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第63話 銀狐、医生に会う 其の二
しおりを挟む「……白霆っ……!」
何故胸を打ち付けるのか、晧には分からなかった。やがて白霆が息を荒げながら、打ち付けていた部分を鷲掴みにする。晧はその手を引き剥がそうとしたが、びくともしない。
しばらくすると落ち着いたのか、手の力が抜けてぱたりと寝台に落ちた。乱れていた息は次第に落ち着いたが、いつまた同じことを繰り返すか分からない。
失礼、と医生が白霆の眠衣の合わせ目を開いた。
そこで見たのは、心の臓の上部にある更に鬱血の酷くなった痕と、肌に浮き出た模様のような何かだ。
(こんなの、さっきまでなかった……!)
あったのは確か、鬱血痕だけだ。
医生が触診をする。
だがすぐに首を横に振った。
「私はあまり詳しくないんだが、この鬱血痕から何かしらの術の波動がするように思う。大変申し訳ないが、私では手に負えない」
「え……」
「だがこういった事例を専門で診る医生もいる。今から連絡を取ってみるが、すぐに来て貰えるかは保証がない」
「来て貰えるのならいつでもいい。医生、どうか連絡を」
晧の言葉に医生は応えを返すと、懐から『折り式』という、術力のない者でも使うことが出来る紙の式鳥を取り出した。軽く念じれば相手に伝えたいことが紙に写されて、飛ばすことの出来る連絡用の簡易的な式だ。
医生が部屋の引き戸を少しだけ開ければ、式鳥はその隙間から外へと飛び出して行く。果たしてどのくらいで返事が貰えるのか。晧はどうすることも出来ない気持ちを抱えながら、式鳥を見送った。
待っている間に医生が白霆の眠衣はそのままに、上掛けを胸の位置まで掛ける。
「この鬱血痕。先程の様子を見る限り、ただ痛みを誤魔化す為だけではなく、何かを必死に隠そうとしていたようにも見える。心当たりなどは?」
宿で用意して貰った手水で布巾を絞り、白霆の額に掛けながら医生が言った。
その言葉にすぐに頭の中に浮かぶのは、ほんの先程までは存在していなかったはずの、肌に浮き出た模様のようなものだ。だが見えたのは刹那の内で、いまはもう消えてしまっている。
もし医生の言う通りなのなら、どうしてそこまでする必要があったのか。
苦しくて痛いはずなのに。
思考の海に沈みかけた意識は、鳥の羽撃く音で我に返る。
部屋の中に式鳥が飛び込んで来たのだ。
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