上 下
70 / 109

第70話 銀狐、向き合う 其の四

しおりを挟む
 
「なぁ、頭を上げてくれ白竜ちび。それでは話が出来ない」
「──……はい」

 
 少し間を置いて白竜が顔を上げる。本当は頭を上げたくなかったのだろう。現れた迷い子のような表情を浮かべているのを見て、こうはかつての幼竜を思い出した。白蛇が怖くて森に入ることを躊躇っていた小さな白竜も、こんな表情をしていた。

 
(……ああ)

 
白霆はくてい』と旅をしている時も、白蛇を苦手そうにしていた。姿は違えど、こんな顔をしていたではないか。

 
(俺は……何を怖がっていたのだろう)

 
 どんなに姿が変わっても、根本が変わるわけではないのに。 
 きっと『白霆』と旅をしていなければ、このことに気付いて素直になるのに、かなり時間が掛かったはずだ。結果的には良かったのだろう。だが『白霆』を諦めようとした嵐のような感情と悩んだ時間を考えると、どこか恨めしい気持ちが残っているのも事実だ。
 だからこそ聞きたいと思った。

 
「……白竜ちび、教えてくれないか。そんなに身体に負担を掛けてまで姿を変えて、俺の前に現れた理由を」
「──っ」

 
 白竜の息を詰める様子が伝わってくる。
 やがて意を決したように深い息を吐いた。

 
「貴方が遊学の為に城に着いてすぐ、私は貴方に会いに行きました。だがすぐに違和感がしました。本能が訴えかけてくるのです。これは貴方じゃないって。紫君しくんの術の残香のような気配もしましたので、私は彼の所に行って問いただしました」
「──問い質したって……! よくつがいが黙ってなかったな」
「いえ。あの時の私は冷静ではなかった。番の方も伴侶に対する私の態度のことで冷静ではなくなり、竜形で少し喧嘩になりました。紫君が止めて下さったのです」
「……」

 
 晧は言葉にならなかった。
 あんなに小さくて、自分の後ろばかり付いて来た白竜が好戦的な態度を取るなど、いま話を聞いていても信じることが出来なかったのだ。

 
「紫君は言いました。晧は少し考える時間が欲しくて南に旅に出たけど、きっとすぐに戻るだろうから待ってあげて欲しいと。その為に、みんなに心配を掛けないように、あの式を置いて行ったのだと。紫君の言葉を聞いて私は……晧は私から逃げたのかもしれないって思いました」

 
 白竜が下腹に掛かっている寝具の上掛けを、ぎゅっと握る。その様子に申し訳なさを感じて晧は、白竜の手の甲にそっと自分の手を添えた。少しでも力が緩むようにと、優しく撫で摩る。

 
「……何故逃げたって思った?」
「婚儀の相談の時の貴方が、いつもの貴方じゃなかったから。いつものように『白竜ちび』と言って笑って下さらなかった。私の人形ひとがたを見た貴方が、どこか怯えたような困惑した目を私に向けたあと、あまり話しもせずに視線すら合わせて頂けなかった。確かに私の人形になった姿は、幼竜の時と比べてあまりにも印象がかけ離れています。だから貴方の好みではなかった、嫌になったのではないか、だから逃げてしまわれたのでは。そう思いました」 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで

キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────…… 気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。 獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。 故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。 しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...