54 / 588
I ニナルティナ王国とリュフミュラン国
ニナルティナ軍壊滅 2 再び対決、砂緒の弱点と決着… .
しおりを挟む
ゴンゴン!
黒いトンガリ帽子、黒いマントを羽織った如何にも魔導士という感じの女の子が、森の中をひたすら東にリュフミュラン王都へと向かう魔戦車の砲塔部分を足でガンガン蹴りまくる。
「何だ君は? 何か用か?」
「もう目の前に王都が見えてるのに一体いつまでかかるおつもりなの? ペースメーカーの魔戦車が皆のお荷物になっててどうするの?」
「無茶言うな! 俺たちゃもともと只の兵士なんだ、魔導士じゃないんだ! これ以上スピード出したら干物になって死ぬ!」
「降りて! 魔法防御担当と、魔法攻撃担当の二人が先に降りて! 冒険者の駆動担当が入れ替わるから、止まらず走りながら三人全員入れ替わるの! おじさん達分かった??」
ひたすら東に向かう衣図らが率いるライグ村の義勇軍と冒険者ギルド合同部隊だったが、肝心の魔戦車が徐々にペースダウンを始めていた。それを見かねて冒険者ギルドの魔力が有り余っている有志が走行しながら入れ替わると提案して来たのだった。
「はい、お疲れ様! 後は魔法の専門家に任せて!」
「お、おい本当にいきなりで大丈夫か?」
最後に乗り込んだ魔法攻撃担当の魔女帽子の少女が、魔戦車から降りて砲塔にしがみ付いている髭の筋肉男に魔女のとんがり帽子を渡す。
「これ、天井つかえて邪魔だからプレゼントするわ!」
バタンと閉じられるハッチ。
「どうやら前進後進とか単純なレバー操作とアクセル操作だけで、スピード調整とかはオートマと念じるだけの様です。あ、僕は回復職です。よろしく」
「私は魔法剣士なので防御魔法担当でぴったりだと思いますよ。練習で今から色々出しておきます」
「はい、私は魔導士よ! とにかく衣図さんらと相談して決めた通り、王都の西面から内部に突入するわよ! みんなでアレスさんの仇を取るのよ!」
冒険者ギルド隊のリーダー格であるアレスは、潜伏していたニナルティナ兵の攻撃から仲間を守って戦死していた。髭の筋肉男たちからヒョロっとした十代の冒険者三人に選手交代した途端、突然スピードアップを始めた魔戦車に周囲が驚いた。
「凄い! 魔法乗り物がこんな気持ち良い物とは知りませんでした! なんで今まで冒険者は怪鳥かドラゴンしか乗っては駄目だ、馬すら駄目だなんて変なこだわり持っていたのでしょう。人生損してましたよ僕……」
「モンスターがうじゃうじゃいる中部から南部は冒険者はとても有難がられるのに、都会な北部じゃ冒険者と言えば道楽か遊び人扱いですからね! 目に物見せてやりましょうよ!」
それぞれ違うパーティーで初めて顔を合わせた三人だったが、すぐに打ち解けそうな人達で内心ほっとしていた。
「見ろよ、さっき何か城の方へ投げてから巨人の動きがおかしいだろ? 何をすりゃいいんだってあたふたしてやがる。指揮系統に何か混乱が生じてやがるんだろ。よし、逃げるなら今しかねえ」
有未レナードは魔ローダーによる轟音を指令所となっていた、接収した建物内で聞いており、慌てて残存の兵士や部隊と今後の事について討議していた。
「逃げる……のですか? とても悔しいです」
「仕方がねえ。今から城の東面に行っても、来た時みたいに船の迎えがあるかどうかもわからん! もうこのまま西面に集合して、ある程度の数が揃ったらそこから西に強行突破しよう!」
「……妙な巨人が出て来るまでは完勝でした! この作戦に参加出来て光栄でした」
「死ぬ様な事を言うなよ、王都で再会しようぜ! 俺は今から城内の東側をまだ残ってる部隊がいないか見て回る。眼鏡、俺が戻らんでもお前もこいつらと一緒に行け!」
眼鏡と呼ばれる女副官は、もじもじしていたが意を決して言った。
「私も有未さんと一緒に行きます!」
「……勝手にしろ! なら早く来い!」
「はい!」
魔ローダーのコクピットに居る雪乃フルエレは本当にあたふたしていた。砂緒が城の中に突入して以降、どっちの方向に行って良いかすら判断出来ず、おろおろしながらなんとか動こうとするが、あちこちに矢で撃たれた敵兵の死体が転がり、踏まない様に移動するだけで大変だったし、そもそも城が全高約二十五メートルの魔ローダーの移動を考慮して設計されていないので、壊さず城壁一つ越えるのにも苦労していた。
「もう……一体どうすればいいのよ、砂緒どこ行っちゃったのよ! ていうより魔ローダーって空飛べるんじゃないの!? どうすればいいのかしら、えいっ!」
