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第75話 銀狐、向き合う 其の九
しおりを挟む晧が顔を赤らめながら、眠衣の合わせ目をぱっと放した。
白竜がそんな晧の姿を見て、きょとんとした表情をしている。そしてようやく言葉が頭の中に入ってきたのか、晧と同じように顔を紅潮させた。
「その言い方ですと……その、私のアレが……怖いから逃げたって聞こえるんですが……?」
「……っっ、ああそうだよっ! 絶対にでかいだろう!」
「さぁ、どうでしょう? ですが……優しくしますので、大丈夫ですよ」
「──五月蝿い! 何が大丈夫なんだよ」
「神気は痛みを和らげますので」
「──……暗に『痛い』んだって言われても、怖いだけだろうが」
「大丈夫です。直に分からなくなります」
「……だから怖いって」
「それに……貴方がこんなに怖がっているのに先程の話、私に抱かれる覚悟を決める為に旅に出たって、私の都合のいいように聞こえますよ、晧」
「違……っ!!」
朱を走らせていた晧の顔が更に赤くなる。
反論しようとした晧は、結局何も言えないまま口籠もった。
白竜の言ったことは、当たらずといえども遠からずだ。
譬え白竜の変化に戸惑い、アレの大きさに怯えて逃げたとしても、気持ちの整理をつけていずれ里に戻ると決めていた。要はそういうことだ。
くすくすと白竜の笑い声が頭上から降ってくる。
「……笑うなっ!」
「すみません、あまりにも愛らしくて……!」
「愛ら……!」
「ええ。まさか私から逃げた理由が、そんな愛らしい理由だったなんて」
再びくすくすと笑う白竜に、晧はいたたまれなくなってそっぽを向いた。
それすらも愛らしいと言わんばかりに、くすりと笑っていた白竜だったが、その笑い声が不自然に止む。
「──それなのに私は嫌われたくない一心で、貴方を追い掛ける為に姿を変えた。……貴方を悩ませてしまったこと、申し訳なく思います」
「……確かに悩んだ。悩んだけどな、お前が姿を変えたのは確かに俺の所為でもあるんだ。でも、聞いて欲しい」
晧は白竜の両肩を掴むと、灰銀の瞳をじっと見据える。
「俺は……昨日今日あったばかりの『白霆』にこれでもかと惹かれたのが、自分でも信じられなかった。離れるんだと決めても、心が引き裂かれるように痛んで……、ずっとお前を裏切ったと思ってた」
「……はい」
白竜が神妙な面持ちで応えを返す。
言い様のない気持ちが溢れてくるのをぶつけるかのように、晧は拳で白竜の肩を幾度か軽く打った。
白竜もきっと自分に言いたいことや、ぶつけたいことなどあるだろう。
お互い様だというのに、止めることが出来ない。
「でも……『白霆』が白竜だったんなら、離れたくないって、傍にいたいって思うはずだよな。良かった、俺は──……ちゃんと初めから、お前のことが好きだった。なぁ? 白竜。俺さ……旅の間、お前から離れるのが嫌だった。お前の香りに包まれながら眠りたくて仕方なかった」
「……」
「霽月の赤ん坊を見てさ、お前との子供が欲しいって思うくらいには……俺はお前のこと好きだった。ちゃんとずっと好きだったぞ、白竜」
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