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第一部 嫉妬と情愛の狭間

第183話 成人の儀 其の四十九★       ──酒香と血臭──

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「──……っ、あぁぁァァァっ……!!」


 大きすぎる快楽を伴う圧迫感を、決して痛みの伴わない二本の楔が胎内に入っていく肉感を、一体何に喩えればいいのか香彩かさいには分からなかった。
 ただただ、苦し気な、だがどこかで愉悦に満ちた艶声を、香彩かさいは上げることしか出来なかった。
 秘蕾を引き千切れそうな程に押し広げ、肉筒の中を進入してくる硬くて熱い二本の肉塊に、苦しいながらもその先にある、この上ない悦楽を期待して、無意識に腰が揺れる。


「……お前も、そう急くな。かさい」


 背後から降って来たのは、欲に掠れた紫雨むらさめの官能的な低い声だ。宥めるように、腰の括れから臀の丸みまでの身体の線を軽く触れられて、香彩かさいは身を震わせる。


「あぁ……っ」
「……っ、すっげぇ締め付けだなぁ……かさい」 


 耳輪を食まれながら熱い吐息と共に、そう耳に吹き込むのは竜紅人りゅこうとだ。


「……やぁ…っ、そ、んなの……っ!」


 知らない。

 艶声と荒く甘い吐息の合間に、香彩かさいはそう言葉を紡ぐ。

 知らない。
 怖い。
 もっと、もっとと。
 求めてしまいそうになる自分が、とても怖い。

 怖いというのに、身体は貪欲に悦びを求める。腰を揺らめかせ、艶かしくもくねらせて、二本の雄を食い締める。
 だが香彩かさいの身体がどんなに強請っても、竜紅人りゅこうともそして紫雨むらさめもまた、香彩かさい胎内なかを剛直で穿っただけで、決して動こうとはしなかった。


「あ……あ……」


 そのあまりの焦れったさに、香彩かさいは熱い二本の猛りの形を胎内なかではっきりと感じ取りながら、我慢できないとばかりに腰を動かし始める。
 香彩かさいが動く度に、ぐちゅりと卑猥な水音が鳴るが、それすらも耳を犯す興奮材料だった。
 そんな香彩かさいの拙い腰の動きを見ていた紫雨むらさめが、面白そうにくつくつと喉奥で笑う。


「後で……それこそ嫌というほど、たっぷりとくれてやる。だから、急くな……かさい」


 腰の括れの線を楽しんでいた紫雨むらさめの左手が、香彩かさいの腰の動きを静止させるかのように、尾骶の上に置かれた。伝わってくる熱い手の体温の中に術力の波動を感じ取って、香彩かさいは甘い息を吐きながらその動きを止める。


「……そう、いい子だ」


 紫雨むらさめのその言葉だけで、ぞくりと粟立つものが背筋を駆け上がり、無意識の内に胎内なかの剛直を媚肉がしゃぶりつく。
 息を詰める竜紅人りゅこうと紫雨むらさめの気配を感じながらも、香彩かさいはふわりと漂ってきた匂いに驚いて肩越しに紫雨むらさめを見た。
 それは酒香の混ざった血臭だった。
 目に入ってきた光景に、香彩かさいは身体を捻らせて紫雨むらさめを凝視する。


「あ……」


 体勢を少し変えたことによって、胎内の二本の剛直が擦れるように、香彩かさいの弱いところを刺激した。だが軽く喘ぎ、熱く荒い吐息が色付いた唇から洩れることになっても、香彩かさい紫雨むらさめから目を離すことが出来なかった。

 彼の左手は、香彩かさいの尾骶の辺りを押さえたままだ。
 では右手は。
 彼自身の口元にあった、その右手は。

 自身で皮膚を噛み切ったのか。
 その指から手首まで赫い血が、つつ、と流れていた。
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