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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国
ニナルティナ王国崩壊 5 わーーーっ泣きながら戦う、突きの嵐
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「えーい、とにかくドラゴンに向かって撃て! 撃ちまくれ!!」
中州周辺に着地してきた数匹の巨大なサーペントドラゴン達に向かって、正規軍の魔戦車や魔導士、魔銃を持った兵士らが闇雲に撃ち始めた。一旦着地して以降は飛翔しない様だが、ドラゴンの巨大な体の硬い鱗には傷一つ与えている様には見えない。その内の一体のドラゴンが大口を開け、開いた喉の奥に赤い光が輝いたかと思うと、次の瞬間には巨大な炎が吐き出され、容赦無く兵士に浴びせかけられる。
「ぎゃー」
「熱い!!」
一瞬にしてリュフミュラン正規軍が占拠した、ニナルティナ中川の中州は阿鼻叫喚の地獄と化した。さらに蹴られ転がされ、踏まれ潰される魔戦車。全く歯が立ちそうに無い。
「なんて事!? とにかく魔ローダーを盾にしてあの攻撃を防ぐわ」
そう雪乃フルエレが言うと、全高二十五メートルの魔ローダーの身体でサーペントドラゴンの前に立ちはだかり、炎攻撃を防ぎにかかる。ドラゴンの炎の直撃を食らってもびくともしない魔ローダーだった。しかし今この場に見えているだけでも五匹、それが港湾都市全体で五十匹という話なのだから、こんな事をしていても全く話にならない。
「兎幸ちゃん! あれを倒す方法はあるの? 教えて早く教えて!!」
いつものフルエレの、切羽詰まるとテンパり焦りまくる状態が出て来る。
「雪乃落ち着いて……安心して、兎幸あれの事良く知ってる……氷のモンスター族館にも展示してる……倒し方知ってる」
「早く! 早く言って!!」
その間にも巨大なサーペントドラゴンが部隊に襲い掛かろうとし、後退しつつ魔戦車が応戦する。剣や槍と言った巨大な専用武器を何も持たないフルエレの魔ローダーは、取り敢えず炎を吐きだそうとしたドラゴンの一体に殴りかかって倒すが、すぐに起き上がる。その間にも違うドラゴンが部隊に襲い掛かり、今また襲い掛かる別のドラゴンの首を掴んで羽交い絞めにするが、同時に別のドラゴンに肩を噛まれるという入り乱れた酷い状況だった。幸運な事に今の所ドラゴンの強い顎による噛みつきや鋭い爪の攻撃は当たっても、人型魔法機械の魔ローダーにはダメージを与えていなかった。
「このドラゴンは……首の付け根に柔らかい炎袋があるの……そこを鋭い物で突いて……炎袋を破けば、炎を吐こうと……した時に体内に……炎が充満して自爆するの」
「分かった! やってみる!!」
言うな否や、魔ローダーは助走をかけ、大口を開けた一体のサーペントドラゴンの首の付け根辺りに、思い切りガントレットの尖った指先の手刀を突き刺した。鈍い音と共に掌の半分程まで突き刺さる。それをズクッと抜き取ると、濃い緑色の血が流れ落ち一瞬ドラゴンは苦しそうな顔をしたが、すぐに体勢を立て直し、大口を開き炎を吐こうとした……が、次の瞬間首の根元辺りが大きく膨らみ突然自ら炎に包まれ自爆した。ドスーンという轟音と共に地響きをたてて倒れる巨体。喜ぶ兵達。
「やった!! やっと一体倒した!! これ倒せる!! ありがとう兎幸ちゃん!」
「落ち着いて雪乃……あと四十九体いるから……」
「分かった、とにかく今この中州に居る残り四体を倒すわよ!」
そういうと、倒れたドラゴンの死体を乗り越え、次の獲物にかかる。
「たあああああああああ!!!」
