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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟
盲目の女王 4 少年の笛と宿屋探し
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~~♪ ~~~♪♪
冒険者酒場の中に音楽が流れだした。酒場専属の楽団が軽音楽を奏で始めたのだった。
「なんて心地良いのかしら……こうしているといつもの生活の方が幻の様な気がして来たの」
アンジェ女王は、街ではありきたりな流れる音楽を全力で楽しんでいる様子だった。二人は黙って女王の楽しむ様子を邪魔せず見守った。
「この笛の音、この楽器は吹いた事があります、私も吹いてみたいです……」
アンジェ女王が突然立ち上がると、ふらりと楽団に向かって歩き出した。一瞬紅蓮と美柑はビクッとしたが、成り行きを見守ろうと思った。
「ここはお城の中じゃない……勝手が通じるとは思えないけど、もし駄目でもそれは一つの経験かもしれない」
「そうね……」
見守る二人の他に、貴嶋の手の者も複数人が見守り、ドキドキハラハラとしている。
「お笛を吹いておられる方、私にも一つ吹かせて頂けませんか?」
アンジェ女王が突然声をかけた相手は、笛を吹く少年だった。突然の飛び入りに楽団員が何事かと演奏が止まる。
「おお、美しい方、こんな子供が吹いた笛は汚い物です、またの機会にどうぞ……」
楽団長が遠回しにお断りする。
「大丈夫ですわ、その笛吹いてみたい物です」
女王は空気が読めず、いつもの城の中の様に思い通りに物事が進むと思い込んだ。
「い、いえどうぞ……これで良ければお吹き下さい、お綺麗なお嬢様」
「こ、これ!」
楽団長の声を無視して少年は震える手で笛を渡した。
「有難うね、お名前は……?」
「サッワと言います。お、お姉さんは?」
「私はアンジェよ」
「!?」
(やっぱりそうだ……お城の行列で一瞬だけ見た……お姫様だ……やっぱり綺麗だ……)
♪~~♪♪~♪~~♪♪
アンジェ女王は躊躇なく少年の笛を吹き始めた。突然の飛び入り演奏に最初は静まり帰った酒場だったが、女王の意外に達者な笛の音に他の団員も演奏を再開し、やがて誰も他人を気にしない通常の冒険者酒場に戻って行った。紅蓮も美柑も胸を撫でおろしてアンジェを見守り続けた。
(し、信じられない、アンジェ女王が……あの綺麗な唇で、僕の笛を……)
楽団の少年サッワは卒倒しそうな程に胸が高鳴り、生唾を何度も飲み込んだ。
一頻り演奏を続けるとアンジェ女王は満足したのか、吹いていた笛を軽くハンカチで拭くと少年に向かって返そうとした。
「有難うね、楽しく吹く事が出来ました。貴方の役割を邪魔をしてしまってごめんなさい」
サッワ少年の目の前にアンジェ女王の顔が迫る。凝視してはいけないと思いつつも、唇や首筋、身体の各所を見てしまう。
「その笛はもう女王陛下にお贈りします。女王が吹いた笛を僕が重ねて吹く事は畏れ多くて出来ません」
少年は小声でアンジェが女王陛下である事に気付いた事をうっかり伝えてしまう。気遣いを感じて、女王は改めて少年に笛を返そうとする。
「……この笛はお高い、貴方の宝物では無いのですか? 頂く訳には……」
「い、いいえ本当にいいんです! お受け取り下さい。他にも笛は持っていますから」
当然他に笛等なかった。女王は戸惑いながらも少年から笛を受け取った。
「あ、有難う……大切に使うわ……」
遠くから紅蓮と美柑は様子を見守り続けていた。
「あの少年に笛の代金を後で渡しておいてよ。十万Nゴールドくらいかな?」
「えーていうかここの支払いも誰が払うの?」
「女王に割り勘って通じるのかな??」
当然数々のクエストクリア報酬を受け取り、一般的な庶民なんかより沢山お金は持っている二人だった。
「しまった!! 宿の確保するの忘れてたよ」