フルエレは魔ローダーの操縦桿を握りながら空を飛ぶイメージを続けたが、魔ローダーはバスケットボールのシュートの様な動きをピョンピョン繰り返すばかりだった。
「こ、今度は何やってやがるんだ? あの巨人……」
有未は走りながら呆れた。
七華リュフミュラン王女や貴族の娘、侍女達が避難している城の広間で三毛猫仮面が剣を振っている。当たっても大丈夫なはずだが砂緒は訓練代わりに必死に避けまくっている。
「どうして避けるのですか! 当たってもたいした事ないでしょうに」
「パンチングボールだと思って遊んでいるんですよ! なかなかに面白い」
二人のやり取りをハラハラしながらみつめる王女以下女たち。
「しかしこっちはそろそろ飽きて来てしまいましたね、当たって剣が折れる儀式をしてくれませんか? 次の攻撃に移れません」
「おや、次の攻撃などと言う物があるんですか? それは見てみたい物です」
次の瞬間お言葉に甘えて……みたいな感じに振り下ろされる剣に向かって硬化した掌を差し出す。掌で剣先を掴むと簡単にポキリと折れてしまった。続けて砂緒が三毛猫仮面に向かってパンチを繰り出すがやっぱり前回と同じでかすりもしない。
「と、ここまでは前回と全く同じなのですが、私はあれから考えました。貴方に効く攻撃は無いものかと」
三毛猫は砂緒のパンチを軽々交わしながら何かの魔法の詠唱を始めた。
「ウォーターフロウ!」
三毛猫が叫んだのは子供の魔導士でも使用する事が出来る初歩の水攻撃だった。まさにただの水鉄砲みたいな水流が砂緒に当たって弾ける。
「あ、あれ」
砂緒はその場にガクッと片膝を付いた。何故水鉄砲の様な只の水流でダメージを受けるのか分からない。
「水流は氷結の入門編の様な魔術です。だから戦闘で使われる機会など殆どありません。しかし岩の化け物である貴方ならあるいは効果があるのではないかと考えました。水は岩に染み込み、やがて亀裂を生じさせ風化させて砂にします。まあ当てずっぽうな予想でしたが、本当に効果があるとはね」
三毛猫仮面は水流を当て続け、砂緒を釘付けにして動かせない。
「砂緒さまがんばってくださいまし!」
不安感でいっぱいになった七華が思わず声援を送る。
「ウォーターウォール!」
三毛猫が新たな呪文を叫ぶ。今度は砂緒の両側から大きな水の壁が現れ挟み込む様に水の中に飲み込もうとする。砂緒はなんとかそれを避け、後ろに下がるが今度は別の水流攻撃を受け、ダメージを受けながら辛うじて避ける事を続けた。
「ちょっとやっぱり一旦逃げる事にします。続きをどうぞ」
砂緒は片手をしゅっと上げると、七華達が待機する部屋から自分が開けた穴を伝って外に出て行ってしまった。
「砂緒様!?」
驚愕の声を上げる七華王女。
「かっこ悪いですよ! 颯爽と姫を助ける騎士の様に出て来て! いきなり逃げるのですかっ! いけませんね! 水壁で挟み込んで窒息させて差し上げましょう!」
三毛猫仮面は笑いながら同じように穴から砂緒の後を追う。砂緒の逃げるという行為にむざむざと乗せられて、七華から引き離されている事に気付いていなかった。砂緒が開けた穴を通り、次々と部屋を渡り歩きながら水攻撃を繰り返す三毛猫仮面。
「しかし地味な戦いですねえ、いい大人が水鉄砲を子供に当て続けて恥ずかしくないんですか? いや変態に恥ずかしいは褒め言葉でしたね」
「確かに誉め言葉ですねえ」
暖簾に腕押しで挑発が何の効果も無かった。
「あっ」
要らぬ会話の為に集中力が切れたのか、砂緒が穴をくぐる時に足を引っかけ派手に転ぶ。すかさず三毛猫仮面が水壁を四方から迫らせた。
「ごぶ、がばっ!」
砂緒が四方から水の壁に押し潰され、大きな水槽に嵌められた様になりもがき苦しむ。弱点属性云々の前にこうなると息が出来ない。
「おやおや、こうなると可哀そうな気もして来ましたねえ」
生来のサディストの三毛猫仮面は、水に溺れる砂緒に最大限近づいて苦しむ様を間近で見物し始めた。
「ごばっく、くるしいよう……い、息が出来ないよう……」
水の中で必死に叫ぶ砂緒。
「変なキャラ付けしていても、結局は十五かそこらのクソガキですね、最後はそんな感じになってしまう訳ですか!?」
三毛猫が水壁のぎりぎり前にまで迫り、愉悦で歪んだ顔を見せた。
「掴んだ!」
水壁の中から砂緒が三毛猫の手首を掴む。
「おやあ手首を掴んでどうしますか? 水流の圧力で切る事も出来るのですよ!」
バチッッ!!
