逃げる銀狐に追う白竜～いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません！～

第32話 銀狐、口説かれる 其の七

「──ひ」

　
　一段と低くなった白霆はくていの声を耳先に感じて、晧こうは引き攣った声を上げた。
　言われて慌てて衣着の合わせ目を、ぎゅっと握る。
　思えば自分は今、とんでもない格好をしていたのだいうことに、ようやく意識が向いた。綺麗に着付けられていた衣着を先程、姿見の前で半分だけ肌蹴させたのだ。
　腰帯で辛うじて止まっているだけで、この手を離してしまえば簡単に前が開く。そして何より衣着の身丈が短く、細袴どころか下衣も付けていない状態の下肢部は、晧が身動ぎをする度にちらちらと足が見え隠れするのだ。
　普段なら特に何も思わない格好だ。だがこの男を前にすると、恥ずかしくて堪らなくなるのは何故だろう。
　晧、と呼ばれる吐息混じりの声に、嫌でも耳がぴくりと動く。
　やがて軽く吸われるような感覚に、晧はひえぇと声を上げて敏速に白霆はくていから離れた。

　
「ゆ、ゆゆ湯殿行くからっ！」

　
　言い捨てるようにして晧は部屋を出る。
　はい行ってらっしゃいませ、という白霆はくていの優しい声を背後に聞きながら、晧は片手で胸元を、もう片方の手で銀灰黒の耳を押さえながら、湯殿に向かって走り出した。