噛みつこうと牙を剥き出しにして向かってくる竜の上半身をしゃがんで避け、中腰で首の付け根に手刀を打ち込む。ザシュッ!! 鈍い音と共に炎袋が破られる音が聞こえた。
「早く炎を撃って自爆してよ!!」
望み通り、魔ローダーが距離を取るとすかさず炎攻撃をしようと大口の奥が光り、また自爆するサーペントドラゴン。
「はぁはぁ……これで二体目だわ」
フルエレは早々に感じた。これで後残り四十八体無理無理、これ下手したら死ぬるなと……。
「三体目うおぉおおおりゃああああ!!!」
後ろから襲い掛かるサーペントドラゴンに足を引っかけて倒すと、倒れたままの喉元に手刀を打ち込む。手応えを感じて爆発を待たずに四体目に襲い掛かる。
「そこ、動かないでえええ!!」
首根っこを掴んで後ろに引き倒すと、一旦足で首を踏み動きを止めてからすかさず手刀を差し込む。その瞬間に後ろから襲い掛かるこの場最後の五体目のサーペントドラゴンを、立ち上がって振り返り体全体で受け止め、体をひねって回転し、兵士達に被害が出ない様に川の中に投げ込む。ドバーーンと凄まじい水しぶきが上がり、その場一体にしぶきの雨が降り注ぎ水浸しになる。すぐさま川から這い上がってくる首元を中腰で一突きし、五体目から距離を取ると炎を吐こうとして自爆してくれた。
「騎士団さん、聞こえますか? 指揮官さん来てください!」
しゃがんでハッチを開けたフルエレの元に、すぐさま駆け寄るリュフミュラン正規軍騎士団数名の指揮官。
「おお、素晴らしい活躍です! 救われましたぞ、感謝しますフルエレ殿!」
「この竜の弱点は喉元の柔らかい炎袋らしいです! 貴方達が攻撃するのは難しいとは思いますが、一応伝達しておきます。それと多分だけど、五体一組で召喚されてるっぽいので、各エリアを回って順次倒して行きます! 住民避難や怪我人の手当をお願いします!」
「分かりました! フルエレ殿こそご武運を!」
立膝で魔法スピーカーで話し終わると、ハッチを閉めそのまま橋も渡らず、その場から一直線に川の中にじゃばじゃば入り、大急ぎ取り敢えず見える煙が立つ方に闇雲に走り出した。しかし気が付くと港湾都市のさらに至る所で黒い煙が立っている。このまま放置すれば本当にこの街処か、国一つ崩壊しそうな異常事態だった。
「きゃあっ路面念車が危ない!!」
逃げ惑う住民が叫ぶ。プワーと魔笛を鳴らし、巨大なサーペントドラゴンが仁王立ちする方に、吸い込まれる様に走り抜け様とする一両編成の路面念車。子猫が玩具ででも遊ぶ様に爪をたてようとする竜。その直前、フルエレの魔ローダーが飛び蹴りを食らわし、ドラゴンを遠ざける。なんとか路面念車は難を免れ走り去る。すかさず倒れたドラゴンの喉元に手刀をザシュッと差し込む。
「頭おかしいの!? 何でまだ運休してないの!? 何でモンスターに向かって行くの!? 魔笛で竜が避けてくれるとでも思うの? いい加減に運休してよ馬鹿っ!!」
イライラして先般の観光客気分の時とまるきり逆の事を叫ぶフルエレ。
「雪乃……イライラしないで、今ここでは……雪乃だけが街を救えるの……その事忘れないで」
「イライラなんてしてないわよ! 兎幸ちゃんは見てるだけなんだから余計な事言わないでっ!」
遂にイライラが爆発し始めたフルエレは兎幸にまで当たってしまう。
「うん……兎幸見てるだけ……ごめんね。雪乃の事大好きだから……雪乃が大変なの……判るから……」
当たり散らされた兎幸は怒り返すでは無く、一人座席でにっこり笑ってなおも雪乃フルエレを励まし
た。フルエレの目からは、ぽたっと涙が一粒落ちた。
「ごめんね……兎幸ちゃん」
「でりゃああああ!! ニナルティナ湾タワーが危ないっ!!」