三毛猫が言った直後だった、砂緒が掴んだ掌から最高電圧の電気がほとばしった。あっけ無さすぎる程の結末だった。真っ黒になった三毛猫が床でひくひくしている。
「いきなり水流とか言い出して閉口しました。もし七華が感電したらどうするのですか? まあ猫呼には悪いのですが、ここで死になさい」
砂緒は雪乃フルエレを意図的に遠ざけたので、大手を振って重い足を振り上げた。
「閃光!!」
突然の白い光に目を閉じる砂緒。気が付くと文字通り真っ黒になった三毛猫は、脚を引き摺りながらも早いスピードで大バルコニーまで走り去ると、そのままピョンと飛び降りた。
「ここ、二階とか三階では無いはずですが」
砂緒が大バルコニーの下を見ると、もはや誰もいなかった。
「不死身かっ!」
寸での所で三毛猫を取り逃がした事を悔しがったが、致命傷なのだからもう出てこないはずと自分を納得させた。
黒いトンガリ帽子、黒いマントを羽織った如何にも魔導士という感じの女の子が、森の中をひたすら東にリュフミュラン王都へと向かう魔戦車の砲塔部分を足でガンガン蹴りまくる。
「何だ君は? 何か用か?」
「もう目の前に王都が見えてるのに一体いつまでかかるおつもりなの? ペースメーカーの魔戦車が皆のお荷物になっててどうするの?」
「無茶言うな! 俺たちゃもともと只の兵士なんだ、魔導士じゃないんだ! これ以上スピード出したら干物になって死ぬ!」
「降りて! 魔法防御担当と、魔法攻撃担当の二人が先に降りて! 冒険者の駆動担当が入れ替わるから、止まらず走りながら三人全員入れ替わるの! おじさん達分かった??」
ひたすら東に向かう衣図らが率いるライグ村の義勇軍と冒険者ギルド合同部隊だったが、肝心の魔戦車が徐々にペースダウンを始めていた。それを見かねて冒険者ギルドの魔力が有り余っている有志が走行しながら入れ替わると提案して来たのだった。
「はい、お疲れ様! 後は魔法の専門家に任せて!」
「お、おい本当にいきなりで大丈夫か?」
最後に乗り込んだ魔法攻撃担当の魔女帽子の少女が、魔戦車から降りて砲塔にしがみ付いている髭の筋肉男に魔女のとんがり帽子を渡す。
「これ、天井つかえて邪魔だからプレゼントするわ!」
バタンと閉じられるハッチ。
「どうやら前進後進とか単純なレバー操作とアクセル操作だけで、スピード調整とかはオートマと念じるだけの様です。あ、僕は回復職です。よろしく」
「私は魔法剣士なので防御魔法担当でぴったりだと思いますよ。練習で今から色々出しておきます」
「はい、私は魔導士よ! とにかく衣図さんらと相談して決めた通り、王都の西面から内部に突入するわよ! みんなでアレスさんの仇を取るのよ!」
冒険者ギルド隊のリーダー格であるアレスは、潜伏していたニナルティナ兵の攻撃から仲間を守って戦死していた。髭の筋肉男たちからヒョロっとした十代の冒険者三人に選手交代した途端、突然スピードアップを始めた魔戦車に周囲が驚いた。
「凄い! 魔法乗り物がこんな気持ち良い物とは知りませんでした! なんで今まで冒険者は怪鳥かドラゴンしか乗っては駄目だ、馬すら駄目だなんて変なこだわり持っていたのでしょう。人生損してましたよ僕……」
「モンスターがうじゃうじゃいる中部から南部は冒険者はとても有難がられるのに、都会な北部じゃ冒険者と言えば道楽か遊び人扱いですからね! 目に物見せてやりましょうよ!」
それぞれ違うパーティーで初めて顔を合わせた三人だったが、すぐに打ち解けそうな人達で内心ほっとしていた。
