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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国
エピローグ あの方の声は…
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「ちょっと砂緒来てー!」
突然雪乃フルエレが砂緒を呼ぶ。
「あ、こら行くな!」
「行かせて上げたら~?」
イェラが止めるが猫呼クラウディアは行かせてしまった。砂緒は上の座席に移動すると、フルエレの後ろに陣取った。
「どうしたんですか?」
「これ見て、画面に変な文字が出て来たの、何だろう」
『日蝕白蛇輪』
「なんですかねこれ、この魔ローダーの名前でしょうか?」
「えーこの魔ローダーの名前? 長いわね」
「確かにぬるっとした長い名前ですね、もうヘビリンで良いではないですか?」
「しらへびちゃんがいいな……」
「ちょっとどんな事話してるのよ?」
「……い、いや、と、特に何も話して無いな……」
「エーーーそんな事無いでしょう!?」
イェラと猫呼は必死に聞き耳を立てていたという……
セブンリーフ大陸最北最東端に位置するリュフミュランの東の海岸から海を渡り、橋など架けられない程度にそこそこ離れた東の陸地に辿り着き、今やセブンリーフ大陸の殆どの人々が無人地帯だと思い込んでいる陸地をさらに東に行くと、猫呼クラウディアの父の元王国があった。さらにそこから南に向かい内海を辿り東に東に船で行き、内海の尽きる所、神聖連邦帝国の首都であり人々が幸せに暮らし、民の笑顔が絶えない大いなる聖都が在った。
その神聖連邦帝国の聖都、セブンリーフ大陸のどの王国の王城よりも巨大な宮殿のその主、第二百十二代聖帝の寝室……
「お父上、聖帝陛下、雲丹入りオートミールチーズリゾット風がお出来しましたのでお持ち致しました……」
侍女達を従え白い清楚なドレスを着た、長い黒髪の女性がしずしずと入室する。あけ放たれた窓に多く掛かるカーテン等でその顔はよく見えないが、絶世の美女の風情が漂う。
「雲丹入り等と……民の事を考え贅沢な食事はあれ程慎みなさいと申したろうに……」
「こ、これは申し訳御座いませぬ……すぐさま素のオートミールと交換致します……」
寝所に横たわる聖帝がさっと腕を上げた。
「……しかし私が食せず返せば捨てる事になろう……それではさらに民に申し訳が立たぬ、今日は有難く頂こうぞ……」
(もし残れば侍女達と頂く予定でした父上……)
美女らしき女性は何も言わず聖帝の言われるまま従う。
「ごほっごほっ……」
雲丹入りオートミールチーズリゾット風を静かに食し始めた聖帝がせき込む。医術に長けた侍女の一人が背中をさする。
「大丈夫で御座いますか? 父上……」
「済まぬ……せめてそなたの母が生きておれば……そなたばかりに苦労を掛ける事になってしまった」
「……それは言わぬお約束で御座います父上……」
黒髪の美女は父、聖帝の食事の様子を侍女達と見守り続ける。
「………………」
その美女の耳元に侍女の一人がそっと耳打ちした。
「どうしたのだ?」
「い、いえ聖帝陛下のお耳に入れる程の事では……家臣の者が無礼にも私に伝えたい事があると」
美女は父、聖帝の食事を遮る様な行為に畏まって恐れ入った。
「お行きなさい……そなたには政治軍事全ての政を託しておる。私の食事の世話等そなたがせずとも良いのだ……」
聖帝の娘である美女は病がちである、父神聖連邦聖帝に成り代わり政治軍事全てを司っていた。二百代を越える神聖連邦帝国聖帝の長い歴史の中で女帝こそ極々稀な例でしか無かったが、姫が政務を補佐する事自体は全く珍しい事では無かった。
「畏れ多い事で御座います。聖帝陛下のお心遣いに感謝致します」
美女は親子とは言え畏まって平伏して一礼すると、部屋を静かに退出した。