紅蓮が珍しく焦り出した。美柑と二人なら最悪野宿でも良いのだが、アンジェ女王をいきなり野宿に誘うのは、無計画過ぎてかっこ悪い。かと言って貴嶋に啖呵を切って出て行った以上、お城に泊まらせて下さいというのもさらにバツが悪い。
「とにかく街に数軒ある宿屋を、全て総当たりで空き部屋を探そう」
三人はとにかく手当たり次第に宿屋を探したが、一部屋も空き部屋が無いという状態だった。
「おかしいなあ……祭りがある訳でも無し、こんな埋まる事ってあるかな?」
「私は野宿でも良いのですよ……それも人生経験ですから!」
焦る二人を感じてアンジェ女王が慰める。
「ちょっと紅蓮、あれ見て……ほら!」
「一日二組限定オーベルジュ・ホテルメドースリガリァいや、これは無いでしょう……」
「まあオーベルジュですって! 行ってみましょう!!」
やはりアンジェ女王は根本的には女王である事に変わりが無いのか、浮世離れした感覚で高そうな宿に向かって行くよう二人にお願いした。
「一日二組限定、一部屋最大4名、一泊食事込み三十万Nゴールド!? うっは、誰が泊るのここ? ていうか悪いけどメドースリガリァに需要あるのかな? 経営成り立つのここ?」
貴公子のはずなのに紅蓮は割と金銭にシビアに見ていた。
「私達さっきすっごく沢山夕ご飯食べて来たし、オーベルジュとかもう関係無いし……」
「ここにしましょう! 三十万Nゴールドなら凄いお安いですね! 良い宿がありましたわ」
通常なら一泊八千Nゴールド程の所、破格に高い宿にやはり女王の金銭感覚は狂っていた。
「ええ!? 一泊三十万Nゴールドが、今なら割引キャンペーンで三万Nゴールド!? 二重価格表示で景品表示法違反なのではここ……」
当然貴嶋の手の者がこの日の為に経営するホテルだった。
「すっごい綺麗なお部屋!! これが三万Nゴールド!? コスパ最高よねっ!」
確かに一泊三十万と言われても仕方が無い様な豪華絢爛な部屋だった。あたかもアンジェ女王専用に設えられた様な……というよりも実際にこの日の為に準備された部屋だった。
「確かにシングルベッドが四つ、これなら揉めずに静かに眠れるね」
「うん、二部屋に別れているから、私はアンジェと眠るよ!」
「よろしくね、ふふ」
コンコン
突然部屋がノックされた。
「何でしょう?」
紅蓮が凄く警戒する。女王がいるから当然だった。
「お客様、夕食がお済という事で、当ホテルの一番の目的であるお夕食が提供出来ませんでした、代わりに眠る前に軽いお食事とドリンクをお持ちしました」
「まあ、有難いわ! 私もお腹空き始めてたの!!」
美柑が手を合わせて喜ぶ。
「おいおい、さっきたらふく食べてたでしょうに」
しぶしぶ紅蓮がドアを開けると、ルームサービスワゴンからサンドイッチやフルーツ、スムージー的な飲み物を並べていく。
「変な物は入っていないだろうね?」
「ちょっともうやめてーっ! 警戒し過ぎですよっ!」
「こちらのピンク色の飲み物は特別にそちらの可愛いお嬢様のお好みに合う様、調整して御作りしました。ぜひお楽しみ下さい」
「わぁー美味しそう! 有難う!!」
「いや、怪し過ぎでしょう!! 飲みなさんな」
「エエー何故っ? 気になるなら毒見でも何でもしてよっ!」
ルームサービスが帰って行くと、紅蓮はスプーンで一杯すくい、色を見、匂いを嗅ぎ、最後に一口味見をした。
「うーん、特に変な物はないかなあ……」
「わーい! じゃあ頂きまーす!! アンジェ御免ね、私だけ特別に。エヘヘー」
「羨ましいです……」
羨ましがるアンジェ女王をしり目にグラスを持ち上げると一気に飲み干す美柑。
「あ、バカっ! 何一気飲みしてるんだ!」
「もう大丈夫よ! 何も無いって……ば……眠い……もう駄目……むにゃ……くー」
椅子に座ったまま美柑は一瞬で眠りに落ちた。ゴロンと床に落ちるグラス。
「うわーお! だから言ったのに!?」
紅蓮は慌てて魔法で毒物や状態異常の魔法が掛けられていないか探査する。