「見ろよ、さっき何か城の方へ投げてから巨人の動きがおかしいだろ? 何をすりゃいいんだってあたふたしてやがる。指揮系統に何か混乱が生じてやがるんだろ。よし、逃げるなら今しかねえ」
有未レナードは魔ローダーによる轟音を指令所となっていた、接収した建物内で聞いており、慌てて残存の兵士や部隊と今後の事について討議していた。
「逃げる……のですか? とても悔しいです」
「仕方がねえ。今から城の東面に行っても、来た時みたいに船の迎えがあるかどうかもわからん! もうこのまま西面に集合して、ある程度の数が揃ったらそこから西に強行突破しよう!」
「……妙な巨人が出て来るまでは完勝でした! この作戦に参加出来て光栄でした」
「死ぬ様な事を言うなよ、王都で再会しようぜ! 俺は今から城内の東側をまだ残ってる部隊がいないか見て回る。眼鏡、俺が戻らんでもお前もこいつらと一緒に行け!」
眼鏡と呼ばれる女副官は、もじもじしていたが意を決して言った。
「私も有未さんと一緒に行きます!」
「……勝手にしろ! なら早く来い!」
「はい!」
魔ローダーのコクピットに居る雪乃フルエレは本当にあたふたしていた。砂緒が城の中に突入して以降、どっちの方向に行って良いかすら判断出来ず、おろおろしながらなんとか動こうとするが、あちこちに矢で撃たれた敵兵の死体が転がり、踏まない様に移動するだけで大変だったし、そもそも城が全高約二十五メートルの魔ローダーの移動を考慮して設計されていないので、壊さず城壁一つ越えるのにも苦労していた。
「もう……一体どうすればいいのよ、砂緒どこ行っちゃったのよ! ていうより魔ローダーって空飛べるんじゃないの!? どうすればいいのかしら、えいっ!」
フルエレは魔ローダーの操縦桿を握りながら空を飛ぶイメージを続けたが、魔ローダーはバスケットボールのシュートの様な動きをピョンピョン繰り返すばかりだった。
「こ、今度は何やってやがるんだ? あの巨人……」
有未は走りながら呆れた。
七華リュフミュラン王女や貴族の娘、侍女達が避難している城の広間で三毛猫仮面が剣を振っている。当たっても大丈夫なはずだが砂緒は訓練代わりに必死に避けまくっている。
「どうして避けるのですか! 当たってもたいした事ないでしょうに」
「パンチングボールだと思って遊んでいるんですよ! なかなかに面白い」
二人のやり取りをハラハラしながらみつめる王女以下女たち。
「しかしこっちはそろそろ飽きて来てしまいましたね、当たって剣が折れる儀式をしてくれませんか? 次の攻撃に移れません」
「おや、次の攻撃などと言う物があるんですか? それは見てみたい物です」
次の瞬間お言葉に甘えて……みたいな感じに振り下ろされる剣に向かって硬化した掌を差し出す。掌で剣先を掴むと簡単にポキリと折れてしまった。続けて砂緒が三毛猫仮面に向かってパンチを繰り出すがやっぱり前回と同じでかすりもしない。
「と、ここまでは前回と全く同じなのですが、私はあれから考えました。貴方に効く攻撃は無いものかと」
三毛猫は砂緒のパンチを軽々交わしながら何かの魔法の詠唱を始めた。
「ウォーターフロウ!」
三毛猫が叫んだのは子供の魔導士でも使用する事が出来る初歩の水攻撃だった。まさにただの水鉄砲みたいな水流が砂緒に当たって弾ける。
「あ、あれ」
砂緒はその場にガクッと片膝を付いた。何故水鉄砲の様な只の水流でダメージを受けるのか分からない。
「水流は氷結の入門編の様な魔術です。だから戦闘で使われる機会など殆どありません。しかし岩の化け物である貴方ならあるいは効果があるのではないかと考えました。水は岩に染み込み、やがて亀裂を生じさせ風化させて砂にします。まあ当てずっぽうな予想でしたが、本当に効果があるとはね」