今度は何故か闇雲に港湾都市の港口に立つ高い塔の根元を、ガンガン攻撃し始めた一体のサーペントドラゴンに殴りかかって動きを止め、肩を無理やり掴んで後ろに引き倒し、両膝で動きを封じると喉元に手刀を突き刺す。
「はぁはぁはぁ……兎幸ちゃん、今で何体目?」
「今ので……十五体目……」
愕然とするフルエレ。
「う、嘘……まだ残り三十五体も居るの……無理よもう無理だわ」
「雪乃……やれるよ、地道に……続けるの……」
「ち、違うの……もう手が痛いの。何か外部の衝撃が私に伝わるみたいなのよ! もうかなり前から指先とか関節が凄く痛いの!! 何なのかしらこの謎仕様は!」
操縦席でフルエレは激痛が走る軟弱な自分の手を握りながら涙を流した。想像と思念で動かす仕様のこの魔ローダーは、硬いプレートアーマー部分への衝撃や攻撃はほぼ無敵に跳ね返すが、関節や骨格への外部の衝撃が余りにも連続して強すぎる場合、操縦者の神経にも悪影響を及ぼす様であった。
「雪乃……あそこ!」
兎幸が指示した方に警告のマーカーが付与された。そこにはサーペントドラゴンに踏みつけられ様としている、こけた小さな女の子が泣いていた。すかさずドラゴンをタックルして庇う様に少女の上に覆いかぶさり、バシャッとハッチを開けるフルエレ。
「どうしたの? お名前は何て言うのかな??」
「え……?」
ハッチを開けて話し掛けて来たフルエレは、目は真っ赤で涙を流し尋常な様子じゃ無かった。
「お姉さん誰? 何で泣いてるの? 私は梅狐よ」
「あはっ、ぐすっお姉さん泣いて無いよ~ぐすっ梅狐ちゃん、お父さんお母さんはどうしたのかしら? げはっ」
その時実際フルエレはちょっと涙が出ている程度じゃないくらいに泣き始めていた。不審感がありまくりながらも、このお姉さんは自分を助けてくれている……という事は梅狐は理解した。
「お父さんもお母さんもどこに居るか分からないの……怖いよ、どうすればいいの……ぐす」
「お願い泣かないで……私もいっぱいいっぱいなの……お願いよ」
もうフルエレも一緒になってワンワン泣きたい気持ちになっていた時だった。ズザザザと野球のスライディングの様に数名の兵士が、屈む魔ローダーの腹部に滑り込んで来て、梅狐を保護して覆い被さり抱き締める。
「女神殿! ここはお任せを! この女の子は保護してご両親の元に必ず届けます故、戦闘にご専念を!」
よく紋章を見ると占領されたニナルティナの現地兵と、占領した側のリュフミュラン兵が混じって行動していた。
「あ、貴方達どうして!?」
「こんな時に敵も味方もありません! 捕虜だった兵達も解放して、住民避難誘導に当たっています! 当たり前です!!」
「ああっ嘘みたい……」
フルエレは梅狐を抱いて誘導する各国の兵士達を見て涙がぽろぽろ流れ落ちた。
「雪乃……みんな貴方を応援してるの……痛いけど立って」
気が付くと下から梯子を伝って兎幸が操縦席に上がって来て、落ちない様に椅子にしがみ付いていた。なおも優しい笑顔で必死にこちらをみつめる兎幸。
「分かったわ……私だって……出来る限りやってみるわ」
「反対の手で……打ってみて……」
「うん、やってみる!」
女の子が無事保護されたのを見届けてバシャッとハッチを閉じると、ゆっくり立ち上がり、おもむろに一番近くに居た無差別に建物を攻撃中のドラゴンに襲いかかった。
「クッ○があああああああああああああああああああ!!!! わあああああああ!!!」
号泣しながら利き手じゃ無い方で、手刀を打ち込みにかかるフルエレ。ザシュッと突き刺さる。
「雪乃……言葉壊れて来た……あれ、雪乃、うしろ羽根が生えてる……」
「へ?」
