逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃

文字の大きさ
上 下
68 / 107

第68話 銀狐、向き合う 其のニ

しおりを挟む

(ああ……)

 
 あの時の男だとこうは思った。
 婚儀の相談の時に現れた、自分よりも遥かに体格の良い、冷たい焔を宿したような灰銀の目を持つ男。
 彼に視線を送られた瞬間、ぞくぞくとしたものが背筋を駆け抜けたことを、今でも覚えている。
 
 自分を屈服させ、食らい尽くす雄だと。
 自分の胎内を、剛竜と化した雄蕊で蹂躙する雄だと。
 
 本能的な恐怖を感じて自分は、この男から逃げたのだ。
 だが今だから思う。
 あれは『恐怖』ではなく『戸惑い』だ。
 勿論、体格の良い男のアレを受け入れることになる恐ろしさもあった。 
 だが一番は、ずっと可愛い可愛いと思ってきた年下の許婚竜が、成竜になって人形ひとがたを成した途端、雄の目で自分を見てきたことに対する戸惑いだった。
 不思議なことに今はもう、あの時のような恐ろしさや戸惑いは感じない。

 
(……でも……)

 
 晧の中に全く別の種類の戸惑いが生まれつつあった。

 
(今から……俺、白竜ちびに薬、飲ませる、のか……?)

 
 酔血払いの薬を。
 戸惑いは、一気に緊張へと変わった。

 
「──っ!」

 
 同じ人物だ。
 姿が変わっただけだ。
 先程まで薬を飲ませていたというのに、人の気配から真竜の気配に変わってしまった所為で、今から初めて接吻くちづけをするような気分になってしまう。

 
(……いや、初めてだ)

 
 白霆はくていとは何度も交わした接吻くちづけが、白竜ちびとは初めてなのだ。
 晧は震える手を鼓舞するかのように、一度ぎゅっと拳を握り締めた。そうして深く呼吸をして震えが止まるのを待ってから、緑色の小瓶の蓋を開ける。
 先程と同じ要領で少量を口に含んでから、白竜ちびの口に薬を送り込んだ。

 
(あ……)

 
 唇が触れ合う。
 同じだ、と晧は思った。
 優艶な薄い唇の柔らかさが、全く同じだと。
 緊張で張り詰めていた身体が途端に緩む。
 こくりと白竜ちびが薬を飲んでくれたというのに、この唇から離れて薬を含む時間すら惜しいと思ってしまうほど、離したくないと思う自分がいる。
 
 あとほんの少しだけ。
 少しだけ触れ合っていたい。
 そうしたら離れるから。
 
 晧がそんなことを思った時だ。
 まるで応えを返されるかのように、舌を僅かに舐められて晧は思わず顔を上げた。

 
 灰銀の目と視線が合う。

 
 あの時見た、冷たい焔は一体どこに行ったのだろう。
 蕩ける白い蜜のような優しい瞳で見つめられて、嫌というほどに胸が高鳴った。まるで彼の熱がうつってしまったかのように、顔が熱い。

 
「……くすり、飲ませて下さらないんですか……?」
「あ……」 

 
 声も口調も同じだ。
 もしかしたら『白霆』は『白竜ちび』の素の部分そのままだったのか。
 考えようとした思考は白竜ちびの言葉で霧散する。

 
「飲ませて……晧」
「──っ!」

 
 どうしようもなく気持ちが昂って仕方なかった。
 晧は小瓶に残った薬を全部口に含むと、白竜ちびに齧り付くかのように口付けた。こくこくと喉を鳴らして薬を飲む彼の姿に、言い様のない庇護欲と劣情が生まれてくる。
 やがて口の中の薬がなくなって、晧が僅かに唇を離した刹那。
 唇ごと食らい付くかのような接吻くちづけが降りてきて、晧はびくりと身体を震わせる。だが気の遠くなるような気持ち良さに、いつしか二人はお互いに貪るように接吻くちづけを求め合ったのだ。 
 
   
 
しおりを挟む
script?guid=on
感想 14

あなたにおすすめの小説

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

涯(はて)の楽園

栗木 妙
BL
平民の自分が、この身一つで栄達を望むのであれば、軍に入るのが最も手っ取り早い方法だった。ようやく軍の最高峰である近衛騎士団への入団が叶った矢先に左遷させられてしまった俺の、飛ばされた先は、『軍人の墓場』と名高いカンザリア要塞島。そして、そこを治める総督は、男嫌いと有名な、とんでもない色男で―――。  [架空の世界を舞台にした物語。あくまで恋愛が主軸ですが、シリアス&ダークな要素も有。苦手な方はご注意ください。全体を通して一人称で語られますが、章ごとに視点が変わります。]   ※同一世界を舞台にした他関連作品もございます。  https://www.alphapolis.co.jp/novel/index?tag_id=17966   ※当作品は別サイトでも公開しております。 (以後、更新ある場合は↓こちら↓にてさせていただきます)   https://novel18.syosetu.com/n5766bg/

【完結】ハーレムルートには重要な手掛かりが隠されています

天冨七緒
BL
僕は幼い頃から男の子が好きだった。 気が付いたら女の子より男の子が好き。 だけどなんとなくこの感情は「イケナイ」ことなんだと思って、ひた隠しにした。 そんな僕が勇気を出して高校は男子校を選んだ。 素敵な人は沢山いた。 けど、気持ちは伝えられなかった。 知れば、皆は女の子が好きだったから。 だから、僕は小説の世界に逃げた。 少し遠くの駅の本屋で男の子同士の恋愛の話を買った。 それだけが僕の逃げ場所で救いだった。 小説を読んでいる間は、僕も主人公になれた。 主人公のように好きな人に好きになってもらいたい。 僕の願いはそれだけ…叶わない願いだけど…。 早く家に帰ってゆっくり本が読みたかった。 それだけだったのに、信号が変わると僕は地面に横たわっていた…。 電信柱を折るようにトラックが突っ込んでいた。 …僕は死んだ。 死んだはずだったのに…生きてる…これは死ぬ瞬間に見ている夢なのかな? 格好いい人が目の前にいるの… えっ?えっ?えっ? 僕達は今…。 純愛…ルート ハーレムルート 設定を知る者 物語は終盤へ とあり、かなりの長編となっております。 ゲームの番外編のような物語です、何故なら本編は… 純愛…ルートから一変するハーレムルートすべての謎が解けるのはラスト。 長すぎて面倒という方は最終回で全ての流れが分かるかと…禁じ手ではありますが

名もなき花は愛されて

朝顔
BL
シリルは伯爵家の次男。 太陽みたいに眩しくて美しい姉を持ち、その影に隠れるようにひっそりと生きてきた。 姉は結婚相手として自分と同じく完璧な男、公爵のアイロスを選んだがあっさりとフラれてしまう。 火がついた姉はアイロスに近づいて女の好みや弱味を探るようにシリルに命令してきた。 断りきれずに引き受けることになり、シリルは公爵のお友達になるべく近づくのだが、バラのような美貌と棘を持つアイロスの魅力にいつしか捕らわれてしまう。 そして、アイロスにはどうやら想う人がいるらしく…… 全三話完結済+番外編 18禁シーンは予告なしで入ります。 ムーンライトノベルズでも同時投稿 1/30 番外編追加

処理中です...