巨大な宮殿の、大いなる聖都が一望出来る見晴らしの良いテラスに美女は入った。風で美しい黒髪がなびく。
「なんですか邪叛モズ、お前等呼んだ覚えはありません。聖帝のお食事中にお控えなさい無礼者!」
長い髪のなびく後ろ姿の為にその顔こそ見えないが、絶世の美女の風情の漂うこの女性はかなり気位の高い厳しい女性のようでもあった。
「申し訳ありませぬ。この邪叛モズお呼び無きにも関わらず失礼この上なき、どの様な罰もお受けします、しかしどうしても姫殿下にお伝えしたき義があったゆえ、罷り越しました次第……」
「なんですか……言ってみなさい」
振り返らず、景色を眺めながら風になびく美しい髪をかきあげ家臣に命令する美女。
「はは、有難き幸せ。なにやら西の最果ての七葉島でニナルティナが突如滅亡したとの事!」
「それがどうかしたのですか……ニナルティナと言えば北の海を渡った飛び地で盛んに奴隷を売り捌いていたとの悪しき国、その様な野蛮の国が早晩亡びるのは当然でしょう……」
美女は全く動じず景色を眺め続けている。家臣と姫殿下と呼ばれる美女とはテンションが全く違っていた。
「……しかし、それだけでは無いのです、今回ニナルティナが滅亡した背景に、後ろでユティトレッドが関わっているとの事、ニナルティナの旧領はユティトレッドの事実上の支配下となるよしにて」
「それが……?」
美女がもはや多少怒気を感じさせる声で聞き返す。
「何か今回のニナルティナの滅亡、只の諍いでは無く、ユティトレッド王が裏で糸を引き、各国連携させるかの様な動きを見せているのです。セブンリーフ島に巣くう蜘蛛の様な原住民ども、一体何を考え……」
「お止めさない」
「はっ?」
「お止めさない!!」
ようやく振り返り、かなり怒気を放つ声で諫める。姫殿下の怒りに突如触れ、どうして良いかわからない家臣の男。
「原住民共とは何という言い種ですか? セブンリーフ島の彼らも我らと同じ言葉を話す兄弟、一つの家族なのですよ……聖帝陛下も常にそう仰っておられます。お前の様な者がいるからクラウディアの王女の様に、恐れ戦いて姿を隠す者が出て来るのです……魔王討伐に追加派遣した瑠璃ィにも、当地の人々とくれぐれも友好的にする様固く言い付けてあります」
「は、ははっ」
聖帝の言葉と言われ一層畏まる男。
「彼の地の人々にも大切な文化があり、深い考えがあり、人々の繋がりがあり、愛や恋の物語があるのですよ……」
「は、はぁ……??」
遠い地の人々の事など歯牙にも掛けない家臣の男には、いまいち伝わっていない様だ。
「何かあろうと当地のまつりごとに私達が勝手に口出ししたり、手出ししたりして良い物では無いのです……もし、先程の様な口を私の前で再びきけばその首を即刻刎ねます」
「は、ははっっ! こ、これはモズ考え違いを必ず改めまする!!」
姫殿下の鋭い目の光を見て家臣の男は本気だと悟り深く謝罪した。
「近頃ナノニルヴァの津にて飢えている者がいると聞きます、すぐさま大量に獲れる蛸の入った丸い食べ物を配るのです!」
「ははっ、すぐさまナノニルヴァの津にて蛸の入った丸い食べ物を配布致しまする!」
邪叛モズは深く頭を下げると急いで命令を実行する為に向かった。
― 一書に曰く、これが多幸焼のはじまりと伝わる。
「ふふっ」
家臣の男が去った後も、テラスから聖都の街並みを眺めていた姫殿下と呼ばれる女性が、突然笑い出した。慌てて周囲の侍女達に気取られぬ様に口元を手で隠す。
「何か御座いましたか?」
しかし侍女の一人が運悪く聞いてしまっていた。
「何でもないの……」
姫殿下はさも高所から人々を眺める聖女の面持ちを崩さずに侍女に応えた。
(恋などと……)
姫殿下と呼ばれる女性は『愛や恋の物語があるのですよ……』等と邪叛モズに言った事を思い出し、愛や恋など自分自身に全く関係の無い事なのに、大仰に言って可笑しくって思わず笑ってしまっていたのだ。