確かにフルエレも、モニターの端っこにチラチラ映る羽根らしき物を視認した。乗っている二人からは完全に見る事は不可能だが、戦闘を続ける魔ローダーの背中には、知らぬ間に本体と同じ金属質の長い数枚の羽根が生えていて、走る度に風になびくマントの様にひらひらはためいていた。
中州周辺に着地してきた数匹の巨大なサーペントドラゴン達に向かって、正規軍の魔戦車や魔導士、魔銃を持った兵士らが闇雲に撃ち始めた。一旦着地して以降は飛翔しない様だが、ドラゴンの巨大な体の硬い鱗には傷一つ与えている様には見えない。その内の一体のドラゴンが大口を開け、開いた喉の奥に赤い光が輝いたかと思うと、次の瞬間には巨大な炎が吐き出され、容赦無く兵士に浴びせかけられる。
「ぎゃー」
「熱い!!」
一瞬にしてリュフミュラン正規軍が占拠した、ニナルティナ中川の中州は阿鼻叫喚の地獄と化した。さらに蹴られ転がされ、踏まれ潰される魔戦車。全く歯が立ちそうに無い。
「なんて事!? とにかく魔ローダーを盾にしてあの攻撃を防ぐわ」
そう雪乃フルエレが言うと、全高二十五メートルの魔ローダーの身体でサーペントドラゴンの前に立ちはだかり、炎攻撃を防ぎにかかる。ドラゴンの炎の直撃を食らってもびくともしない魔ローダーだった。しかし今この場に見えているだけでも五匹、それが港湾都市全体で五十匹という話なのだから、こんな事をしていても全く話にならない。
「兎幸ちゃん! あれを倒す方法はあるの? 教えて早く教えて!!」
いつものフルエレの、切羽詰まるとテンパり焦りまくる状態が出て来る。
「雪乃落ち着いて……安心して、兎幸あれの事良く知ってる……氷のモンスター族館にも展示してる……倒し方知ってる」
「早く! 早く言って!!」
その間にも巨大なサーペントドラゴンが部隊に襲い掛かろうとし、後退しつつ魔戦車が応戦する。剣や槍と言った巨大な専用武器を何も持たないフルエレの魔ローダーは、取り敢えず炎を吐きだそうとしたドラゴンの一体に殴りかかって倒すが、すぐに起き上がる。その間にも違うドラゴンが部隊に襲い掛かり、今また襲い掛かる別のドラゴンの首を掴んで羽交い絞めにするが、同時に別のドラゴンに肩を噛まれるという入り乱れた酷い状況だった。幸運な事に今の所ドラゴンの強い顎による噛みつきや鋭い爪の攻撃は当たっても、人型魔法機械の魔ローダーにはダメージを与えていなかった。
「このドラゴンは……首の付け根に柔らかい炎袋があるの……そこを鋭い物で突いて……炎袋を破けば、炎を吐こうと……した時に体内に……炎が充満して自爆するの」
「分かった! やってみる!!」
言うな否や、魔ローダーは助走をかけ、大口を開けた一体のサーペントドラゴンの首の付け根辺りに、思い切りガントレットの尖った指先の手刀を突き刺した。鈍い音と共に掌の半分程まで突き刺さる。それをズクッと抜き取ると、濃い緑色の血が流れ落ち一瞬ドラゴンは苦しそうな顔をしたが、すぐに体勢を立て直し、大口を開き炎を吐こうとした……が、次の瞬間首の根元辺りが大きく膨らみ突然自ら炎に包まれ自爆した。ドスーンという轟音と共に地響きをたてて倒れる巨体。喜ぶ兵達。
「やった!! やっと一体倒した!! これ倒せる!! ありがとう兎幸ちゃん!」
「落ち着いて雪乃……あと四十九体いるから……」
「分かった、とにかく今この中州に居る残り四体を倒すわよ!」
そういうと、倒れたドラゴンの死体を乗り越え、次の獲物にかかる。
「たあああああああああ!!!」
噛みつこうと牙を剥き出しにして向かってくる竜の上半身をしゃがんで避け、中腰で首の付け根に手刀を打ち込む。ザシュッ!! 鈍い音と共に炎袋が破られる音が聞こえた。
「早く炎を撃って自爆してよ!!」
望み通り、魔ローダーが距離を取るとすかさず炎攻撃をしようと大口の奥が光り、また自爆するサーペントドラゴン。
