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第74話 銀狐、向き合う 其の八
しおりを挟む「私は貴方が思う私とはかけ離れてしまったし、幼竜の時も臆病で貴方の後ろを付いて行くことしか出来なかった。だからその方に会うために、私から逃げたのではないかって思っ……」
「──違う! そうじゃねぇ! 第一、かけ離れてねぇよ! それにお前は臆病じゃない。臆病だったらあの時俺が熱を出したことで、薬の知識が欲しいって言って、麒澄に弟子入り志願なんて出来ねぇよ」
ここまで言って晧は、ふと気付く。
「……ってもしかして『白霆』の姿で俺を口説くって言ったのは……!」
「──その方よりも私の方が『いい男』だと思って頂きたくて」
どこかしゅんとした様子の白竜に、晧は悩ましさと呆れの混ざったような深いため息をついた。まさかそういう方向で勘違いされるとは、夢にも思わなかったのだ。
「ああ……違う、違うんだ。確かにお前から逃げたのは事実だけど、ちょっと考える時間が欲しくて。……紫君に教えて貰った宿に行くついでに、数度しか越えたことのない山越えの経験も積みたかったんだ。けど普通はそんな軽い理由で山越えなんてしないだろうから、いもしない『南の国にいる友人に会いにいく』っていう理由を作ったんだ」
「……いない、のですか……? 南の国にいる友人が……?」
「いない」
「では何故私から……?」
「──っ」
途端に晧が言葉を詰まらせた。
だが黙ることによって妙な勘違いが起きてしまって、拗れてしまうのなら素直に話してしまった方がいい。
そう思うのだが。
「理由があるのなら知りたいです……晧」
「……」
白竜の言葉に後押しされて、晧はそれはそれは腹の底から這い出るかのような、深いため息をついた。
思うことはたくさんある。
もうそれを全部この男に、ぶつけてしまってもいいのかもしれない。
晧は白竜の眠衣の合わせ目を両手でぐっと掴むと、白竜を自分の方へと引き寄せる。
「──ずっとずっと、可愛い可愛いって思ってた年下の小さな白竜が、いきなり体格もいい見目もいい、好みの雄竜になって現れたらびっくりするだろうが!」
「えっ……こ、う……?」
「しかも、絶対俺のことを抱くんだって言わんばかりの目で見られて!」
「えっ……」
「お前体格いいから絶対アレもでかいだろうし……怖いし……! だからちゃんと自分の気持ちが落ち着くまで旅に出ようって……」
「……」
「なぁ! お前のお前のアレ……その……『白霆』の時と……その……──って、やっぱいい何でもない、何も聞いてない!」
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