永遠に続く青

結城星乃

文字の大きさ
上 下
16 / 16
第一章 Suicide Seaside

第15話 実験 其のニ

しおりを挟む

 
 実験を取り仕切る研究員に聞けば、樹把たつはは昨日に引き続き、今朝も早くから上司に緊急の頼まれ事をされて出掛けているらしい。

 
「あの教授にも困ったもんだよ。直前になって用事を思い出して、それを部下に頼むんだから。自分で動けって思うね俺は。こっちは国から今回の実験に対して必ずこの定員でって、厳命されてるっつーのに。本来だったら、じゃあまたの機会にって言って断れたのに、それすら出来ない。まぁ、というわけでさざなみ真矢まやは到着次第、向かわせるから先に下に降りててくれ」 

 
 研究員にそう言われて神璃しんりは、後ろ髪を引かれる思いを感じながらも、実験を受ける他の人と共にエレベーターで地下へと降りる。
 扉が開いた瞬間、誰かしらの驚きの声が洩れた。
 薄暗くて広い空間の中に、縦長の卵のような機械が均等にずらりと並べられていたのだ。奥の方は暗くて見えなかったが、同じ機械が並んでいるのだろう。どれだけの数があるのか見当が付かない。

 
(これが……人体保存装置)

 
 どこか薄ら寒いものを感じながらも、神璃は研究員の指示に従って列に並んだ。
 これから特殊な注射を打たれるのだ。
 それは限りなく薄く溶かした『混沌』だ。これを体内に入れ、『SILENT』が管理する低温保存装置に入る。低温にする理由は『混沌』を身体の中で増殖させないためとも云われている。低温状態から目覚めた際に『混沌』の性質を強制的に利用して『SILENT』が記憶している『低温状態に入る前の』被験者の身体に戻す。すると体内の限りなく薄い『混沌』は、自身の性質に耐え切れずに消えてしまうのだという。
 腕にちくりとした痛みが走った。
 何やら異物が入っていくかのような、妙な気持ち悪さと腕の重さを感じたが、それは一瞬だった。
 神璃は何やら懐かしい気持ちがした。
 長年離れていた故郷に久々に帰ってきたかような、嬉しさとどこか悲しい気持ちが襲う。
 研究員の誘導に従って、縦長の大きな卵型の機械の前に立った。自動的に扉が開いて中に入るように指示される。
 ゆっくりと閉まっていく装置の扉を見ながら、神璃は色んなことを思った。
 樹把はもう研究所に着いて、説明を受けているだろうか。
 皇司と『天使』は話をしてみたのだろうか。
 この中に入った一か月とは、一体どんな感じなのだろうか。
 そんなことを思いながらも、やがて襲ってくる強い眠気に、神璃の意識は次第に遠のいていった。



          ***


 
「──さすがは『特待生』……いや、特殊能力者だ。『混沌』との相性がいい」

 
 人体保存実験を任されている研究員は、『SILENT』から上がってくる結果を端末で見ながら感嘆の声を洩らした。通常人の身体に極僅かでも『混沌』が入ると、人は初めの内は拒否反応を示す。だがだんだんと『混沌』が身体中に広がっていく内に、『混沌』そのものに身体が慣らされていくのだ。
 だが『特待生』は拒否反応を示すどころか、恰も自分自身そのものであるかのように『混沌』と共存する。
 この『特待生』はどの濃度までの『混沌』を受け入れることが可能なのか。研究をする者としては興味深くて仕方がない。
 上層部は今は『SILENT』が管理している『混沌』を、将来的には人間が支配出来ないものかと考えている。彼らがどのようにして『特待生』に特殊能力があることを見抜いたのか、一介の研究員には知る由もない。だが上層部が『特待生』を使って何かしようとしていることは分かる。
 研究員はどこか遣る瀬無い思いを抱きながら、『特待生』が眠るカプセルを見遣った刹那。  
 もうひとりの研究員が走って来て、耳打ちする。

 
「──何!? それじゃあ、国が決めた定員が足りなくなるじゃないか」
「それが……──状態が落ち着き次第、こちらで『保存』をしながら身体を慣らしていくと」
「ああ、それならちゃんと定員になるのか。上層部が監査に来ても問題ないな」
「ええ……しかし……」
「お前の言いたいことは分かるさ。おちおち死にかけることも、恐ろしくて出来やしないな」
    
しおりを挟む
感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

さくら乃
2023.11.19 さくら乃

第9話まで読みました。
冒頭の文章がすごく好きです♡
そして、出会った二人。
神璃の中で起きた不思議な感情。気になります~✨

結城星乃
2023.11.21 結城星乃

さくら乃様

お読み下さりありがとうございます✨
この神璃の感情が後々の鍵になりますので、お楽しみ頂けたらと思います✨

解除
さくら乃
2023.11.19 さくら乃

第8話読みました。
ストーリー動き始めたましたね。
難しいお話を良く書かれているなと思いました。用語とかも、私には思いつかないことなので、結城さんは本当にすごいと思います✨

結城星乃
2023.11.21 結城星乃

さくら乃様  

お読み下さりありがとうございます✨
ここからが本題!っていう場面なんですが、なんでこんな設定にしたのか昔の自分に聞いてみたいです(笑)

解除
さくら乃
2023.11.16 さくら乃

7話目読みました。
島国が4つの国家に~こういう設定好きです。
ここでも“りゅう”が✨
“たつは”というお名前も“りゅう”だなって思いましたよ🤭
更新されてるところまで楽しみますね💕

結城星乃
2023.11.18 結城星乃

さくら乃様

お読み下さりありがとうございます✨
いやもうどこまで『りゅう』が好きなんだって感じですが😅
ありがとうございます!どうぞお楽しみ頂けますように(*^▽^*)

解除

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

泡沫でも

カミヤルイ
BL
BL小説サイト「BLove」さんのYouTube公式サイト「BLoveチャンネル」にて朗読動画配信中。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。