「はぁはぁ……これで二体目だわ」
フルエレは早々に感じた。これで後残り四十八体無理無理、これ下手したら死ぬるなと……。
「三体目うおぉおおおりゃああああ!!!」
後ろから襲い掛かるサーペントドラゴンに足を引っかけて倒すと、倒れたままの喉元に手刀を打ち込む。手応えを感じて爆発を待たずに四体目に襲い掛かる。
「そこ、動かないでえええ!!」
首根っこを掴んで後ろに引き倒すと、一旦足で首を踏み動きを止めてからすかさず手刀を差し込む。その瞬間に後ろから襲い掛かるこの場最後の五体目のサーペントドラゴンを、立ち上がって振り返り体全体で受け止め、体をひねって回転し、兵士達に被害が出ない様に川の中に投げ込む。ドバーーンと凄まじい水しぶきが上がり、その場一体にしぶきの雨が降り注ぎ水浸しになる。すぐさま川から這い上がってくる首元を中腰で一突きし、五体目から距離を取ると炎を吐こうとして自爆してくれた。
「騎士団さん、聞こえますか? 指揮官さん来てください!」
しゃがんでハッチを開けたフルエレの元に、すぐさま駆け寄るリュフミュラン正規軍騎士団数名の指揮官。
「おお、素晴らしい活躍です! 救われましたぞ、感謝しますフルエレ殿!」
「この竜の弱点は喉元の柔らかい炎袋らしいです! 貴方達が攻撃するのは難しいとは思いますが、一応伝達しておきます。それと多分だけど、五体一組で召喚されてるっぽいので、各エリアを回って順次倒して行きます! 住民避難や怪我人の手当をお願いします!」
「分かりました! フルエレ殿こそご武運を!」
立膝で魔法スピーカーで話し終わると、ハッチを閉めそのまま橋も渡らず、その場から一直線に川の中にじゃばじゃば入り、大急ぎ取り敢えず見える煙が立つ方に闇雲に走り出した。しかし気が付くと港湾都市のさらに至る所で黒い煙が立っている。このまま放置すれば本当にこの街処か、国一つ崩壊しそうな異常事態だった。
「きゃあっ路面念車が危ない!!」
逃げ惑う住民が叫ぶ。プワーと魔笛を鳴らし、巨大なサーペントドラゴンが仁王立ちする方に、吸い込まれる様に走り抜け様とする一両編成の路面念車。子猫が玩具ででも遊ぶ様に爪をたてようとする竜。その直前、フルエレの魔ローダーが飛び蹴りを食らわし、ドラゴンを遠ざける。なんとか路面念車は難を免れ走り去る。すかさず倒れたドラゴンの喉元に手刀をザシュッと差し込む。
「頭おかしいの!? 何でまだ運休してないの!? 何でモンスターに向かって行くの!? 魔笛で竜が避けてくれるとでも思うの? いい加減に運休してよ馬鹿っ!!」
イライラして先般の観光客気分の時とまるきり逆の事を叫ぶフルエレ。
「雪乃……イライラしないで、今ここでは……雪乃だけが街を救えるの……その事忘れないで」
「イライラなんてしてないわよ! 兎幸ちゃんは見てるだけなんだから余計な事言わないでっ!」
遂にイライラが爆発し始めたフルエレは兎幸にまで当たってしまう。
「うん……兎幸見てるだけ……ごめんね。雪乃の事大好きだから……雪乃が大変なの……判るから……」
当たり散らされた兎幸は怒り返すでは無く、一人座席でにっこり笑ってなおも雪乃フルエレを励まし
た。フルエレの目からは、ぽたっと涙が一粒落ちた。
「ごめんね……兎幸ちゃん」
「でりゃああああ!! ニナルティナ湾タワーが危ないっ!!」
今度は何故か闇雲に港湾都市の港口に立つ高い塔の根元を、ガンガン攻撃し始めた一体のサーペントドラゴンに殴りかかって動きを止め、肩を無理やり掴んで後ろに引き倒し、両膝で動きを封じると喉元に手刀を突き刺す。
「はぁはぁはぁ……兎幸ちゃん、今で何体目?」
「今ので……十五体目……」
愕然とするフルエレ。
