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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国

対決 4 抑えられないきもち… だめっっ戦闘中に抱き締めないで…

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 ニナルティナ港湾都市西部で、ユティトレッド王立魔導学園討伐部部長の長髪制服少女は剣を地面に突き立てて、ぜえぜえ言いながら6匹目のサーペントドラゴン退治を終え休憩していた。

「部長もうこれくらいで良いでしょう、もうここらで撤退しませんかあ?」

 かなり消耗した子分ぽい部員の少女が力なく言った。

「いや、下手すりゃこのドラゴン共を倒せるのは、あたしらだけかもしれない。私は血を吐いてでもやるよ。帰るって言うなら帰りな」

 部長の制服少女は剣を杖にしてよろよろと立ち上がった。

「他国の為にここまでする必要ないっスよ! 帰りましょうよ!!」

 別の子分ぽい部員少女も両手をグーにして涙目で訴える。その間もあちこちの建物から炎が上がっている。

「自国とか他国とか関係ないね、いっぺん見ちまったらもう放っておけないよ私は! 困っている人達を絶対に放っておかない!!」

 割と殆ど自分の事しか考えていない砂緒やフルエレよりか、よっぽど英雄的な志を持ち剣を引き抜いた部長の制服少女は、そのまま遠くに見える竜に向かって走り出す。

「かっこ良いんだけど、マジでもう無理だってば!!」
「部長神だけど無理!」

 部員達も仕方なくよろよろと部長の後ろを走って行った。


 ニナルティナ港湾都市南部入り口。砂緒すなおや雪乃フルエレに救われ、屋台街があるニナルティナ中川の大中州より南下したリュフミュラン正規軍と、ニナルティナ中部に存在する王都のハルカ城から北上した衣図いずらの義勇軍と冒険者部隊が合流し、ずらっと魔戦車を並べこれ以上サーペントドラゴン達が南下しない様に防衛線を張っていた。さらにはイェラや猫呼ねここクラウディアや冒険者らの決死隊が、怪我人救助や住民避難に当たっていた。

「うわ~~ドラゴン達が付いて来て南下して来たよ~、砂緒さんやフルエレさん達はあれからどうなっちゃったのかしら」

 魔戦車から顔を出し後ろを見ているメランが言った様に、港湾都市で暴れまくるフルエレが打ち漏らした多数の竜達が行動範囲を広げ、とうとう南下を始めていた。遠くに見える燃えるタウンハウスや高級アパートや数階建てのビルの向こうから、どすんどすんと巨大な足音を立てて近寄って来る。

「案外あっさり死んじゃってたりして……」

 砂緒の事を良く思っていない回復職の少年がつい言ってしまう。

「なんて事言うの!? 私達を逃がす為に戦ってくれてるんだよ、今すぐ降りてっ!」

 突然の今すぐ降りてという過激な言葉に心臓が飛び出る程の衝撃を受ける少年。

「え、そんなの冗談だよ……ごめん、取り消すよ」
「私も言い過ぎたかも。今から死ぬかもしれないのに、喧嘩して死ぬのは嫌だよね……私こそごめんね」
「はい、お二人さん集中しましょう。今から狂ったように強化魔法かけまくりますんで、攻撃と回避に全力を尽くして下さいよ」
「うん」
「はい」

 冷静な魔法剣士の少年に諭されて車両内は緊張に包まれた。

「よ~し、まだだぜ、まだまだ十分引き付けてからだ」

 速き稲妻ことメランの魔戦車が復帰し、衣図が迫る竜達を見上げて攻撃開始の合図の為に腕を引き上げる。

「よし氷結弾、物理弾交互、撃て!!」

 衣図が腕を振り下ろすと同時に、各部隊長に伝達されて一斉に射撃が開始される。ずらっと並んだ魔戦車を中心に、攻城用の大型魔法を撃つ中級の魔導士も混じり、凄まじい量の火力で集中砲火を浴びせる。
 ドドドドドドドーーーン!!! ズズズズーーン シャシャシャシャキシャキシャキーーン
 ブラストと氷結系の霧と爆煙が混じり、状況が良く掴めなくなり攻撃が一旦停止される。

