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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国

~とどめを刺す、再生へ~ ~裁定、残った禍根~

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「何かややこしい事になっていますね。ル・二の周囲に魔戦車が陣取っています」
「各国の軍隊がル・二ル・ツーを武装解除しようとしてるのね……」
「どうしますか?」
「え、私が決めるの? 砂緒すなおが決めて欲しいわ……」
「ではこのままル・二の操縦席辺りにこの鉾を突き刺してみます」

 言うな否やいきなり魔ローダーが鉾を振り上げた。

「ふわー止め止め。駄目です。禁止です」

 フルエレが念じて鉾を振り下ろす動作をロックする。

「ほら、またですよ。私が言った事は大抵禁止じゃないですか。私はフルエレに尽くして尽くして尽くし続けですが、フルエレは本当に私の望みは大抵拒否しますよね。何もしてくれないです」
「……そんな言い方しなくたって」

 上の操縦席からのフルエレの声が悲し気に変わったので慌てる砂緒。

「あ、いいえ、違うのです。違うのです。よく考えたら猫呼ねここの事もありましたし、出来れば生け捕りにしましょうか」
「そうよね!」

 途端に明るくなったフルエレの声。

「構わん、連中は敵では無い文句は無いはずだ、連中に当たらん様に撃て!!」

 そんな会話をしている最中だった、いきなりメドース・リガリァ軍の魔戦車がル・二に向けて攻撃を再開した。
 ドドドドドオーーーン

「うわ、あっぶな~い、私達に当たるでしょう……失礼ね……」
「当たっても痛くも痒くも無いとは言え、確かにカチーンと来ますね」

 二人の魔ローダーはル・二に猛攻撃を加える魔戦車達をぼーっと眺めた。神々しく降臨した割には形無しな状態になっていた。

「どうしますか? 魔戦車を二~三カチ割ってみますか?」
「いやそれは駄目です!」

 等と再び言い合いしている時だった、二人の魔ローダーが接近した事でアラートが鳴ったのか、今まで動きを止めていたル・二が突然動き出した。動くと言っても項垂れた状態で肩を左右にぐりぐり動かし、なんとか起き上がろうとする足掻きの様な動きだった。

「うわ、動いた。危険なので止めを刺します、良いですね?」

 砂緒が許可を取る間も大きな剣を振り上げ、魔戦車に対して威嚇する様な動きをするル・二。

「分かったわ……私も砂緒と一緒に止めを刺します。横に来て欲しいわ」
「ようやく分かってくれましたか」

 すぐに下の通路から這い上がって来た砂緒は、フルエレの座る操縦席の後ろから操縦桿に手を重ねた。

「では一緒にまずはこの大きな剣を無効化しましょうか。肩を狙いましょう!」
「……はい」

 二人が念じると大きな鉾をゆっくり振り上げ、そのまま暴れ始めたル・二の剣を握る肩に向けて鉾を突き刺した。
 ズギュル!
表現の難しい鈍い音と共に巨大な鉾が肩に突き刺さると、そのまま抉る様に回転させ、剣を握っていた方の肩を完全に切り落とした。
 ズシャッ、ゴキーーーーン!!
ル・二の腕と大きな剣が砂浜に崩れ落ちる不気味な音がした。同時に冷却液だか機械油だか何かがブシューっと噴き出した。

「なんだか機械なのに気持ち悪いわ……」
「はははははは、初めての共同作業がこれとは、なんだかおあつらえ向きな気がしますよ」
「よし、外れた肩の内部を狙え! 撃て撃て撃ちまくれ!!」

 すかさず魔戦車部隊に攻撃を指示するメドーサ・リガリァの司令官。二人の魔ローダーを無視する形で猛烈な攻撃が繰り広げられる。

「言っては悪いけど……なんだか鬱陶しいわね……これ」
「私もフルエレと全く同じ意見です」

 ウィーーン、グイイイーーン
片腕を無くしたル・二が再び突然動き出し、もがく様な動きを始めた。

「このままでは周囲に被害を出しかねません。動かない様に片足を潰します」
「いいわ、分かったわ」

 そう言うと二人の魔ローダーは片足を上げ、ル・二の太もも辺りを思い切り踏み潰そうとする。
 ゴシャッ!!
しかし魔ローダーの重みと踏む力を持ってしても潰すまでには至らない。

