ヰタ・ピクトアリス

さらば、タナトス 2

さて。

何故わたしが死出の誘惑を断ち切ることができたか。
それはひとえに、わたしを溺愛していた
おばあちゃんゆえです。
あのひとより先に死ぬわけにはまいらぬ、と。
洋館に住むお嬢さまだったおばあちゃんは、
1歳になる前に母と死に別れ、
ずっとそれを苦にして生きてきたひとでした。
（そんなおばあちゃんに育てられた母は
恐らくそれゆえに歪んだ側面もあるだろう）
100歳目前まで生きていてくれたのは、
ひょっとしてわたしのためだったのかも知れません。

完全に吹っ切れた瞬間は、忘れもしない、
車に幼子をふたり乗せて、大きな橋を渡っていたとき。
橋の半ばで、急に「事故る！！！」という感覚に
とらわれたのです。
所謂「パニック障害」の状態に陥ったのでしょうね。
パニック発作を起こす自分に、大丈夫、
と言い聞かせるもうひとりの自分。
結局、自分が自分を援けたことになります。
誰も援けてくれないという怒りが生きる支えに
なったのでしょうか。

わたしの周りでも複数自ら世を去ったひとが居る。
故人の身近だったひとは、きっと自分を責めたり悔んだり
すると思うのですが、直接的原因を作ったならいざ知らず、
旅立ちを決意してしまうメンタルのひとを
思いとどまらせることができるのでしょうか。
帰れぬ橋を渡る前に、
どれほどそのひとを大切に思っているか、
わからせてあげたいのだけど、
それでも振り払う手を、どうつなぎ留めればいいか
わたしはわからないでいる。


「死ぬな！」
生きたくても生きられないひとがいるから、と
言われても、
自分の痛みや、悲しみ苦しみは自分だけのもの。
同じかそれ以上につらい思いをしているひとの、
何がそれを和らげてくれるというのか。

でも、まずはちょっと甘いものなと食べてから、
寝てみて、明日にしてみたらいかが。
くだらない連載マンガのつづきが気になるかもしれない。
ひとは永遠に生きることはできないのだから、
そう慌てることもないでしょう。

理不尽に命を奪われそうになったら、ひとは多分全力で
反撃するはずです。

「こんなところで死んでタマるか！」

と。

寝て起きて、それくらい元気になれるといいね。


何ができても、できなくても、そこに居るだけで、
生きているだけでひとは素晴らしいのです。
自分のようなゴミは生きていてもしょうがないと
思うこともあるだろうけれども、
自分がゴミと気づく時点で、ゴミとも気づかず
平気で生きているひとより、はるかにゴミではない。


そして、今日もわたしは何の役にも立たない文を綴り、
マンガを楽しく、描く。

人生はそれでいいのだ。

と思おう。