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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国

冒険者ギルドを復活! 6 初めての朝のご挨拶、 大金を貰ってしまった… .

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 ちょうど朝六時、砂緒すなおはバチッと正確に突然目覚めた。目線の先には豪華では無いがセンスの良い洋風屋敷の天井が。状況をすぐに思い出す。ふと横を見ると一人でシーツを奪い取り、抱きしめてぐしゃぐしゃにし、髪をバサバサに振り乱した状態で、あまつさえ大きくはしたなく開いた口元にはヨダレの跡が固まる、まだすーすー眠り続ける雪乃フルエレの姿があった。

「なんと……こうして見るとニンゲンも可愛いものですね。よし、正座して凝視し続けましょうか」


 3時間後。

「起きてくださーい。起きてくださーーい。もしかして死んでるんですか?」

 本人は意識していないが、この姿になって初めて突然の不安感が襲い、眠るフルエレの肩を手で押さえぐりんぐりん揺り動かす。

「ひゃ~なにー? ちょっろ止めてください、ぐりんぐりん動かさないで~?」

 フルエレもゆっくりと起き上がり、周囲を見て状況を思い出した。

「ひゃっ!?」

 フルエレはぐりんぐりん揺らされたお陰で服が脱げそうになっており、赤面して慌てて両手で押さえる。何で昨日一緒の部屋で寝ようなどと言い出したのか、何を言えば良いか恥ずかしくなる。

「おはようございます」

 しかし今度は目の前の砂緒は、ぺこりと正座のまま深々と三つ指を着いて座礼で挨拶をしてきた。

「あ、おはよう……ございます」

 慌ててフルエレもつられて正座をし、向かい合わせでぺこりと真似をしてみた。

「ゴーレムの里のご挨拶なのかしら」
「初めての朝を迎えた時、この様に挨拶するのが習わしなのです。○○エさんで観ました」
「○○エさん?」
「それよりフルエレ、わたくしの腹部から謎の怪音が鳴り続け、あまつさえ謎の渇望感がする怪現象が起こっているのです」
「まあ大変! そう言えば昨日おにぎりを貰っただけで私達何も食べてない! ごめんなさい、本当は私が先に起きて準備しないといけないのに……」
「またあの他の生命体の命を奪い、その炭水化物やタンパク質等を摂取して同化する作業ですか? 私はあれは苦手です」
「不気味な言い方しないでほしいわ。食べないと死ぬのよ!」


 ぐだぐだの姿のまま二人で階段を降り、一階の放置された冒険者ギルドの横の簡易調理場を見る。しかしやはり蜘蛛の巣が張っており、放置されてからある程度の期間が経っているのだろう、当然食べ物等存在しなかった。

「困りましたね。我々は現金を持ち合わせていません。これから口入れ屋でクエストをこなして解決して報酬をもらっている内に空腹で死ぬ可能性がありますね。でもそもそもその口入れ屋自体が我々なのですから、八方ふさがりな状態ですね」
「何だか悲しくなるから黙って……」

 フルエレが半泣き状態で沈み込んだと同時にドアがコンコンと鳴り、確認無く勝手に扉が開かれる。入って来たのは昨日七華しちかリュフミュラン王女の横に常に張り付いて護衛していた美形剣士だった。剣士は二人の姿を交互に見ると、目を細めて軽蔑のあからさまに冷たい視線を送る。

「鍵開いてたんだ。おはようございます。一体何の御用でしょうか? 昨日は二人それぞれ凄く離れた部屋でぐっすり眠っておりました」

 フルエレは最大限赤面していたが、何事も無い様にふるまった。

「? ここに新たな衣装があります。どうぞお受け取り下さい。そしてどうぞ御髪をとかし身支度を整えられて下さい。これより王と王女より感謝の式典があります。ご安心下さいお食事も当然用意してあります」

 言うより前に箱を抱えたメイドさんや使用人が、勝手に入って来て勝手に置いて行く。美剣士は言葉は慇懃だが一切心のこもっていない態度だった。

「私はこの軍服が気に入ってるのだが、これじゃだめですかね?」

 砂緒はまるでコントみたいにボロボロの敵国の軍服をひらひらさせる。フルエレは暗くて見えなかったが、ここまでボロボロだったのかと改めでびっくりする。

「だめだめだめ、お言葉に甘えましょう」

 美剣士やメイドさん達が退出し、衣装が入った箱に手をかけぴたっと止まるフルエレ。真横で砂緒は何を考えているのか分からない目で凝視している。

「あのー」
「何でしょう?」
「着替える時は、それぞれ別々の部屋に移動するの。自分の箱を持ってホールから出て行ってください」

 昨日の事もあるので多少厳しめに言ったが、砂緒はなる程と言いながら出て行った。


「でかいですね。あの上には入場料を払えば上らせてもらえるのでしょうか?」

 砂緒はまるで子供の様に、馬車の窓から見える王様を模った巨大な像を見上げる。感覚的には、なになに観音みたいな物だった。

「王様の頭を蹴る事になります。あり得ません」

 二人を見る事も無く味気ない返事をする美剣士。二人は貴族や豪商という程では無いが、それなりに美しい衣装をもらい、見違える様に立派になっていた。


 天井がやたら高い石造りの立派な広い玉座に通されると、見えない程一番奥に王様らしき人、その横には七華王女。その両側には沢山の貴族や大臣などが待っていた。この人々はもちろん感謝の為では無く、村での戦闘で異常な強さを見せたという噂の化け物が見たいだけだった。けれども眼前にあるのは普通の一五歳程度の少年少女、しかも少女の方は村娘とは言えお姫様の様に美しかった。あちこちからざわつく声が。

