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第二部 嗣子は鵬雛に憂う

第264話 真実を啼く 其のニ

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 自分達を助けに来てくれたというのに、香彩かさい雨神あまがみと雪神と話をしている間、竜紅人りゅこうとはただただ二神を牽制していたのだ。
 だがそうしてみて、ようやく分かったことがある。 


「……吾も真竜の雄え。じゃから雄竜の本能でもある、嫉妬心と執着心は理解しているつもりやが……若竜の想いの強さには本当に、呆れを通り越して尊敬するえ」


 まぁそれだけ大事だということかえ。
 雨神あまがみの言葉に竜紅人りゅこうとが、ぴくりと身体を揺らし反応を示した。
 その本能とも言える自分の、香彩かさいに対する嫉妬心と執着心を。
 何より香彩かさいが。
 香彩かさいが何も分かっていないのだと、気付いてしまったのだ。


「……納得したわけじゃない。ただ……」


 分かっていないのなら。


「──分からせるのみ、と思っただけだ」


 自分がどれほどの思いを抱いているのか。
 どんな風に香彩かさいのことを思っているのか。


 招影しょうようの毒の暗闇にいる間、どんな思いで香彩かさいを見ていたのか、香彩かさいは知らない。だがそれをどうしても分からせたいのだと、竜紅人りゅこうとは思った。
 あれだけ身体に刻み込んでも分からないのであれば、もう一度教え込むしかない。たとえ香彩かさいがどんな状態であっても、自分はもう離すつもりなど毛頭ないのだと。
 だからどんな理由があろうとも。


(……俺から離れようとするなんて)


 絶対に赦さない。
 絶対に逃がしてやるものか。


 竜紅人りゅこうとが牙を見せて薄く笑う。
 それは恰も、獲物を追い詰め捕らえようとする、補食者の笑みの様だった。空気に触れた竜の牙が、やたらと疼く。甘噛みして時折つぷりと噛んで、抜けるような白い柔肌に紅の牙痕を散らせたい。噛んでいない所などないというくらい、首筋を甘噛みしたい。それはまさに真竜の親愛と情愛の証だ。
 雨神あまがみが、おお恐ろしやと言いながら、大袈裟に身体を震わせる。


「ここは夢床ゆめどの。目覚めてしまえばえ、身体に刻み込まれた愛痕など、それこそ夢のように消えてしまうや。だが夢床ゆめどのに司る精神には何かしら影響が残るえ、用心せえ」


 やがてその眼差しが、冷ややかな物へと変化した。


「若竜や。先程の質問の答えやが、『啼きたくなる』のだとだけ言っておくや。そうして闇を払った先にいる『香彩かさい』を探しゃ」


 香彩かさいを探す。
 そんな雨神あまがみの言葉に、竜紅人りゅこうとが怪訝な表情を見せる。
 ではこの腕の中にいる香彩かさいは、一体何だというのだろう。

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