「突き刺します!」
「うん……」

 再び大きく鉾を振り上げると、ゆっくりと狙いを定め、自らの機体の足で押さえる太ももの付け根に向けて鉾を突き入れる。
 ブシューー!!
再び大量の機械油か何かが噴き出す。片腕と片足を完全に切り離されたル・二はその場に崩れ落ち、完全に動きを止めた。もはや機械として完全に機能を失った様だった。

「……操縦席を無理やり開けてみますか」
「そうね、砂緒に任せるわ」

 二人の魔ローダーがしゃがみ込み、片膝を着いてル・二の操縦席のハッチと思しき辺りに指を掛けた。

「撃て!!」

 二人の魔ローダーがハッチを毟り取ろうとするのを見計らう様に再び魔戦車部隊が攻撃を開始した。ここで繊細な癖にキレやすいフルエレが突然ぶち切れた。

「もう良い、止めろ!! 下がれ!!!」

 魔法外部スピーカーから大音響が流れ、一瞬攻撃が止んだ。

「構うな! 従う道理は無い! 撃ちまくれ!!」

 その声でフルエレがさらに切れた。

「砂緒、雷を出して。鉾を振り下ろす瞬間に雷を出して!!」
「いいですね! 面白そうです。魔戦車部隊全滅ですか?」

 フルエレが鉾を振り上げた瞬間に砂緒は雷を出した。砂緒はフルエレの指令が嬉しくてフルエレに影響があっては駄目だと同席では控えていた事を思い出したが、威力をなるべく抑えて出した。

「下がれ!! こうなりたいかっ!!」

 フルエレが鉾を海に向けて振り下ろすと、近くの小島に猛烈な太い雷が落下し、凄まじい爆発と衝撃波と轟音が周辺を襲った。

「きゃーーーーー!!」
「何をしているのだ」

 成り行きを見守っていたイェラが猫呼を庇う。凄まじい爆発を見てようやく魔戦車部隊の攻撃が止んだ。

「攻撃が止まりましたね、ここで各国軍に引き下がる様に促しましょうフルエレ」
「え、私が??」
「こういうのは女性の方が丸く収まる物です」
「分かったわ……」

 シーンと静まりかえる魔戦車に向けて少し歩くと鉾の柄を地面に突き立てた。

「各国の軍隊はご苦労でありました。旧ニナルティナの統治は最初からリュフミュランとユティトレッドが共同で行うと取り決めておりました……」

 操縦席内で緊張するフルエレは大きく息を吸った。

「中部各国の軍隊の皆様はこのままこの地に留まる事は私が許しません! 今すぐに引き返し、それぞれの国に戻るのです」
「そんな話が通るか! その濃い魔ローダーはメドース・リガリァが仕留めた! それは渡してもらうぞ!」

 メドース・リガリァの指揮官が最後までしつこく食い下がる。

「お黙りなさい!! この群青色魔ローダーは私達が仕留めた私達の獲物です。嘘を付くのは止めなさい。今すぐ引き下がらないのならば、そのメドース・リガリァという国をすぐさま焼き尽くして来ます。良いのですね?」
「ぐぬうう……なんたる言い草。北でぬくぬくと贅沢三昧をしながら何を言うか……南から攻め上る魔王軍を防いでいるのは中部の我々ではないか……」
「司令官殿、ここは堪えて下さい。あの魔ローダーの力は尋常ではありません」
「……判った……しかしこの軍派遣に反対しておられた美しき優しき王女になんとご報告すれば良いのだ……領土の一つも献上出来ず……この屈辱絶対に忘れんぞ。どんな手を使っても借りは必ず返す」

 メドース・リガリァ軍の指揮官は恐ろしい形相で魔ローダーを見上げると、全軍に撤退を命令した。中部で一番躍起であった同軍の撤退によって、各国の軍は潮が引く様に撤退を始めた。

「魔法スピーカー切り。はぁ~~上手く行って良かったわ……」
「フ、フルエレ、最高です! ははははははは、国を焼き尽くす等とほぼ悪役の台詞ではないですか。傑作過ぎて抱きしめたいですよ」

