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まだ、婚約者だったとき
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さかのぼること数日前。
アーネストが庭で素振りをしている時、近づいてくる人影があった。
「お母さま、どうしたの?」
アーネストはいったん素振りをやめて、近づいてきた人影=お母さまと向き合う。
「少し、休憩しましょう」とお母さまは言って、中庭のベンチに隣あって腰かける。
「今度、王都で開かれるパーティーがあるでしょう?それに、参加したらどうかと思って」
アーネストが乗り気でないのを察したのか、「色々な同年代の友達と触れ合うことは大切よ」と続ける。
「えー。王都まで行くの遠いし、私はここでたくさん友達いるし~」
王都までは馬で何日もかかるから、第一めんどくさい。
それに、王都のパーティーに参加して出会う友達といえば、貴族、貴族、また貴族。
みーんな、ウフフオホホって感じでアーネストとは気が合いそうにない。
そんな場に出向くことを想像しただけで、鳥肌がたってしまいそうになる。
「アーニー」
お母さまは優しい声でアーネストの愛称を読んだ。
「アーニーの婚約者も参加するそうよ」
どうしてお母さまは"婚約者も参加する"でアーネストを説得できると思ったのだろうか。
特別な感情、好きとか嫌いとか、が生まれるほど面と向かって話したことはないから、婚約者個人が嫌いなわけではない。
だけど、そもそもアーネストは婚約自体が嫌なのだ。
アーネストはセレスティア家の長女だから当然結婚相手もそれなりの身分の人なわけで。
何とセレスティア領が属するレイトラート家の第...王子。確か、第2王子だったような、いや、違うかも。3かな?
まあ、いいや。誰かと婚約してるってことに変わりないもん。
結婚したら、絶対に剣の練習や馬で遠出なんてできないだろう。
きっと、一日中部屋に閉じ込められて、お裁縫や踊り、礼儀の勉強をさせられるのだ。
そんなのって絶対に嫌
と、いくらアーネストがわめこうが、アーネストの意思なんて関係ない。
貴族同士の結婚は政治。つまり、政略結婚なんだから。
「はあ」
口から盛大にため息が漏れる。
「そんなに結婚は嫌?」
「うーん」
"結婚した後も好きなことをやらせてくれるならいい"と言いたいところだけど、貴族として平民よりもいい暮らしをしているわけだから、こんなこと言ったらただのわがままになってしまう。
「アーニーは結婚しなかったら何をやりたいの?」
お母さまは優しく微笑む。
どんなにアーニーがご令嬢とは正反対の行動をしようが、怒ることもあきれることもなかった。
今更ながら、すごい人だなと思う。
「やっぱり、剣の稽古をしている時間が一番好きだから騎士になりたいな~」
無理だと思いつつも、言霊を信じて、口にする。
「分かった」
そう言って、お母さまは立ち上がり、中庭を出ていこうとした。
途中まで歩いて、急に思い立ったように、くるりとアーネストの方を振り返った。
「そうそう、今度のパーティーに参加するといいことがあるかもしれないよ」
いたずらっ子のような表情で笑い、今度こそ中庭から立ち去って行った。
んー。良いことって何?
貴族のパーティーって好きじゃないけど、久しぶりに馬で遠出するついでにパーティーに参加してみよっかな。
きっと、ご飯も豪華だよね!
アーネストは気づいていない。
一般的な令嬢がパーティーに馬ではなく馬車で行くことを。
アーネストが庭で素振りをしている時、近づいてくる人影があった。
「お母さま、どうしたの?」
アーネストはいったん素振りをやめて、近づいてきた人影=お母さまと向き合う。
「少し、休憩しましょう」とお母さまは言って、中庭のベンチに隣あって腰かける。
「今度、王都で開かれるパーティーがあるでしょう?それに、参加したらどうかと思って」
アーネストが乗り気でないのを察したのか、「色々な同年代の友達と触れ合うことは大切よ」と続ける。
「えー。王都まで行くの遠いし、私はここでたくさん友達いるし~」
王都までは馬で何日もかかるから、第一めんどくさい。
それに、王都のパーティーに参加して出会う友達といえば、貴族、貴族、また貴族。
みーんな、ウフフオホホって感じでアーネストとは気が合いそうにない。
そんな場に出向くことを想像しただけで、鳥肌がたってしまいそうになる。
「アーニー」
お母さまは優しい声でアーネストの愛称を読んだ。
「アーニーの婚約者も参加するそうよ」
どうしてお母さまは"婚約者も参加する"でアーネストを説得できると思ったのだろうか。
特別な感情、好きとか嫌いとか、が生まれるほど面と向かって話したことはないから、婚約者個人が嫌いなわけではない。
だけど、そもそもアーネストは婚約自体が嫌なのだ。
アーネストはセレスティア家の長女だから当然結婚相手もそれなりの身分の人なわけで。
何とセレスティア領が属するレイトラート家の第...王子。確か、第2王子だったような、いや、違うかも。3かな?
まあ、いいや。誰かと婚約してるってことに変わりないもん。
結婚したら、絶対に剣の練習や馬で遠出なんてできないだろう。
きっと、一日中部屋に閉じ込められて、お裁縫や踊り、礼儀の勉強をさせられるのだ。
そんなのって絶対に嫌
と、いくらアーネストがわめこうが、アーネストの意思なんて関係ない。
貴族同士の結婚は政治。つまり、政略結婚なんだから。
「はあ」
口から盛大にため息が漏れる。
「そんなに結婚は嫌?」
「うーん」
"結婚した後も好きなことをやらせてくれるならいい"と言いたいところだけど、貴族として平民よりもいい暮らしをしているわけだから、こんなこと言ったらただのわがままになってしまう。
「アーニーは結婚しなかったら何をやりたいの?」
お母さまは優しく微笑む。
どんなにアーニーがご令嬢とは正反対の行動をしようが、怒ることもあきれることもなかった。
今更ながら、すごい人だなと思う。
「やっぱり、剣の稽古をしている時間が一番好きだから騎士になりたいな~」
無理だと思いつつも、言霊を信じて、口にする。
「分かった」
そう言って、お母さまは立ち上がり、中庭を出ていこうとした。
途中まで歩いて、急に思い立ったように、くるりとアーネストの方を振り返った。
「そうそう、今度のパーティーに参加するといいことがあるかもしれないよ」
いたずらっ子のような表情で笑い、今度こそ中庭から立ち去って行った。
んー。良いことって何?
貴族のパーティーって好きじゃないけど、久しぶりに馬で遠出するついでにパーティーに参加してみよっかな。
きっと、ご飯も豪華だよね!
アーネストは気づいていない。
一般的な令嬢がパーティーに馬ではなく馬車で行くことを。
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