逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃

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第42話 銀狐、思い悩む 其の四

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「……っ」

 
 白霆はくていの何気ない言葉に、灰銀黒の耳がぴんと立ち、嫌でも顔が熱くなる。そんなこうの顔を見て、良かったと、優しい口調で白霆はくていが言った。

 
「顔色、良くなりましたね。本当に良かった」

 
 彼の手が、晧の様子を見るように頬に触れる。その熱さが心地良い。閉じた想いの蓋が溢れそうになるのを晧は何とか堪える。
 ふと晧は思った。

 
「……昨日、別室にしたのって……」  
「……ええ。同室にしてしまったら、貴方が私を気にして休めないと思いましたので」

 
 もしかして寂しかったですか。
 そんな風に聞かれて、顔に更に朱が走る。彼の言葉を全て信じたわけではないが、もしも本当なら白霆はくていは自分のことを考えてくれていたのだ。そう思うだけで温かいものが心内を満たしていく。
 それに。

 
(その言い方だと、白霆はくていは)

 
 本当は同室にしたかったのだと、言っているかの様で。
 気付けば頬から離れていく白霆はくていの袖口を、晧は無意識の内に掴んでいた。
 そうして無言のまま、こくりと頷く。
 途端に息を詰めた白霆はくていが、目を見張るような動作をした。その驚きの表情の意味は何なのか。見ていられなくなった晧は俯く。
 恥ずかしくて堪らない。
 こんな自分はいつもの自分ではない。
 だが昨夜のような、目の前で心の扉を閉められるかのような思いはもう御免だった。

 
「──……同室が、いい。白霆はくてい
「……こ、う……」

 
 いつになく辿々しい口調の白霆はくていが気になって、晧は様子を伺うように彼を見上げた。
 そこで見たものは、片手で口を覆いながら顔を紅潮させた彼の姿だ。

 
「……っ」

 
 どこか飄々とした印象を持っていた白霆はくていの意外な姿に、釣られて晧の顔が更に赤くなる。
 お互いに何も言えないまま、ただただ見つめ合う。
 何かを言わなければと思うのに、言葉にならない。

 
「あ……」

 
 それでも互いの間に流れる空気を何とかしたくて、晧が何か言いかけたその時だった。


 
 ──……定です! 今朝麗海から届いた新鮮なお魚、お刺身でも焼き魚でも美味しいですよ! 豪華特別朝餉! 限定十食! はいあとニ食ですー!

 

 食事処の方向から聞こえる元気な声は、昨日の魔妖の少女のものだろうか。
 だがそれよりも。

 
「──ニ食! ニ食だって! 白霆はくてい! 豪華特別朝餉!」
「それはいけません。急ぎましょう、晧」

 
 いつの間にか普段通りに話すことが出来て、晧はほっとする。
 二人は食事処に向かって走り出したのだ。 
 

 
   
  
  
 
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