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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国

魔ローダー欲しい! 4 お城が危ないです! .

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 遂にリュフミュラン正規軍が、西側に存在する敵国ニナルティナ王国の北部の外れの半島にある魔ローダー発掘現場に侵攻する予定日となっていた。

「す、凄い。冒険者の人達が二十人も集まってくれたの!?」

 雪乃フルエレが村の南側に集まり、出陣しようとする集団の中でイェラ達と会話している。

「ああ、猫呼ねここの涙の大演説、見せたかったぞ!」
「それは……少し駄目なやつよね……罪深いわ……」
「見ててくれ猫呼ちゃん! 絶対村と冒険者ギルドを守ってみせるからな!」

 見ると、猫呼の周囲で出陣する冒険者達が集まって口々に決意を述べている。猫呼の人気だけでこんな危険な事に巻き込んで良い物か少し悩んだが、一人でも人手が欲しい為に帰れとは当然言えなかった。

「皆さん本当に有難うござます。冒険者さん達がこんなに参加して下さるなんて心強いです!」

 あちこちから気合が入った掛け声が上がる。フルエレは本当に心から申し訳ないと思った。

「皆さん盾や鎧のエンブレムや紋章を外したり黒で塗り潰したりし忘れていませんか? もし戦闘が始まったら顔を隠す物もお忘れ無く。負けると犯罪者として追われる事になりますから! 少なくとももうニナルティナで冒険者登録出来ないです」

 生半可な気持ちでいる者が帰る気持ちになる為に意図的にきつめの事を言った。

「フルエレさんは顔を隠さなくていいんですか?」

 誰かが手を上げて質問する。

「私はもう面が割れてるから隠す必要が無いんです!」
「言い方」

 猫呼クラウディアが小さな声で突っ込む。続けてイェラが言った。

「しかしフルエレ今回は凄いな。分厚い作業着に長いスカートの重ね着に鎖帷子に鉄兜それに魔銃に魔法瓶に予備弾か、髪までまとめて以前のぴらぴらのドレスで戦場に現れた時と違い過ぎるぞ」
「凄く重いの倒れそう。これは……砂緒すなおにこの格好じゃなきゃ、出てきちゃ駄目だって言われたの」
「アイツが装備にまで口を出して来たか!? 不気味過ぎるだろう。次は無視するんだぞ」

 フルエレは手首をみつめた。昨日リズに防御魔法が出る腕輪をまた貰っていた。今回は『これは高価な物なのよ大切に使って』と念押しされて冷や汗を出しながら感謝した。リズ自身は前日に衣図いずにきっちり別れは告げたとかで今回この場にはいない。非常にさばさばした人物だ。

「ではイェラさん猫呼ちゃんをお願いしますね! 私も砂緒もちゃんと戻って来ますから!」
「もちろんだ……だが本当に行くのか? 今からでも止めて良いのだ」
「フルエレさんいつも色々文句言ってるけど絶対帰って来て。お兄様をよろしく」

 猫呼が涙をあふれさせ、声を詰まらせて別れを告げる。フルエレは自分の想像以上に大変な事になっていると今頃ようやく気付いた。

「二人共村をよろしくね!」

 フルエレは二人に全力の笑顔で手を振ると、担当した冒険者部隊の先頭をサイドカー魔輪まりんに乗って進みだした。

「よし行けっ! 肉○戦車隊よ!」
「意味は良く分からないが、変な名前付けねえでください隊長……」

 対して砂緒はフルエレが一緒な為、村の住人とは特に念入りな別れなど告げる事も無く、普段の挨拶の様なあっさりな別れで、早速魔戦車の砲塔の上で仁王立ちになり腕を組んでいた。砂緒とたった一両の魔戦車隊が先頭を進み文字通り敵攻撃の壁になり、次にライグ村の義勇軍そして最後尾にフルエレの率いる冒険者部隊や一般の村民からの有志の参加者が混じっていた。この村初めての対外遠征だった。魔戦車には定期的にフルエレが触れて魔力を注入する事になっている。

「よ~し、全軍ノロノロ出発だ!」

 巨馬に跨る衣図ライグの力の抜けた掛け声で全軍が本当にゾロゾロと出発した。


 ライグ村の混成部隊はいつぞやの戦闘の舞台となった荒野を横切り、いつもはニナルティナ側が侵攻ルートに使って来る森の山道を西に慎重に向かう。衣図の読みでは北の半島にリュフミュランの正規軍が入り込んだ時点で包囲する為に、ニナルティナ軍主力も実は北に集結している……という推測をしている。つまり慎重に北上すれば、ニナルティナ軍の後背を突けるという計算だったが……。

「どこまで行っても猫の子一匹いやせんね~」

 ラフが多少びびりながら衣図に問いかける。

「本当に誰もいやしねえな。俺たちがまさか敵軍の村や町を襲う訳にもいかねえし、ずっと国境沿いを北上しているのもあるがな。確かに何の反応も無い」

 ふっと目をやると、森の中から煌びやかな騎兵が一騎だけ現れた。敵軍では無く味方のエンブレムを付けている。どうやら正規軍の物見や伝令の様だった。


「もう半日以上歩いてて日も暮れかけなのに、全く戦闘らしい戦闘も無いですね。結構どきどきしながら付いて来たんですが拍子抜けですよ」

 アレスという冒険者のリーダー格らしい青年がフルエレに話しかける。背中に剣を差し盾を持った典型的な冒険者スタイルで攻撃魔法も防御魔法も使えるらしい。ちなみにアレスはかっこ良いので名乗っている名で本名では無い。

