魔法の魔ローダー✿セブンリーファ島建国記(工事中2)

佐藤うわ。

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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国

ニナルティナ軍壊滅 4 七華と和解? 歓声の中、勝利と憂鬱 .

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 コツン!

「?」

 雪乃フルエレが魔ローダーの操縦席で途方に暮れていると、小石の様な物が当たる音がして、敏感な探知機が危険物を警告する。モニターにアップで映し出されたのは、砂緒すなおが二発目の小石を投げようとしている所だった。

「あ、砂緒来てくれたんだ! はわわ止めて止めて傷が付いちゃう!」

 フルエレは慌てて立膝を着くと掌を差し出し、砂緒を自分の操縦席に案内した。開けと願えばバシャッとハッチは開いた。

「来てくれたんだ……凄く不安だった」
「何をしているのですか? もう殆どの敵が狩られていますよ。最強の武器を手に入れて最初にする事が何もしない事とはどういう了見ですか。今からでも走って行って、踏むのが嫌でしたら石を投げるなりデコピンで5人くらい吹き飛ばすなりして加勢しましょう!」
「何でそんな酷い事ばかり言うの!? 今はただ一緒に居て欲しい……」
「酷い事をされた人々の為に皆さん戦っているのです。フルエレは急に神か何かにでもなったおつもりですか? じっとしているならばここで居てて下さい、私はイェラが気にかかるので探してきます」
「最近急にイェラさんの事ばかり言っててどうしたの?」
「急では無いです。それに彼女はどんな酷い目に遭っても、やたら苦情ばかり言わず黙々と戦っています」

 砂緒は言った直後に今の言い方はまずかったと後悔した。

「あ、そう行ってらっしゃい」
「はい、ではお言葉通り命令に従います」

 後悔の最中に自動的に売り言葉に買い言葉になっていた。砂緒が無言で出て行った後にフルエレはハッチを閉じると座席で三角座りをして膝に顔を埋めた。

(今は慰めて欲しかったのに……)


 有未うみレナードと部下の眼鏡は城壁内の東面で、残存している兵や部隊が居ないか探し廻った後、西面での惨事を目撃し仕方なく東面に戻っていた。今は一番最初に城内にトンネルで殺到した時に司令部として接収した館に戻って警備兵達から隠れていた。

「仕方がねえな眼鏡、お前は軍に関係あるもんは全部外して、一般人の振りしてなんとか逃げろ。ガラでは無いがまあ俺は西面の方へ一人で斬り込んでくるわ。俺という天才軍師が居たレジェンドをしっかり子孫に伝えてくれよな!」

 有未は親指を立てるとウインクした。

「嫌です! 今から行っても無駄死にです止めて下さい。それに私だって捕まって酷い目に遭うかもしれません! もうここで一緒に死んでください。……私司令官の事がずっと……だから最後にぎゅっとして下さい」
「…………………………お?」

 眼鏡の子分程度にしか思っていなかった部下の突然の告白に戸惑う。

「お前…………もしかして眼鏡を外したらめちゃめちゃ可愛いとかそういうパターンかよ? そうだなァ、それもいいかなあ~よし、どうせ死ぬなら死ぬ前に二人でめっちゃめちゃ愛し合おうぜっ!」
「え? ええ? そ、そこまでは言ってないですけど!?」

 イケメンだがかなり痛い有未が戸惑う部下の眼鏡を、スッと取ろうとした時にドアがガチャッと開いた。さっと眼鏡部下を抱き抱え警戒する有未。

「……やはりここだったか。何をやっているのだ?」

 ドアを開けて入って来たのはイェラだった。

「お前……あの時の女か。いいね~美女にブスっと刺されるのも悪くないな。代わりに眼鏡を逃がしてくれんか?」
「有未さん!!」
「お前なぞ斬ったら剣が汚れる。お前たちが突入してきたトンネルの入り口の一つまで案内しよう。東面の森に出たら北の海を泳いで帰るなり、南の他国の領域に入るなり好きにしろ。これで貸し借り無しだ。西面の戦いはほぼ終わった、もう死体しか無いだろう諦めろ」

