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第一部 嫉妬と情愛の狭間
第196話 成人の儀 其の六十ニ★ ──縁──
しおりを挟むどうしてそんな顔をしているの、と。
そんな顔をして欲しくないのだ、と。
紫雨の頬を撫でて伝えたいというのに、拘束された手と、過去に囚われた鎖が、香彩を戸惑わせる。
せめて名前をと思った。
すでに呂律の回らない、欲の孕んだ掠れ声であったけれども。
まだ呼んでくれるのかと言っていたのは紫雨だから。
手で慈しむことが出来ない代わりに、声を。
「…あっ、んんぁ、むらっ…ん」
だがその声すらも熱い唇によって封じられてしまったのなら、一体どうすればいいのだろう。
切なく歪みながらも尚、欲情を隠さない獣のような眼が、すぐ目の前で香彩を見つめていた。
ぞくりとする。
その眼で見下ろされるだけで、心は過去の戦慄に縛られるというのに、何故か視線を外すことが出来ない。
視線が、絡む。
熱い舌が容赦なく香彩の口腔内を蹂躙し、嬲る。
一層強くなる腰使いに、香彩の身体が、がくがくと震えた。
大きく足を開き、手足を竜紅人によって拘束されている、そんなあられもない姿を晒す香彩の臀に、下腹を擦り付けながらも紫雨が、回すように腰で蜜壷を撫で舐る。
結腸の肉輪を越えてぬっぽりと亀頭全体で潜り込んだ胎奥の、精液でぬめる柔襞に、幾度も幾度も雄形を覚え込ませるかのように、二本の剛直が蜜壺の中で擦れ合う。
「んんっ……、んっふっ…」
その何ともいえない刺激に、香彩の胎奥は、きゅうきゅうと熱楔を締め上げる。
淫蕩に溶かす大きな深翠からは、情欲の涙が溢れ、お互いの頬を濡らした。
胸元まで朱に染めるほど感じ入って喘ぎ啼く、その嬌声すら、紫雨に食まれて消えていく。
舌を強く吸い上げられながら、胎奥を一際激しく突かれれば、胎内はまるで紫雨と竜紅人の剛楔を咀嚼でもするかのように畝る。
「──……っ、んんんっっっ──!!」
それは今まで積み上げてきた快楽が、内部から満ち膨れて裂けたかのような絶頂だった。
痙攣するように蠢き蠕動する胎内は、悦びに濡れてねっとりと絡みついて肉棒を離さない。
「……っ!」
「──はっ…、かさ……いっ…!」
肚底の獰猛な獣が唸りを上げるかのように、硬く太く怒張した肉楔が脈打ち震える。
身の内を突き上げる欲求のままに、紫雨と竜紅人が熱い白濁を注ぎ込んだ。
「──っ、はぁ…ぁ、ああっっ!」
唇から解放された香彩が、悶えるような艶声を上げる。
夥しい量の熱に灼かれながら、放たれた一段と熱い光玉が、ゆっくりゆっくりと蜜壺を移動する。
その圧倒的な法悦は、今までの光玉の比ではなかった。心の奥へと、身体の奥へと、じんわりと染み渡り冒されていくかのような、遅効性の毒のような深い深い快楽だった。
「……ぁ……ぁ……」
竜紅人の真竜としての吐精は未だに続いている。それが紫雨と香彩に滋養を齎し、白虎の光玉を『四神の眠り袋』へと促す。
だが竜紅人の熱を、そしてゆっくりと動く光玉を認識する度に、香彩はびくり、びくりと身体を震わせた。
「……かさい……」
どこか苦し気な、息を詰めた声が香彩の名前を呼ぶ。切なく細めた深翠が香彩を見ている。
満たされたはずなのに、どうしてこんなに怖いと思うのだろう。
自分を捕らえている視線があるというのに、どうしてこんなに朧気に見えるのだろう。
「……ら、さ……」
竜紅人の手をこれでもかと握りながら、握り返してくれる体温に縋りながら、香彩は紫雨に呼びかけようとした。
だが。
ぐっ、と白虎の光玉が真竜の熱に促され、『四神の眠り袋』に入り込もうとする。
声にならない嬌声を香彩は上げた。
酷く冷えた心と、蕩けそうな快楽に溺れる身体。相容れないそれに、心の奥が散り散りになる。
肚奥に感じる濃厚な真竜の熱を縁にしながら、香彩は意識を手放したのだ……。
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