「……ゆうて」
姫殿下は多く立ち上る工場の煙や交通の賑わいを眺め続けた。その声は雪乃フルエレと全く同じ声だった。
突然雪乃フルエレが砂緒を呼ぶ。
「あ、こら行くな!」
「行かせて上げたら~?」
イェラが止めるが猫呼クラウディアは行かせてしまった。砂緒は上の座席に移動すると、フルエレの後ろに陣取った。
「どうしたんですか?」
「これ見て、画面に変な文字が出て来たの、何だろう」
『日蝕白蛇輪』
「なんですかねこれ、この魔ローダーの名前でしょうか?」
「えーこの魔ローダーの名前? 長いわね」
「確かにぬるっとした長い名前ですね、もうヘビリンで良いではないですか?」
「しらへびちゃんがいいな……」
「ちょっとどんな事話してるのよ?」
「……い、いや、と、特に何も話して無いな……」
「エーーーそんな事無いでしょう!?」
イェラと猫呼は必死に聞き耳を立てていたという……
セブンリーフ大陸最北最東端に位置するリュフミュランの東の海岸から海を渡り、橋など架けられない程度にそこそこ離れた東の陸地に辿り着き、今やセブンリーフ大陸の殆どの人々が無人地帯だと思い込んでいる陸地をさらに東に行くと、猫呼クラウディアの父の元王国があった。さらにそこから南に向かい内海を辿り東に東に船で行き、内海の尽きる所、神聖連邦帝国の首都であり人々が幸せに暮らし、民の笑顔が絶えない大いなる聖都が在った。
その神聖連邦帝国の聖都、セブンリーフ大陸のどの王国の王城よりも巨大な宮殿のその主、第二百十二代聖帝の寝室……
「お父上、聖帝陛下、雲丹入りオートミールチーズリゾット風がお出来しましたのでお持ち致しました……」
侍女達を従え白い清楚なドレスを着た、長い黒髪の女性がしずしずと入室する。あけ放たれた窓に多く掛かるカーテン等でその顔はよく見えないが、絶世の美女の風情が漂う。
「雲丹入り等と……民の事を考え贅沢な食事はあれ程慎みなさいと申したろうに……」
「こ、これは申し訳御座いませぬ……すぐさま素のオートミールと交換致します……」
寝所に横たわる聖帝がさっと腕を上げた。
「……しかし私が食せず返せば捨てる事になろう……それではさらに民に申し訳が立たぬ、今日は有難く頂こうぞ……」
(もし残れば侍女達と頂く予定でした父上……)
美女らしき女性は何も言わず聖帝の言われるまま従う。
「ごほっごほっ……」
雲丹入りオートミールチーズリゾット風を静かに食し始めた聖帝がせき込む。医術に長けた侍女の一人が背中をさする。
「大丈夫で御座いますか? 父上……」
「済まぬ……せめてそなたの母が生きておれば……そなたばかりに苦労を掛ける事になってしまった」
「……それは言わぬお約束で御座います父上……」
黒髪の美女は父、聖帝の食事の様子を侍女達と見守り続ける。
「………………」
その美女の耳元に侍女の一人がそっと耳打ちした。
「どうしたのだ?」
「い、いえ聖帝陛下のお耳に入れる程の事では……家臣の者が無礼にも私に伝えたい事があると」
美女は父、聖帝の食事を遮る様な行為に畏まって恐れ入った。
「お行きなさい……そなたには政治軍事全ての政を託しておる。私の食事の世話等そなたがせずとも良いのだ……」
聖帝の娘である美女は病がちである、父神聖連邦聖帝に成り代わり政治軍事全てを司っていた。二百代を越える神聖連邦帝国聖帝の長い歴史の中で女帝こそ極々稀な例でしか無かったが、姫が政務を補佐する事自体は全く珍しい事では無かった。
「畏れ多い事で御座います。聖帝陛下のお心遣いに感謝致します」
美女は親子とは言え畏まって平伏して一礼すると、部屋を静かに退出した。
巨大な宮殿の、大いなる聖都が一望出来る見晴らしの良いテラスに美女は入った。風で美しい黒髪がなびく。
「なんですか邪叛モズ、お前等呼んだ覚えはありません。聖帝のお食事中にお控えなさい無礼者!」
