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第二部 嗣子は鵬雛に憂う
第261話 光挿す 其の五
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二神に無意味と言ってしまったことを謝罪しなければと、香彩は思った。
毒に犯されたままでは、光核を新たな真竜として生み出すことも出来なかっただろう。
そして。
二神が夢床に降りてくれたということは、香彩に希う機会を与えてくれたということだ。
今年の雨を希う機会を。
術力はもうない。
捧げることが出来るのは、この身体ひとつだけ。
夢床ならば、誰にも知られることのないまま、身体に痕跡を残すことのないまま、身を捧げられるだろう。
香彩は改めて竜紅人に縋ってしまったことを後悔した。連れて行けと言われて、夢床へ連れて来てしまったことを後悔した。
また竜紅人以外の人と目合う姿を、竜紅人に見られてしまうのか。そしてまた竜紅人も混ざるのか。どんな思いを抱えたまま。
(──僕は貴方を……)
また、傷付けることになるのか。
己の思考に耽ていた香彩は、雨神が大きく息をついたことにより、我に返った。
気付けば雨神との距離が近い。
まさかもう……と、諦めに似た気持ちで、だがほんの少しだけ身構えたその時だった。
雨神の長い二本の指が、香彩の額に触れる。
そして彼は言うのだ。
──失ってない、と……。
「え……?」
何を言われたのか分からず、香彩はきょとんとした表情で雨神を見る。
「まだ何も失ってないえ、香彩。今のお前には分からんだろうが、お前の『力』の源はお前の中にいる四神達が、ちゃんと護っておるとや」
「──四神、が……いる……?」
そう雨神から聞かされても、香彩は未だ信じられずにいた。心の奥底にあるものを浚うようにして、自身を探ってみても、彼らの気配もなければ『力』の気配すら感じられない。だが雨神が嘘を言っているようにも思えない。
戸惑う様子の香彩に、雨神が大きなため息をつく。
「そうさな。ちゃんと受け継がれているのが分かっておったから、こうしてお前の夢床に降りて来たえ。でなければわざわざ、『力』を殺しに来るような真似、吾はせんよ。なぁ、雪の」
雨神が雪神の方を見遣れば、話を振られた雪神が小さく咳払いをした。
「……数少ない同胞に恨まれたくないからな」
「そうさな。けどえ、もう既に違うところで、見当違いの八つ当たりのようなものなら受けているえ、雪の」
「……若竜がさっきから全く話をしないのは、それか、水の」
「そうさなぁ。祀祗札に込められた『力』を希う強い思いと共に流れてきた、もしもの時の自己犠牲え。御手付きの思念を、思念体である若竜が分からぬはずがないえ」
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