「う、嘘……まだ残り三十五体も居るの……無理よもう無理だわ」
「雪乃……やれるよ、地道に……続けるの……」
「ち、違うの……もう手が痛いの。何か外部の衝撃が私に伝わるみたいなのよ! もうかなり前から指先とか関節が凄く痛いの!! 何なのかしらこの謎仕様は!」
操縦席でフルエレは激痛が走る軟弱な自分の手を握りながら涙を流した。想像と思念で動かす仕様のこの魔ローダーは、硬いプレートアーマー部分への衝撃や攻撃はほぼ無敵に跳ね返すが、関節や骨格への外部の衝撃が余りにも連続して強すぎる場合、操縦者の神経にも悪影響を及ぼす様であった。
「雪乃……あそこ!」
兎幸が指示した方に警告のマーカーが付与された。そこにはサーペントドラゴンに踏みつけられ様としている、こけた小さな女の子が泣いていた。すかさずドラゴンをタックルして庇う様に少女の上に覆いかぶさり、バシャッとハッチを開けるフルエレ。
「どうしたの? お名前は何て言うのかな??」
「え……?」
ハッチを開けて話し掛けて来たフルエレは、目は真っ赤で涙を流し尋常な様子じゃ無かった。
「お姉さん誰? 何で泣いてるの? 私は梅狐よ」
「あはっ、ぐすっお姉さん泣いて無いよ~ぐすっ梅狐ちゃん、お父さんお母さんはどうしたのかしら? げはっ」
その時実際フルエレはちょっと涙が出ている程度じゃないくらいに泣き始めていた。不審感がありまくりながらも、このお姉さんは自分を助けてくれている……という事は梅狐は理解した。
「お父さんもお母さんもどこに居るか分からないの……怖いよ、どうすればいいの……ぐす」
「お願い泣かないで……私もいっぱいいっぱいなの……お願いよ」
もうフルエレも一緒になってワンワン泣きたい気持ちになっていた時だった。ズザザザと野球のスライディングの様に数名の兵士が、屈む魔ローダーの腹部に滑り込んで来て、梅狐を保護して覆い被さり抱き締める。
「女神殿! ここはお任せを! この女の子は保護してご両親の元に必ず届けます故、戦闘にご専念を!」
よく紋章を見ると占領されたニナルティナの現地兵と、占領した側のリュフミュラン兵が混じって行動していた。
「あ、貴方達どうして!?」
「こんな時に敵も味方もありません! 捕虜だった兵達も解放して、住民避難誘導に当たっています! 当たり前です!!」
「ああっ嘘みたい……」
フルエレは梅狐を抱いて誘導する各国の兵士達を見て涙がぽろぽろ流れ落ちた。
「雪乃……みんな貴方を応援してるの……痛いけど立って」
気が付くと下から梯子を伝って兎幸が操縦席に上がって来て、落ちない様に椅子にしがみ付いていた。なおも優しい笑顔で必死にこちらをみつめる兎幸。
「分かったわ……私だって……出来る限りやってみるわ」
「反対の手で……打ってみて……」
「うん、やってみる!」
女の子が無事保護されたのを見届けてバシャッとハッチを閉じると、ゆっくり立ち上がり、おもむろに一番近くに居た無差別に建物を攻撃中のドラゴンに襲いかかった。
「クッ○があああああああああああああああああああ!!!! わあああああああ!!!」
号泣しながら利き手じゃ無い方で、手刀を打ち込みにかかるフルエレ。ザシュッと突き刺さる。
「雪乃……言葉壊れて来た……あれ、雪乃、うしろ羽根が生えてる……」
「へ?」
確かにフルエレも、モニターの端っこにチラチラ映る羽根らしき物を視認した。乗っている二人からは完全に見る事は不可能だが、戦闘を続ける魔ローダーの背中には、知らぬ間に本体と同じ金属質の長い数枚の羽根が生えていて、走る度に風になびくマントの様にひらひらはためいていた。
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