長い髪のなびく後ろ姿の為にその顔こそ見えないが、絶世の美女の風情の漂うこの女性はかなり気位の高い厳しい女性のようでもあった。
「申し訳ありませぬ。この邪叛モズお呼び無きにも関わらず失礼この上なき、どの様な罰もお受けします、しかしどうしても姫殿下にお伝えしたき義があったゆえ、罷り越しました次第……」
「なんですか……言ってみなさい」
振り返らず、景色を眺めながら風になびく美しい髪をかきあげ家臣に命令する美女。
「はは、有難き幸せ。なにやら西の最果ての七葉島でニナルティナが突如滅亡したとの事!」
「それがどうかしたのですか……ニナルティナと言えば北の海を渡った飛び地で盛んに奴隷を売り捌いていたとの悪しき国、その様な野蛮の国が早晩亡びるのは当然でしょう……」
美女は全く動じず景色を眺め続けている。家臣と姫殿下と呼ばれる美女とはテンションが全く違っていた。
「……しかし、それだけでは無いのです、今回ニナルティナが滅亡した背景に、後ろでユティトレッドが関わっているとの事、ニナルティナの旧領はユティトレッドの事実上の支配下となるよしにて」
「それが……?」
美女がもはや多少怒気を感じさせる声で聞き返す。
「何か今回のニナルティナの滅亡、只の諍いでは無く、ユティトレッド王が裏で糸を引き、各国連携させるかの様な動きを見せているのです。セブンリーフ島に巣くう蜘蛛の様な原住民ども、一体何を考え……」
「お止めさない」
「はっ?」
「お止めさない!!」
ようやく振り返り、かなり怒気を放つ声で諫める。姫殿下の怒りに突如触れ、どうして良いかわからない家臣の男。
「原住民共とは何という言い種ですか? セブンリーフ島の彼らも我らと同じ言葉を話す兄弟、一つの家族なのですよ……聖帝陛下も常にそう仰っておられます。お前の様な者がいるからクラウディアの王女の様に、恐れ戦いて姿を隠す者が出て来るのです……魔王討伐に追加派遣した瑠璃ィにも、当地の人々とくれぐれも友好的にする様固く言い付けてあります」
「は、ははっ」
聖帝の言葉と言われ一層畏まる男。
「彼の地の人々にも大切な文化があり、深い考えがあり、人々の繋がりがあり、愛や恋の物語があるのですよ……」
「は、はぁ……??」
遠い地の人々の事など歯牙にも掛けない家臣の男には、いまいち伝わっていない様だ。
「何かあろうと当地のまつりごとに私達が勝手に口出ししたり、手出ししたりして良い物では無いのです……もし、先程の様な口を私の前で再びきけばその首を即刻刎ねます」
「は、ははっっ! こ、これはモズ考え違いを必ず改めまする!!」
姫殿下の鋭い目の光を見て家臣の男は本気だと悟り深く謝罪した。
「近頃ナノニルヴァの津にて飢えている者がいると聞きます、すぐさま大量に獲れる蛸の入った丸い食べ物を配るのです!」
「ははっ、すぐさまナノニルヴァの津にて蛸の入った丸い食べ物を配布致しまする!」
邪叛モズは深く頭を下げると急いで命令を実行する為に向かった。
― 一書に曰く、これが多幸焼のはじまりと伝わる。
「ふふっ」
家臣の男が去った後も、テラスから聖都の街並みを眺めていた姫殿下と呼ばれる女性が、突然笑い出した。慌てて周囲の侍女達に気取られぬ様に口元を手で隠す。
「何か御座いましたか?」
しかし侍女の一人が運悪く聞いてしまっていた。
「何でもないの……」
姫殿下はさも高所から人々を眺める聖女の面持ちを崩さずに侍女に応えた。
(恋などと……)
姫殿下と呼ばれる女性は『愛や恋の物語があるのですよ……』等と邪叛モズに言った事を思い出し、愛や恋など自分自身に全く関係の無い事なのに、大仰に言って可笑しくって思わず笑ってしまっていたのだ。
「……ゆうて」
姫殿下は多く立ち上る工場の煙や交通の賑わいを眺め続けた。その声は雪乃フルエレと全く同じ声だった。
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