……」
(そんな気配は無いけど……)

 セレネは思ったが何も言わなかった。少しだけ砂緒の前でフルエレがショックで泣く姿を見せてやりたいと、残酷な気持ちが出ていたからだった。決して性格が悪い訳では無いセレネが、何故そんな意地悪な事を思ったのか、彼女自身も分からなかった。


「パーティー会場はここだよ!」

 アルベルトがドアを開くと白い砂浜が見える絶好のロケーションの素晴らしい部屋だった。テーブルの上には料理や飲み物が並び……しかし居るはずの人々が誰も居なかった。

「……まあ凄く綺麗な所!! ……あの……お友達の方達は??」


 ガラスの向こうには砂緒達がヤモリの様に張り付いているが、もちろん彼女らには見えない。

『お、おい何言ってるのか全然分からないですが』
『防音ガラスになってますね……』
『防音ガラスって時点で変じゃないかっ! 突入だ突入!!』
『しーっ砂緒殿、静かに! 声は消えませんぞ!』


「………………済まない……男女の友達七人が来る予定だったんだが、突然全員急な用事が出来て来れなくなったんだ……」

 アルベルトは突然頭を下げた。

「…………………………えっ?」

 それまでのうきうきしたフルエレの表情が消え、思わぬ報告にみるみる曇った表情になる。


(はぁ~~~~~、いいですかフルエレ? 男女のお友達が沢山来ると言っていますが、そのお友達は全員急な用事が出来て、実際には一人も来ません)
(来るわよ)


フルエレの頭の中に砂緒との会話が蘇る……

「………………で、でも折角料理や飲み物も用意してしまったし、一緒に景色を見ながら、た、楽しま……」
(逃げるフルエレの手首をガシッと掴み、野卑た表情でこう言うのです! へへへこんな所までほいほいやって来て間抜けな女だぜっ、そろそろジュースに入れた南蛮渡来の媚薬が)


「ご、ごめんなさい……私家族の者に、二人きりは絶対駄目だと言われてて……今日は帰ります……」

 フルエレは泣きそうになって、終始下を向いたまま小声で話した。

「あ、で、でも……折角だし少しだけでも……」

 明らかにいつもの冷静なアルベルトと違って、狼狽した様子でフルエレの手首を軽く掴んだ。フルエレはその途端に驚いてアルベルトの顔を見た。あせった彼はいつもの輝いた顔には見えなかった。

「いっやっ離してっっ!!」

 フルエレは全身を揺すって手首を振ると、アルベルトは抵抗する事無く、ぱっと手を離す。

「済まない、痛かったかな?」
「……私もう帰ります」
「あ、じゃあせめて玄関まで送るよ……」
「大丈夫です、もう出口まで把握しました。じゃあ」

 フルエレは再び終始下を向き、アルベルトの顔も見ないで小走りで出て行った。軽く涙が出ていた。


『あ、私がフルエレ見て来る、もし見つかっても一番ショックが少ないだろうからな!』

 イェラとクレウが走って行った。隠蔽魔法をかけている同士はお互いの姿が見える為、セレネが砂緒を見ると砂緒は涙を流していた。

『お、おいなんでお前が泣いてるんだ……』
『あれだけうきうきして出て行ったフルエレを泣かして……可哀そうでなりません』
『お、お前……案外優しいヤツなんだな……』
『もう……良いでしょう、一緒にアレを八つ裂きにしましょう』


「さっきから、あそこで物音や話し声が聞こえないか?」
「ん、言われてみれば……おい! 誰かいるのか!!」
『やばい見つかった! 私らも行くよ砂緒!!』
『八つ裂きにするのはいつでも出来ます。フルエレに承諾を得て実行しましょうか』

 砂緒とセレネは警備に見つかって大事になる前にその場を離れた。
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