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三日目 火曜日 その1
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一躍注目の的になってしまった。
昨日の放課後、帰る時までに学校内でかなりの話題になっていたようだった。それが一夜明けて火曜日、今日の朝の時点で、僕が姫乃の友達になって仲良くお昼を、しかも鬼姫に手作りのお弁当を作ってもらって、仲良く食べたという話は全校生徒に伝わってしまっているようだった。
登校中も噂されている気配はした。でも学校に到着して昇降口で上履きに履き替えている時にはっきりとわかった。
昨日までは特に目立つわけでもなくごくごく普通の生徒だったのに、あっという間に有名人の仲間入りだ。廊下を歩いている時も教室にいる時も誰かしらの視線を感じる。
それでも無遠慮に話しかけてくるやつがいないのは、相手が鬼姫だからだろう。
その鬼姫こと鬼塚姫乃嬢はいつも通りホームルームが始まるギリギリの時間にやってきた。
朝の喧騒に包まれていた教室が一瞬にして静まり返る。空気が一気に緊張したのがわかった。
いつもなら我感ぜずと言った感じで自分の席までまっすぐに歩いていくのだけれど、今日は出入り口を入ってすぐのところで立ち止まった。
それだけでざわざわとざわめきが起きる。
誰も直接は姫乃を見ていない。みんな友達と話すふりをしながら、意識だけは完全に彼女に集中しているようだった。中にはちらちらと様子をうかがっているクラスメートもいた。
僕は自分の席に横向きに座って、姫乃の方を見ていた。すると姫乃は冷たいといわれる無表情な顔を僕の方に向けてきた。
偶然というか当然というか、自然と目が合う形になった。
きつい目つきが少し和らいだように感じたのは自意識過剰かな。
友達として当たり前の行動だけど、軽く手を挙げてあいさつをした。
姫乃は少し迷うような素振りをみせて、ほんのちょっとだけ顎を引いて頷き返してくれた。
どよめきが起こる。
「……カ、カトちゃん……」
小野寺の驚愕の声が聞こえてきた。
姫乃はそのまま何事もなかったかのように、いつも通りの我関せずといった態度で窓際の一番後ろの席に着いた。
昨日トイレで人のことを散々訊問したくせに、小野寺をはじめとするクラスメートたちは僕が姫乃と友達になったということをいまいち信用していなかったようだ。その証拠に信じられないといった表情を僕に向けてくる。いまだに半信半疑な様子だった。
「気の迷いじゃなかったや……」
みんなの思いを代表するように小野寺が呟いた。
前を向いて坐りなおすと、目の前には驚きいっぱいの小野寺の顔があった。
「だから顔が近いって」
完全に後ろを向いてこちらに身を乗り出すようにしているから、小野寺の顔が思いのほか近距離にある。
「そやけどな」
と言いながら、さらに顔を近づけてくる。
それから手で顔の横を覆って隠すようして、小声で話を続ける。
「ホンマに本当にホントにマジで、あの、あの鬼姫とカトちゃんは友達になったっちゅうんかいな?」
相変わらず怪しすぎる関西弁を使うやつである。前に理由を聞いたら、本人はキャラづけとかわけのわからないことを言っていたけれど、逆効果なのじゃないかと僕は思っている。
「まあね」
成り行きなんだけどね。と心の中で付け加えて僕は鼻の頭をかいた。
まだいろいろと聞きたそうな小野寺だったけれど、タイミング良く担任が教室に入ってきたので話はそこで終わりになった。
その後も深く追及されることもなく、午前中を過ごすことができた。
というかなんだか友達が減ったような気がする。
比較的仲がいい小野寺もどことなく遠慮している感じだった。
朝は僕と姫乃の関係を詳しく知りたそうな感じだったのに、一時限後の休み時間でも話題にすることはなかった。他のクラスメートも同じだった。
そのわりには、僕の様子や姫乃の方をこっそりと伺っているようだったし、廊下を歩けば振り向かれたりしたものだ。
特に不快になったり、無視されたりといったことはないのだけれど、どことなく疎外感というか今までに感じたことのない距離感みたいな見えない壁ができてしまったような気がした。
僕もそうだけどクラスメートたちも戸惑うところがあるのだと思う。
でもちょっとさみしかった。
お昼休みには、昨日約束した通りに最上階の踊り場でまた姫乃の手作りお弁当をいただいてしまった。
今日のおかずは、海老フライに甘酢のあんかけをかけた肉団子とサラダで、ご飯の上には豚の生姜焼きがのっかっているという力作だった。
もちろんとてもおいしかった。
そしてまた明日もお弁当を作ってきてくれるという話になってしまった。
さすがに毎日作ってもらうのは悪いので、今日はしっかりと断った。
でも断り切れなかった。
だって、悲しそうな顔をして泣きそうになるのだもの。
僕の方が泣きたくなるよ。鬼姫の名はもっと泣いているかもだ。
「でもただで毎日お弁当を作ってもらうわけにもいかないよ。だから何か僕にできることがあったら言ってよ。なにかお礼をさせてもらいたいんだ」
昨日は断られてしまったけれど、これだけは譲れない。
すると何度も遠慮していた姫乃だったけれど、どうしてもお礼をさせてという僕に、
「それでは一つだけわがままを言ってもいいでしょうか?」
と最後にようやくお願いを言ってくれることになった。
僕としてもできる限り姫乃のお願いを叶えてあげるつもりだった。それに姫乃のことだから無茶なことは言わないだろうという予感もしていた。
