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第三部 降誕す

第402話 竜の寵愛 其の九 ★

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 怒りの雰囲気を漂わせながらも、甘さの伴った口調に香彩かさいが戸惑う。自分が一体どんな表情をしているのか分からない。だが竜紅人りゅこうとはそんな香彩の様子を、愛しいとばかりに見つめるのだ。

 
「俺から逃げようとしたことも、それなりには怒っていたけどな。それ以上にかさい。たとえ俺の人形ひとがたを見てしまった衝動的なものとはいえ、お前がこんなに蒼竜の熱を溢れさせたまま、上掛けたった一枚だけ羽織って白虎を喚ぼうとしたことが」

 
 一番怒っていることだ。

 
 耳元に竜紅人の、一層低く落とした吐息混じりの声が落とされる。その熱さに香彩は拘束されている身体を身じろぎさせた。

 
「あ……っ!」

 
 じゅく、とどこか濃密で卑猥な水音が下腹部から聞こえてきて、耳を侵す。
 吐息以上の熱さを持った二本の熱楔を後蕾に宛がわれて、香彩の唇から艶声が零れ落ちた。蕾から溢れる蒼竜の熱を、襞に塗り付けて馴染ませるかのように熱楔が上下に動く。やがてそれは定められた、具合のいい位置で止まった。いつもと違う大きさと熱さに、香彩の身体が震える。それはこれから襲い来る期待か、それとも未知なるものへの怖れなのか、自分自身でも分からない。

 
「俺以外のやつにこの牙痕を見せるつもりだった? 御契の後の艶事の色と、俺とお前の発情の香りを振り撒いて、蒼竜おれの熱を後蕾ここから滴らせながら白虎に跨がるつもりだった? たとえ白虎がお前の式神で長い付き合いがあっても、あいつも雄竜だってこと、忘れたわけじゃねぇよな」
「……っ!」 

 
 竜特有の長い舌の先端で唇を擦られる。触れるか触れないかの絶妙な力加減だ。濡れていく唇にじわりとした官能が湧き出して、堪らず香彩は色付いた息を舌にぶつけた。
 それと比例するかのように、二本の熱楔の大きく弾力のある亀頭が、ゆっくりと後蕾を拡げて胎内なか挿入はいろうとする。香彩はくぐもった突き声を喉奥から上げながら、ぎゅっと目を閉じた。
 熱くて、苦しい。
 こんなの挿入はいらない。
 蒼竜の一本の熱楔よりも、竜紅人の二本の熱楔の方が太くて熱い気がして、香彩が弱々しく頭を振った。
 かさい、と。
 宥めるようして呼ぶ竜紅人の優しいその声音は、暗に自分を見ろと訴えかけてくる。
 荒々しく息を吐きながら香彩は、呼ばれるがままに竜紅人を見た。


 そこにいたのは思わず息を呑んでしまいそうなほどの、雄の色気を讃えた一頭の人形の竜だった。
 目的の獲物を前にして満足そうに唸りながら、その唇の端から牙を見せる。
 愛情に満ちながらも色欲を孕ませながら、ぎらつく伽羅色の目。前髪を鬱陶しそうにかきあげる仕草は、同じ性別とは思えないほど雄臭い。
 まさに真竜の慈愛と嗜虐性が一度に現れたような姿に、香彩は圧倒されて息が止まりそうだった。

  
 ああ、喰われる。
 喰らい尽くされて、愛し尽くされる。 

 
「──俺の怒りごと、俺を受け入れて。かさい」
 この胎内の一番奥の奥まで。
「あの卑猥で神聖な袋底ここを、もう一度俺の熱で溢れるほど満たしたい、かさい」
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