 有未はイェラの言葉にやったー助かったぜとは言えない心境だったが、眼鏡を生かすという事から脱出を決心した。

「よし、俺は合理主義者だからな、誰にどう言われようと有難く逃がさせてもらおう。行くぞ眼鏡、さっきの事は忘れろ」
「……は、はい」
「さっさとするのだ」

 二人は顔を隠すと、堂々と進むイェラの後ろを付いて行った。


 戦いが終結し、苦戦の後思いがけない大勝利となったリュフミュラン王城の一番外側の城壁内の広場は、歓喜と興奮の坩堝と化しつつあった。運悪くイェラでは無く七華しちか王女に捕まった砂緒が腕に抱き着かれ虚ろな目をしてその場に連れて来られる。腕には胸がむぎゅむぎゅ当たっていた。砂緒は遠巻きに立つ魔ローダー内のフルエレに見つからないかドキドキしていた。
 遠くの方ではたった一両の魔戦車で残存の敵魔戦車隊を壊滅に追い込んだ、黒い魔導士服の少女がトンガリ帽子を返してもらい、こぼれる笑顔で筋肉男達に神輿の様に担がれている。周りで回復職と魔法剣士の少年がやきもきしながら見ている。

「砂緒さま見て下さいまし、砂緒様の大活躍でこの様に多くの人が救われたのですよ!」
「おお、姫っ! ご無事で御座いましたか! 正規軍と同行し戦闘に巻き込まれ駆けつける事遅参し誠に面目次第も御座いません」

 突然、顔だけはピカピカだが手足に包帯をぐるぐる巻きにした、美形の護衛剣士スピナが走り出でて、七華王女の前で跪き深々と頭を下げた。

「まあ!? 今頃お前が出て来てどうなるのですか? いつもいつも肝心な時に居ないでどうするのですか? 後日扇で百叩きとします。今すぐ消えなさい!」

 それまで言葉は丁寧だが無表情で謝罪していたスピナが、百叩きと言われた瞬間一瞬だけふわっと顔が綻んだのを砂緒は見逃さなかった。しかし目を極限まで細めて無言で見過ごす。

「…………」(嫌な物を見てしまった……)

 魔ローダー内の雪乃フルエレは殺戮の現場が、一転して祭りの様な賑わいに変わった事を戸惑いつつ、ハッチをバシャッと開けた。

「外の空気を吸おう……」

 開いた下側のハッチのギリギリ先に立ち、うーんと背筋を伸ばして立つと、自ら切ってしまったショートカットの金色の髪が朝焼けに照らされた。

「フルエレ様っ! 雪乃フルエレ様!! 貴方様の御髪を奉じ舞い戻って参りました!!」

 突然魔ローダーにフルエレの姿を見た正規軍の騎士団長が叫んだ。

「乙女の命とも言える御髪を……かたじけない! これで我々は救われ申した! 勝利の女神万歳!!」

 おおーーっという歓声と共に巻き起こるフルエレコール。もはや何でも良いから人々は熱狂を持続させたい気分なのだろうか。

「や、やめて、私何もしてない! 本当に何もしていないのよ……」

 トンネル工作を見逃した事も含めて、本当に隠れてしまいたい気分で戸惑うしか無かった。


 人々の興奮がなかなか収まらない事を王は見逃さず、人々を王城の前まで招き入れた。

「砂緒さま、こちらですわ」

 ずっと七華に腕を掴まれ拘束された砂緒は一般庶民や兵達と同様外側に待機では無く、王族や貴族待遇で王城の内部に居て、今度は王と共に傷付いた大バルコニーにまで連れて来られていた。内心は酷くフルエレの事が気がかりだったが、直前の言い争いもあり七華を振りはらって飛んで行く気にもならず、言いなりになって振り回されていた。その当の魔ローダー内のフルエレは騎士団のたっての希望で大バルコニーの真横に立っている。異様な形で砂緒とフルエレは近くに並んで立っていた。
 そして大バルコニー、魔法で拡張された大音声で王の長々とした自慢話が延々と続く。そろそろ聴衆が帰り支度をしたくなる程興奮は醒めて来ていた。