「一緒に帰ってもらってもいいですか?」
それが姫乃のお願いだった。
昨日の放課後、帰る時までに学校内でかなりの話題になっていたようだった。それが一夜明けて火曜日、今日の朝の時点で、僕が姫乃の友達になって仲良くお昼を、しかも鬼姫に手作りのお弁当を作ってもらって、仲良く食べたという話は全校生徒に伝わってしまっているようだった。
登校中も噂されている気配はした。でも学校に到着して昇降口で上履きに履き替えている時にはっきりとわかった。
昨日までは特に目立つわけでもなくごくごく普通の生徒だったのに、あっという間に有名人の仲間入りだ。廊下を歩いている時も教室にいる時も誰かしらの視線を感じる。
それでも無遠慮に話しかけてくるやつがいないのは、相手が鬼姫だからだろう。
その鬼姫こと鬼塚姫乃嬢はいつも通りホームルームが始まるギリギリの時間にやってきた。
朝の喧騒に包まれていた教室が一瞬にして静まり返る。空気が一気に緊張したのがわかった。
いつもなら我感ぜずと言った感じで自分の席までまっすぐに歩いていくのだけれど、今日は出入り口を入ってすぐのところで立ち止まった。
それだけでざわざわとざわめきが起きる。
誰も直接は姫乃を見ていない。みんな友達と話すふりをしながら、意識だけは完全に彼女に集中しているようだった。中にはちらちらと様子をうかがっているクラスメートもいた。
僕は自分の席に横向きに座って、姫乃の方を見ていた。すると姫乃は冷たいといわれる無表情な顔を僕の方に向けてきた。
偶然というか当然というか、自然と目が合う形になった。
きつい目つきが少し和らいだように感じたのは自意識過剰かな。
友達として当たり前の行動だけど、軽く手を挙げてあいさつをした。
姫乃は少し迷うような素振りをみせて、ほんのちょっとだけ顎を引いて頷き返してくれた。
どよめきが起こる。
「……カ、カトちゃん……」
小野寺の驚愕の声が聞こえてきた。
姫乃はそのまま何事もなかったかのように、いつも通りの我関せずといった態度で窓際の一番後ろの席に着いた。
昨日トイレで人のことを散々訊問したくせに、小野寺をはじめとするクラスメートたちは僕が姫乃と友達になったということをいまいち信用していなかったようだ。その証拠に信じられないといった表情を僕に向けてくる。いまだに半信半疑な様子だった。
「気の迷いじゃなかったや……」
みんなの思いを代表するように小野寺が呟いた。
前を向いて坐りなおすと、目の前には驚きいっぱいの小野寺の顔があった。
「だから顔が近いって」
完全に後ろを向いてこちらに身を乗り出すようにしているから、小野寺の顔が思いのほか近距離にある。
「そやけどな」
と言いながら、さらに顔を近づけてくる。
それから手で顔の横を覆って隠すようして、小声で話を続ける。
「ホンマに本当にホントにマジで、あの、あの鬼姫とカトちゃんは友達になったっちゅうんかいな?」
相変わらず怪しすぎる関西弁を使うやつである。前に理由を聞いたら、本人はキャラづけとかわけのわからないことを言っていたけれど、逆効果なのじゃないかと僕は思っている。
「まあね」
成り行きなんだけどね。と心の中で付け加えて僕は鼻の頭をかいた。
まだいろいろと聞きたそうな小野寺だったけれど、タイミング良く担任が教室に入ってきたので話はそこで終わりになった。
その後も深く追及されることもなく、午前中を過ごすことができた。
というかなんだか友達が減ったような気がする。
比較的仲がいい小野寺もどことなく遠慮している感じだった。
朝は僕と姫乃の関係を詳しく知りたそうな感じだったのに、一時限後の休み時間でも話題にすることはなかった。他のクラスメートも同じだった。
そのわりには、僕の様子や姫乃の方をこっそりと伺っているようだったし、廊下を歩けば振り向かれたりしたものだ。
特に不快になったり、無視されたりといったことはないのだけれど、どことなく疎外感というか今までに感じたことのない距離感みたいな見えない壁ができてしまったような気がした。
僕もそうだけどクラスメートたちも戸惑うところがあるのだと思う。
でもちょっとさみしかった。
お昼休みには、昨日約束した通りに最上階の踊り場でまた姫乃の手作りお弁当をいただいてしまった。
今日のおかずは、海老フライに甘酢のあんかけをかけた肉団子とサラダで、ご飯の上には豚の生姜焼きがのっかっているという力作だった。
もちろんとてもおいしかった。
そしてまた明日もお弁当を作ってきてくれるという話になってしまった。
さすがに毎日作ってもらうのは悪いので、今日はしっかりと断った。
でも断り切れなかった。
だって、悲しそうな顔をして泣きそうになるのだもの。
僕の方が泣きたくなるよ。鬼姫の名はもっと泣いているかもだ。
「でもただで毎日お弁当を作ってもらうわけにもいかないよ。だから何か僕にできることがあったら言ってよ。なにかお礼をさせてもらいたいんだ」
昨日は断られてしまったけれど、これだけは譲れない。
すると何度も遠慮していた姫乃だったけれど、どうしてもお礼をさせてという僕に、
「それでは一つだけわがままを言ってもいいでしょうか?」
と最後にようやくお願いを言ってくれることになった。
僕としてもできる限り姫乃のお願いを叶えてあげるつもりだった。それに姫乃のことだから無茶なことは言わないだろうという予感もしていた。
「一緒に帰ってもらってもいいですか?」
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