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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟

盲目の女王 1 メドース・リガリァに現れた二人

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 ―少し前、セブンリーフ大陸中部小国群の一つ、メドース・リガリァ北の門。

「この度は女王陛下の兵をお借りしながら、さしたる成果も無く、誠に面目次第も御座いませぬ。この貴嶋如何なる罰をも受ける所存にて……」

 各国共同によるニナルティナ攻略と占領、治安維持に参加していたメドース・リガリァ軍だったが、サーペントドラゴン騒ぎが砂緒すなおと雪乃フルエレの活躍によって収まり、続いてル・二ル・ツー擱座かくざした辺りからタガが外れ、この混乱の機に乗じて新たな領土を得ようとしたり、黒い魔ローダーを奪い取ろうとしたりしたが、全て未然に雪乃フルエレによって阻まれ、とぼとぼと帰国して戻りようやく門まで辿り着いた所、メドース・リガリァの女王自らがわざわざ出迎えに来ていたのだ。

「皆さまご苦労でした。何よりも殆ど損害も無く死者も無く、無事に皆が戻って来られたのが良かったのです。よくぞ国の威勢を示して下さいました、このアンジェ玻璃音はりねが感謝申し上げます」

 数両の潰された魔戦車の事は報告されていなかった。女王は居並ぶ兵士や指揮官達の前で頭を下げた。どよめく兵士達。

「いけません、貴方様は偉大なるウェキ大王の血を引く女王陛下なのですぞ、その様に易々と頭を下げられては困ります」

 女王陛下の前で跪いていた貴嶋が上を向き、小声で諫める。

「各国軍に加わる事も、何もかも貴嶋、貴方が決めた事です。私はそれに従ったまで。皆が無事で良かった、この気持ちを示して何が悪いのでしょうか。それに元々私は女王に等なりたくは無かった。女王になったのも、百年前のウェキ大王の偉大な功績を受け継ぐ事よりも、貴方を困らせたく無かっただけ。私は小さい頃より貴方に嫁ぐと思って育って来たのです」

 魔法拡声器を外し、ぼそぼそと二人で話し込む様子に兵士達は戸惑う。女王にとって貴嶋は小さい頃は優しい親戚のお兄さん、少し大きくなると憧れの人に、そしてぼんやりと将来はエスカレーター式に、この人のお嫁さんになると思い込んでいたが、いつしかその関係は女王と家臣という事になって固定化してしまっていた。

「滅多な事を仰らないで下さい! 人が周りに大勢いるのですぞ! 私がその様な不遜な事を考える逆臣と思われでもしたらどうするのですか? お止め下さい」

 貴嶋がさらに小さな声で叱りつける。

「私が……目が見えない女だから……厄介事を背負い込みたくないと……お思いなのですね」

 女王は悲嘆の余り言ってはいけないタイプの事を言ってしまう。

「何と! もし……私と貴方が普通の関係なら、一日中でも背負って暮らしても苦痛では無いです。この忠臣貴嶋の事、貴方が一番理解して下さっていると思っておりましたのに」

 怒りとも悲嘆ともつかない様な表情で貴嶋は呟いた。

「ご、ごめんなさい……怒ったのですか? 貴方を傷付ける様な事を言ってしまいました、許して下さい」

 女王は事実上生活の全てを支えてくれている家臣貴嶋を怒らせたかもしれないと思い、酷くおろおろとし始めた。

「ですから、貴方は私の女王陛下なのですぞ! 家臣の機嫌を伺ってどうするのですか!? 私は貴方に例え如何なる仕打ちを受けても、一身をなげうつ覚悟に変わりはありませぬ!」
「そ、そうでしたね、ごめんなさぃ……い、いえ、良い覚悟です……こ、今後も励みなさい……」
「ははっ」

 最後にようやくどうにか体裁が整い、貴嶋は女王陛下に最敬礼をして、女王は侍女達に導かれその場を立ち去った。


 そのメドース・リガリァ冒険者ギルド前の広場。そこに紅蓮アルフォードと美柑みかノーレンジの超S級冒険者コンビが居た。美柑の肩には魔法の白いオコジョが乗っかっている。

「軍隊が帰って来たみたいだね。あちこちで再会を喜んでる。こういう風景はいいよね」
「うんうん、若い兵士と女の人が抱き合ってる、凄くいいよねっ!」

 美柑は手を組んで、ときめいて言った。

「あんな風に美柑もお姉さんと再会出来ればいいんだけどね……」
「リュフミュランにもお姉さまは居なかった……まして各国の軍隊が侵攻したり、ドラゴンが出て来て魔ローダーという巨大な人型機械が暴れ回る様な、ニナルティナみたいな物騒な場所にお姉さまが居る訳が無い……お姉さまは争いとか戦争が大嫌いな人だから」