「……そして今回の戦で大きな役割をした英雄が二人おる、一人がこの砂緒じゃ」

 等とリュフミュラン王が砂緒を紹介した途端、真横で砂緒に抱き付いてむぎゅむぎゅ胸を押し付けていた七華王女がいきなり熱い口づけをした。まさに王の賞賛と王女の感謝のキスという絵に描いた様な勝利の図だった。

(こ、こら止めろ……)

 砂緒の心とは裏腹に手が勝手に七華の腰に回っていた。前回と明らかに違う動きだったが、直ぐに正気に戻ってちらっと上を見ると、ハッチを開けたフルエレと完全に目が合った。彼女は無表情で何も言わずに見ていた。

(あ……)

 そんな三人のやり取りとは別に冷めかけた熱気が、王女の熱いキスで再び盛り上がりを取り戻した。巻き起こる大歓声。

『全く七華と来たら……こんな下賤な者共を付け上がらせてはならぬ。しかし今回は正規軍にほぼ損害が出なくて良かったわい。損害が出たのは市民と義勇軍のみ。あんな奴らはそもそも数に入れる必要が無いやつらじゃからのう。つまり損害ゼロでニナルティナ軍を壊滅に追い込めた訳じゃ。しかも魔ローダーと硬くなる化け物、最強の手駒が手に入ったわいははは』
『全くその通りで御座います。王はなんとも強運の持ち主で御座いますなふふふ』

 砂緒と七華が並んで賞賛を受ける中、魔法力による音声拡張を外し、王と重臣が口元を隠し所謂オフレコで雑談をしている。本来には誰にも聞かれず空中に消えていく言葉だが、魔ローダーのコクピットでは高い聴音力で、操縦桿前のミニモニターから音声が流れ続けていた。

『全く今回の戦は痛快で御座いましたな。敵を我が城に誘い込み袋の鼠にして全滅、歴史に残る大勝利で御座いましょう』
『ふふふまさに災い転じて福となす、いや、災いすら無いに等しいわい……』
「やめて……何を言っているの? やめて……っるさい……もうやめろっ!!!」

  バキッザシュッ!!!
 傷ついたイェラや惨殺された敵兵の姿が脳裏に浮かび、瞬間的に突然激怒したフルエレは本能的に魔ローダーを動かし、王の立つ大バルコニーの上の壁に巨大な手刀を突き刺した。気が付くと王と重臣は腰を抜かし倒れこみ、城前の人々はシーンとなっていた。

「何をやっている雪乃フルエレ……」

イェラが呆れて眺める。

「こ、こら! 儂にこの様な無礼を働いて、ただで済むと……」

 激怒した王が何やら弓でも撃てと兵達に指示しようとする直前、七華が走り寄り王を制止した。

「フルエレ! 雪乃フルエレ!! 我が父王の無礼、お許し下さい。そしてわたしくも今回の様に多くの名も無き者達の力を軽視していた事を思い知らされました。以前フルエレが仰って下さった様に、私も父からも義勇軍や冒険者ギルド隊のみなさんや市民の皆様に、深くお礼をする事をお約束しますわ!」

 邪心の無い笑顔でフルエレを見上げる七華王女。フルエレも先程の怒りを忘れて笑顔で七華を見返した。フルエレはようやく七華と通じ合えた様な気がして本当に嬉しくなった。

「砂緒さま、フルエレが笑って下さいました!」

 直後、七華は近くにいた砂緒に再び強く抱き着いて胸を押し付けた。それを見てフルエレは途端に顔が曇る。バシュッとハッチを閉じてしまった。

「何よ……何よ……これじゃあ痛い私と素晴らしい王女みたいじゃないの! 何でよ……」

 フルエレは再び操縦席で三角座りになると、ポロポロと粒の涙を落とし続けた。
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