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第一章 Suicide Seaside
第14話 実験 其の一
しおりを挟むやはりどこか気を使っていたのだろうか。
重い足を引き摺るように動かして、神璃は家路に着いた。
扉の鍵を開けて、ただいまと返ってくることのない挨拶をして、家の中へと上がる。
研究員特待生になってから神璃は一人暮らしを始めた。研究の内容や状況によっては、研究室に泊まり込みになったり、早朝に帰宅したりなどをして、家族と時間の擦れ違いが発生した為だ。
近くで買ってきた夕食の弁当を温めている間、神璃は毎日のように来る両親からのFAXを手に取った。昨今、様々な通信機器があるというのに、両親は何故かFAX愛用者だ。一人暮らしの神璃の家に一台置いて行き、通信料も払ってくれている程に。
例の人体保存装置の件について両親に話をした時、反対されるだろうと思っていた。だが他の人を助けたいという信念があるのなら、やってみなさいと激励された。実験はほとんどが成功しているとはいえ、どうしても彼らに心配を掛けてしまう。それでも神璃は両親のその一言が嬉しいと思った。
母からのFAXには明日のことについて頑張りなさいと。
父からのFAXには装置ってこんなのかぁと卵のような絵が描かれてあり、思わず神璃は吹き出してしまいそうになる。
いつか両親に今日出会った狼のことを話したい。
神璃は何やら思い出したのか鞄から端末を取り出した。ファイルを開くと、研究室で二人仲良く並んで画面に収まっている、優也と架稜良が映し出される。画面をスライドさせると、先程皇司を説得して一緒に撮った画像が現れた。研究室はどこも似たような景色なのだろう。試に二つの画像を合成して見ても全く違和感がない。まるで四人が一緒に同じ空間で撮ったようだった。個人で楽しむ分には構わないだろうと、神璃は合成して出来上がった画像に今日の日付を書き込んで保存する。
(……優也さんは、ちゃんと狼に向き合うことが出来るんだろうか)
今の自分が心配しても仕方のないことだと分かっている。
だが……。
ここまで考えた神璃の思考は、温めが終わったことを知らせる電子レンジの音で霧散する。
いま自分が出来ることは、明日の実験に備えることだけだ。
***
翌日。
人体保存装置実験の説明会が行われた。
特殊な注射を打たれ、低温睡眠に入る一か月の間に、研究者が身体の変化など様々なデータ取るらしい。話によると人体保存装置は九割ほど成功していたらしいが、国の上層部がより詳しいデータを求めているということで、今回の募集となったそうだ。
実験は説明会を経て少し休憩を取った後、執り行われる。
神璃はきょろきょろと辺りを見回した。
説明会に樹把の姿がなかったのだ。
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