 座席の後ろで砂緒が腹を抱えて爆笑している。

「止めて! 酷かったかしら? 今の人達に嫌われたかしら? 走って行って謝った方が良いかしら??」

 突然弱気になったフルエレがおろおろし始める。

「良いです良いです。どうせ大したこと無い連中でしょう。放っておけば良いのです」
「話している内になんだか役柄にノッてしまって……厳しき高貴をイメージしてみました」
「それで良いのですよ。高貴なフルエレもとても素敵でした。好きですよ」
「そ、そうかしら……」

 ブシューーーー!!!
二人がいつもの様に馬鹿なやり取りをしている最中だった、ル・二の体中から猛烈に霧状のガスが噴き出し、辺り一面真っ白な世界になり視界が遮られた。魔戦車と各国軍が去り、最後の力を振り絞り中に乗る三毛猫が血路を開く為の最後の足掻きだった。

「またこのパターン! 逃がすか!!」

 砂緒が辺りの白い霧に向かって闇雲に鉾を振り回そうとした。

「駄目っ!! 生身の人間に向かって魔ローダーで攻撃しては駄目っ!!」
「何故っ相手は三毛猫ですよっ!!」
「それをしてしまったら本当に後戻り出来ないのよ、絶対に止めて……」

 再び二人の操縦が対立し、魔ローダーは動きをロックした。

「私はフルエレの事が本当に好きですが、少しは私の意見も聞いて欲しい物です……」
「……ごめんなさい」
「開けます! フルエレは出ては駄目ですよ! 直ぐに閉じて下さい」

 砂緒は無断でハッチを開けると躊躇なく飛び降りた。

「あっ砂緒! 待って!!」

 フルエレの声を無視して飛び降りた砂緒は、ズシャッと着地すると闇雲に辺りを走り回る。


 ボヨン!
いきなり砂緒の顔に覚えのある感触が当たった。

「うわ!?」
「砂緒か? おい心配したぞ! フルエレはどうした??」

 イェラは大きな胸で砂緒を受け止めぎゅっと抱き締めた。

「いえ、ちょっと嬉しいですが、今は離して下さい。この辺りに三毛猫が逃げています!」
「何!? 猫呼は?? おーーい猫呼!! どこだ??」

 イェラは霧の中で猫呼を見失っていた……

「二手に別れて探しましょう。イェラ、三毛猫は女好きの変態です。気を付けて下さい」
「舐めるな、これでも私もそこそこ強いのだ。それより猫呼が心配だ、急げ!」
「はい……では」

 砂緒は一瞬、霧の中で突っ立つ魔ローダーと目の前を走り去る頼もしいイェラを見比べた。フルエレが好きなのは当然だがイェラも好きで、人間の心を持ち始めたばかりの砂緒にとって、二人に対しての好きがどう違うのか、区別が良く分からなくなって来ていた。

「おやおや、こんな所で……ツッ、突っ立って、何をしているのですか?」

 声がする方を振り返ると、見るからにボロボロの三毛猫が口だけで無理に笑顔を作って立っていた。

「貴様……全身骨折とかしてるんじゃないんですか? 立っているのが大変そうに見えますが」

 砂緒の指先から電気がほとばしる。

「お待ちなさい! こんな霧が出ている状態で雷を使うとお友達達に影響があるかもしれませんよ! 先程の美人巨乳お姉さんとかにね」

 歪んだ笑いを見せる三毛猫。しっかりイェラの事を把握されていて、一瞬で殺意が湧いた。

「足腰ガタガタの今のお前なら殴れるかもしれませんよ!」

 砂緒は電気のほとばしりを消し、拳を白く透明化させた。

「おっと……こんな事する為に現れた訳では無いのです。耳よりな情報を一つ、今頃七華しちか王女が部屋の中でどうなっているのか……お知らせしたくて……ククク、ツッ」

 砂緒の顔から血の気が引いた。

「七華に……何かしたのか? おい!! 言え!!」
「ククククク……」
「こら待て!! 七華がどうしたんだっ!! 言えーーー!!!」

 笑い声を残して三毛猫は濃い霧に姿を消した。砂緒は一瞬にしてフルエレ、イェラ、七華誰に向かって走れば良いのか分からなくなってしまった。
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