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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟

魔王、沿革・アウトライン 2 魔王だモン!  新居

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「シューネ、父上が、聖帝陛下がセブンリーフに親征する等と……私に秘密でその様な計画があるのですか?」

 シューネは少し驚いた顔をした。

「……どこからその様な? まぁ、大体は事実で御座います。大量の船の建造、魔戦車の調達、魔ローダーの整備、当然兵糧や兵士の準備……具体的に計画は進み、いつでも実行出来る様に軍部では話は進んでおります」
「ええ!? なんという事……ではシューネ、貴方はどう思うのですか??」

 深刻な顔をする姫乃を見て、再び頭をぼりぼり掻いた。

「まあ、無理ですね。聖帝陛下は親征の長旅には耐えられないでしょう」

 姫乃は慌てて周囲を繰り返し見た。

「貴方が私に……私達聖帝一族に絶対の忠誠を誓う忠臣である事は私が一番理解しています。しかし率直過ぎる物言いはあらぬ疑いをかけられます」
「では言い方を変えましょう、周囲の者が全力で聖帝陛下をお諫めしますので親征など起きません」
「ああ、そうなのですね……少しホッと致しました」
「しかし別の話もあります。軍の一部には魔王討伐の修行から帰らぬ若君様を待つより、姫殿下、貴方を親征の旗頭にしようとする動きも……どうぞ巻き込まれぬ様、お気を付けください」

 誠意の籠った顔で心から心配している事が判った。

「言われなくとも嫌です! その様な事はあり得ません!!」
「それともう一つ、私が姫乃、貴方の手を引いて歩く事は決して二度と金輪際もうあり得ません。もう絶対に昔には戻らないとお心得下さい。それが臣下の道なのです」
「……シューネ……」

 部屋から出ていくシューネを見届けて、姫殿下・姫乃は黙ったまま目を閉じて下を向いた。



 舞台は再びセブンリーフ大陸に戻る。セブンリーフ南部大火山のふもと、人々が魔王軍と呼ぶ地域の鬱蒼とした森の中に建つ魔王の居城。

「わはははははは、やめるのじゃ! そこはくすぐったいのじゃ!! それ以上舐めるとコンプライアンス的にマズイのじゃ!! わはははは、止めろベアー!」

 黒いコスチュームに身を包んだ小さい女の子にしか見えない魔王が、巨大熊達と戯れ遊んでいる。ベアーとは魔王が飼っているお気に入りの巨大な熊の名前であった。魔王はペットとして多数の熊を飼っていた。

「こら! ベアーは飼っているペットでは無いのじゃ! ベアーは友達なのじゃ!!」

 魔王はその凄まじい魔力により、地の文にまで突っ込みを入れた。

抱悶だもん様、ココナツヒメ様がおいでになりました……」

 禍々しい魔王の椅子で熊と戯れる魔王・抱悶に家臣の者が謁見を報告する。名前を聞いてそれまでの年齢にそぐう屈託の無い笑顔が消え、うえーっと鬱陶しい者が来た……という表情をした。

「何なのじゃ~またあやつなのか? ベアー達が怖がるので避難しに連れて行ってやるのじゃ……」

 家臣達が大量の巨大熊達を熊牧場に連れて帰る。

「抱悶さま、お会いしとう御座いました。貴方の忠臣、ココナツヒメに御座います」

 真っ青なドレスに氷の様な蒼い瞳、さらに氷の様な艶やかな長い髪をした神秘的な女性が現れた。しかしその表情にはどこか南洋的な名前とは裏腹に冷たい、何者も信用していない底知れない性質の暗さが見え隠れしていた。

「何なのじゃお前は! 名前はトロピカルフルーツみたいな感じなのに、氷の女王のお前が来ると室温が下がって体が冷えるのじゃ! 炎の国にはお前は不釣り合いなのじゃ!」
「申し訳御座いません……愛ゆえにその様に厳しいのですね?」
「違うのじゃ、嫌いじゃ。で、用は何なのじゃ?」