「こちらへ」

 七華王女が言うと、お付きの者が指定位置まで連れて来る。先程より幾分か接近した。すぐに『しゃがんでしゃがんで』のジェスチャーを繰り返すお付きの者。慌てて二人は片膝ついて畏まった。フルエレは砂緒が妙な行動をしないか冷や冷やしていたが、本人は紳士気取りなので、こういう場に至って順応していた。

「ライグ村での戦闘において敵を撃退し、平和をもたらしたこの二人の旅の者に父王より代わってお礼を言います。ありがとう。」
「……」

 どうすれば良いか分からず二人はじっと固まり続ける。

「ふふ。よって、この二人の者に感謝の印として二つの贈り物を用意させました。一つは領地こそ与えられませんが騎士の称号、もう一つは一億Nゴールドの報酬金を与えましょう。どちらか好きな方を選びなさい」

 表情を殺していた七華王女の顔が一瞬、微笑になっていた事をフルエレは見逃さなかった。

(いいいいい、いちおくエヌゴールド!? 凄いお金)

 フルエレはびっくりしてさらにどうして良いか分からず、頭が真っ白になって来ていた。

「バカにしているのか!!」

 突然砂緒が大声を上げた。フルエレがぎょっとして砂緒を見る。

「お金に決まっているだろう!! そんな騎士の称号なんて選ぶ者がいる訳が無い。常識で分かる事をいちいち聞かないで頂きたい。 さ、早く金をくれ」

 凄まじくピシッとした姿勢で掌を差し出す砂緒。その場にいる全員がポカーンとした直後、あちこちからクスクスゲラゲラ笑い声が。七華も洋扇で口元を隠し小さく笑い続けている。フルエレは赤面して下を向いていた。

(勝った! やはりどんな力があっても庶民は金で動くのよ)

 七華は自分でも気付いていなかった雪乃フルエレへの対抗心に一定の満足を得た。


 控室。式典が終わり緊張が解け、清楚な衣装に似つかわしくなく、フルエレはがつがつと食事を摂っている。それに対し砂緒は割と落ち着いて静かに食べている。

「こ、これ凄い美味し~こんなの初めてよ!」

 そんな時にお付きの者をはべらし、七華王女が入って来る。突然の来訪に固まるフルエレ。

「あ、いいのよ。いつもの様に振舞ってらして。それよりも、お約束の報酬をお持ちしましたわ。さてさて何にお遣いになるのかしら? 王都に豪華なお屋敷を手に入れられてもいいのよ」

 お付きの者が、最高価値の金貨が沢山入った袋をどさっと置く。

「お前に言う必要は」
「やめー!」

 大声で慌てて砂緒の言葉を遮る。

「そのお金は……砂緒が許してくれればだけど……村の戦ったみんなで山分けしようって、決まってからずっと考えていました。砂緒はどうかな?」

 ちらっと見る。

「なる程、確かにフェアトレードという観点から言えば、あの馬とあの屋敷は釣り合いません。フルエレの言う通り兵士の給金と考えても正しい判断でしょう」
「良かった! 絶対賛成してくれると思った!!」

 両手を合わせて喜ぶフルエレ。口には食べ物がいっぱい付いている。

「ま、まあ……む、無欲な事ですわね、見習わなければいけません事」

 意表を突かれた様になった七華が控え部屋をそそくさと出ようとした時だった。

「あ、あの……王女は……七華さんは、衣図いずさんや戦ったみんなにも、お礼を言わないんですか? 戦ったのはわたしや砂緒だけじゃないです、みんなも七華さんに感謝してもらえたら、泣いて嬉しいはずです」

 ぴしっと空気が割れる様な緊張が走る。

「なん……ですって……!?」

 振り返った七華の顔には血管が走り、激怒の表情になっていたが、すぐに平静を装った。金で釣れたと思った飼い犬に噛まれた様な気持ちになっていた。

「うわ、すすすすすすす、すいません! 変な事言っちゃって、ごめんなさい」
「別に謝らんで良いでしょうフルエレ」

 フルエレの言葉も聞かず、すたすたと退出する七華王女。二人は静かに激しく王女の怒りを買った。

「あれは何でしょう? フルエレ」

 再び剣士に馬車に乗せられ、村に帰って来ると館の前で多くの人々が集まっている事に気付いた。二人が城に行っている間に、なんとおじいさん達や兵達が館の掃除をしてくれてたのだ。二人の帰還に気付き手を振り出した。

「こんな物でよいかな?」
「リュフミュラン王立冒険者ギルド?」
「いつから王立になったんですか? いいんでしょうか」

 砂緒は先程の事もあって、大層な自称王立にさして嬉しさを感じていないが、衣図ライグが嬉々として指図して館の前に看板を立て掛けて行く。

「本当に有難うみなさん……これでやって行けそうな気がします」

 雪乃フルエレは目に涙を貯めてみんなに感謝した。
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