 美柑の顔が暗く沈み込む。

「ニナルティナの争乱では最終的に雪乃フルエレとかいう恐ろしい女が出て来て、雷を落としたり黒い魔ローダーを斬り裂いたりして争いを収めたらしいね。世の中は本当に広いよ、全然知らない凄い人達が居る。なんだか魔王討伐をさぼって旅をしていると、つくづくそう思うよ」

 美柑は何かにつけて紅蓮が姉探しを優先して手伝ってくれている事を、魔王討伐をさぼって等と言って、優しいなと思った。

「姉はいつもほわほわしてて夢見がちな部分があるから、そんな雪乃フルエレ? みたいな恐ろしげな人が居たら、怖くて緊張して泣いてしまうかもしれない。絶対にそんな場所にお姉さまは居ない」
「ま~そうだろうね! 取り敢えずクリアしたクエストの申請をしておこうか。その後は宿の手配だね。なんとか二部屋あれば良いけど」
「はぁ~~い! 行こっフェレット!」

 フェレットとは、美柑が白い魔法のオコジョに付けた名前だった。彼女はテンとカワウソとフェレットとオコジョとハクビシンとイタチの区別がつかず、適当に名付けた名前だったが気に入っていた。


「紅蓮さまと美柑さまですね! クエストクリアの報告ですね! どうぞ!」

 ごくごく標準的な冒険者ギルドのカウンターの、ごくごく標準的な美人のお姉さんの受け付け嬢が笑顔で応対してくれる。

「これが討伐クエストを受けてたキング・ポッドの七色に光る欠片。壺に剣を振り回す魔物が潜んでて凄く面白かったよ! ついでに古代陸上巨大魚スボーンの硬い鱗、さらに天のカササギの羽根も採れました。申請して無かったんだけど、他のもクエストにあったよね? 採った後からクエストクリアとかって出来ますか?」

 造作も無く紅蓮は集めたアイテム類をカウンターに並べた。

「ええ!? ほ、本当に全部クリアしたんですか??」

 美人のお姉さんが驚愕の顔をした。

「ほえ? ああ、全部取り集めるのに半日もかかってしまったよ。随分と体がなまってしまっているみたいだね!」
「半日!? 半日でですか!? 天のカササギの羽根とかって絶対クリア不可能クエストとして長年放置されてたんですよ? どうやって収集したんですか?」
「私、魔法で短時間なら飛べるから余裕ですよっ!」

 美柑がにこっと笑ってピースサインをした。

「ほ、本物だったんですね……紅蓮さまと美柑さまって。てっきり恥ずかしい田舎者が偽名を名乗っているのかと……」
「いちいちめんどくさい人達だなあ……何でもいいからさっさと報酬を下さい」
「めっ! 悪い態度は駄目ですよっ! いつも笑顔っ!」

 ふてくされかけた紅蓮を美柑がたしなめる。

「ちょっと、ちょっとお待ち下さい! 本当に申し訳ありません、少しお待ち下さい。あ、奥の応接室にお連れして!」

 ざわざわとし始めた冒険者ギルドのカウンター前で、受付のお姉さんは他の係の者に二人を別室に連れて行く様に指示した。二人はざわつきがめんどくさくて、そのまま指示に従って行った。


「何なんだろうね、人を呼んでおいて待たせる。罠かな?」

 普段は穏やかな紅蓮が少しいらいらし始める。飲み物を飲んだり置いたりした。

「罠かもしれませんよ~! 飲み物に毒が、はたまたトゲトゲの付いた天井が落ちて来たりしちゃうかもねっ!」

 美柑がわくわくしながら笑顔で言った。

「僕は毒なら臭いでほぼ有無が判るし、天井が落ちて来たら建物ごと吹き飛ばすよ。二人なら平気でしょ!」
「ですね~!」

 事実、この辺りの人々が束になって襲い掛かっても勝てる相手では無かった。


「大変お待たせしました、紅蓮さま美柑さま! お城で女王様がお待ちしております、是非お二人には女王様に謁見して頂きたいです!」
「大変お待たされしました!」
「めっですよ!」

 本当に長時間待たされて、ふてくされきっている紅蓮を再び諫める美柑。

「女王様に謁見してさらには急ぎ晩餐会の用意もされているとの事、大変名誉な事です!」
「悪いんだけど、僕たちは王様とか女王さまとかには一切興味ないんだ。帰らせてもらうから」
「あっ紅蓮!」

 紅蓮はもう話にならないという感じで立ち上がると、美柑も後に続こうとする。

「女王様は……目が見えない御方で……その、冒険者の方達のお話を大変楽しみに……されておられます……どうか紅蓮さま美柑さま、女王様のお話相手に……」
「………………」

 紅蓮と美柑は無言で顔を見合わせた。

「行ってみましょうよ紅蓮! お城も面白いかもしれないよっ!」

 白い魔法のオコジョ、フェレットも肩の上でくるくると回って喜んでいる様だった。
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