 魔王はココナツヒメに全く興味が無いという感じだった。

「まあ、つれないのですね! 魔王さまお可愛い!」

 ココナツヒメは我々の世界で言う所の、昭和のぶりっこの様に両手を頬に当てふりふりと体を振った。しかしクールな外見と全くそぐわない態度に余計に寒さが漂う。

「話が通じぬ奴じゃ! 何用か早く言って帰れ!」
「はい……実はメドース・リガリァに魔ローダーを与えても良いでしょうか? ユティトレッド王が北方列国を纏めようとする動きがあり、ここ炎の国・魔王城にいつか攻めて来ぬかと、抱悶さまのお身が心配で心配でなりません。防波堤にメドース・リガリァを利用したいと思いますの……」
「はぁ? 儂は儂の身くらい自分で守れるのじゃ! 余計な心配等せずとも良い」
「そ、そんな……ココナ、いつもいつも抱悶さまの事ばかり考えておりますのに……」

 魔王抱悶はこれは拒否すると長くなりそうだな……と思った。

「ああ? 良い良い。儂の魔ローダール・三以外なら与えても良いぞ! では帰れ!!」
「ああ、有難き幸せです!!」

 聞くだけ聞いてココナツヒメはぼうっと闇に消えた。

「どこまでも不気味な奴じゃ……」

 魔王は熊達と比べてもココナツヒメを全く信用していない様であった。


『ココナ、僕の可愛い子猫ちゃん、今日もセブンリーフ大陸は民を顧みない悪い王様達の下、争いが絶えないかい?』
『一緒に戦争の無い平安楽土な世を作りたいね……君は氷の女王でもハートはホットだね……早く逢いたいよ……ココナ』

 クリアー系の雑貨や家具が並ぶ、魔王城の中のココナツヒメの自室で彼女は凍ってバリバリになりかかっている手紙を、青いドレスの胸に押し当てた。手紙の文面は赤面する様な熱い文字が並ぶ。

「はぁ~~聖帝さま、今日も魔王さまにメドース・リガリァへ魔ローダーを与える様に工作して来ました……立派に各国の分断に貢献致しております……と書き書き」

 ココナツヒメは乙女の様に、ときめきながら手紙の返事を書いた。ココナツヒメは神聖連邦帝国聖帝の事を年若いイケメン美青年と勘違いして文通を続けていた。

「早く、お逢いしとう御座います! 私の聖帝陛下さまっ!!」

 今度は書き上げた情熱的な手紙の返信を、自分の胸に押し当てるココナツヒメ。ココナツヒメ、雪乃フルエレと砂緒すなおの最大の敵となる氷の大魔女であった。



 砂緒と雪乃フルエレ達は、ようやくニナルティナ港湾都市にある、新居となる予定の建物に着いた。魔ローダー蛇輪は人目に付かない場所に隠してあり、取り敢えずトランクに詰めれる手荷物だけを持っての徒歩での到着だった。

「凄く……大きいですね……ここに住むのですか?」

 砂緒が見上げるのは、7階建てのモダンな装飾の入った大きなビルディングだった。

「リュフミュラン王立冒険者ギルド・ニナルティナ支部・本店??」

 イェラが看板に書かれた文字を読んだ。

「支店なのか本部なのか良く分からない書き方ね。相当に揉めに揉めた感じがするわ」

 猫呼ねここクラウディアが嬉しそうに言った。

「何だか凄く入り辛いわ……お家に入る度に、いちいちこうしたギルドの入り口を経なければいけないのかしら……? そんなお家いやぁ……」

 そうこうしている間も巨大な冒険者ギルドの、我々世界で言うギリシャローマ建築風の柱が並ぶ豪華な入り口に出入りする人々が、トランクを両手に持って呆然と立ち尽くす一団を見て、この田舎者めがっ邪魔だ迷惑だっっ! という顔をして通り過ぎていく。

「フルエレさんご安心を! 新たなるご主人に、このギルドの喧騒をお見せしたくてお連れしたまでですよ、住人にはちゃんとVIP専用入り口がありますし、魔法エレベーターも完備してますから!」