「むむ、やはり臭いを嗅いだ時に感じた様に毒物とか薬は無いな。魔法も大丈夫。薬膳的に気持ちよく眠れる健康的な物のようだね……」
「うふふ、心配し過ぎですよ。疲れて眠っているだけですわ。よっぽど美柑さんの事が好きで心配になるのですわね」
「違うよ! ただ旅のパートナーとして守る義務があるだけさ」
「では美柑さんをベッドに運んであげてくださいな」
「あ、ああそうだね」
一瞬躊躇するが、アンジェ女王の手前、いつものポーカフェイスの顔でぐっと美柑を、お姫様だっこにするとそのまま静かにベッドルームに運んで上げる。
ドックドック。緊張で高鳴る心臓の音。
(柔らかい身体……やっべ、めっちゃ緊張する……)
紅蓮は実は……常に真面目で何事にも無関心で、不動心でポーカーフェイスを装っているが、内心凄く美柑の事を意識しまくっていた。
(うはあ美柑の寝顔めっちゃかわええ……神かわええ……やっば、十三歳だよなあ……)
「どうですか? 美柑さん、何も変わったご様子等はないかしら?」
「!!!」
知らぬ間に後ろからアンジェ女王が付いて来ていて、後ろから刺されたくらいにビクッとした。
「ああ、大丈夫みたいだよ。安心して眠っているね」
凄く爽やかな笑顔で、何事も無いように応対する。
「うふふふふふふふふふ」
「ど、どどどうしたんだい?」
突然アンジェ女王が魔女の様な不気味な笑い声を発して驚く。
「だって、紅蓮って美柑を抱き抱えた時に、胸が尋常じゃないくらいに高鳴っていたわ」
「!!!」
(バレとる!?)
「ふっ、いえ僕は特殊な鍛錬を積んでいるので、心拍数とか自由に変えられるのです。何かの間違いだと思うよ」
紅蓮は目を閉じて、余裕のポーズで大嘘を付いた。だがアンジェにどこまで通じているのかは分からなかった。
「うふふ、そうなの? それでは私もお頼み事をしようかしら。お風呂に入りたいのですが、いつもは侍女に塗れた床で倒れたりせぬ様、手を繋いでもらっているのですが、今は紅蓮お頼みできますか?」
「はっ?」
(な、なんですとーーーっ!? え罠? これ何かの罠??)
紅蓮はどうして良いか分からず、しばし固まった。
冒険者酒場の中に音楽が流れだした。酒場専属の楽団が軽音楽を奏で始めたのだった。
「なんて心地良いのかしら……こうしているといつもの生活の方が幻の様な気がして来たの」
アンジェ女王は、街ではありきたりな流れる音楽を全力で楽しんでいる様子だった。二人は黙って女王の楽しむ様子を邪魔せず見守った。
「この笛の音、この楽器は吹いた事があります、私も吹いてみたいです……」
アンジェ女王が突然立ち上がると、ふらりと楽団に向かって歩き出した。一瞬紅蓮と美柑はビクッとしたが、成り行きを見守ろうと思った。
「ここはお城の中じゃない……勝手が通じるとは思えないけど、もし駄目でもそれは一つの経験かもしれない」
「そうね……」
見守る二人の他に、貴嶋の手の者も複数人が見守り、ドキドキハラハラとしている。
「お笛を吹いておられる方、私にも一つ吹かせて頂けませんか?」
アンジェ女王が突然声をかけた相手は、笛を吹く少年だった。突然の飛び入りに楽団員が何事かと演奏が止まる。
「おお、美しい方、こんな子供が吹いた笛は汚い物です、またの機会にどうぞ……」
楽団長が遠回しにお断りする。
「大丈夫ですわ、その笛吹いてみたい物です」
女王は空気が読めず、いつもの城の中の様に思い通りに物事が進むと思い込んだ。
「い、いえどうぞ……これで良ければお吹き下さい、お綺麗なお嬢様」
「こ、これ!」
楽団長の声を無視して少年は震える手で笛を渡した。
「有難うね、お名前は……?」
「サッワと言います。お、お姉さんは?」
「私はアンジェよ」
「!?」
(やっぱりそうだ……お城の行列で一瞬だけ見た……お姫様だ……やっぱり綺麗だ……)
