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第一部 嫉妬と情愛の狭間

第165話 成人の儀 其の三十一★       ──胎内の極致──

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「あ……あ……」


 香彩かさいは思わず顔を上げた。
 ぎらついた紫雨むらさめの、更に熱くて深い欲情と、嫉妬を孕ませた深翠の双眸にぶつかる。それは骨にこたえるほどの、鋭い視線だった。
 香彩かさいは目をさ迷わせながら、紫雨むらさめから視線を逸らす。彼の白衣を握る手が、震える。その全てが紫雨むらさめに肯定の意味を表していた。
 誤魔化しようがないと、四本目の指が襞を広げて挿入はいってくる気配に戦慄きながらも、香彩かさいは思った。

 紫雨むらさめはすでに気付いているはずだ。
 腰の括れに残されている、蒼竜の前肢の痕を。
 何より胎内なかの柔らかさを。

 それもそのはずだ。
 もう昨日になってしまったが、早朝の黎明の刻から出仕の仕度の刻まで、胎内なかを蒼竜で慣らすかのように、ずっと繋がったままだったのだから。
 香彩かさいは切なく息を乱しながらも、こくりと頷く。
 紫雨むらさめに知られ、認めてしまったことに、背徳感と罪悪感の入り交じったような何とも言えない気持ちになった。
 だがそんな思いも、胎内なかを暴く指の動きに、次第に何も考えられなくなる。
 胎内なかを引っ掻くだけだった紫雨むらさめの指先の動きが、おもむろに快楽の宿る箇所を探り始めたのだ。


「あ……」 


 快感を掘り起こすことなど、相手には造作もないことなのだと香彩かさいに思わせるほど、紫雨むらさめの指は的確に、腹側にある香彩かさいの弱いところを探し当て、責め立てる。


「──やぁっ、そこ……っあはっ……あぁ…っ、あんんっ…はぁ…」


 無遠慮な指先に掻き混ぜられるたび、やわらかく蕩けていく自分の心とからだを思い知らされる。
 やがて緩く浅い抜き挿しが始まると、香彩かさいは無意識の内に腰を突き出して、もっとと強請るような反応をした。
 紫雨むらさめの、くつりと喉奥で笑う声が聞こえてくる。


「蒼竜よりもくしてやる。だから……」
 啼け、かさい、と。
 

 耳元に吹き込まれる官能的な低い声に、香彩かさいは理性の糸がぷつりと切れる音を、頭のどこかで聞いた気がした。


「んんっ……はぁ、っ、んっ…そこだめぇ……っ、あ、あ……」 


 くちゅ、と水音を立てて内部を擦られる度に突き抜けるような快感が走り抜ける。香彩かさい紫雨むらさめの衣着を掴んで、その波をやり過ごそうとした。だが快楽に囚われた香彩かさいの身体は、甘く呻くような啼き声を上げ続け、腰は淫らに揺らぎ震える。
 尾骶が灼けるように熱かった。
 身と心を焦がす深い悦楽に成す術もなく、紫雨むらさめの指の動きに合わせて、香彩かさいは身体を跳ね上げる。
 紫雨むらさめが愉しげに微笑わらい、指の動きを速めた。容赦なく腹側の凝りを突かれ責め立てられて、強すぎる快感と羞恥に香彩かさいは首を振って、情慾の涙を零し、やがて射精を伴わない絶頂に押し上げられていく。


「あぁぁ……や…あぁ…っ、なかで……っ、いっちゃ……う……っ!」


 射精感よりも比べ物にならない程の、深い深い法悦が焦らすように込み上がってくる。
 紫雨むらさめより与えられた幾つもの快感を、この身体はしっかりと覚えていた。積み重ねられた淫逸な手管に香彩かさいは、やがて射精を伴わない甘く辛い絶頂感で内部が大きく波打った。


「──っ、あぁぁぁぁッ……!!」


 幾度も幾度も奥から押し寄せる、深い悦楽の波。
 香彩かさいは、びくりびくりと大きく身体を震わせる。
 やがて紫雨むらさめの逞しい胸に身を任せ、ゆっくりと崩れ落ちていったのだ。
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