 瓶底眼鏡を掛けたセレネが、にこやかにフルエレに解説する。

「魔法エレベーターですと!? エ、エ、エレガは居ますか?」

 砂緒が少し頬を紅潮させて尋ねる。

「いる訳無い、以上」

 セレネはフルエレと話す時とは全く違い、不愛想にぼそっと答えた。

「エレガとは何なのだ?」
「え、砂緒ってエレガフェチなの??」

 イェラと猫呼が嬉しそうに食い付いた。フルエレがちらっと冷たい目で見ている事に気付いた。

「何でもありませんから……」 

 皆はセレネに案内されてVIP専用入り口から魔法エレベーターを経て、ギルドマスター専用の七階オフィスに案内された。

「うっわ、すんごい見晴らし! ガチVIPよVIP!!」

 猫呼がイェラと共に大きな窓から外を見る。当然まだあちこちに破壊の後があった……

「あら、いらっしゃいセレネ、またそんな瓶底眼鏡を掛けて……魔力でいくらでも視力矯正出来るのに……部員さん達はお元気かしら?」

 如何にも超切れ者美人秘書という感じの女性がドアを開けて入って来る。ぴっちりとしたタイトスカートからすらりとした細い足が伸び、高いヒールを履いている。

「ピルラ……余計な事を言うな。それよりも新たなご主人様だぞ! 失礼粗相の無い様にな! 本当に素晴らしいお方なのだから、ちゃんと応接しないと承知しないよ!」

 セレネが旧知の仲らしき、美人秘書系のピルラという女性と話すと、まるで少女歌劇の男役の様にきりっとした話し方になっていた。

「あ、あのセレネ? なんか雰囲気が……それよりこの御方は??」
「あ、ああ、あ、この人はピルラと言って、この冒険者ギルドを事実上仕切る女性です。フルエレさんはご主人として、執事だと思って何でもこの女性に、偉そうに命令してくれて良いのです!」

 セレネはフルエレに話し掛けられると、いつもの様に赤面しておどおどする感じに戻った。

「この可愛い女の子が新しいご主人様ねえ?」

 ピルラがじろじろとフルエレを値踏みする様にみつめる。

「私の事を忘れ過ぎでしょうセレネ」

 砂緒が三人の間に立つ。

「あ、この生命体はフルエレさんの使用人ですから、無視してくれても良いです」
「ふ~ん? じゃあこの可愛い女の子があの魔ローダーに乗って、この街を破壊しちゃった噂の夜叉婦人なんだ……信じられないわね……」

 ピルラは遥かに年下の女の子が新たなご主人と聞かされても実感が無く、旧ニナルティナ王国壊滅に不満を持つ人々が、根拠無く難癖で言っている中傷をうっかり言ってしまう。

「私……わたしが……やった訳じゃないのに……皆の為に戦ったのに……」

 フルエレが俯いてぼそっと言うと、彼女の背中から凄まじい量の魔力が放出される。もし彼女が魔法が使えたとすれば、一瞬で皆が吹き飛ぶ程の魔力の量だった。ピルラはフルエレから放出される魔力の量だけで冷や汗が流れ始めた。

「はあはあ……何? 何者なの……??」
「フルエレを侮辱する者は私が絶対に許しませんよ!」

 ピルラが気付くと、この世界の魔法体系には存在しない電気系のほとばしる光を指先から放出し、凄まじい殺気を放つ砂緒が後ろに立っていた。そのままピルラはへなへなと床に座り込んだ。


「申し訳ありません。ご主人様、貴方達お二人は確かに、この冒険者ギルドの新たなマスターです。先程のご無礼お許し下さい。今後は手足と思い、何なりとお申し付け下さいませ」

 ピルラは改まって深々と頭を下げ挨拶をした。

「そ、そそそ、そんな、分かってくれれば良いの、なんだか悪いわ、ピルラさん頭を上げて!!」

 フルエレは急激になんだか申し訳無くなって、超高速で手を振った。

「も~なんでも良いけど、お腹が空いたの! 早くご飯食べて、私の新しいお部屋を教えて頂戴!!」
「私も風呂に入りたいぞ……」

 猫呼とイェラが割って入る。

「そうですね、それでは新居に引っ越した記念に、私も皆さんと一緒にお風呂に入りますか!?」

 突然砂緒が場面違いな事を言って皆が凍り付いた。
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