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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国

ニナルティナ軍壊滅 3 魔戦車孤軍奮闘、 住民の恨み .

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「おーい砂緒すなお、やはりお前か」
「砂緒様ーっ! ご無事ですの!?」

 大バルコニーから下を眺めていた砂緒の元に手足に包帯を巻き、新しい服に身を包んだイェラと七華しちか王女が駆け寄って来る。

「壁をぶち破って城に入って来た頭のおかしい者が居ると聞いて飛んできたぞ」
「砂緒さまっ三毛猫仮面は討ち取ったのですか!?」

 イェラと七華同時に話し掛けられる。

「イェラもう怪我は大丈夫なのですか? とても心配しましたがすぐに復活してくれて良かったです」
「三毛猫は逃げました」

 砂緒は普段は無表情で余り見せない笑顔を瞬間的にだがイェラに向けた。フルエレに続けて二人目だった。イェラは内心気遣いに感激して目が潤みそうになったがなんとか堪え、笑顔で返した。

「私は生粋の戦士だ、このくらいの怪我は秒で治る。これから追撃戦に参加するつもりだ」
「砂緒さま、三毛猫は取り逃がしたのですか?」
「だから逃げましたよ」

 絶世の美女と言われている母親に似て当然の様に美形であり、王女でもある自分に対する余りにも素っ気ない態度に多少やきもきしながら七華が割って入る。

「砂緒さまお体は大丈夫ですか? ダメージはありませんか?」

 腕や肩を触り、なおも軽く抱き着こうとする七華。ひょいと避ける砂緒。

「あ、大丈夫です」

 砂緒は律儀に以前天球庭園に旅した時のフルエレとの約束を守ろうとしていた。

「もう……恥ずかしがらなくとも良いのですのに……」

 以前の地下牢の事もあり、七華は本気で砂緒は自分にメロメロだと思い込んでいた。

わたくしはこれから居なくなった魔ローダーを探して来ます。では」
「気を付けろ!」
「お気をつけて下さいまし!」

 一番最初の最悪な第一印象から今まで本当にどう対処したら良いか不明な七華を軽く無視し、イェラに別れを告げると大バルコニーから硬化して飛び降りた。ズンっと着地したが当然もうそこには三毛猫仮面の姿は影も形も無かった。

「は、早く出て行ってよ~~早く早く」

 雪乃フルエレはその頃ようやく一番外側の家屋が立ち並ぶ城壁内にまで出て、城から脱出しようと西面の城門に集結しつつある敵軍を、突っ立ちながら遠巻きに見ていた。もちろん走って行ってチョップするなり踏みつけるなりすれば瞬殺だが、フルエレは逃げる相手を指を咥えて見ているだけしか出来なかった。

「魔ロがここまで追って来たのに何もしません、どういう事でしょうか?」
「再び主城の城壁内に入って来ない様に監視しているのだろう。敵も損耗しているのだ、無益な争いは避けたいという事かもしれん。有未うみ様には悪いがなるべく早く脱出しよう。先に残存の魔戦車を門から出して並べて置け」
「ハッ」

 敗軍となったニナルティナ軍のいち指揮官が部下に命令する。今彼らは如何に故郷に安全に帰還するかを一心に考えていた。今自分達が居座るリュフミュラン王都から西に西に進めばニナルティナ王国の領内に入る。偽装に騙されて出て行った正規軍や他の敵軍に出会わないとも限らないので前面に残存の魔戦車を並べ、森を強行突破しようと考えていた。


「城から魔戦車が出て来たよ! なんか並んでるわね、こっちがバレちゃったとかかな?」

 魔戦車のキューポラから顔を出す黒いマントを羽織った魔導士の少女。横には全軍を指揮する大将衣図いずライグがいた。

「いや、なんか変だ見つかってはいなさそうだぜ。城が落ちたとして西面に出て来る訳がねえ。状況的に東から入ったはいいが、上手く行かず逃げようとしているのかもしれねえし、とにかく静かに射程圏内に入って、奇襲しよう」
「うん、私もそう思います。初撃でなるべく多く潰す様にします。みなさんはそれから突入して下さい」
「おお」

 パタンとハッチを閉めて、内部の二人に今の内容を伝達する。

「い、いよいよですね。上手く行くでしょうか? とにかく僕は走るだけですが」

 駆動担当の回復職の少年が緊張して身構える。

「効くのかどうか不明ですが、私も強化魔法を重ね掛けしておきました。行きましょう」

 防御担当の魔法剣士が人間に対して使うスピードアップや回避率アップの魔法を重ね掛けしている。おそらくこれは現実的な物よりプラシーボ効果しか期待できなさそうだ。

「出来る限り接近したら一発目を撃ったあと、走りながら射撃する行進間射撃という物をしちゃいます。こちらは建物の影に隠れながらなので多分撃たれる事は無いと思うけど……まあ頑張りましょう!」