三毛猫仮面は水流を当て続け、砂緒を釘付けにして動かせない。
「砂緒さまがんばってくださいまし!」
不安感でいっぱいになった七華が思わず声援を送る。
「ウォーターウォール!」
三毛猫が新たな呪文を叫ぶ。今度は砂緒の両側から大きな水の壁が現れ挟み込む様に水の中に飲み込もうとする。砂緒はなんとかそれを避け、後ろに下がるが今度は別の水流攻撃を受け、ダメージを受けながら辛うじて避ける事を続けた。
「ちょっとやっぱり一旦逃げる事にします。続きをどうぞ」
砂緒は片手をしゅっと上げると、七華達が待機する部屋から自分が開けた穴を伝って外に出て行ってしまった。
「砂緒様!?」
驚愕の声を上げる七華王女。
「かっこ悪いですよ! 颯爽と姫を助ける騎士の様に出て来て! いきなり逃げるのですかっ! いけませんね! 水壁で挟み込んで窒息させて差し上げましょう!」
三毛猫仮面は笑いながら同じように穴から砂緒の後を追う。砂緒の逃げるという行為にむざむざと乗せられて、七華から引き離されている事に気付いていなかった。砂緒が開けた穴を通り、次々と部屋を渡り歩きながら水攻撃を繰り返す三毛猫仮面。
「しかし地味な戦いですねえ、いい大人が水鉄砲を子供に当て続けて恥ずかしくないんですか? いや変態に恥ずかしいは褒め言葉でしたね」
「確かに誉め言葉ですねえ」
暖簾に腕押しで挑発が何の効果も無かった。
「あっ」
要らぬ会話の為に集中力が切れたのか、砂緒が穴をくぐる時に足を引っかけ派手に転ぶ。すかさず三毛猫仮面が水壁を四方から迫らせた。
「ごぶ、がばっ!」
砂緒が四方から水の壁に押し潰され、大きな水槽に嵌められた様になりもがき苦しむ。弱点属性云々の前にこうなると息が出来ない。
「おやおや、こうなると可哀そうな気もして来ましたねえ」
生来のサディストの三毛猫仮面は、水に溺れる砂緒に最大限近づいて苦しむ様を間近で見物し始めた。
「ごばっく、くるしいよう……い、息が出来ないよう……」
水の中で必死に叫ぶ砂緒。
「変なキャラ付けしていても、結局は十五かそこらのクソガキですね、最後はそんな感じになってしまう訳ですか!?」
三毛猫が水壁のぎりぎり前にまで迫り、愉悦で歪んだ顔を見せた。
「掴んだ!」
水壁の中から砂緒が三毛猫の手首を掴む。
「おやあ手首を掴んでどうしますか? 水流の圧力で切る事も出来るのですよ!」
バチッッ!!
三毛猫が言った直後だった、砂緒が掴んだ掌から最高電圧の電気がほとばしった。あっけ無さすぎる程の結末だった。真っ黒になった三毛猫が床でひくひくしている。
「いきなり水流とか言い出して閉口しました。もし七華が感電したらどうするのですか? まあ猫呼には悪いのですが、ここで死になさい」
砂緒は雪乃フルエレを意図的に遠ざけたので、大手を振って重い足を振り上げた。
「閃光!!」
突然の白い光に目を閉じる砂緒。気が付くと文字通り真っ黒になった三毛猫は、脚を引き摺りながらも早いスピードで大バルコニーまで走り去ると、そのままピョンと飛び降りた。
「ここ、二階とか三階では無いはずですが」
砂緒が大バルコニーの下を見ると、もはや誰もいなかった。
「不死身かっ!」
寸での所で三毛猫を取り逃がした事を悔しがったが、致命傷なのだからもう出てこないはずと自分を納得させた。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる