てるる綴れ

かわひらこ 5（昆虫画像注意）

順調に羽化させて、梅雨晴れを選んで、
空に帰してやっていたある日のこと。

ふとミカンの樹の根元を見ると、サナギがひとつ
落ちている。
若干いびつな形をしている。

自然界で「本来あるべき姿ではない」のであれば、
恐らく、なんらかの異状があるのだろう。
だが、まだ死んでいる様子はないので、
拾い上げ、割り箸に付けてやった。

途中で干からびるやら、ハチが出るやらということを
覚悟していたが、然るべき日数の後、サナギから
チョウが現れた。

わたしは小躍りして喜んだ。
しかし、チョウが翅を開いたその瞬間、
言葉を失った。



半分、翅が、無い…

厳密に言えば、右側の翅が形成不全なのである。
中途半端な大きさの前翅と、申し訳程度についている
縮れた後翅。
これによって、あのサナギは歪な形をして
ミカンの樹の根方に転がっていたのだ。



自然は失敗しない。



だから、美しい形に完成しないものは、
自動的に死に向かう。

それをわたしは拾い上げ、人工的に
羽化させてしまったのだ。


自力で飛ぶことができず、
餌を得ることもかなわない。
そんな成虫をわたしは作ってしまった。


もしあのとき。

ミカンの根元に落ちたままにしていたら、
あるいは、そのまま安らかな眠りにつけて
いたのかもしれない。
なんでも蛹の中は、液状らしいから、
何の痛みも苦しみもなく、土に還ったのでは
なかったろうか。

わたしは思いがけない結末から、
罪悪感に苛まれた。


「神の領域」を侵したのではないか。