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アンジェ女王は躊躇なく少年の笛を吹き始めた。突然の飛び入り演奏に最初は静まり帰った酒場だったが、女王の意外に達者な笛の音に他の団員も演奏を再開し、やがて誰も他人を気にしない通常の冒険者酒場に戻って行った。紅蓮も美柑も胸を撫でおろしてアンジェを見守り続けた。
(し、信じられない、アンジェ女王が……あの綺麗な唇で、僕の笛を……)
楽団の少年サッワは卒倒しそうな程に胸が高鳴り、生唾を何度も飲み込んだ。
一頻り演奏を続けるとアンジェ女王は満足したのか、吹いていた笛を軽くハンカチで拭くと少年に向かって返そうとした。
「有難うね、楽しく吹く事が出来ました。貴方の役割を邪魔をしてしまってごめんなさい」
サッワ少年の目の前にアンジェ女王の顔が迫る。凝視してはいけないと思いつつも、唇や首筋、身体の各所を見てしまう。
「その笛はもう女王陛下にお贈りします。女王が吹いた笛を僕が重ねて吹く事は畏れ多くて出来ません」
少年は小声でアンジェが女王陛下である事に気付いた事をうっかり伝えてしまう。気遣いを感じて、女王は改めて少年に笛を返そうとする。
「……この笛はお高い、貴方の宝物では無いのですか? 頂く訳には……」
「い、いいえ本当にいいんです! お受け取り下さい。他にも笛は持っていますから」
当然他に笛等なかった。女王は戸惑いながらも少年から笛を受け取った。
「あ、有難う……大切に使うわ……」
遠くから紅蓮と美柑は様子を見守り続けていた。
「あの少年に笛の代金を後で渡しておいてよ。十万Nゴールドくらいかな?」
「えーていうかここの支払いも誰が払うの?」
「女王に割り勘って通じるのかな??」
当然数々のクエストクリア報酬を受け取り、一般的な庶民なんかより沢山お金は持っている二人だった。
「しまった!! 宿の確保するの忘れてたよ」
紅蓮が珍しく焦り出した。美柑と二人なら最悪野宿でも良いのだが、アンジェ女王をいきなり野宿に誘うのは、無計画過ぎてかっこ悪い。かと言って貴嶋に啖呵を切って出て行った以上、お城に泊まらせて下さいというのもさらにバツが悪い。
「とにかく街に数軒ある宿屋を、全て総当たりで空き部屋を探そう」
三人はとにかく手当たり次第に宿屋を探したが、一部屋も空き部屋が無いという状態だった。
「おかしいなあ……祭りがある訳でも無し、こんな埋まる事ってあるかな?」
「私は野宿でも良いのですよ……それも人生経験ですから!」
焦る二人を感じてアンジェ女王が慰める。
「ちょっと紅蓮、あれ見て……ほら!」
「一日二組限定オーベルジュ・ホテルメドースリガリァいや、これは無いでしょう……」
「まあオーベルジュですって! 行ってみましょう!!」
やはりアンジェ女王は根本的には女王である事に変わりが無いのか、浮世離れした感覚で高そうな宿に向かって行くよう二人にお願いした。
「一日二組限定、一部屋最大4名、一泊食事込み三十万Nゴールド!? うっは、誰が泊るのここ? ていうか悪いけどメドースリガリァに需要あるのかな? 経営成り立つのここ?」
貴公子のはずなのに紅蓮は割と金銭にシビアに見ていた。
「私達さっきすっごく沢山夕ご飯食べて来たし、オーベルジュとかもう関係無いし……」
「ここにしましょう! 三十万Nゴールドなら凄いお安いですね! 良い宿がありましたわ」
通常なら一泊八千Nゴールド程の所、破格に高い宿にやはり女王の金銭感覚は狂っていた。
「ええ!? 一泊三十万Nゴールドが、今なら割引キャンペーンで三万Nゴールド!? 二重価格表示で景品表示法違反なのではここ……」
当然貴嶋の手の者がこの日の為に経営するホテルだった。
「すっごい綺麗なお部屋!! これが三万Nゴールド!? コスパ最高よねっ!」
確かに一泊三十万と言われても仕方が無い様な豪華絢爛な部屋だった。あたかもアンジェ女王専用に設えられた様な……というよりも実際にこの日の為に準備された部屋だった。
「確かにシングルベッドが四つ、これなら揉めずに静かに眠れるね」
