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第67話 銀狐、向き合う 其の一
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じゃあな、と麒澄はそれは楽しそうに手を振って、部屋を出て行った。引き戸の閉まる音が、やけに大きく聞こえた気がする。
麒澄曰わくの『土産話』は晧にとって、どうしようもなく堪らない気持ちにさせるものだった。
ただでさえ感情が全く追い付いていないというのに、自分が全く知らなかったことを知らされて、しかもそれが全て自分の為だというのだ。
「……白霆……!」
晧は唸るように彼の名前を呼ぶことしか出来なかった。
だが白霆からの応えはない。
だが時折、高熱で苦しそうな吐息の中に、晧、晧と自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくるのだ。
──晧……晧、申し訳ありませ……こう……。
それは何に対する謝罪なのだろう。
「……はくてい……俺は……」
まるで胸がつまりそうな想いを抱えながら、晧は寝台の際に座ると、薄青色の小瓶の栓を開けた。
まずは彼の体調を元に戻さないといけない。ちゃんと元気になってくれないと、話も出来ないではないか。
白霆を知りたいと思った。
何を思って自分とここまで来たのか。
そして白霆に知って貰いたいと思った。
自分がこの旅で感じた想いを。
晧は薄青色の小瓶の中身を、ほんの少しだけ口に含むと、薄く開いた白霆の口にゆっくりと薬を流し込んだ。
こくりと白霆の喉が動く。
(──ああ、飲んでくれた。どうかこのまま最後まで)
飲んでほしい。
幾度も、幾度も。
白霆と唇を合わせて、薬を飲ませる。
色付き始めた薄い唇のあまりの柔らかさに。
薬で少しばかり濡れた唇の、あまりの艶やかさに。
晧はぼぉうとした心地のまま、白霆の唇を舌先で擽るように舐め上げた。
まるで淫蕩な遊びに耽るかのような卑猥さだったが、どうしても気持ちが溢れて我慢出来ない。
やがて薄青色の小瓶の中身が空になる。
夢心地から一気に我に返った晧は、顔に朱を走らせながら自分の上体を起こした。
「はくてい……」
祈るように名前を呼ぶ。
果たしてどのくらい刻が経てば、この術払いの飲み薬は効いてくるのだろうか。
晧がそんなことを思っていると、白霆のある変化に気付く。
胸にあった大きな鬱血痕が治り始めていた。
やがて痛々しい紫色した痕がなくなると、現れたのは竜が片翼を広げたような見事な紋様だった。
(……ああ、白霆。やっぱりお前は……)
晧の紋様と対となる、左翼紋様。
彼の紋様にも本来ならまだ現れることのない、右翼の角部分が浮き出ている。
それはそうだと、晧は嬉しいような泣きたくなるような複雑な気持ちで思った。
知らなかったとはいえ、定められた番と目合い擬きのような真似をしていたのだから。
左翼紋様が本来の『力』を取り戻したのか、淡く光り始めたかと思うと、やがて白霆の身体全体を包み込む。
その、須臾。
空気の鳴るような音を立てて、光が割れた。
現れたその姿に、晧は息を呑む。
「……白竜……」
そこには長い灰銀の髪をした、彫りの深い巧緻な顔立ちの男が横たわっていたのだ。
じゃあな、と麒澄はそれは楽しそうに手を振って、部屋を出て行った。引き戸の閉まる音が、やけに大きく聞こえた気がする。
麒澄曰わくの『土産話』は晧にとって、どうしようもなく堪らない気持ちにさせるものだった。
ただでさえ感情が全く追い付いていないというのに、自分が全く知らなかったことを知らされて、しかもそれが全て自分の為だというのだ。
「……白霆……!」
晧は唸るように彼の名前を呼ぶことしか出来なかった。
だが白霆からの応えはない。
だが時折、高熱で苦しそうな吐息の中に、晧、晧と自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくるのだ。
──晧……晧、申し訳ありませ……こう……。
それは何に対する謝罪なのだろう。
「……はくてい……俺は……」
まるで胸がつまりそうな想いを抱えながら、晧は寝台の際に座ると、薄青色の小瓶の栓を開けた。
まずは彼の体調を元に戻さないといけない。ちゃんと元気になってくれないと、話も出来ないではないか。
白霆を知りたいと思った。
何を思って自分とここまで来たのか。
そして白霆に知って貰いたいと思った。
自分がこの旅で感じた想いを。
晧は薄青色の小瓶の中身を、ほんの少しだけ口に含むと、薄く開いた白霆の口にゆっくりと薬を流し込んだ。
こくりと白霆の喉が動く。
(──ああ、飲んでくれた。どうかこのまま最後まで)
飲んでほしい。
幾度も、幾度も。
白霆と唇を合わせて、薬を飲ませる。
色付き始めた薄い唇のあまりの柔らかさに。
薬で少しばかり濡れた唇の、あまりの艶やかさに。
晧はぼぉうとした心地のまま、白霆の唇を舌先で擽るように舐め上げた。
まるで淫蕩な遊びに耽るかのような卑猥さだったが、どうしても気持ちが溢れて我慢出来ない。
やがて薄青色の小瓶の中身が空になる。
夢心地から一気に我に返った晧は、顔に朱を走らせながら自分の上体を起こした。
「はくてい……」
祈るように名前を呼ぶ。
果たしてどのくらい刻が経てば、この術払いの飲み薬は効いてくるのだろうか。
晧がそんなことを思っていると、白霆のある変化に気付く。
胸にあった大きな鬱血痕が治り始めていた。
やがて痛々しい紫色した痕がなくなると、現れたのは竜が片翼を広げたような見事な紋様だった。
(……ああ、白霆。やっぱりお前は……)
晧の紋様と対となる、左翼紋様。
彼の紋様にも本来ならまだ現れることのない、右翼の角部分が浮き出ている。
それはそうだと、晧は嬉しいような泣きたくなるような複雑な気持ちで思った。
知らなかったとはいえ、定められた番と目合い擬きのような真似をしていたのだから。
左翼紋様が本来の『力』を取り戻したのか、淡く光り始めたかと思うと、やがて白霆の身体全体を包み込む。
その、須臾。
空気の鳴るような音を立てて、光が割れた。
現れたその姿に、晧は息を呑む。
「……白竜……」
そこには長い灰銀の髪をした、彫りの深い巧緻な顔立ちの男が横たわっていたのだ。
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