逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃

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第33話 銀狐、想像する

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 離れの湯殿は大きく、湯船からは木のとても良い香りがした。本来ならば湯の温かさとこの香りに、身体も心もほぐれてとても癒されていただろう。
 だが湯に浸かりながらこうは、どこか気配を尖らせていた。
 実は警戒していたのだ。
 湯殿に白霆はくていが入ってくるのではないかと。
 だが洗い場に上がって頭を洗い、身体を洗い、耳と尻尾を洗って泡を流してもそんな様子は全くない。
 再び湯に身体を沈めて、晧はどこか拍子抜けしたかのように身体を弛緩させた。

 
(──ってこれじゃあ、入ってきて欲しかったみたいじゃないか……!)

 
 駄目だ。
 絶対に駄目だ。
 だが、昨日の今日だ。媚薬の所為とはいえ、ふたりで果てた。そして白霆はくていは言ったのだ。自分を口説くと。この耳に接吻くちづけまで落として。

 
(だから……湯殿で何かされるんじゃないかって思うじゃないか)

 
 怖れとも期待とも言えない悶々とした複雑な気持ちを抱えたまま、しかも妙な想像をしてしまいそうになって、晧は勢い良く湯から上がる。
 白霆はくていの言う通り脱衣処には、清潔な眠衣ねむりぎぬが用意されていた。袖を通すと気持ち良く、とても晴れやかな気分になる。
 下袴も身に付けてしっかりと衣を整えて、湯殿の建物から出た。
 途端に食欲を唆るいい匂いがして、誘われるがままに晧は先程の部屋に戻ってくる。

 
「お帰りなさい、晧。湯は気持ち良かったですか? さっぱりしたでしょう?」

 
 にこりと爽やかに笑う白霆はくていに出迎えられて、変に胸が高鳴るのと同時に罪悪感のようなものが込み上げてきて、晧は無言でこくりと頷いた。
 先程まで白霆はくていは晧の脳内で、いつ湯殿に侵入して来るか分からない不審者だったのだ。しかも湯船にまで入ってきて、こちらが駄目だと言ってるのに聞かずに悪戯をしていた。
 脳内で。


「丁度良かったです。いま朝餉の支度をして貰ったところなので、食べましょう。食欲はありますか?」
「……ああ、いい匂いがするなって思ってたんだ。お腹が空いた」
「それは良かった。たくさん食べて下さい、晧」

 
 さり気なく椅子を引かれて席につく。
 妙な想像をしてしまったことを、晧は心内で謝った。
 だがそれはすぐに撤回することになる。
 白霆はくていが再び晧の耳先に触れるだけの接吻くちづけを幾度か落とした。
 そうしてくすりと笑うと、向かいの席についたのだ。 
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