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第一部 嫉妬と情愛の狭間

第42話 悪戯 其の三

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 そっと指先で、頂きに触れてみる。
 柔らかかったそれが、少しずつ芯を持つ。
 円を描くように触っても、くにっと人差し指で芯を潰すように触れても、眠りが深いのか、竜紅人りゅこうとは反応を示さない。そもそもこの尖りに感じてくれるのか、香彩かさいは分からなかった。彼が起きている時に、胸に触れたことなどなかったからだ。


(……きっと、くすぐったそうにしながら、笑ってるような気がする)


 楽しそうに。
 頂きに触れる香彩の様子を、それはそれは楽しそうに見ているのだと、容易に想像が付いた。
 触れていると自身のものと比べて竜紅人の頂きが、ずっと小さいことに気付く。
 香彩のそれは、初めは今の竜紅人と同じくらいだった。だが彼によって愛でられ、一晩の内に随分と変えられてしまった。

 薄桃色だった実は、食べて欲しいとばかりに紅色に熟れて尖り、今もまだじん、と熱を持っている。執拗だった頂きへの、愛撫の名残だ。甘噛みの痕も、未だに残っていた。
 彼の手によって身体を造り替えられていくことは、少しずつ彼の色に染められていくようで、堪らない悦びだ。
 思わず触れてほしいと、香彩は思った。
 だが同時に、彼の見ていないところで、彼と同じようにに触れたいのだという気持ちも生まれて、心の中でせめぎ合う。


 触れたい。
 でも触れられたい。


 不思議な気持ちのまま、果実の輪っかにまあるく触れて、芯を軽く指で弾く。
 きっと自分ならばこれだけで、甘い声と息が唇から零れる。
 たまらないとばかりに背を浮かせ、止めてほしいのか、もっと欲しいのか分からないくらいに、竜紅人に縋ってしまうだろう。
 柔らかい彼の伽羅色の髪に触れて、頭を抱き寄せれば、きっと浮かせた背に彼の腕が回る。それが合図だったかのように、背を反らせ胸を突き出せば、頂きが熱い舌に包まれる。

 その熱さ、ねっとりとした舌の濡れた感触、吸われる心地良さを思い出して、尾骶を鈍く疼かせながら、香彩は色付いた唇から、薄桃色をした小さな舌をちらりと見せた。

 竜紅人にされたように、舌を這わせる。舌先を硬くして、頂きの芯を軽く突いてから、口に含んだ。
 ちゅ、と音を立ててその乳嘴にゅうしを吸いながら、舐め立てる。
 ぴくりと眠っている竜紅人の身体が動く。くぐもった声が、形の良い薄い唇から漏れたような気がした。
 もしかしたらここも、竜紅人の好きな場所なのかもしれない。そう思うと少し名残惜しい気がして、香彩は頂きの輪をくるりと舐めて、そっと唇を離した。

 再びぴくりと動く身体の、鳩尾に触れる。
 ここから下は上掛けの中だ。


 
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