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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国

引っ越しのお誘い 3 出立~有閑の七華~

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 衣図いずライグやリズらライグ村義勇軍の人々と、猫呼ねここを慕うリュフミュラン王立冒険者ギルドの登録者の面々やメランが揃って、砂緒すなおと雪乃フルエレとイェラと猫呼クラウディアの出立を見送りに来ていた。

「いきなり国政に参加なんて偉くなってしまって、手の届かない人になってしまったわね」

 リズがハンカチで目頭を押さえながら、しみじみと言った。しかし実際には衣図とリズはニナルティナから割譲された東半分の領土を実質的に支配下に収めつつあり、地位は確実に向上していた。

「ちょちょちょちょ、止めて下さい! お飾り的な物なんです! 全然偉くなんて無いんですよ!」

 フルエレが赤面して超高速で首を振る。

「はははははは、これからは口の利き方に気を付けるのですね!」

 砂緒が調子に乗って指をさす。

「やめなさい」

 即座にフルエレがその指を下に叩き下ろす。

「大丈夫よ気にしていないわ! でも偉くなったのならこれまでに便宜を図った賃料や魔法の腕輪の代金など請求するわね」
「え!?」
「冗談よ!! 歳の近い妹の様に思っていたわ! 何時でも帰って来てね!」
「ありがとう……ございます」

 二人は抱き合った。

(娘では?)
(娘だよな??)

 周囲で聞いていた誰もが、聞き間違いかと思ったが口には出さなかった。

「砂緒! また一緒に戦おうぜ! 戦う相手が居ればの話しだがな!」

 衣図は恥ずかしいのか短めの挨拶で砂緒と腕を組むと、すぐにその場を離れた。

「猫呼さんイェラさん、冒険者ギルドは私達が守ります! 三代目主人として!!」

 勝手に新たな冒険者ギルドの主人に就任したメランが手を振った。

「ありがとうね! 濃い魔ローダーの修理が済んだら絶対に連絡するからね、遊びに来てね!」

 猫呼とイェラは一通り挨拶すると、植土ウェドが組んだコンテナに入り込んだ。中には砂緒とフルエレが買い揃えた調度品や、家具や生活用具がぎっしり詰まっていた……

「うえ……これに入るの?? 嘘でしょ」
「少しの辛抱だ、我慢しろ猫呼」

 言ったイェラもちょっとゾッとした。

「ではさよーならー!」

 ハッチを開けたままの魔ローダーでコンテナを小脇に抱えると、人々が見えなくなるまで手を振りながら歩いて旅立って行った。その後を巨大な二本足の怪鳥に乗ったセレネが付いて行った。

「行ってしまった……なんだかもうあの二人に会えなくなる気がするの……」
「不吉な事をいうなよ! 門出を祝ってやれや!」

 衣図はリズの肩を抱き寄せた。


 30分後。

「あれ……もう戻って来やがった!」

 ギルド前広場でたむろしていた人々の前に突然魔ローダーが舞い戻って来た。

「あはは、これ忘れてたの。これが一番大事、これ無いと歩くのめんどい……」

 フルエレは開いたままのハッチから言い訳しつつ、駐輪場に置いたままの魔輪を潰さない様に指先でつまむと、コンテナに押し込もうとした。

「死ぬ!?」
「オエーーーー!! 操縦席に入れろ!!」

 蓋を開けるとコンテナから転げ出て来るイェラと猫呼。当然さっき見送った人々とすぐさまの再会となった。

「うわ……凄い気まずいだろ……」

 イェラは頭をかいて再び義勇軍の連中と軽く挨拶をすると猫呼を抱えて掌に乗った。

「なんでお前が操縦席で私達がコンテナなのだ! ふざけるな今すぐ乗せろ!」
「それは気付きませんでしたね、ではどうぞお入り下さい」

 イェラと猫呼が砂緒の下の席に入ると、いっぱいいっぱいになった。

「飛べば一瞬なのですが、フルエレが疲れるといけないので、滅多に飛ばない事にしたのです。それでもすぐに着くでしょうが、座席には猫呼が座りなさい。私はフルエレの席に行きます」
「行くな! ……上で妙な事始められたら気まずいからな……」

 イェラは砂緒の腕を掴んで制止する。未だにイェラは二人の事を誤解していた。

「もう行くわよ! 恥ずかしいけど、もう一回皆に手を振って!!」

 フルエレが赤面しながら下の座席の連中に言った。

「な、なんだかな……」

 出発組の四人は再び手を振って、今度こそ旅立った。



「何と言う不届き者でしょう!! 七華しちか王女に挨拶も無く逃げる様に去って行くとは! 軍を差し向けるべきです!」

 リュフミュランの王城、七華リュフミュラン王女の部屋では、侍女の頭が憤懣やるかたないと言った感じで、土台無理な事を言っていた。

「お止めなさい……はしたない」
「しかし! 恐れながらあの男は王女と寝所を共にしながら謝罪も挨拶も無くこの地を去って行くのです、我が事の様に悔しいです……」

 簡単に手懐けたと思っていた砂緒が挨拶も何も無く、電話を途中でプツッと切る様に関係を断ち切って消えた事は七華自身もショックを感じていたが、当然表には出さなかった。

「もうおよしなさい……私はもう忘れかけておりました。私にとって……ただの遊びの……一つでした……わ……」 

 七華は目を閉じると、一瞬だけ心配した砂緒がドアを開けて寝室に飛び込んで来た場面を想像して思い返したが、もう忘れようと首を軽く振った。

「何か面白い事を……探して頂戴……」

 七華はポツリと言うと天井を見つめた。



 ―月面

「うーさぎ、美味し~い、カロや~ま……カロ山って……何処?」

 月面で魔ローダーの足跡にちょこんと座った兎幸うさこは、偶然持っていた乾燥してガッジガジになった月見団子をUFOから取り出すと、月面から見える地球の様な星を見ながら、ガリガリと食べ始めた。

「一人で帰るか……迎えを待つか……それが問題……ね」

 食べ終わると兎幸は足をバタバタさせて頭を抱えて寝転んだ。寝転んで上を見ると沢山の星があった。
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