上 下
196 / 409
第一部 嫉妬と情愛の狭間

第196話 成人の儀 其の六十ニ★       ──縁──

しおりを挟む
 

 どうしてそんな顔をしているの、と。
 そんな顔をして欲しくないのだ、と。

 紫雨むらさめの頬を撫でて伝えたいというのに、拘束された手と、過去に囚われた鎖が、香彩かさいを戸惑わせる。
 せめて名前をと思った。
 すでに呂律の回らない、欲の孕んだ掠れ声であったけれども。
 まだ呼んでくれるのかと言っていたのは紫雨むらさめだから。
 手で慈しむことが出来ない代わりに、声を。


「…あっ、んんぁ、むらっ…ん」


 だがその声すらも熱い唇によって封じられてしまったのなら、一体どうすればいいのだろう。
 切なく歪みながらも尚、欲情を隠さない獣のような眼が、すぐ目の前で香彩かさいを見つめていた。
 ぞくりとする。
 その眼で見下ろされるだけで、心は過去の戦慄に縛られるというのに、何故か視線を外すことが出来ない。
 視線が、絡む。
 熱い舌が容赦なく香彩かさいの口腔内を蹂躙し、嬲る。
 一層強くなる腰使いに、香彩かさいの身体が、がくがくと震えた。
 大きく足を開き、手足を竜紅人りゅこうとによって拘束されている、そんなあられもない姿を晒す香彩かさいの臀に、下腹を擦り付けながらも紫雨むらさめが、回すように腰で蜜壷を撫で舐る。
 結腸の肉輪を越えてぬっぽりと亀頭全体で潜り込んだ胎奥の、精液でぬめる柔襞に、幾度も幾度も雄形を覚え込ませるかのように、二本の剛直が蜜壺の中で擦れ合う。


「んんっ……、んっふっ…」


 その何ともいえない刺激に、香彩かさいの胎奥は、きゅうきゅうと熱楔を締め上げる。
 淫蕩に溶かす大きな深翠からは、情欲の涙が溢れ、お互いの頬を濡らした。
 胸元まで朱に染めるほど感じ入って喘ぎ啼く、その嬌声すら、紫雨むらさめまれて消えていく。
 舌を強く吸い上げられながら、胎奥を一際激しく突かれれば、胎内なかはまるで紫雨むらさめ竜紅人りゅこうとの剛楔を咀嚼でもするかのように畝る。


「──……っ、んんんっっっ──!!」 


 それは今まで積み上げてきた快楽が、内部から満ち膨れて裂けたかのような絶頂だった。
 痙攣するように蠢き蠕動する胎内は、悦びに濡れてねっとりと絡みついて肉棒を離さない。


「……っ!」
「──はっ…、かさ……いっ…!」


 肚底の獰猛な獣が唸りを上げるかのように、硬く太く怒張した肉楔が脈打ち震える。 
 身の内を突き上げる欲求のままに、紫雨むらさめと竜紅人りゅこうとが熱い白濁を注ぎ込んだ。


「──っ、はぁ…ぁ、ああっっ!」


 唇から解放された香彩かさいが、悶えるような艶声を上げる。
 夥しい量の熱に灼かれながら、放たれた一段と熱い光玉が、ゆっくりゆっくりと蜜壺を移動する。
 その圧倒的な法悦は、今までの光玉の比ではなかった。心の奥へと、身体の奥へと、じんわりと染み渡り冒されていくかのような、遅効性の毒のような深い深い快楽だった。


「……ぁ……ぁ……」


 竜紅人りゅこうとの真竜としての吐精は未だに続いている。それが紫雨むらさめ香彩かさいに滋養を齎し、白虎の光玉を『四神の眠り袋』へと促す。
 だが竜紅人りゅこうとの熱を、そしてゆっくりと動く光玉を認識する度に、香彩かさいはびくり、びくりと身体を震わせた。


「……かさい……」


 どこか苦し気な、息を詰めた声が香彩かさいの名前を呼ぶ。切なく細めた深翠が香彩かさいを見ている。
 満たされたはずなのに、どうしてこんなに怖いと思うのだろう。
 自分を捕らえている視線があるというのに、どうしてこんなに朧気に見えるのだろう。


「……ら、さ……」


 竜紅人りゅこうとの手をこれでもかと握りながら、握り返してくれる体温に縋りながら、香彩かさい紫雨むらさめに呼びかけようとした。

 だが。

 ぐっ、と白虎の光玉が真竜の熱に促され、『四神の眠り袋』に入り込もうとする。
 声にならない嬌声を香彩かさいは上げた。
 酷く冷えた心と、蕩けそうな快楽に溺れる身体。相容れないそれに、心の奥が散り散りになる。
 肚奥に感じる濃厚な真竜の熱をよすがにしながら、香彩かさいは意識を手放したのだ……。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

処理中です...