「うん、二部屋に別れているから、私はアンジェと眠るよ!」
「よろしくね、ふふ」
コンコン
突然部屋がノックされた。
「何でしょう?」
紅蓮が凄く警戒する。女王がいるから当然だった。
「お客様、夕食がお済という事で、当ホテルの一番の目的であるお夕食が提供出来ませんでした、代わりに眠る前に軽いお食事とドリンクをお持ちしました」
「まあ、有難いわ! 私もお腹空き始めてたの!!」
美柑が手を合わせて喜ぶ。
「おいおい、さっきたらふく食べてたでしょうに」
しぶしぶ紅蓮がドアを開けると、ルームサービスワゴンからサンドイッチやフルーツ、スムージー的な飲み物を並べていく。
「変な物は入っていないだろうね?」
「ちょっともうやめてーっ! 警戒し過ぎですよっ!」
「こちらのピンク色の飲み物は特別にそちらの可愛いお嬢様のお好みに合う様、調整して御作りしました。ぜひお楽しみ下さい」
「わぁー美味しそう! 有難う!!」
「いや、怪し過ぎでしょう!! 飲みなさんな」
「エエー何故っ? 気になるなら毒見でも何でもしてよっ!」
ルームサービスが帰って行くと、紅蓮はスプーンで一杯すくい、色を見、匂いを嗅ぎ、最後に一口味見をした。
「うーん、特に変な物はないかなあ……」
「わーい! じゃあ頂きまーす!! アンジェ御免ね、私だけ特別に。エヘヘー」
「羨ましいです……」
羨ましがるアンジェ女王をしり目にグラスを持ち上げると一気に飲み干す美柑。
「あ、バカっ! 何一気飲みしてるんだ!」
「もう大丈夫よ! 何も無いって……ば……眠い……もう駄目……むにゃ……くー」
椅子に座ったまま美柑は一瞬で眠りに落ちた。ゴロンと床に落ちるグラス。
「うわーお! だから言ったのに!?」
紅蓮は慌てて魔法で毒物や状態異常の魔法が掛けられていないか探査する。
「むむ、やはり臭いを嗅いだ時に感じた様に毒物とか薬は無いな。魔法も大丈夫。薬膳的に気持ちよく眠れる健康的な物のようだね……」
「うふふ、心配し過ぎですよ。疲れて眠っているだけですわ。よっぽど美柑さんの事が好きで心配になるのですわね」
「違うよ! ただ旅のパートナーとして守る義務があるだけさ」
「では美柑さんをベッドに運んであげてくださいな」
「あ、ああそうだね」
一瞬躊躇するが、アンジェ女王の手前、いつものポーカフェイスの顔でぐっと美柑を、お姫様だっこにするとそのまま静かにベッドルームに運んで上げる。
ドックドック。緊張で高鳴る心臓の音。
(柔らかい身体……やっべ、めっちゃ緊張する……)
紅蓮は実は……常に真面目で何事にも無関心で、不動心でポーカーフェイスを装っているが、内心凄く美柑の事を意識しまくっていた。
(うはあ美柑の寝顔めっちゃかわええ……神かわええ……やっば、十三歳だよなあ……)
「どうですか? 美柑さん、何も変わったご様子等はないかしら?」
「!!!」
知らぬ間に後ろからアンジェ女王が付いて来ていて、後ろから刺されたくらいにビクッとした。
「ああ、大丈夫みたいだよ。安心して眠っているね」
凄く爽やかな笑顔で、何事も無いように応対する。
「うふふふふふふふふふ」
「ど、どどどうしたんだい?」
突然アンジェ女王が魔女の様な不気味な笑い声を発して驚く。
「だって、紅蓮って美柑を抱き抱えた時に、胸が尋常じゃないくらいに高鳴っていたわ」
「!!!」
(バレとる!?)
「ふっ、いえ僕は特殊な鍛錬を積んでいるので、心拍数とか自由に変えられるのです。何かの間違いだと思うよ」
紅蓮は目を閉じて、余裕のポーズで大嘘を付いた。だがアンジェにどこまで通じているのかは分からなかった。
「うふふ、そうなの? それでは私もお頼み事をしようかしら。お風呂に入りたいのですが、いつもは侍女に塗れた床で倒れたりせぬ様、手を繋いでもらっているのですが、今は紅蓮お頼みできますか?」
「はっ?」
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