「効いててくれたらいいよな~~」

 衣図が頼りない本音を漏らす。
 ズーン、ズズーンン

「ああ、だめだこりゃ……」

 足音に衣図が頭を抱えると、煙の中から巨大なサーペントドラゴンのシルエットがぬっと現れる。

「全軍後退!!」

 騎馬や騎士や魔導士が後退を開始した後に魔戦車もギュワーっと全力で後退を開始する。

「うわ、スピードアップして来た!!」
「ふ、踏まれる!?」

 各魔戦車の車両内が恐慌状態に陥る。もはや怪獣映画の様に数十秒後から数分後には踏まれたり、炎を吐かれて焼かれる運命しか無い様だった。

「メランさん! 僕君の事が好きです!!」
「ええ、このタイミングで!?」

 突然の回復職の少年の告白に魔法剣士の少年は驚いた。

「ごめんなさい……そんな風には……友達としか……」

 覗き窓から見える迫る竜を凝視しながら、振り返りもせずあっさりと振ってしまうメラン。

「しかもこのタイミングで振っちゃうんだ!?」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああ」

 回復職の少年が頭を抱えて号泣する。

「メ、メラン空気読んで!? 駆動力の回復職さんが発狂したでしょ、嘘でも良いからOKしてよ!?」
「もう……駄目みたいね、みんなで手を繋ぎましょう」

 発狂する回復職の少年の頭にメランの手が乗せられた。仕方なくその手を握り返す少年。メランの覗き窓からは目前に迫る竜の巨大な足が見えている。

「いや、僕なんて位置的に手も繋げませんけど!?」

 車両の一番後部に乗る魔法剣士の少年は仕方なく目をつぶり両手を合わせて祈った。
 ドドドドドドドドドドーーーーーーンンズズズズズズズズーーーンン……
本当に竜達の足が魔戦車にかかるかの寸前だった。突然暗い空から巨大な凄まじい雷が何本も何本も落ちて来て、狙い澄ました様に各サーペントドラゴンを捕らえて一瞬で焼き尽くした。

「きゃあああああああああああああ!!!」

 突然の凄まじい轟音と閃光に魔戦車車両内はパニックに陥った。

「え、これ死んだ? 死んだって事!? これが天国的な??」

 一番後ろに乗る魔法剣士の少年が冷静に実況を行う。

「全力後退続けて!! 死体が倒れる!!」
「はい!!」

 距離が有る為か、威力の差か、魔戦車が全て蒸発した様には行かず、巨大な死体がズーンズーンと倒れていく。

「砂緒やりやがったな……どんな力だこりゃ……怖いくらいだぜ」

 衣図が次々倒れていく竜達の死体を見て驚嘆していた。状況はユティ学討伐部が居る西部でも同じ事だった。魔力が尽きて剣のみで攻撃をかわしながら、なんとか防戦を続けていたが、もう寸での所でやられる場面であった。

「何故!? 何故突然空から雷が何本も落ちて来てドラゴンが全部倒れた?? 何が起こった??」
「部長の英雄的行為が神に届いたっスよ!」
「奇跡ス奇跡!!」

 部員達が両手を合わせて、天を仰いで涙を流した。

「んな便利な事があるかっっ!」

 部長は助かって何故か腹を立てた。


「スースーzzzzzz」
「ん、兎幸うさこには全く影響は無い様ですね、頑丈な子で良かったですよ」

 砂緒の電気攻撃にも全く影響されず、すやすや眠る兎幸を確認すると砂緒はシャッターを開けて上の操縦席に上り、再び雪乃フルエレの座席の後ろに立った。

「砂緒凄いよ! 竜達が全て活動停止になったみたいだわ!」

 フルエレが画面上のカーソルの色が赤に変わった事を教えてくれた。

「奴にも効いていますかね?」

 画面の中央に座り込む三毛猫仮面の乗る魔ローダー、ル・二ル・ツーが見える。

「効くかーーーーーっ!!」

 突然立ち上がるル・二。

「効いて無かったーーーーーーっ!?」

 操縦席で二人同時に背中がびくっとしてびっくりする。そのままル・二は自分の外れた肩を掴むと、忍者の様にガチッと押し込み外れた肩を治してしまった。

「本当に不死身なのか……」

 リュフミュランの王城で変態行為に及んだ三毛猫を電撃で黒焦げにしたにも関わらず、走って逃げる場面を見て三毛猫は不死身ではと思った砂緒が、再び驚異的な回復力を目撃して驚愕する。

「では私がちゃんと戦いましょう。しかしどうしましょうか? フルエレが魔力供給しないと動かないですが……」
「そうだわ、私が前に座るから、貴方が座席の後ろの方に座って! 窮屈だけど我慢して」
「………………え?」

 フルエレの余りに斬新で無防備な提案に驚く。座席の前の方に座ったフルエレが無邪気に早く早くと催促する。恐る恐る砂緒はフルエレと座席の間に片足から滑り込み座り込んだ。案の定砂緒の眼前には戦闘で汗ばむフルエレの背中や華奢な首筋が飛び込んで来て、ごくりと唾を飲み込んだ。

「ふ、フルエレ……フルエレ……フルエレッッ」
「きゃあっ!? 何何、何なの??」

 突然砂緒は後ろからフルエレを抱きしめ、うなじから髪の匂いを嗅ぎ続ける。

「駄目だってば、変だよ……何してるの……兎幸ちゃんが起きちゃう……やめてっ」
「最近変なんです……昔は人間なんてハムスターと同じくらいにしか考えていなかったのですが……私自身何をどうしたいのか良く分かりませんが、止まりそうに無いです……」

 砂緒は真新しいシーツに交換したベッドにしがみ付く宿泊客の様に、滅茶苦茶にフルエレの背中に抱き着いて顔をスリスリする。

「だから、全部聞こえてると言っておろうがーーーーーーっ!!!」

 肩が完全に入ったのか、逆上した三毛猫のル・ニが剣を振り上げて襲いかかって来る。

「あ、忘れてました」
「どうするのよ砂緒、ここら辺の人に全部聞かれたわよ……もう外歩けないわ」

 フルエレが大赤面して震え声で言った。

「どうかしていました。今のはさすがに私も後悔してます。フルエレ忘れて下さい……」

 忘れられる訳ないでしょーっとフルエレは心の中で思った。砂緒は気を取り直して魔ローダーの操縦の主導権を握ると、ひらりと攻撃をかわして既に倒された方のニナルティナ湾タワーに向かい、巨大な鉄骨を引き抜くと剣の様に握って構えた。
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