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第二部 嗣子は鵬雛に憂う

第338話 嗣子と罰 其の二十

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「……よって情報を操作する。今後の為に表向きにはねいは、招影しょうようの発生地点を見つけ抑え込んでいた功労者ということにした。だが招影から受けた穢れがあまりにも強く、出仕もままならん為、しばらくの療養を余儀無くされた、と。そして療養期間を経ても身体が戻らず、俺の管轄の下、楼外の勤務となったと。こういう筋書きだ」
「……っ、そんなの……それじゃあまた紫雨むらさめだけが……」

 
 ひとりで悪者になるつもりなの。
 香彩かさいは思わず強い口調でそう言った。
 成人の儀の少し前、発情期を迎えた蒼竜を目の前にして、紫雨は『御手付みてつきを奪おうとする者に対しての、蒼竜の本能からの怒り』を自分にだけに向けようとしたことがある。

 
(そして、今回も……)

 
 寧が紫雨と同様に招影を召喚した事実を公表しない以上、あの潔斎の場で見た通りのことが真実になってしまう。
 病鬼に憑かれたまま『雨神うじんの儀』に参加し、病鬼に操られるがままに招影を召喚して場を混乱させ、皆をそして国主を危険に晒したのだと。
 そして寧のことも、知るのは限られた者のみだ。
 寧は悪くない、そう思いながらも紫雨だけが悪者になるのは何か違うのではないか、そんな風に考えてしまう。
 香彩の怒りを余所にするかのように、紫雨がそれは楽しそうに、そしてどこか嬉しそうに、喉奥でくつりと笑った。

 
「真実を知らしめることが、決して良いこととは限らんぞ。世の中には知らない方がいい事もある。嗣子たる大司徒よ、覚えておくといい。正邪穢濁せいじゃあいだくを飲んでこそ、縛魔師だ。寧もお前の為だと分かれば今回の情報操作の件、呑むだろうさ」

 
 それに、と言葉の名残を残したまま、悠然と紫雨が寝台から立ち上がる。
 卓子にあった酒杯をふたつ持って戻って来た紫雨は、片方を香彩に手渡すと再び寝台の縁に座った。

 
「今回の悪者はひとりじゃないぞ、香彩。かのともお前も罰を受ける。まあお前の場合は『罰』にはならんだろうがな」

 
 酒杯を傾けながら質の悪い笑みを浮かべる紫雨に、一瞬きょとんとしていた香彩だったが、刹那の内に顔に朱を走らせた。

 
「──もう! 心配してるのに」

 
 そう言いながら頬を膨らませた香彩に、紫雨が再びくつりと笑いながらも、すまんすまんと謝る。

 
「なぁに、全てが悪いというわけではない。病鬼を抱えたまま『雨神の儀』に参加した理由も、招影を召喚した理由も、全て愛しき嗣子である大司徒の荒療治の為だと言えば言い訳が立つと言うもの。それでも言及せよと言うのであれば、叶の奴でも巻き込むさ。寧があんな状態になった以上、俺への罰は当分先になりそうだが……まぁ、お前と竜紅人が戻った暁には、悠々と自邸にでも引き籠らせて貰うとしよう」
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