逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃

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第41話 銀狐、思い悩む 其の三

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 冷水を浴びたような、ぞくりとした寒さが足元から這い上がってくるかのようだった。『好き』という気持ちが心の中で甘く、そして冷ややかにこうの心を締め付ける。
 どうして昨日今日会ったばかりの男に、こんな感情を抱いてしまったのだろう。自分には昔から決められた許婚竜がいるというのに。大切な白竜ちびがいるというのに。
 だが白霆はくていに触れられるととても嬉しくなるし、離れられると何とも言い難い寂しさが襲ってきて、心が叫び出すのだ。
 それはまるで心ごと初めから白霆はくていという存在に、柔く毅く縛られているかのようだった。
 
 
         ***


 翌朝、白霆はくていが部屋に迎えにやってきた。
 すでに支度を整えていた晧は、大きく深呼吸をしてから引き戸を開ける。

 
「おはようございます、晧。昨日はよく眠れましたか?」
「──ああ、大丈夫だ。白霆もよく眠れたか?」
「ええ、ありがとうございます」

 
 そう言ってにこりと笑う白霆はくていの顔を、晧はいつものように真っ直ぐに見ることが出来ない。だが白霆はくていは特に気にする様子もなく、朝餉に行きましょうと晧を促す。
 昨日から消化できない気持ちが、深々と降る雪のように、心の中に冷たく降り積もっていた。だがどうすることも出来ない。前を歩く白霆はくていの逞しく大きな背中を、晧はまるで迷子にでもなってしまったかのような、途方に暮れた瞳で見つめることしか出来なかった。

 
「──晧?」

 
 振り向いて白霆はくていが呼ぶ。
 ああまた、心配を掛けてしまうかもしれない。
 そう思った晧は、全ての感情を覆い隠して彼に笑いかけた。

 
「……腹へったな! 早く朝餉食べに行こう、白霆はくてい! んで食べたら速攻出発するぞ。日暮れまでには森の切れ目にある川沿いの宿に到着したい。んで今日の夕餉は紫君しくんに勧められた川魚の煮付けに決まりだ!」
「例の、川魚の煮付けが有名な宿ですね。楽しみですね」
「ああ。……って俺が勝手に決めてるけど、お前は大丈夫なのか?」
「ええ、私も川魚好きなので楽しみです。それに晧が楽しそうにしていらっしゃるのを見るのが、何よりも一番の楽しみですので」 
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