 魔導士の少女は緊張しながらもなんとか笑った。魔戦車は敵に察知されないぎりぎりまで肉薄する。

「緊張するけど……では撃ちます。回復職さん突っ走り、がんばってね」
「ええ」
「物理弾発射!!」

 魔導士の少女が物理弾を発射すると、西門の前に並んだ7両程の魔戦車の真ん中辺りの車両の砲塔の根元に見事命中し、爆発が起こり炎を噴き上げ砲塔が飛んで行く。当然中の人々は即死である。

「あ、ああた、あた、当たっちゃった! 動いて全速力!!」

 息を潜めていた魔戦車が全速力で走り出す。同時に派手に展開する物理防御と魔法防御魔法陣。続けて二発目を発射する。吸い込まれる様に同じように砲塔の根元に命中し、爆発して飛び上がる敵の魔戦車。

「凄いですよ魔導士さん! 二発連続で命中しました!!」

 駆動担当の回復職が目を見張って感動する。しかし敵の魔戦車も反撃を開始して来る。しかし遮蔽物の家と家の間を走行している、魔導士の少女が乗る村の魔戦車にはなかなか当たらない。

「うわあ、凄い撃たれてる撃たれてる。こちらも続けて撃ち続けます」

 敵が動き始めた為に次々に撃つ弾が当たらない。ドンッ! しかし突然関係の無い敵の魔戦車が一両爆発炎上する。義勇軍のみんなが混乱に乗じて肉薄し、魔法瓶を複数放り投げたのだった。ここから乱戦が始まった。魔戦車隊の混乱を見て、再び城内に逃げ込む敵兵達。義勇軍はあたかも自分達の城に攻め込む様な立場になっていた。

「あっ! 皆さん出て来ちゃった! こういう時どうするの? 味方を撃ったりしないのかな!? わからなくなって来ちゃった」
「と、とにかく見極めて、端っこのヤツから撃破して行きましょう」

 魔法剣士の少年が叫ぶ。

「う、うん近くに味方がいませんように!」

 魔導士の少女が叫びながら撃つと今度も命中した。これで敵軍の魔戦車は残数半分を切った。


「敵軍だ! 敵の正規兵が戻って来た!!」

 西面の門前の脱出中のニナルティナ魔戦車隊への奇襲による混乱で、一旦城内に戻ったニナルティナ軍残存兵士達だが、そこで新たな敵に直面していた。北の偽装魔ローダー発掘現場へ向かっていた正規軍が兎幸うさこの説得を信じ、主に騎馬隊が猛烈な速さで引き返し北面の門から城に入り残存の敵兵を狩りながら、ようやくこの混乱の現場にまで到達していたのだ。つまり空の城に攻城戦をしていたニナルティナ兵が、敵の城の中で北と西から挟撃されている様子を『敵襲敵襲』と言っている、非常に逆転したややこしい状況になっていた。

「どうしましょうか!? このままでは袋のネズミになります」

 剣を取って戦うニナルティナ軍の戦士たち。まさに外形的な立場は攻められる城を守る城兵の様に見えたが、実際には敵城の中言葉通り袋小路に追い詰められていた。

「もう降伏……しかないだろうな」

 そんな言葉が出て来た時だった、ニナルティナ兵達が身を隠す建物の窓から鍋が投げ付けられた。ガンッと鎧に当たって跳ね返る鍋。思わず上を見ると、恐ろしい形相で睨み付ける城壁内の家屋の住人の顔があった。

「死ねえ! ニナルティナ兵ども!!」
「殺された家族の仇だっ!」

 その言葉を切っ掛けに棍棒や包丁をもった住人達が一斉に敗残兵に襲い掛かった。それは見るのも無残な凄惨な現場となっていった。

「ああ、ああ、なんて事、もう止めて! 止めてお願い!!」

 高い魔ローダーのコクピットから眺めていたフルエレは、モニター画面に映る突然の凄惨な現場に成すすべ無く顔を両手で覆いながら泣き続けた。


「5両目っ!! 残り二つ!! 絶対に逃がさないわよ~~~うおらあああああああああ!!! もう私は誰にも媚びないっ! 戦士にも格闘家にもっ! 気に入られる為に義理で回復魔法はかけないっ! おほほほほほほ!!」

 魔導士の少女が乗る魔戦車が、爆発する敵魔戦車の爆炎をすり抜けながら新たな敵を探す。

「ちょっと君、エース級の才能じゃないんですか!? でもハンドル握ったら人格変わるとか言うレベルじゃ無いですね……」

 魔法剣士の少年が冷や汗をかきながら笑う。

「ま、魔導士さんす、素敵だ……」
「え?」

 回復職の少年は操縦しながらも、魔導士の少女の勇姿を頬を赤らめながらちらちら見ていた。城の外側の戦いも中の戦い双方ともに、ニナルティナ軍の壊滅は決定的となっていた。雪乃フルエレの乗る巨大な魔ローダーは搭乗時以降、さして戦局に寄与する事なく、ずっと突っ立って戦いを眺め続けた。
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