「わ、私も実は行きがかり上隊長してるだけで、本当は戦争の事何も知らないのよ。だから結構不安なの……どうなってるのかしら~~あはは」

 引きつりながら頭に手を当て笑うフルエレを見て不安になるアレス。

「だとすれば先頭の隊列に合流して、大将さんや砂なんとかさんと相談して来て下さい。冒険者部隊は僕が隊列を見ておきます」

 年下で尚且つ能力が未知数の女性のフルエレが隊長という時点で、ちょっと不満であったアレスは状況が不明な事もあり、かなりムッとし始めていた。


「あ、あの人は? 敵ですか?? 撃ちますか?」

フルエレが魔輪を加速させて一番先頭の魔戦車まで辿り着くと、大将衣図ライグと砂緒と兵らが進みを止めて相談し合っていた。そこから逃げ去る様に森に消えていく一騎の騎兵。

「嬢ちゃん撃つな撃つな味方味方。丁度良い所に来たぜ」
「あの人は?」
「あれは正規軍の伝令だ。だいぶ前から三騎目だ。やつら俺たちが実際に攻撃を開始しないとかで矢の催促だ。連中実際は半島の入り口で足踏みしてるようだ。拳を振り上げたはいいが、実際にはびびって戦闘を開始する根性は無かったようだぜ。このまま諦めて帰ってくれたら何事も無く笑い話で済む。だから俺たちも撤退するか徹底的にサボタージュしようかって相談してたんだ」
「私戦争と言えばいきなり血みどろの殺し合いが始まるのかと思って内心がくがくでした! このまま帰れればどんなに良い事かしら」
「しかし本当に何も出てきませんねえ。私の目からも周囲には何も居ません」

 砂緒が多少不満そうに話した瞬間だった。日が落ちかけた空からサーチライトの様に強い光が差し込む。

「え? え!? 何何怖い怖い」
「敵襲か?」

 フルエレがびくっとして左右をきょろきょろして見る。皆が口々に叫び周囲を警戒する。

「砂緒雪乃……来た……お城が大変です」
「きゃああああああああ」

 突然フルエレの目の前にきらきらと光の粒子をまき散らし兎幸うさこが現れた。

「兎幸ではないですか、どうやってここまで来たのです?」

 砂緒だけは一切動じる事無く、天球庭園の館長兎幸の突然の登場に疑問を投げかけた。

「これで来た」

 兎幸は空に向かって指さす。少し上を見ると、いつものUFOがふわふわ浮き、マジックハンドがロープの様に長く伸びて兎幸はそれにぶら下がり、片足をかけていた。

「おお便利ですね、わたくしも乗せてください」
「無理だし嫌です……兎幸専用……それよりお城大変……伝えに来ました」
「城がどう大変なんだ? いいから嬢ちゃん詳しく教えてくれよ」

 衣図が二人の知人だと思いだし大体状況を把握して、やきもきしながら聞いてくる。

「皆さんが出発してからしばらくして……お城の三重の城壁の三番目の城内に……トンネルを使って……敵兵が突然入って来た」
「え…………」

 フルエレが絶句する。

「それでどうなりましたか?」
「それから……凄い数の魔戦車隊が東側から突然現れて……敵兵が内側から門を開けて引き入れて……お城の中ぐちゃぐちゃ……兵隊さん以外の人も……いっぱい死んでる」
「なんだと! しまった!! 全く敵とすれ違いもしなかったのに」
「見た……二番目の城壁も破られそうだった……早く砂緒に知らせたくて飛んで来たのです……」
「あああ、どうしよう!? どうすればいいの!? こんな事って」

 いつも明るいフルエレが突然頭をかかえて半狂乱になる。あの時見た道路工事のおじさん達が敵側の工作員だったのは明らかだった。迂闊過ぎて頭が真っ白になる。こんな事は誰にも言えなかった。

「悩み過ぎないで」

 砂緒がいつになく冷静に優しくフルエレを軽く抱き寄せた。当然二人以外には事情は分からない。

「兎幸、その乗り物で北にいる正規軍まで一人で飛んでいけますか?」

 砂緒がフルエレを抱えたまま兎幸に問う。

「行けるよ……」
「では君は今日は天使です。正規軍の前に神々しく降臨してお城の危機を伝えて下さい。とにかく粘り強く危機を伝えてください」
「お、おう、それがいいぜ! 早く行ってくれよ、俺たちも後から伝令の馬を出すからよ」
「待って……」

 突然フルエレが兎幸の腕を掴む。

「これを……渡して」

 そう言うと涙を貯めた目のまま、突然後ろ手にナイフでざくっと一本にまとめていた金色の髪を切り落として兎幸に渡した。

「何て事をするのですフルエレ」
「嬢ちゃん」
「これを……硬くなる化け物の相方が証明にと渡したと。お願い行って! 早く行って!!」
「うん……分かった……絶対に兵隊さん引き返させる……雪乃泣かないで」

 兎幸はかすかに笑うと光をまき散らし、すっと上空に消えて行った。
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